第二十三話 ハートは熱く、頭は冷たく(つまり落ち着け)
だー! 次が用意できてるのに敢えて待つことがまどろっこしい!
ルール変更! ルール変更!
毎週月曜更新から【最低1週間更新】に変更します!
つまりどういうことかと言うと!
今まで︰毎週月曜日に更新
これから︰最終投稿日から1週間後には必ず投稿(筆の進み具合では投稿が早まる)
ってな感じです! 分かりにくかったらすみません! でも取り敢えず、書きだめが消化されるまではこの形態でいこうかと!
「では、皆さんは向こうの方でアップをお願いします。試合は予定通り、11時からで構いませんか?」
「大丈夫です」
「ではリリカを付けますので、何か分からない事があれば彼女に」
「分かりました」
挨拶を行った後、案内役が続行となったリリカさんと共に、僕たちは指示された一角へと向かった。
「じゃあ、皆荷物を置いたら各自でストレッチ。その後はいつものアップを。ユーリは持ってきた道具の確認をお願い」
「あ、水道の場所とか案内しますね」
「お願いしますー」
到着したら、各々がテキパキと動き出す。
じゃあ僕もやりますか。まずは柔軟で身体を解していこうか。
とはいえ、僕らもまだ年頃だ。こういうストレッチの時とかは、つい近くの人と喋ってしまいたくなる。
「楽しみだね、ナナ」
「うん。こうもちゃんとした設備があると、相手の実力が気になってくる」
「分かります。早く戦いたいです」
1年組で固まってたので、3人でのお喋りが始まる。
勿論、ストレッチは丹念に行う。じゃないと怪我するからね。
「でも凄いよね。リリカさん、うちに付けてくれるんでしょ? やっぱりマネージャーもいっぱいいるのかな?」
「んー……見た感じだと、マネージャーらしい人、リリカさんの他に4人ぐらいいるね」
「向こうのマネージャーの人数と、うちの選手の人数が同じですか……」
強豪校と弱小校の差というのを、とてもわかりやすく突き付けられた気がした。
ラクシアは、マネージャーだけで5人。選手に至っては30人近くいる。
単純にマンパワーで考えるなら、うちの部の6倍近くの地力を持っている事になる。
個人競技である以上、人数の差と強さはイコールではないけど、それでもやはり格上なのだと実感させられるね。
少なくとも、うちではユーリ先輩を相手に付けるなんて無理だと思う。それ以前に、設備的に学校に招いての練習試合が出来なさそうだけど。
そんな風に人数差を3人で話し合っていると、見かねたルナ先輩が注意してきた。
「こーら。1年ども喋るな」
「あ、すみません」
「ごめんなさい。どうも落ち着かなくて」
「ルナ先輩も混ざりたいの?」
「よしナナ。あんたは先輩権限で試合の後ひたすら走らすから」
冗談を言ったら、練習メニューを追加さてしまった。
でもごめんなさい。僕、鍛えるのは全然違う苦にしないタイプです。特に体力作りとか、言われなくても頻繁にやってます。今日も自主的に走る予定でした。
という訳で、ルナ先輩の脅しは軽くスルー。
「いいじゃないですか。喋ってれば無駄な力も抜けます。二重のストレッチですよ」
「少なくとも、あんたは必要ないでしょうよ」
「失敬ですね。僕そんなに図太く見えます?」
「そう答える時点で図太いわよ」
それもそうか。
納得の返しをされてしまったけど、それはそれとして。
「でも僕以外はそうでもないっぽいので、やっぱり少しのお喋りは見逃してください」
「いや、2人とも大丈夫でしょ」
「その通りです。ナナ、あまり私を見くびらないでください。どんなコンディションであろうと、最善を尽くして戦うのみです」
「私だって緊張してないよ? ちゃんと戦って、ちゃんとベストを尽くすもん」
胸を張って問題無いと主張する2人。さて、ルナ先輩の判定や如何に?
「……前言撤回。ちょっと力抜きなさい、あんたら」
「「あれ!?」」
だと思った。
いやだって、2人とも戦意がバリバリなんだもん。台詞的には普通の事を言ってるんだけど、雰囲気が昂っているというか。
意外そうな顔をする2人だけど、他の人も同意見だと思うよ?
