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第十二話 もっと仲良くなろうじゃないの

私の小説としては珍しくヒロインがヒロインしてるんだ!

学校近くのとある道路で、そわそわと落ち着かない様子で、誰かを待っている娘がいる。


「……やっぱり待ってましたね」

「健気で可愛いと思うよ?」


案の定だと呆れるセフィと、それを見て苦笑する僕。傍から見ると、結構仲良さげに見えると思う。実際のところは、駄目な妹を見守る姉と兄といったところだけど。……まあ、僕の方がシズクちゃんよりちっさいんだけど。


「あ、こっち気付きましたよ」

「あー、遠くからでも分かる程狼狽えてるね」


僕らを、というか僕を見つけたシズクちゃんは、満面の笑みを浮かべ、その直後にセフィがいる事に驚き、一瞬だけムッとして、そのあと悲しそうな顔になる。そして最後に、誤魔化すような笑顔を貼り付けて駆け寄ってきた。


「……フォローは任せましたよ。出来れば依存するレベルで蕩かしてください」

「セフィ、キミとは一旦腰を据えて話し合う必要があると思うんだ。ルナ先輩も加えて」


ちょくちょく人の事を違法薬物みたいに言うけどさ、それって凄く失礼だからね? というかそんな事しないから。

ジト目でセフィを見ると、今はそれどころじゃないですよね?と逆に睨み返された。

理不尽だと思ったけど、シズクちゃんが近かったのでその感想は飲み込む。


「えっと、おはよう。ナナ。セフィ」

「おはようございます、シズク」

「おはようシズクちゃん」

「……それで、2人は何で一緒にいるの?」


縋るような声で質問され、セフィが小さく来たと呟いた。

そんな、頼む……っ!みたいな目をしなくても分かってるから。それだと逆に怪しいから。ちょっと落ち着いてセフィ。

セフィは演技とか隠し事には向いてないな、なんて思いながらも、シズクちゃんの方に意識を向ける。


「断言しておくけど、シズクちゃんが思ってるような事じゃないよ」

「……じゃあ、何で一緒に登校してるの?」

「シズクちゃんとセフィがいつも待ち合わせてる場所で偶然会ってさ。そのまま一緒に来たんだよ。どうも僕たち、この場合はシズクちゃんもらしいけど、家が近いみたいなんだよね」


さっき軽くセフィと話したところ、徒歩十分圏内の位置に僕たちの家はあるっぽい。もしかしたら、以前に何度かニアミスしてたかも。

この情報は予想外だったみたいで、シズクちゃんは素でキョトンとした顔になった。


「そうなの?」

「らしいよ。だからさ、明日からは時間さえ教えてくれれば、2人の待ち合わせに混ざれるよ。……だからさ、待ち伏せとかはしなくて大丈夫だよ。あ、なんなら毎日送り迎えとかしよっか?」


最後の方は耳元に顔を寄せ、囁くように提案する。

すると一瞬で、シズクちゃんの顔が真っ赤になった。


「ふえっ!? あ、いや、これは別に待ち伏せとかじゃなくてねっ! というか送り迎えは、流石にその、恥ずかしいからご勘弁を!!」

「ふふっ、慣れれば平気だと思うよ?」

「無理無理無理! 幸せ、じゃなくて、恥ずかしくて死んじゃうよ!?」


全力で首を振るシズクちゃんを見て、つい僕とセフィは笑ってしまった。

というか今、サラッと凄い事言いそうになったけど、この娘って自分の気持ち隠す気あるのかな? 多分、3才児でも気付くと思うよ?

まあ、だからこそ揶揄うと可愛いんだけど。


「いやでも、シズクちゃんのご両親にも挨拶したいし。仲良くさせて貰ってますって」

「あいさっ!? そ、それって」

「ふふふ。ゴメン冗談」

「……もうっ!」


笑いながらチロって舌を出すと、シズクちゃんは胸を抑えながらプクッと膨れた。あら可愛い。


「……あ。でも、実際にマルス主任とは知り合いなんだよね」


冗談言って思い出したけど、シズクちゃんと僕には妙な縁があったみたいなんだ。

僕の与えた情報は、シズクちゃんを驚愕させるには十分だった。


「何でパパの事知ってるの!?」

「僕、統括局の嘱託職員だから。開発部には何度かお邪魔しててね。その縁で良くしてもらってて」


実際は、良くして貰うってレベルの付き合いじゃないんだけどね。

実は昨日、家でユメ姉さんに訊いてみたんだ。開発部にストライムって人いる?って。そしたら普通に僕の知ってる人だった。

マルス・ストライム。統括局開発部の主任で、僕のオーケストラ作成の陣頭指揮を取ったりとか、開発部の中でもお世話になってる人だ。更に言うと、休日にちょくちょく趣味に付き合ったりと、私的な付き合いもあったりする。

