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第十四話 キミそれマジで言ってる?

今回ぐらいからナナが活躍するぞ(意味深)!!

登校までは色々あったけど、それさえ過ぎてしまえばイベントらしきイベントもなく、無事に学校は終了した。

そういう訳で放課後。セフィと共に再びシズクちゃんの家に。


「っと、その前にスーパーでも寄ろうか」

「何か買うものでもあるんですか?」

「一応、お見舞いだし。手ぶらってのもアレじゃない?」

「……まあ、一理ありますね」


セフィも納得したようなので、1番近くのスーパーに寄る事に。


「お見舞いといったら果物だけど、シズクちゃんって何が好きなの?」

「果物だと……リンゴ、梨、メロン、桃とかですね。でも、果物は全般好きですよ? あの娘なんでも食べますし」

「じゃあ適当に……買いすぎてもあれだし、メロン1個と桃3個ぐらいでいっか」


良さそうな感じのを選んで、カゴの中へ。


「あ、お金は私も出しますよ?」

「ん? ああ、大丈夫。全部出すから。嘱託やってるからお金あるし」


同学年だったとしても、就業者が学生にお金を出させる訳にはいかないからね。

元々、放課後に誰か誘うつもりだったから、お金の方も下ろしてあるし。


「いえ、でも……」

「はいさっさと行くよー」

「あっ」


渋るセフィを無視して、さっさとレジに並んで支払いを済ませてしまう。

セフィは何か言いたげであったけど、サクッと無視した。

そしてシズクちゃんの家に向かう。

何事もなく到着し、インターホンを押す。少ししたらママさんが出てきた。


「あ、ども。お見舞いに来ましたー。これ良ければ」

「え!? もうっ、余計な気を回す必要はないのに。あの娘は病気って訳じゃないんだから」


僕が果物を渡すと、ママさんは困ったような顔になった。


「ゴメンなさいね。ただでさえ色々迷惑かてるみたいなのに」

「迷惑だなんてそんな。僕も楽しんでますから」

「そうですよ。ある意味でナナが元凶みたいなものですから、これはそのお詫びみたいなものです」

「セフィ? お見舞い品だからねこれ」


詫びの品に変えないでくれない?

ジト目で睨んでも、本人は何処吹く風。この娘本当に謎。

既に恒例となっているやり取りを行っていると、僕たちをリビングへと案内してくれていたママさんが、何故か難しい顔をしていた。


「……うーん、これうちの娘はキツいんじゃ?」

「あの、凄く思うところのある呟きをされた気がするのですが」


ボソリと呟いたママさんに、速攻でセフィが食い付いた。具体的な事は何も言ってなかったけど、ママさんが言いたい事はしっかり察したらしい。

それにしても反応早くない? 僕も同じく思うところあるけど、キミそんなに嫌なの?


「私、シズクの想い人相手に横恋慕する程無粋じゃないです」

「それは重々承知してるのだけど……。それでも凄く息が合ってるから、もしライバルになったらと思うと、一人の母親として心配になるのよねぇ。ほら、セフィちゃんって美人さんでサッパリしてるから。うちの面倒な娘よりは明らかな優良物件だし」

「褒めて頂くのは嬉しいんですが、そういう嫌なもしもは出来れば止めて欲しいです」


丁寧ではあるけれど、断固とした態度を崩さないセフィ。

ねえ、そんなに嫌なの? 僕的には、恋愛云々抜きにして、キミとは仲良く出来そうな気がしてたんだけど……。


「セフィ、そこまで言われると、流石に僕も悲しくなるよ?」

「別にナナが嫌って訳じゃありませんよ。ただシズクとそういう面で争うのが嫌なんです。競技では良きライバルですけど、それ以外の面ではあの娘は私の大切な妹みたいなものです。妹を虐める姉がどこにいるんですか」