そう意味も込めてレイ先輩の方に視線を向けると、先輩はニヤニヤと面白そうな顔で僕らを見ていた。
「おーおー、うちの期待のコンビも、ラクシア相手じゃ流石に力むか。そういうところは、まだルナの方が上みたいだな」
「……レイ先輩、サラッと実力は負けてるみたいな言い方しないでください。事実ですけど」
少し憮然とした様子で、ルナ先輩が文句を言う。
確かにレイ先輩の言葉は、デリカシーに欠けていたと思う。ドストレートに、後輩の方が実力的に上だと言えば、先輩として面白くはないだろう。
だからルナ先輩の反応は当然ではあるんだけど、個人的には、練習試合前に空気が悪くなるのは困る。
「おっと、悪いな。ただそういう意味で言ったんじゃねぇよ。実力で言えば、オレだってコイツらより弱いしな」
「いやいや、レイ先輩も私からすれば十分強いですよ」
「反撃か? 弱いって事は否定してくんねぇのかよ」
「それはまあ、事実ですから。というか単に、この1年どもがおかしいだけですし」
「いいじゃねぇか。頼りになる後輩だと思っておけ。下が優秀なら、当分は安泰だろ」
「まあ確かに」
あれ? 険悪になるかなって思ったけど、全然そうはならなかったね。
基本的に2人の仲が良好なのは知ってるけど、それでも根っこの部分では相性悪そうなのに。ほら、レイ先輩は大雑把で、ルナ先輩は真面目な感じだし。
でも実際に行われたのは、年季を感じさせるやり取りだった訳で。なんというか、相性の不利を乗り越えた的な友情を感じた。ちょっと羨ましいかも。
僕が全く別の件で感動している横で、レイ先輩はシズクちゃんとセフィに向き直った。
「ただし、実力じゃなくて選手としてなら、オレやルナの方がまだ上だ」
「先輩たちの方が実績があるんですから、それは当然じゃないですか?」
さっき僕らに実績云々を語っていたセフィが、レイ先輩の台詞に反論する。
しかし、その反論はレイ先輩が鼻で笑って一蹴した。
「バーカ。そういう事を言ってんじゃねぇんだよ。オレたちの実績なんてそのうち抜かされるっての。評価だけなら、下手すると今日中に逆転するだろうよ」
「えーと、それは持ち上げ過ぎじゃないかなぁって……」
「後輩ヨイショしてどうすんだよアホ。いいか? ナナはまだ詳しく戦ってねえから抜かすが、実力はお前らがうちのトップ2だ」
レイ先輩の話を聞く限り、単純な実力順に並べるとセフィ、シズクちゃん、レイ先輩、ルナ先輩となるようだ。僕はまだスパーしかしてないので除外ね。
ただ選手としての実力になると、順位はガラッと変わるのだと、レイ先輩は言う。
「お前ら傍目に見て分かるぐらい試合慣れしてねぇ。闘志がダダ漏れで力み過ぎだ。並の相手ならそれでも余裕だろうが、ある程度の実力がある相手だと、お前らただのカモだぞ。オレやルナの方がまだ警戒されるわ」
「そこまでの評価ですか……」
まさかのカモ扱いに、セフィとシズクちゃんの頬が引き攣る。
しっかりとした実力と、相応の自信を持つ2人にとって、カモ扱いには異論を唱えたいのだろうけど。
「気持ちが昂り過ぎれば思考が固まる。闘志がダダ漏れなら先を読まれる。無駄な力みはパフォーマンスを下げる。そんなんでなんとかなる程、魔導戦技は甘くねぇよ」
具体的な説明をされ、見事に2人とも撃沈された。
「その辺りをある程度コントロール出来るようになって、初めて選手として1人前だからな。そういう意味では、お前らまだまだ未熟って事だ」
「ま、こういうのは才能より経験だからねぇ。試合経験の少ないあんたらじゃ、仕方ないのない部分もあるかな。だからコーチも、経験を積ませる為に必死に練習試合の相手を探してた訳だし」
まさかラクシアになるとは思わなかったけどねと、ルナ先輩は付け加えた。
確かに、試合慣れさせる為ってのは、一種の試験石って事だし。その相手が強豪校っていうのは贅沢だ。というかミスチョイスな気がする。
まあ、今更文句を言っても仕方ないし、そもそも文句を言える立場じゃない。強豪校であるラクシアで、2人は経験を積まないといけない。
だからこそ、先輩たちは2人にそれを自覚させたんだ。
「取り敢えず、今はその辺りを意識しとけ。不真面目にならない程度になら雑談してていいから、しっかり本番までに落ち着けよ。やる気ってのは直前まで中で溜めておいて、本番で爆発させた方が効果はデカいしな」
「いきなり言われてもって思うなら、そこのナナを見習いなさい。何でかそいつ、試合前のベストな状態ってのを理解して実践してるっぽいから」
そうアドバイスして、先輩たちは自分のアップに入っていった。
最後に、僕の方に指導を丸投げしてね!
