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第十八話 まともに寝れないから緊急事態なんだよなぁ

ナナ君は身を削っています。これはガチな方で。

死ぬかと思った。いや、物理的な命の危機ではなく、忙し過ぎて死ぬかと思った。

オライン港タンカー座礁事件は、それぐらいヤバかった。

まず、漏れた薬品の処理が大変だったんだ。液体と気体を操れる魔導師総動員でしなくちゃいけなくて。液体操作の魔法が得意な魔導師は、海に漏れ出た薬品を操って、周辺の海域に影響出ないようにしてたし、気体操作の魔法が得意な魔導師は、気化した薬品を操って、街の方にいかないようにしなきゃだったし。

それが終わらないと、救助活動とか出来なかったから、ちょっぱやで終わらせるって意気込んだころでタンカー爆発するし……。ええ、消火活動も並行してやりましたよ!

途中で海神さんが駆け付けてくれなかったら、どうなっていた事か……。あ、海神さんってのは、SSランクの海上魔導師で、液体操作のエキスパートね。他に気体操作のエキスパートの天神、岩石操作と重力操作のエキスパートの地神さんがいて、統括局の三大神って呼ばれてる。

あの人が来てくれたお陰で、海の方はなんとかなったから、僕も気体操作に注力できたし、消火活動も薬品を片付けた海神さんが秒で終わらせてくれた。あの人マジ偉大。

その後の救助活動は、つつがなく終える事が出来た。助けられない命もあったけど、それでも何人もの命を救えた。

……ここで終わってたら、幸せだったんだよ。大事件ではあったけど、その日の深夜には解決してたんだ。諸々やっても2日は掛からなかったんだよ。

でもさ、皆薄々と気付いてたんだ。港の近くで座礁って変じゃね?って。だって、港の近くの浅瀬がどことか調査されてるじゃん普通。ましてやタンカーなんて大型船が行き来するんだから、何処を航路にするかかとを把握しなきゃだし。

で、関係者に話を訊いたら、座礁した付近は浅瀬の筈がないってさ。あの付近は、何度もタンカーが行き来してるんだからって叫んでた。

どういうこっちゃって調べたよ。海神さんとも協力して、潜水して調査したらさ、あったんだよ。フィーバー・ビーバー・ファクトリー製の試作品、推定効果が海底をこっそり迅速に隆起させるというクソアイテムがねぇ……!!

全員が無言になったよね。そしてキレた。くだらない実験で、またしても人の命を奪ったのかと。いや、それはそれとして、これもしかして第二第三の座礁事件起きるんじゃね? それ探さないとやばない? え、あるのかないのか不明の、全長30cmぐらいの棒状のクソアイテムを、この近海全域から探すの? 少なくとも航路の安全確保は必須だよねぇ……。

長丁場決定…………ッッ!!

結果、嘱託職員かつ子供の僕ですら、報告書とか含めて働き詰め。事件が起きたのが2の日(地球世界基準の火曜日)夕方で、解放されたのが6の日(地球世界基準で土曜日)の夜明け。正規職員や大人の嘱託職員は、今航路の安全確保に尽力している。

