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第十三話 なんだこれ地獄か……?

高めよヒロイン力! そして振り絞れホスト力!

シズクちゃんをおぶりながら、セフィの後ろを付いて歩く。

暫く歩くと、セフィはそこそこの大きさの1軒家の前で立ち止まった。


「ここです」

「あ、本当に僕の家と近いや」


シズクちゃんの家は、僕の家から4つの通りを跨いだ辺りにあった。徒歩5分ぐらいの距離じゃん……。

というか、ユメ姉さんは近所なの知らなかったのかな? 所属は違うけど、マルス主任も統括局のお偉いさんだし、知ってても……いや、ないか。開発部は保安隊や機動隊と違って、緊急で呼び出される類の部署じゃないから、直接的な関わりは薄いし。

備品関係での関わりならまた別だろうけど、ユメ姉さんは事務じゃなくて現場の責任者だ。控えてるとしも、連絡先が精々か。

これがデバイスの整備担当とかだったらまた違うんだけど、ユメ姉さんのを担当してるのは別の人だしなぁ。僕の方も、オーケストラの開発の陣頭指揮を取ったのはマルス主任だけど、整備は違う人だ。

お陰で、地球世界風にいう灯台もと暗しな状況が出来上がった訳だ。


「いやー、ビックリビックリ」

「本当に知らなかったんですか? シズクのお父さんと釣りに行ったりするんですよね?」

「そうなんだけど、釣りの時は集合も解散も統括局だったんだよね。僕はユメ姉さん、姉に車で送り迎えしてもらってたし、マルス主任は自分の車使ってたから」


目的地までは、マルス主任の釣り仲間の、搭乗人数の多いワゴン車で移動してるし。

どうも、上手い具合に噛み合わなかったみたいだ。


「そういうものですか。ではやはり、説明するのはシズクのお母さんと面識のある私がいいですね」

「うん。マルス主任がいれば僕が説明してもいいんだけど、統括局って9時には就業開始だから。もうとっくに出てるだろうね」


現在時刻は8時40分。寝坊や体調不良でもない限り、家にはいない筈。


「……というか、マルス主任居たら、最悪僕殴られるのでは? 大事な娘に手を……出してはないけど、それでも限りなく黒に近いグレーだし」

「真っ黒だと思いますけど? 依存するレベルで口説き落とした訳ですし」

「口説き落としてはないから!あと依存は言い過ぎ……じゃない?」

「その間が全てを物語ってますよ」


……いや、うーん……うん。


「……まだ大丈夫だと思う。依存してても、危険域までは行ってない筈。僕がいなくちゃ生きていけない、振られたら死ぬって程じゃないよ。うん」

「既にその半分ぐらいは進んでそうですけどね。因みに、その危険域に突入したらどうします?」


物騒な事は訊かないで欲しいんだけどなぁ。

……まあ、そうだねぇ。


「……そうなったら流石に責任とるよ。図らずもアクセルを踏んだのは僕だし、それでいて止めようとしなかったのが原因だしね。そこはまあ、しょうがないかな。……まあ、接した時間の割にはシズクちゃんの事好きだし、別にそうなっても嫌じゃないから構わないんだけど」


現段階でも、そういう関係になっても良いと思える程度にはシズクちゃんは良い娘だ。なので責任を取る形になっても問題無くはない。……まあ、そもそも出会ってまだ1日ちょいだし、このままいけば僕が堕とされる可能性は十分にある訳で。


「その台詞をシズクが起きてる時に言えば、直ぐにでも危険域に突入すると思うんですが、どうです?」

「残り僅かであろう僕の自由な時間と、キミの幼馴染の身の安全を考えた上で、是非とも止めて欲しいかな」


シズクちゃんの耳に入らないだろうから言ったんだよ? バラすのを匂わせるのは止めてくれません?


