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第二十話 入部して即座に連続で部活を休む勇者

規定文字数を超えたので、これからは週一更新です。書きだめが切れたら不定期になります。……エタらないエタらない(誓約)

色々あったお見舞い(仮)から、時間が経って翌日。

今日はラクシアとの練習試合だそうで。


「おはよー」

「あ、おはようナナ!」

「おはようございます」


待ち合わせをしていた2人と合流。

全員が練習着姿というのは、これから試合なのだという事を実感させてくれる。

2人も同じ事を思ったのか、全身から薄らと闘志が湧き出てくる。


「調子は……訊くまでもない感じだね」

「うん! 凄い楽しみで、もう大興奮だよ!」

「コンディションはしっかり整えてきましたから。今直ぐにでも戦えます」


なんというか、魔導戦技大好きっ娘の面目躍如というとこか。2人してテンションが高い。普段はクールな雰囲気を漂わせているセフィでさえ、今は分かりやすいぐらいに好戦的になっている。


「……逆にナナは、何時も通りですね?」

「そんな、魔導戦技ナメてるんですか?みたいな目でみないでくれる?」


2人に比べるとローテンションなのは認めるけど、これでもちゃんとコンディションは整えてるんだよ?


「普段通りの自然体。変に力むよりは良いでしょう?」

「……それでも戦意が低いのは、どうかと思いますよ?」

「あのねぇ……。2人とも、今からやる気高めてどうすんのさ。すれ違った人が何事かと驚くから、少しは抑えて抑えて」


試合に向けて闘志を漂わせるのは構わないけど、こんな道端でそれをやるのは駄目でしょう。せめて部室か、ラクシアに着いてからやりなさい。


「それ、下手したら職質されるからね?」

「……あう……」

「……失礼しました」


僕の指摘も最もであったため、魔導戦技大好きっ娘2人は恥ずかしげに俯いてしまった。

やる気に水を差すようで申し訳ないんだけど、実際に機動隊や保安隊で話題に挙がるんだよね。やけに物々しい雰囲気の人間に職質したら、試合に向かう途中の魔導競技者だったって。

聞いてる分には笑い話だけど、当事者になるのは問題でしょう? だからここは、心を鬼にしないと。


「うん。普段通りになった。2人とも可愛いんだから、あんまり物々しい雰囲気は出さないように。似合わないよ?」

「……う、うん」

「……シズクは兎も角、私まで口説こうとはいい度胸してますね」


シズクちゃんは、微かに顔を赤くしながらも、素直に頷いてくれた。

セフィは、僕の言い回しが微妙に気に食わなかったらしく、反抗的だ。キミ、僕の台詞の意味は理解してるよね? 次からは気をつけろをオブラートに包んでるんだよ?

水差されたのが気に食わないからって、そんな態度とるんだ。ふーん。

ならこっちにも考えがあるよ?


「ロア・アストレア」

「……はい?」

「昨日、ユメ姉さんから聞いたよ。大ファンなんだって?」

「……ええ。そうですけど」


セフィとシズクちゃん、どうも僕が寝てる間に、ユメ姉さんと色々話していたらしく、その中には統括局の魔導師の中で誰が1番好きかという話題があったらしく。

で、セフィの1番好きな統括局の魔導師は、なんと僕のもう1人の姉貴分であるロア姉さんなのだ。因みに、シズクちゃんの1番はユメ姉さんだったらしい。だから、お見舞いの最初の方はガッチガチに緊張してたんだって。見たかった。


「それが一体何なんですか?」


僕の唐突な振りに、訝しげな顔をするセフィ。そんな反応していられるのも、今のうちだよ?


「いやさ、その割にはユメ姉さんに、紹介して欲しいって頼まなかったんだって? 2人が親友なのは知ってるんでしょ?」


言ってくれたら紹介したのに、ってユメ姉さんが愚痴ってた。自分から切り出さなかったのは、目の前でシズクちゃんが岩みたいになってたかららしい。ちょっと躊躇ったんだって。


「……会ったばかりの、同じく憧れの人相手に頼める訳ないじゃないですか。たまたま見掛けた芸能人に、他の芸能人を紹介してくれって言うようなものですよ」


まあ、失礼だよね。

ただ、当然の事を言ってるような雰囲気出してるけど、返答まで微妙に間があったあたり、結構我慢してたんじゃない?