まるで自然の摂理でも語るかのように、セフィはそう言い切った。

聞けば、お互いに競い合い、高め合っていくような物事以外、セフィはシズクちゃんと衝突するような事は基本避けるのだという。

ママさん曰く、色々あって名門魔法学校から普通の公立中学に進学先を変えたシズクちゃんに合わせて、自分も進学先を変えたりと、結構大きな決断だろうと、シズクちゃんの為なら躊躇なく行うのだという。

そういえば今朝も、一緒に登校する事になった時はシズクちゃんの事を真っ先に考えていたっけ。僕に本気でフォローをお願いしたりするあたり、本気で大事に思ってるんだろう。

ただなぁ……。


「……その割には結構、鬼畜な事やってない?」

「あれは揶揄ってるのであって、虐めてる訳じゃないです。ほんのスキンシップですよ」

「その虐めるっていうのも、中々に上から目線では……。逆に虐められるとか考えないの?」

「競技以外で、あの娘が私に勝てる可能性があると?」

「……ないね……」


曲者の気配がプンプンするセフィと、色々とアレだけど純粋な性格のシズクちゃんでは、勝負にならない気がする。


「だから私も心配になるのよねぇ。セフィちゃんの事は信頼してるけど、心の問題に絶対は無いし。それにセフィちゃんは大丈夫でも、相手、この場合はナナ君がセフィちゃんを好きになっちゃうかもしれないじゃない?」

「ああ、その可能性はありますね。ではナナ、先に宣言しておきますが、シズクの想い人になった以上、私は貴方に迫られても応える気は絶対にありませんので」

「……何で僕、告白もしてないし、それ以前に恋心すら抱いてない娘にフラれたみたいになってるの?」


もうちょい言い方ってなくない?

少なくとも僕、そんな話を聞いた上でセフィに気持ちが向くほど、神経太くないよ?


「いえ、気持ちに絶対はないじゃないですか」

「僕があの娘の気持ちを蔑ろにするとでも? というか、それを否定してみせたキミがそれ言うんだ……。じゃあさ、もしもキミが僕を好きになったらどうすんのさ? 気持ちに絶対はないんでしょ?」


反撃とばかりに質問すると、セフィは一瞬だけ不快そうに顔を顰めた。そんなにシズクちゃんと恋愛バトルやるの嫌なの?


「……そうですね。万が一、億が一、そんな事になったら……シズクを第1夫人にして私が2番目になるように立ち回るでしょうか」


予想の斜め上をいく回答が出てきてビックリした。


「……え、身を引くとかじゃないの?」

「シズクが納得しなかった時は勿論身を引きますよ? でもそうじゃないなら、重婚出来るように立ち回ります。私も好きになった相手とは結ばれたいですけど、だからといってシズクと争うのも嫌です。なら妥協出来るところは妥協して、私にとって1番都合のいい結果になるようにします。幸いな事にレストレードは重婚OKですしね」


そう断言するセフィに、僕は不覚にも圧倒されてしまった。覚悟キマリすぎじゃないのこの娘……。

確かにレストレードは重婚OKだけど。それはレストレードが多世界交流においての要所で、色んな文化圏の人間が籍を置く事があるからであって、ある種の妥協みたいなものだ。

子供のうちから就職が可能だったり、重婚が可能だったりと、レストレードは何かを行う事に関しては結構緩い。だがその反面、罰則に関してはかなり厳しい。推奨されてない事をやった上で何かしでかしたら、場合によっては通常よりも重い罰則が下る。

『やってもいいけどやるからには覚悟しろ』というのが、レストレードのスタンスなのだ。

そして、重婚は可能だけど推奨されていない類のもの。そういう文化圏の人間が重婚するなら兎も角、そうでない人間が重婚するというのは世間体も悪いし、離婚などのトラブルをおこしたらかなり大変な事になる。