「もうこの話題は終わり。さっさと行ってセフィ」

「どうせ似たような話を直後にする事になるのに?」

「シズクちゃんを早く家に届けないとでしょ!」


説明するのがよほど嫌なのか、渋るセフィの背中を無理やり押す。具体的にはインターホンを押した。


『どちら様ですか?』


多分だけど、学校から既に連絡が来ているのだろう。インターホンに対する応答が早い。声も少し硬いし、やっぱり心配してるみたいだ。


「あ、セフィです。シズクを連れてきました」


セフィがそう答えるや否や、バタバタと駆け出す音がインターホン越しから聞こえ、


「セフィちゃん! シズクは大丈夫なの!?」


勢いよくシズクちゃんのお母さんが飛び出してきた。


「落ち着いてくださいお母さん。気を失ってはいますけど、体調不良や怪我という訳じゃないです」

「え、でも、熱だして倒れたって学校の方から……」

「……それは理由があまりにあんまりだったので、理由を正直に話すのは躊躇われたんです。嘘も方便という事で見逃してください」


セフィがそう言うと同時に、僕は身体をズラしてシズクちゃんの顔を、シズクちゃんのお母さんに見せる。

外傷もなく、苦しそうでもないシズクちゃんに、ママさん(もう面倒だからママさんでいいや)は安心したように脱力した。

だがそうなってくると、何で気絶したの?って話になる訳で。


「……そのあんまりな理由っていうのは、教えてくれるのよね?」

「それは勿論。……気は進みませんが」

「セフィちゃんが躊躇うって、聞きたくなくなってきたなぁ……」


そういいながら、ママさんは僕たちに家に上がるよう促した。


「とりあえず、話を聞く前にその娘を寝かましょう」

「あ、じゃあ僕がこのまま運んじゃいますね」

「あらそう? でも、ここまで運んできてくれたのに、更に手間を掛けるのも……」

「大して変わりませんよ。……あと、一向に僕の服を離す気配がないんで」

「……あらあら!」


僕のセリフにママさんは目を丸くしたあと、凄い楽しそうな表情を浮かべた。

……これ確実にママさんにバレてるよね。いや、シズクちゃん凄い分かりやすかったし、実の親なら気付くか普通。


「ならお願いしようかしら。シズクの部屋は2階に上がって右側にあるわ。名札が掛かってるから、直ぐに分かる筈よ。ベッドに寝かしておいてくれる?」

「ならその間に、私は説明しておきますね。……はぁ」

「本当に嫌なのね……。うちの娘は一体何しでかしたのかしら……?」


物凄く気怠げなセフィと、盛大に疑問符を浮かべるママさんに見送られ、僕はシズクちゃんの部屋へと向かった。

途中で、年頃の女の子の部屋に入るのはデリカシーの観点からマズいのでは無いかと考えもしたが、不可抗力かつ、頼めば確実に許可が出そうなので良しとした。


「ここか」


シズクちゃんの部屋は、結構混沌としていた。あ、別に汚いというではないよ? むしろ整頓はされている。ただ、基本的に少女らしいファンシーな内装の中に、無骨なトレーニング器具や、格闘技大全集などを筆頭とした荒々しい内容の書籍が大量にあるから、ぱっと見カオスだ。


「んー、これは気が咎めるな。早く寝かして出よう」


女の子の無防備な生活面というのは、ジロジロ見るべきではないだろう。確かに、頼めば部屋にはいれてくれるだろうけど、それでも片付けぐらいはする筈だ。

この光景はシズクちゃんにとって、見せるつもりじゃないものだろう。ならさっさと用を済ませて退散するのがマナーだ。

そんな訳で、シズクちゃんをベッドに寝かしたんだけど……。


「全然離してくれないなぁ……」


シズクちゃんの手は、ガッツリ僕の服を掴んで離さない。ちょっと力を込めて引っ張っても、指を1本ずつ剥がそうとしても、この娘は意識が無い筈なのに抵抗してみせた。

というか今気付いたけど、シズクちゃんの手と僕の服に、薄らと魔力が宿っていた。

無意識に魔力性質使って接着されてる……!?