いやー、いつもマルス主任って呼んでたけど、そういえばあの人ストライムだったなって、ユメ姉さんに言われてから気付いたんだよね。


「そうだったんだ……」

「うん。あとマルス主任、釣りが趣味でしょ? 二週間ぐらい前にも釣った魚持って帰ってない?」

「え、うん。大きなイカと魚を何匹か。美味しかった」

「イカ釣ったの僕だよ」

「そうなの!?」


僕食べるの好きだし、マルス主任の趣味には偶に付き合ったりしてるんだけど、あの時は驚いたなぁ。根魚釣りにいったら、何故か僕イカしか釣れないんだもん。いや本当にアレ何でよ……。

ただイカ自体はめちゃくちゃ釣れたので、横で爆笑してたマルス主任にお裾分けしたんだ。因みに半分を普通に占めて、もう半分は近くのお店で醤油買って沖漬けにした。


「……また行こう。思い出したら食べたくなった。じゅるり……」

「えい」

「あいた!?」


記憶の中の沖漬けの味を思い出していたら、セフィにスパコンって叩かれた。

うん、トリップしてた。


「……え、いや、えー……」


なおシズクちゃんの方は、未だにショックから戻ってきていない模様。ちょっと気になったので、顔を覗き込んでみる。


「シズクちゃん? おー」

「ん」

「むぐっ。……はい?」


今勘違いじゃなければちゅってされた?


「…………え? あ」


あ、正気に戻った


「……」

「……」


お互いに無言で見つめ合う。


「……〜〜っ!? ……ひぅ」

「わっ、ちょ!?」


一拍おいてからシズクちゃんが沸騰し、そのまま僕の方に倒れてきた。

慌てて抱きとめ様子を見ると、真っ赤な状態で気絶してたよ。マジかおい……。


「……処理落ちって感じかな?」

「マウストゥーマウスに頭がオーバーヒートしたようですね。……ところで何してるんですか貴方?」


セフィにすっごい冷たい目で見られてるけど、僕だってビックリしたよ!?


「いや、反応がなかったから気になって。顔近付ければ戻るかなって……」

「それにしたって迂闊過ぎでしょう」

「いやだって、こんな反応返ってくるなんて思わないでしょ」


まさかキスされるとは思わなかったよ……。マウストゥーマウスは久しぶりだから、ちょっとビックリした。

ただ何で、キスした本人が気絶してるの?


「だから暴走気味だって言ったじゃないですか……。今のこの娘、ナナに関しては理性より本能で動いてる節があるんですよ。大方、正気に戻ったら目の前にナナの顔があって、キスしたいって思った瞬間に行動したんでしょう」

「えー……。じゃあこれは、考えるより先に行動して、あとから羞恥心その他諸々が一気に押し寄せてきたとか、そういうこと?」

「じゃないですか?」

「あらまぁ……」


確かにこれは暴走してるって評価されてもおかしくないね。本能で動くって動物じゃないんだから……。

というか僕は無意識で求められてるのか。流石にそれは面映ゆいというかなんというか。


「……で、シズクちゃんどうする? 学校まで運んで保健室? それとも家まで送る?」


僕の感情はひとまず置いといて、この状況は早くなんとかしないと。

僕たちが今いるのは、学校までの通学路の半ばぐらいの位置だ。なので選択肢は2つある訳だけど。さてどうしよう?