本当に死ぬかと思った。あとビーバーは絶対潰す。


「……眠い……」

「あら? ナナ君、起きたの? ゆっくり寝てればいいのに。今日学校休みだよね?」


リビングでうつらうつらしていたら、ユメ姉さんがやってきた。

ユメ姉さんも今日は非番なので、自分の部屋で寛いでいたようだ。


「午後から部活があるんだ」

「流石に休めば? ずっと働き詰めだったんだから」

「それでも行かなきゃ。忙し過ぎて、仲良くなった子にも連絡とれなかったから。心配してるだろうし」


昨日の深夜に、ようやっと一段落してデバイスを見たんだけど、シズクちゃんやセフィから何件もの着信やメールが入ってたんだ。心配掛けたろうし、ちゃんと顔合わせないと。

でも眠い。


「死にそうな顔してるけど、余計に心配かけちゃわない……?」

「帰ってきた時、エナドリ買っておいたから」


社畜の得意技、エナドリチャージ。これがあれば行ける、まだ若いし。


「中学生からドーピングを覚えなくても……」

「……既に6本開けてるから、もう1本ぐらい誤差だよ」

「……今までの合計睡眠時間は?」

「6時間ぐらいかなぁ……」

「寝なさい」


部屋に叩き込まれた。こういう時のユメ姉さんは強い。


「全く……。事件に関わってない私がいうのもアレだけど、働き過ぎだよナナ君」

「全部ビーバーが悪い……」

「構成員が出てきたら、私も出動出来たのになぁ……」

「救助活動は門外漢だからね、ユメ姉さんは」


ユメ姉さんの専門は、戦闘。救助活動も出来なくはないけど、専門じゃない為に今回の出動は見送られていた。

オーバーSの魔導師は、待機してるだけで犯罪抑止になるため、無闇に動かせないのだ。特に今回の場合、既にSSランクの海神さんもいたし、ユメ姉さんの出番はなかった。


「いやー、でもシェリルさんが来るとはねぇ」

「海神さん、何か報告でたまたまこっちに来てらしくて」

「不幸中の幸いだねぇ」


海神さんの勤務世界は、遠方世界のアリルだ。オーバーSは基本、勤務世界とその周辺世界から動かない。だからこそ、所属して長いユメ姉さんですら驚いているのだ。


「うん、だから通常より負担はずっと軽くなってるんだ。という訳で部活に」

「寝なさい!」


ベッドに叩き込まれた。やはりユメ姉さん強い。


「あのねぇ! 育ち盛りの子供の4日間の合計睡眠時間が6時間って、よっぽどだからね!? 今日は1日大人しく寝る! 休む事も仕事のうち! 部活は私の方から連絡いれとくから!」

「いや、でも」

「聞き分けないなら、私が寝かしつけるよ?」

「寝ます」


降参するので、その非殺傷性のスタン魔法弾を消してください。その魔法、フルパワーだと古代竜もノックアウト出来るよね!?


「よろしい。じゃあ、夕飯ぐらいには1度起こすから」

「はーい……」


あ、ダメだ。1度布団に入ったら、意識が……沈ん…………。






「~~♪︎」


沈んでいた意識が、ゆっくりと浮上していった。

……てか、何か聞こえる。鼻歌……? あと、頭を撫でられてる……? ……なんだろう……? というか、僕……寝て。


「あ、起こしちゃった?」

「……んあ……?」


ゆっくりと目を開けると、何故かシズクちゃんがいた。頭を撫でてたのも、彼女みたいだ。

……いや待って。何でいるの?


「……夢?」

「夢じゃないよ」

「そっかぁ……」


夢じゃないのかぁ。


「じゃあ何で!?」

「わわっ!?」


飛び起きました。いや、枕元に知り合いがいたら、普通に驚くて。


「え、シズクちゃん!? どうして此処に!?」

「えっと、コーチから、仕事明けで体調が振るわないから、休ませるって聞いたから。お見舞い」

「そんな、わざわざいいのに……」

「ううん。上着も渡さないといけなかったから」

「あー、そういえば」


回収するの忘れてたんだっけ。


「なるほど。それで来てくれたんだ」

「うん。セフィと一緒にね」

「セフィもいるんだ」


ちょっと意識してみると、確かにいた。リビングでユメ姉さんと話してる。あ、ユメ姉さん気付いたな。相変わらずどんな感覚してるんだあの人……。

まあ、何で2人がいるのかは理解。ユメ姉さんが通したのか。


「てか、体調不良みたいに言ったのか、ユメ姉さんは。単に徹夜明けだってのに……」


大袈裟過ぎる……。世の社畜の方々の方がもっと修羅場ってるのに。


「いやいやいやっ、私もユメさんから聞いただけだけど、凄い大変だったんでしょ? 2の日からずっと働き詰めだったって」

「……1時間半は寝るようにしてたよ?」

「それ仮眠レベルだよ!? それで4日間働き詰めって、絶対身体壊すから!」


大丈夫。慣れればいける。慣れればいける。


「いやでも、皆に心配掛けたかもだし……」

「連絡とれなかったのは、確かに心配したけど。だからって無理しないで! 写真見たけど、死人みたいな顔色だったんだよ!? そんな顔で部活こられても、皆余計に心配するだけだから!」