「じゃあ、会えたら会いたいんだ、ロア姉さんに」

「ロア姉さんってどういう事ですか説明してください」

「うわレスポンス早い」


餌を垂らしたら、予想以上に食いついた。

取り敢えず、しめしめという事で。


「さっき言ったでしょ? 2人は親友だって。なら、ユメ姉さんの弟である僕にとっても、ロア姉さんは姉貴分な訳で」

「紹介してくださいお願いします本当に会いたいんです!」

「おおぅ!?」


待って。ここまで食いついてくるとは思ってなかった。

チラリとシズクちゃんに視線を向けると、セフィが如何にロア姉さんに憧れているかを説明してくれた。


「セフィは前にちょっと大きな犯罪に巻き込まれた事があるの。その時に助けてくれたのが」

「……ロア姉さんだった、と」


あー、もう。なんだよ、紹介する代わりに謝らせようと思ってたのに。予想以上にしっかりとした理由じゃないか。

これじゃあ交換条件出せないじゃん……。


「……あの時、震えててまともにお礼が言えてないんです。だから今度こそ、ありがとうございましたって、ちゃんと言いたいんですよ……」


普段の飄々とした雰囲気はなりを潜め、今のセフィはしおらしい女の子でしかなかった。……やめてよもう、そういうの弱いんだよ僕。


「……はぁ。なら近いうちに、それこそ時間があるなら明日にでも会わせてあげるよ」

「本当ですか!? ……でも、そんな急だとご迷惑なんじゃ?」


僕の提案にセフィは歓声を上げるが、直ぐに躊躇いを見せる。いきなりの訪問は、問題があると思ったのだろう。

確かに、セフィの考えてる事は正しい。ロア姉さんは機動隊でも上の立場だし、その分仕事も多い。

でもね。


「セフィ。機動隊の隊員に、助けた人たちからのお礼を受け取らない人はいないよ。困ってる人を助けるのが僕たちの仕事だ。だからありがとうって言葉は、なによりの報酬なんだ」


断言する。緊急事態でもない限り、僕らはどんなに忙しくても、被害者からのお礼は笑顔で受け取る。ましてや、セフィのような年齢の子供なら尚更に。


「ユメ姉さんも怒るだろうね。変な遠慮はするんじゃありません、って」


そういう理由で紹介を求めたなら、ユメ姉さんは絶対に失礼なんて思わない。あの人は、いや僕らは、そういうお人好しの集まりなんだから。


「……なら、お願いしていいですか?」

「喜んで。しっかりエスコートしてあげるよ」


僕が快諾すると、セフィは大きく深くお辞儀をした。


「なら、今日の練習試合は頑張ろうか。ロア姉さんと会った時に、話のタネになるだろうしね。……だから、ツッコミ所のないように。分かった?」

「はい!」


今度こそ、セフィは満面の笑みで頷いてくれた。

はぁ……。もういいや。紆余曲折あったけど、持っていきたいところに落ち着いたし。

さて、次にやるのは。


「……むぅ」


微妙に蚊帳の外に置かれて、不機嫌になってるシズクちゃんのフォローかな。

取り敢えず、恋人繋ぎで手を繋いでおこうか。


「ふえっ!?」

「ゴメンね。ちょっと放ったらかしにしてて」

「……あ、いや、その……」

「もう少しくっ付く?」

「……うん」


んー、これで機嫌は治ったかな?