例に出された僕は、当然の如く2人に詰め寄られた。
「どうしたらいいか教えてナナ!」
「ベストな状態というものを、是非ご教授を」
シズクちゃんは兎も角、セフィもめっちゃ近い。
ああもうっ、相変わらずの魔導戦技大好きっ娘め! こういう面では本当に熱心だね!?
というか、教えてって言われても困るんだけど!?
「あー、さっきルナ先輩も言ってたでしょ? こういうのは経験だから。ぶっちゃけ慣れるしかないよ?」
「では、ナナは何で出来てるんですか? 魔導戦技、やってた訳じゃないんですよね?」
何で出来るの?というセフィの疑問は、ちょっと困った。
正解を言えば、機動隊でやり直しの効かない本番を何度も経験してるから、なんだけど。流石にそれを正直に言えないし……。
どう誤魔化そうかなぁ。
「んー……僕も結構色々経験してるからなぁ。それで自然と出来るようになったというか。要は本番慣れって事だから、魔導戦技に限ったものじゃないし」
「なるほど……本番慣れですか……」
んー、これは結構上手く誤魔化せたんじゃないの? 全体はぼかして、必要なところは的確に教えられた気がする。
「そんなに難しく考えなくて良いと思うよ? 2人に自覚させる為に理屈っぽく先輩たちは話してたけど、要約すると普段通りに出来るようになれって事だし。個人で感覚は違うだろうけど、自然体とか意識しとけば?」
「自然体……」
「うん。後はベタだけど瞑想かな? 長期的に考えるなら、所謂ルーティーンを作るのもアリかもね」
結局、誰でも答える事が出来そうな指導になってしまった。
無難な答えしか出せなくて申し訳ないんだけど、こういうのに近道は無いしなぁ。
教える内容が無くなったのを察したのか、2人はうーんと考え込んでしまった。
「……分かりました。取り敢えず、アップが終わったら瞑想をやっておきます。今のところ、私たちに出来るのはそれしか無さそうですし」
「そうだね。やってみる。ありがとね、ナナ」
「うん。でも瞑想やり過ぎて、折角温めた身体を冷やさないようにね?」
「ええ」
僕の注意に頷いてから、2人ともそれ以上喋らなくなってしまった。
どうやら精神を集中させ始めたらしい。
んー、レイ先輩からは雑談で力を抜けって言われてたけど、これは邪魔しない方がいいかな? こういうのに正解は無いし、言われた通りにするより、試行錯誤する方が得るものは多いし。
それに2人の事だから、試合の中で時間が経てば、普段の調子に戻るだろう。そういう意味では、好戦的な性格の人は信用出来る。戦ってるうちに勝手に成長していくからね。
ま、最初は多少ガタつくだろうけど、それも大丈夫でしょう。並の相手なら2人ともなんとかなる実力はあるって、レイ先輩も言ってたし。実績の無い1年相手に、最初から強い人を組ませる事は無い筈だしね。
そう考えて、2人が黙々とアップに入るのを、僕は何も言わずに見送った。
さてと、話し相手もいなくなっちゃったし、僕も真面目にアップをやろうかな。
「えーと、最初は確か……」
「ちょっといいかな?」
「ん?」
数日前に教えられたアップを行おうとしたところで、声を掛けられた。
誰だろうと声をした方を向くと、意外な事にリリカさんが立っていた。
え、何で? リリカさんに個人的に話し掛けられるような事、心当たり無いんだけど。
「えーと、何でしょう?」
「ちょっと水無月くんの対戦相手が、話をしたいそうなんだ」
「対戦相手がですか?」
「うん。ほら、うちって女子校でしょ? 対戦相手が女子なのが嫌じゃないかとか、そういうのを聞きたいらしいの。後、うちでちゃんと混合をやってるのが、その娘だけなのよ。必然的に同じ人と何度も試合する事になるだろうから、細かい事を先に話し合っておきたいそうで」
「あー、そういう事なら」
普通に試合関連の事だったので、素直に頷いておく。
一応、レイ先輩とコーチに許可を取ってから、リリカさんの元へ戻る。
因みに報告の際、ある程度の準備を終えていたユーリ先輩を付けられた。僕の監視役だそうだ。まさか有言実行されるとは……。
「じゃあ付いてきてください」
「はい」
「うちの選手の為に、わざわざすみません」
「いえいえ」
そんな訳で、リリカさん先導のもと、ラクシアの生徒たちが練習をしている場所に向かっていく。
はてさて、僕の対戦相手はどんな人なんだろう?
投稿ペースは具合の良いやつを見つけるまでは試行錯誤します。……書きだめがあるから更新頻度が一気に下がるとかはないからご安心を