死人みたいな顔って、そんなまさかぁ……。


「待って写真って何?」

「ユメさんが撮ってたんだよ。ナナが寝た直後の奴。ほら」


そう言って、デバイスを開いて写真を見せてくれた。


「おおぅ……改めてみると酷い顔だ」


写真に写っていた僕の顔は、全体的に蒼白くて、隈も酷かった。どうもテンションが逝ってたせいで、全く気付かなかったみたい。

てか、サラッと映像データを貰ってらっしゃるのね。


「……本当に心配したんだよ? 全然連絡とれないんだもん……」

「あー、ゴメンね。凄い忙しくて……」

「……それは分かるけど、ナナって嘱託職員なんだよね? 正規職員じゃないナナが、何でそんなに働かないといけないの……?」


ちょっと泣きそうな顔で、そんな事を訊かれてしまった。余程心配掛けたみたいだ。

ここで機動隊所属の嘱託魔導師だからです、と言えたら楽なんだけど、この状況でそれ言ったら、絶対にお説教されるしなぁ。そんなボロボロの状態で現場に出てたの!? って。いや、説教はいいんだけど、下手したら泣かれそうだ。それはツラい。


「今回が特別だったんだよ。関係各所にダイレクトに影響出たから」


結果、口から出てきたのは答えになってない答えだった。


「むしろ、僕は恵まれてるよ。こんなに早く帰されたんだし。対応に当たってる正規職員は、今頃目を回してる筈」

「……そうなの?」

「うん。多分、マルス主任とかブチ切れてるかも。開発部、修羅場迎えてるだろうから」


直接的な被害者を除けば、ビーバーに最も迷惑を掛けられてるのは間違いなく統括局の開発部だ。ビーバーの連中の試作品は、その多くが軍事転用出来たり、社会的な影響が大きかったりする。それなのに連中は不用意にばら撒くので、試作品の解析や、対策アイテムの作成が急務となるのだ。

その為、ビーバーがやらかすと、その周辺世界の開発部は滅茶苦茶荒れる。遠方世界の開発部もそこそこ荒れる。ぶっちゃけると、現場で働く機動隊や保安隊よりも、開発部のビーバーへのヘイトは高い。


「最低でも10日、下手したら1ヶ月は家に帰れないかもしれないよ」

「……そんなに……」

「いやまあ、マルス主任が身体壊すような事はないと思うよ。1人抜ければそれだけ効率落ちるから。良くも悪くも、その辺りの匙加減は弁えてる人だし」


自分も含め、人を扱うのが上手いのがマルス主任という男なのだ。だからこそ、統括局という大組織で、一つの部署の頭を張れるのである。


「……なんか、私よりもパパの事詳しくない?」


安心させようとしたら、釈然としない顔をされた模様。そう言われても困るんだよなぁ。


「仕事とプライベートは別という事で。僕が知ってるのは、統括局でのマルス主任だから」

「……でも、一緒に釣り行ったりするんでしょ?」

「おっつ……」


ジト目で痛いところを突かれた。これは墓穴掘ったのでは?

所属をはぐらかす事は出来たけど、新たな問題が飛び出たぞ。


「いや、まあ、うん。そこは付き合いの長さという事で、見逃して頂けると」

「……じゃあ、今度一緒にお出かけ。それならいいよ」


今更だけど、見逃してとか言わなければ、交換条件突きつけられる事なかったのでは?

まあ、兎も角。シズクちゃんからデートのお誘いがきた。


「いいよ。じゃあ、皆で遊びにいこうか」

「……イジワル」


敢えて空気の読めないフリをしたら、ちょっと泣きそうな顔をされてしまった。凄い罪悪感。


「あー、ゴメンね。シズクちゃん、可愛いからつい揶揄いたくなっちゃうんだ。ちゃんと2人だけでデートしようね」

「…………うん…………」


慌てて言い繕うと、頬を染めながらしっとりとした笑みが返ってきた。

んー? シズクちゃんの様子が、以前と違う気がする。デートという言葉に顔を赤くしたけれど、それだけ。慌てる事と、否定されるような事もなかった。どうも積極的になってる気がする。あれかな? ディープキスの件で、肝が据わったのかな?