普段なら、こんな風にシズクちゃんを放ったらかしにする事なんて、セフィはしないんだけど。余程嬉しいのか、シズクちゃんがご機嫌斜めになってる事に気付いていないみたい。


「あ……流石ですナナ。抜け目ない」

「キミがちょっとポンコツになってたからね」

「……隙を見せるとすかさず突いてくる……やはり抜け目ないです」


何時もなら苦虫を噛み潰したような顔をするのに、今回のセフィは苦笑を浮かべていた。

本当にご機嫌だ。


「それにしても、ナナも良い事を言うんですね。お礼がなによりの報酬だなんて」

「うわっ、ちょっとセフィに褒められるとか違和感が」

「わぁ……ここまで機嫌の良いセフィ、久しぶりにみたかも」


上機嫌なセフィというのは、なんというか、その、不気味だ。付き合いの長いシズクちゃんですら、目を丸くしている。


「さあ、早く行きましょう。時間も迫ってますから」


そう言って、セフィは僕らの先を行く。

ふんふんふーん♪と鼻歌を口ずさむ姿は、とても違和感があって。


「……あー、僕たちも行こっか」

「う、うん。そだね」


僕とシズクちゃんは苦笑しながら、一緒に歩きだしたのだった。


「……あれ? 僕たち?」


…………何か、隣から不穏な呟きが漏れた気がした。







そんなこんなで、学校に到着。

部室に入ると、そこには既にレイ先輩がいた。


「あ、おはようございますレイ先輩」

「お、おはようございます先輩」

「お久しぶりです。すみません入って直ぐに休んじゃって」


後輩一同、ぺこりと挨拶。


「お、ようシズク、セフィ。ナナも久しぶりだな。サボった訳じゃないんだから気にすんな……で、お前ら何かあったか?」


軽く挨拶を交わして、その直後のセリフがこれである。大雑把そうなレイ先輩ですら気付くぐらい、僕らの雰囲気はおかしかった。

セフィは相変わらず上機嫌だし、シズクちゃんは僕と恋人繋ぎをしたまま、恥ずかしそうに俯いてるし。……いやさ、シズクちゃんから不穏な呟きが聞こえたから、移動中に思い切りくっ付いたりして意識を逸らしてたんだよね。うん、クズとか言わないで。


「何だ? ナナとシズクはくっ付いたのか? 随分早いな。いや、この場合は順当なのか」

「あー、付き合ってはないですよ、僕ら」

「……は?」


レイ先輩に恋人じゃないって言ったら、もの凄い唖然とした顔をされた。そんな埴輪みたいな顔しなくても……。


「そ、それで付き合ってないのか? そんな恋人繋ぎして、シズクは初心な彼女みたいな顔してんのに!?」

「……これには事情がありまして」

「どんな事情だよ!?」

「……それを訊くのは野暮ってものですよ、レイ先輩」


うっかりミスを誤魔化すためにイチャ付きましたとか、流石に言えないよ。

僕の表情を見て、何かを察したレイ先輩がジト目になる。


「碌でもない事情なのは察した……遊んでねぇよな?」

「まさか。一応、今の関係性は相互同意に基づいたものです」

「んな難しい言葉使うな。余計胡散臭い」


あ、はい。


「ま、お互い承知の上ならとやかく言わねぇよ。ただ、シズクを泣かすなよ?」

「僕が女の子を悲しませるとでも?」

「それを即答する奴だから言ってんだが……」


頭を抱えられてしまった。そう言われてもなぁ。


「……はぁ。お前らはもう良い。で、何でセフィはあんな上機嫌なんだ?」


レイ先輩は、そう言ってセフィの方を見た。

なんというか、不気味な何かを見るような目をしていた。本当に上機嫌なセフィって違和感があるだなぁ。


「明日、僕の伝手でちょっとした有名人に会うんです。そしたらあんな感じに」

「有名人?」

「機動隊のロア・アストレアに会えるんです!」

「おおう!?」


首を傾げるレイ先輩に、セフィが食い気味に教えにくる。

それに驚いて変な声を出すレイ先輩だったが、やがて言葉の意味を理解したのか、ポカンとした顔を僕に向けてきた。


「え、お前知り合いなの?」

「まあ。僕の姉が水無月ユメなので、その関係で」

「へあ!?」


またレイ先輩から変な声が出てる。

というか、シズクちゃんとセフィは言ってなかったの?