「これは……無理では?」


シズクちゃんの性質の強さは最高レベルのものだ。多分だけど、接着剤で引っ付いてるのと大して変わらない。

勿論、剥がそうとすれば剥がせる。スパーでやったように、魔力で押し流せばいけるし、シズクちゃんを起こせばそれで解決する。

ただ、魔力で無理矢理押し流すと、気絶してるシズクちゃんだと怪我する可能性があるし、制服も痛む。

じゃあ起こせばいいかというと、それはノーだ。緊急でもないのに、気絶した人間を強制的に起こすのは問題だし、それ以上に僕が起こせば確実にパニックを起こす。


「……しょうがないか」


手を離させる方法が思い付かなかったので、仕方がないと諦めた。

そんな訳で、僕は掴まれた制服、正確には上着のブレザーを脱ぐ事にした。幸いな事に、外の気温は比較的高めなので、寒い思いする事は無い。


「ふぅ、やっと自由になった」


目的を達成して一息吐いた。

脱いだブレザーは、シズクちゃんに抱き枕よろしく抱き寄せられていた。……これ気絶から睡眠に入ってない?


「ま、いっか。それならそれで。ゆっくり身体を休めなさい」


最後にシズクちゃんの頭を撫でて、僕はシズクちゃんの部屋を出る。

そして、セフィとママさんがいるであろうリビングに向かうと。


「……」

「……」


気まずそうなセフィと、恥ずかしそうに顔を覆ったママさんがいた。

まあ当然のリアクションなんだろうけど、控えめに言って地獄でしょコレ。


「えっと、一通りの説明はした感じ?」

「ええ。だからこうなってるんです」

「この度は、うちのバカ娘がご迷惑を……」


さっきまで軽い口調だったママさんが、堅苦しい口調で深々と頭を下げてきた。これ相当堪えてるなぁ。


「あれ? ナナ、上着はどうしたんですか?」

「全く離してくれなかったから、脱いで置いてきた。流石に魔力性質まで使われちゃったら、こっちとしてもどうしようもなくてね。今はシズクちゃんの抱き枕になってるよ」

「絶対に離さない意志を感じますね」

「……重ね重ね、ご迷惑を……」


上着の事を話したら、余計にママさんが小さくなった。


「あ、全然気にしなくて大丈夫ですから。ここまで強く求められたら、僕としても悪い気はしませんし」

「そうですよ。火薬を爆弾に変えたのも、爆弾に火を近づけたのもナナですから。自業自得です」

「人を爆弾魔みたいに言わないでくれるかな?」


でも、あながち間違ってないから、強く文句を言えないのが悲しいところ。


「まあ、男ってのは女の子に振り回せれてこそですし。それを受け止めるのが甲斐性ってものじゃないですか」

「……その歳でそれを言えるのは凄いわね」

「だからシズクが堕とされたんですよ」


呆れるママさんと、然もありなんと肩を竦めるセフィ。

既にセフィから慣れを感じるんだけど、この娘も大概よくわかんないよね。話し方が丁寧だから礼儀正しいかと思いきや、発言自体はド畜生だし。

でもシズクちゃんには優しいし。……優しいよね?

僕が疑惑の視線をセフィに向けても、当人は全然気にしてないから、謎は深まるばかりだ。


「さて、それじゃあ私たちは学校にいきます。放課後にナナとお見舞いに来ますので、それまでにシズクの事を落ち着かせといてください」

「うーん……私としては、恥ずかしいからって理由で学校休ますのは、ちょっとどうかと思うのだけど」

「行ったところでマトモに授業受けれませんよ。ナナが隣りなんですから。キスしただけで気絶したのに、その相手が長時間近くにいたら、あの娘確実にパニック起こしますよ。醜態が広がるだけなら構わないでしょうけど、周りが迷惑でしょう」

「……それもそうね。その代わり、目を覚ましたらこってり絞ってあげるわ。あ、あとお見舞いは大丈夫よ。別に病気って訳じゃないのだから。2人にこれ以上迷惑は掛けられないわ」


ママさんが言葉は正論ではある。ただ僕としては、その言葉に頷けない。

理由はとても単純で明確だ。


「上着を回収しなくちゃいけないので……」

「……やっぱりこってり絞らないと」


……あの、お手柔らかに。

キスして知恵熱出して帰宅。……これマジで地獄よな全方位で。

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