「……ふふ、試合の御褒美、ゲット」


何か気になる呟きが聞こえた。


「試合? フリットカップの事?」

「あ、違うの。実はお見舞いの他に、これも伝えに来たんだ。明日、練習試合があるの」

「練習試合?」


それは初耳だ。入部した週のうちに練習試合があるなら、最初に言われると思うだけど。


「うん。私たちも、3の日に聞かされたから驚いたよ。なんか、2の日の夕方に、【ラクシア魔法女学院】の魔導戦技部からから申し込みがあったんだって」

「ラクシアって、あのラクシア?」

「うん」


これはまた、驚いた。

【ラクシア魔法女学院】は、レストレードでも名門とされている女子魔法学校。いわゆるお嬢様学校で、通っている多くは良家のご令嬢か、優秀な才媛。リアルで御機嫌ようと挨拶するような、レストレードの中にある一種の別世界だ。

そんなところと、練習試合をするなんて。


「というか、ラクシアに魔導戦技部なんてあったんだ。何かイメージと違う」

「あそこ、結構強いんだよ? 都市本戦は確実って言われてる選手が4人いるし、他の部員もレベルも相応に高いもん。何年か前には、世界選抜まで行った選手もいるから」

「うっそ!?」


魔導戦技の部活とか、お嬢様学校に似合わないのではと思ってたけど、予想外の答えが返ってきて驚いた。

多世界規模な大会であるフリットカップは、幾つかのステージに分かれている。まず、地区ごとに行われる地区予選。そして次に、地区予選ベスト8が進める都市本戦。その次に、都市本戦ベスト4が進める世界選抜。最後に、世界選抜1位のみが進める次元大会。この次元大会で優勝すると、文句無しの次元世界最強と名乗れるようになる。

格闘術オンリーのシズクちゃんが地区予選上位クラスらしいので、全力のシズクちゃんは恐らく都市本戦の下位クラス。つまり、ラクシアにはそのクラスが最低4人はいるという事。世界選抜までいった選手に関しては、シズクちゃんより遥かに上の実力を持つ化け物という事になる。やっぱり魔導戦技って魔窟だわ。


「ラクシアって、もしかして魔導戦技の強豪?」

「うん。伊達に魔法学校の名門って呼ばれてる訳じゃないよ、あそこ。女子の部ではラクシアの部員が関門扱いされてるし、偶に男女混合の部で快進撃する人とか出るし」

「そっかぁ……」


ラクシアの魔導戦技部って、あの根っからの戦技好きが集まる男女混合の部に出る人がいるのかぁ。

いやさ、魔導戦技って戦闘競技な訳で、ボディタッチとか当たり前なんだよ。だから性的な配慮として、男女は基本分かれてるんだけど、そんな事は良いから戦わせろってバトルマニアが少数だけどいるんだ。見る側としても、男子の○○選手と女子の○○選手、どっちが強いかとか気になるし、そういうニーズが合わさった結果、生まれたのが男女混合の部。

試合中は、男女ともに身体に触れる事、触れられる事に一切の躊躇いがない生粋の選手しかいないから、男女別の部とは選手の強さが1段高く見積もられている。

……尚、男女混合の部には、ボディタッチを気にしないのでなく、ボディタッチOKと考えて出場するバカ(主に男)が度々現れる。そんな雑念を持って出場すれば、生粋のバトルマニアたちから手痛い洗礼を受ける事になるのだが。それでも度々現れるのが、男の馬鹿さ加減であり、洗礼を受けるのがもはや一種の風物詩となっている。観客も生暖かい目で見守ってるので、一応そういうバカも認められてはいる。ただし、あまりに酷いと白い目で見られるし、場合によってセクハラで捕まるので、そこまで無法地帯という訳ではない。