「ナナからOKでないと、喋っちゃダメかなって」

「人様の家の事を、ベラベラ触れ回るほど無神経じゃないですよ。それに、私たちがユメさんと直接会ったのは昨日が初めてです。こういうとアレですが、実際に会うまでは半信半疑でしたし」

「あー」


僕の疑問は、至極真っ当な理由で解消された。


「そっかそっか。気を使ってくれたんだね。別に話してくれても大丈夫だから」

「いいんですか? 場合によっては人が押し寄せますよ?」

「その辺りは上手く捌くよ。それにあんまり意味無いと思うし」

「どうして?」

「ユメ姉さんの事だから、多分授業参観とか来る」

「あー……」


子煩悩って程じゃないけど、しっかり保護者と家族をやっているユメ姉さんの事だ。緊急の仕事でも入らない限り、学校行事には顔を出す筈。

本人が登場する可能性が高いので、隠し通すのはまず無理だろう。


「えーと、つまり本当の事なのか……?」


僕たちの会話を聞いていたレイ先輩が、頬を引き攣らせながら確認してきた。


「はい、一応」

「本当ですよ」

「ええ。実際昨日会いましたし」

「マジかぁ……」


頭を抱えられた。何その反応。


「知り合いが英雄の弟だなんて急に言われてみろ……。反応に困るんだよ」


ガシガシと頭を掻きながら、レイ先輩はため息をつく。

あー、折角綺麗な髪なのに。その扱いはどうなの……。


「レイ先輩、髪型が乱れますよ」

「んあ? お前、男の癖にそんな事気にすんなよ。良いんだよ、どうせ適当に纏めんだから」


細けえ事は良いんだよと、言い切るレイ先輩。

いやダメでしょ……。僕らは兎も角、あの人がそれを許す筈無いじゃん。


「あらぁ、私がそれを許すとでもー?」


ほら。噂をすれば。

部室に響く、ねっとりとした声音。その瞬間、ふてぶてしかったレイ先輩が、油の切れたロボットのようになった。


「ゆ、ユーリ、何時から居た……?」


ギギギギギッ、と効果音が聞こえてきそうな動きで、レイ先輩が声の方を向くと。


「レイちゃんがガシガシ頭を掻いてたところかしらー?」


そこには魔導戦技部の推定裏ボスである、ユーリ先輩がいた。

取り敢えず、後輩一同挨拶。


「おはようございます、ユーリ先輩」

「おはようございます」

「おはようございます。お久しぶりです、ユーリ先輩」

「はい、皆おはよー。ナナ君は久しぶりねぇ。お仕事、忙しかったんですって?」

「まあ、かなり……」


死ぬかと思う程には忙しかったです。


「体調には気をつけなきゃダメよー? 身体は大切にしなきゃ」

「はい」

「ましてや、髪は女の子の命なのにねー? どうしてぞんざいに扱えるのかしら? 不思議だわぁ」

「い、いや、ユーリ……」


首を傾げるユーリ先輩を見て、レイ先輩がカタカタと震える。しかし、ユーリ先輩は一切態度を変えない。


「ねえ、教えてレイちゃん?」

「わ、悪い。ユーリ」

「あらぁ、何か言ったかしらー?」

「……ご、ゴメンなさい……」


取り付く島もないユーリ先輩に、ついにレイ先輩がダウン。


「……もう。分かったなら、こっちにきて。髪整えるから」

「い、いや、自分で出来るぞ?」

「い い か ら」

「うっす」


なけなしの抵抗も無駄に終わり、レイ先輩は椅子に座らせられた。そのまま、ユーリ先輩によるセットタイムに突入。

……なんかこの部活、力関係が明白なコンビ多くない? 僕もルナ先輩とコンビ組んだ方がいいのかな?

そんな事を考えたせいなのか、部室の扉がガチャリと開いた。


「おはようございまーす」

「あ、僕の相棒候補きた」

「誰がアンタの相棒よ!!」


つい口を滑らしてしまい、ルナ先輩にめっちゃ怒られました。

(2020/10/29)ちょっとだけ修正しました。内容は特に変わりありません。

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