それを理解した上で、この娘は重婚すると言い切ったのだ。


「まあ、私としても好きになった人は独占したいですから、そういう意味でもシズクの想い人は基本NGです」

「あ、独占欲はあるんだ」


そういうのが薄いから、重婚OKなのかなって思った。


「当たり前です。別に重婚やハーレムに理解があるという訳でもありません。さっき言ったのは、好きな人がシズクと被った時の苦肉の策みたいなものです。シズクが相手じゃなれば全力で獲りにいきますし、恋人が浮気したら叩きのめして反省させます。それでも駄目なら別れます」

「あ、意外と苛烈だ」

「優しい方ですよ。1回ぐらいなら浮気は許しますし」

「その代わりボッコボコにするんでしょ?」


恋愛バトルには全力を尽くして、浮気に対して鉄拳制裁。飄々とした雰囲気に反して、セフィは結構情熱的なのかも。

まあ、シズクちゃんとの争いを避けるために重婚するなんて発想、余程あの娘の事を大切に想ってないと出てこないし。


「……あの娘は友人に恵まれてるのね」


僕らのやり取りを眺めてたママさんが、とてもしっとりとした声音でそう呟いた。

それに応えたのはセフィだった。


「そうですよ。私は勿論ですし、部の先輩方もシズクの事は大切に想っています。ナナなんて、出会ってまだ2日目の段階で、私と同じぐらいシズクの事を受け入れているぐらいです。色々とアレなところがある可哀想な娘ですけど、そんなあの娘が私たちは大好きなんです」


それは今までのような、何処か飄々とした雰囲気を感じさせるものではなく、慈愛に満ちた優しげなものだった。


「だから、そろそろ出てきなさいシズク。別にあなたの醜態なんて私たちは気にしてませんから」


一瞬で元に戻ったけど。

というか、気付いてたのか。

セフィがそう言った瞬間、廊下へと続く扉の裏から、ドタバタと誰かが慌てるような音が聞こえた。


「いきなり呼ばれて飛び上がったんだろうなぁ」

「あ、ナナも気付いてたんですか?」

「うん、だって気配したし。そういうセフィはどうして?」

「気配ってまた地味に凄いですね……。私の方は、単に長い付き合いからくる推測です。いるだろうなと様子を伺ってたら、案の定でした」


そんな話をしながら、僕たちは誰かさんがいた扉を見つめる。

当然ながら、その誰かさんはシズクちゃんだ。

実をいうと、シズクちゃんは僕らがリビングに入った時から、扉の向こうで様子を伺っていたのだ。

尚、今は慌てて階段を登って、自分の部屋に逃げ込んだみたい。


「さて、お母さん、私たちはシズクのところに行ってきますね」

「ゴメンなさいねぇ、2人とも。いっぱい迷惑掛けたのに、あの娘ったらお礼もしないで」

「いやぁ、衝動的にキスしちゃったら誰だってああなりますよ。だから、あんまりシズクちゃんの事は叱らないであげてくださいね?」

「それに私たちの方も、これから叱られるような事する予定ですから。おあいこですよ」


申し訳なさそうにするママさんに、僕たちはなんでもない風を装って立ち上がった。

……それとセフィさん? あなた今サラっと聞き捨てならない事言いませんでした?


「……セフィちゃん、一体何する気なの?」

「僕も初耳なんで、詳しく説明して欲しいかな?」

「実は、これからナナに、シズクとバカップルのようにイチャついて貰う予定なんです」


ちょっと何言ってるか分かんないですねぇ。


「バカップルのようにイチャつけって何さ?」

「ナナは普通にしとけばいいんですよ。デフォルトでバカップルの彼氏か、ホストみたいなセリフ吐くんですから」


ちょっと何言ってるか分かんないですねぇ……っ!!