「因みに、世界選抜まで行った選手は、男女混合の部だってさ」

「そりゃまた……」

「名前はテレサ・カクラ。プロじゃなくて、機動隊の道に進んだそうだよ」

「……テレサかぁ……」


知り合いだった。というか所属が同じだった。

にしても、なるほどなぁ。色々と条件が違うし、正確って訳じゃないけど、それでも世界選抜って魔導師ランクA-ぐらいは必要なのか。そりゃ魔窟な訳だよ、魔導戦技。


「テレサ・カクラさんの事、知ってるの?」

「うん。ユメ姉さんの部下。にしても、あのお調子者にそんな過去が……いや、男女混合の部ってのは凄い納得だけど」


うきゃきゃきゃきゃ!と笑う、アホなテレサを思い出して、つい遠い目をしてしまう。アレがラクシア出身とか、知りたくなかったなぁ。


「……ナナって交友関係広くない?」

「というより、シズクちゃんが挙げる人がピンポイントで僕の知り合いなんだよね」


マルス主任といい、テレサといい。まあ、僕が統括局のあちこちに顔出してるからだろうけど。


「ふうん……因みにナナ、テレサ・カクラさんの事、どう思ってるの?」

「猿」

「ふえ?」


僕が即答すると、シズクちゃんがポカンとした顔になった。


「……え、お猿さん?」

「猿」


うん、アレは猿。愛嬌のある顔してるし、分類的には美人なんだろうけど、アレはそれ以上に猿。

少なくとも、シズクちゃんが邪推したような感情は、抱きようがない。だって僕人間だし。


「……あー、で、ナナは明日出れるの?」


シズクちゃん、予想外の事に対応出来なくなり、話題を変えた模様。


「うん。今日はまる1日休んだからね。……というか、逆に僕行っていいの?」

「え、何で?」

「いや、ラクシアって女子校だし」


男の僕が行くのは不味いような気がするんだけど。女子校って、男子にとっては不可侵領域みたいなものらしいし。


「それは大丈夫だよ。さっきも言ったじゃん。男女混合の部にも出る人いるって。男子だからって、除け者にされたりはしないよ。コーチもちゃんと確認したって言ってたし」

「へー」


流石は指導者というか、その辺りは抜かりないらしい。なら少し楽しみだ。


「楽しみだなぁ。まさかラクシアと練習試合」

「うん、僕も少し楽しみ」

「……それは勿論、魔導戦技がだよね?」

「それもあるけど、それ以上にあの猿を育てあげた魔導戦技部そのものに興味がある」


あの猿は元から猿だったのか、それともラクシアの魔導戦技部に入ってから猿になったのか。それがとっても気になるんだ。


「……そんなになの?」

「ユメ姉さんに訊いてみな? 困った顔で猿って言うから」


あの心優しいユメ姉さんですら、テレサが猿というのは否定しないから。


「なんだったら、今訊きにいこうか」

「え、起きて大丈夫なの?」

「いや、体調不良じゃなくて寝不足だから。1日寝たら回復したよ。それにもうすぐ夕飯だし」


どっちにしろ、そろそろ起きないと。


「あ、じゃあ私もお暇するよ!」

「食べてけば? 多分、セフィは食べてくよ?」

「ええ!?」


いやだって、セフィ、ユメ姉さんと一緒にキッチンにいるみたいだし。

多分、話し合ってるうちに、夕飯を一緒に食べる事になったんだろうね。


「……じゃあ、ご迷惑でないなら、ご一緒させて貰おうかな。ママに連絡入れないと」

「セフィの事だから、勝手に話通してるんじゃ?」

「ありそう……」


微妙な表情を浮かべながら、シズクちゃんはデバイスを開くと。


「……ママから、晩御飯食べてくるんでしょって、メールが……」

「セフィ……」


予想通りと言えば予想通りだけど、あの娘は全くもう……。

まあ、連絡入れる手間が省けたと考えれば、それでいいか。さて、気を取り直して。


「……んんっ。あー、じゃあリビング行こう」

「うん! そうだね」


咳払いを入れてから、僕とシズクちゃんは立ち上がって。


「あ、そうそう。言い忘れてたけど、1番楽しみにしてるのは、練習試合の後のデートだから」

「ふえ……?」


不意打ちに一撃入れてから、1人でさっさと部屋を出た。

後ろから、慌てたような気配を感じて、ニンマリ。


「うん。やっぱりシズクちゃんは、慌ててる方が可愛いな」


誰もいない廊下で、僕はちろりと舌を出した。

この辺りから試合や大会やらのルールが出てきますが、以前も言った通り私はスポーツ、特に格闘技の大会なんて超門外漢です。なのでふわっと受け止めてください。ガチなツッコミきても理解できない可能性もあるんで。

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