ベターなのはやはり学校の保健室かな? 怪我や体調不良が理由じゃないし、直ぐに目をさます筈。それなら直ぐに授業に復帰出来る方が良いと思う。

だけど、セフィは違う考えみたいだった。


「家に送りましょう」

「その理由は?」

「目覚めてたところで、どうせ授業には出れないと思います。確実に悶え苦しみますから。それにナナとシズク席隣りでしょう。どう考えても無理です」

「……言われてみれば」


キスして気絶するぐらい初心な娘が、目を覚まして吹っ切れてる訳ないか。

悶え苦しむって表現はどうかと思うけど、悶々としながら転がり回りそうではある。

学校でそれをやったら黒歴史確定だし、だったら思う存分悶えられる自宅の方が良いというのは、妥当な判断だろう。


「私はアドラ先生に連絡しますから、ナナはシズクをお願いします」

「……それはいいけど、また気絶しそうな火種増えない?」

「意識無いから大丈夫でしょう。あと多分ですけど、ナナの事離しませんよ?」

「あ、本当だ。ガッツリ服掴んでる」


意識が無い筈なのに、服から全然手を離そうとしないやこの娘。これは僕が運ばないと駄目か。

というか、気絶してから僕の服を掴むって凄いね。頑として離れないって意志を感じる。


「というかこれ、どうやって運べばいいの? 」


服掴まれてるから抱える方法が限られるんだけど。


「セフィ手伝って。出来ればおんぶに持っていきたい」

「……この感じだと、横抱きが1番では?」

「朝から女の子横抱きしてたら、めっちゃ注目されるでしょうが」

「気絶してる娘を運んでる時点で変わらないのでは……?」

「程度の問題だよ!」


セフィを納得させて、四苦八苦しながらシズクちゃんをおぶさる事に成功する。


「……ところでナナ、アドラ先生には何て伝えればいいと思います? シズクがナナにキスして気絶したので休ませます、とかですかね?」


キミって結構ド畜生だよね?


「やめてさしあげろ。黒歴史拡散にしてもダメージデカいよそれ。通学中に知恵熱出して倒れました、とかにしよ?」

「分かりました」


頷いてから、セフィはデバイスを起動し、アドラ先生に連絡を入れた。


「……ええ、はい。……酷い訳では……ナで自宅まで送って……ます。ええ、シズ……両親には……の方から詳し……す。では……一報だけ。はい……す」


通話を終え、セフィはふぅと一息吐いた。

聞こえてきた会話は途切れ途切れだったけど、セフィの様子を見る限りだと上手く誤魔化せたみたい。


「どうだった?」

「送る件は了解したと。但し、アドラ先生の方から体調不良で帰す旨を、シズクの家に連絡を入れるそうです。詳しい理由に関して、居合わせた私たちが説明するようにと言われました。あと事情が事情なので、私たちは遅刻扱いにはしないと。なので出来るだけ早く登校するようにと、釘も刺されました」

「うん、大丈夫そうだね」


内容的に妥当なものだったので、怪しまれてはいないようだ。

釘は刺されはしたけど、それは僕とセフィのサボりについてだったから、シズクちゃんの事はこれで大丈夫だろう。


「ただ、流石にシズクのお母さんには、気絶した理由を話さないとマズいですよね?」

「うん。普通に考えれば、急に気絶したら病気を疑うだろうし。下手に誤魔化して余計な不安を抱かせるのはちょっと……」


それでシズクちゃんのお母さんが心配したら、シズクちゃんにもマルス主任にも顔向け出来ない。


「……それじゃあやっぱり、あれを説明するんですね……」

「中々に気が重いね……」


本能で好きな人にキスしたら、直ぐに理性が戻ってきて気絶しました。

これ、説明する僕たちも恥ずかしいし、暴露されるシズクちゃんも恥ずかしいし、娘の痴態を聞かされるお母さんも恥ずかしいだろうなぁ。


「誰も救われないですよコレ……」

「それでもやるっきゃないよ……」


問題を解決したら、新たな問題が浮上した。よくある事ではあるけれど、やはり堪ったもんじゃない。


「ところでナナ、口説く以外に誤魔化す事出来たんですね。ビックリしました」

「……口説くなんて人聞きの悪い事言わないでくれる? あの状況なら普通に説明すれば誤解は解けてたって」

「そうでしょうか? その割には色々と話題を散りばめてましたよね?」

「あれは単に、予想外の情報を与えて揺さぶっただけだよ。揶揄ったのもそう。突拍子の無い事実を話した後なら、有り得そうな嘘だってすんなり信じられるでしょ? 今回は事実だったけどさ」

「……ホストの他に詐欺師の心得まである、と。本当にそのうち刺されそうですね」

「やっぱりキミも相当にアレだよね。すっごい失礼」

天真爛漫+ストーカー気質+暴走系+ロリ……なんだこれ無敵か?

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