「……いや、うん。言いたい事は山ほどあるけど、今は置いておくよ。今僕が1番訊きたいのは、何でそんな事をするのかって事だから」


これまでの付き合いから、セフィはシズクちゃん関係の事で、意味のない事はしないし、言わないってのは理解してる。だからこのセリフは本気だ。本気でイチャつけって僕に言ってるんだ。

単純に、僕がシズクちゃんと付き合えって言ってる訳じゃないだろう。セフィはモノの道理や情緒ってものを、ちゃんと理解している。そういう無粋な事を、本気で言ってくるタイプじゃない。

つまり、これはシズクちゃんにとって必要な事なのだろう。少なくともセフィはそう思っているらしい。


「今のシズクは、理性より先に本能で動きかねない状態です。だから、ナナにキスした訳ですし」

「そうだね」

「つまり、ナナが近くにいると暴走しかねないんですよ。下手するとエロい方面にも走るかもしれません」

「言葉を選びなさい女の子」

「でも事実ですよ。特に現在、ナナとシズクは学校で隣同士です。色ボケ方面に暴走する可能性のある娘を、そんな状況に置いていける訳ないじゃないですか」


うん? いや、まあ、……うん。言いたい事は、その……分かる。

セフィのぶっ飛んだ、それでもある意味でとても真っ当な言い分に、僕もママさんも反論出来ないでいた。

既に前例あるしなぁ……。


「なので今のうちに、発散させとこうって考えたんですよ。ナナとイチャついてれば落ち着くでしょうし」

「だから何故」

「シズクは今、ナナを本能で求めてるんです。つまり、身体の方が満足すれば、暴走の可能性は下がる筈です。本能さえ抑える事が出来たら、残るのは精神的にピュア、というか初心でヘタレなシズクです。下手な行動に移る度胸はないでしょう」

「筋は通ってるけど、その評価はあんまりでは……」


僕のツッコミは無視されました。


「そういう訳で、これは必要な事なんです。ですので、お母さん。年頃の娘を持つ親にいうセリフではないですが、これからシズクとナナがすることは見逃してください」

「……私、娘の幼馴染からこんなお願いをされるだなんて、思ってもみなかったわ……」


でしょうね。想像出来てたら凄いですよそれ。


「……まあ、原因は我が家のバカ娘だし。あの娘のために必要だというのも理解したわ。だから咎めるつもりはないけど、イチャイチャするにしても限度というものもあるわよ? そこは分かってる?」

「ええ、大丈夫です。ナナもそういうのは、ちゃんと心得てますから。私も同席しますし」


そっかぁ……。観客いる状況で、僕はイチャつかされるのかぁ。

というか、監視されなくても節度は守るから。それぐらいの良識は持ってるから。


「キスの時に舌入れるぐらいまでで、ちゃんと止めます」

「入れないよ馬鹿! というか、それは止めたうちに入らないから!」


とんでもない事をのたまったので、ついセフィの頭を叩いてしまった。いや、この娘、叩かれて当然の事を言ったけれども。


「と、こんな感じでナナは十分に理性的です。ですのでご安心を」

「不安を取り除くために新しい不安を与えたら、それ差し引きゼロだからね?」


サラっと妙な証明をやらないで欲しいんだけど……。

僕の苦情は、またしても無視されました。


「では、シズクのところに行ってきますね。ちゃんと社会復帰出来る程度には回復させるので、ご心配なく」

「社会復帰ってまた酷いなぁ」

「実際、それぐらいアレな状態ですよ。ナナじゃなかったら、セクハラで訴えられてるかもしれないんですから」

「普通は逆なんだけどねぇ……」


男性が女性にというのは良く聞くけど、その逆ってのはあんまり聞かないよなぁ。いや、事例として普通にあるんだけどね。


「そういう訳で、これからやるのは結構重要なミッションです。気合いを入れて頑張ってください、ナナ」

「うわぁ……」


その時のセフィは、とても悪魔的な笑顔を浮かべていた。

笑顔に弱いって僕言ったけど、この笑顔はちょっとなぁ……。

とりあえず、もう一度頭を叩いといた方がいいかもしれない。

セフィはセフィで色々キマッてる良い娘だぞぅ!

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