第十一話 おや? まさかこんなとこで会うなんて
ヒロインの魅力は前回で伝わったよなぁ!?
「ふぁー」
朝になったので起床。よく寝たよく寝た。よく寝る子なので育ちたい日々です。
まあそれはそれとして、顔を洗ってからご飯食べよ。
「あ、おはよー」
「おはよう、ユメ姉さん」
リビングでは、何時ものようにエプロンとお玉を装備したユメ姉さんが。
今日の朝ごはんは地球世界の和食みたいだ。白米、お味噌汁、アジの開き、卵焼き、ほうれん草のお浸し。尚、僕のは大盛り。
うん、美味しそう。
「にしても、和食ってまた珍しいね」
「うん。上総大将から良いお味噌と醤油貰ったから。折角なので作ってみました」
「サラッと会話にとんでもない人混ざるあたり、やっぱりユメ姉さんはユメ姉さんだよなぁ」
上総大将って、機動隊のトップにして最強戦力の1人じゃん。
世界でも5人しか確認されていない魔導師ランクSSSの内の一角にして、【終焉】なんて物騒な二つ名を持つ至高の剣士。縁を辿って距離も時間も超越して、刃を届かせる魔法を使う正真正銘の大魔導モドキ。
もう意味不明過ぎてよくわかんないよね。なによ、距離も時間も無視するって。無茶苦茶すぎるでしょ。
まあ、そんな雲上人にして超越者から、調味料をお裾分けされるあたり、ユメ姉さんも凄い人なんだよなぁ。
一緒に暮らしてると全然そうは思えないけど。
「今日は仕事遅いの?」
「んー、何か事件が起きなければいつもどうりかなぁ」
「やっぱり平和が1番だもんねぇ」
「本当にね」
お互いに実感が篭っているためか、やけに説得力のある会話になってしまった。この辺り、平和維持を行っている身としてはどうもねぇ。特に機動隊だと、本当に色んなタイプの人間と接する事になるし。
「ナナ君の方は? 今日は部活?」
「いや、今日は無いよ。だから放課後は暇。機動隊の方に行く用事もないよね?」
「緊急が無ければそうだね」
「じゃあ何しようかなぁ……。隊の訓練に顔出すかな?」
「駄目だよ。学校始まったばっかなんだから、当分はそっちに比重を傾けなきゃ。訓練は週一ぐらいにして、放課後は部活やったり、友達と遊んだりしなさい」
我が家のボスであるユメ姉さんにそう言われてしまったら、僕としては従うしかない。
シズクちゃんやセフィ、放課後暇してるクラスメートでも誘うかなぁ。
「奢ったりすれば、最低限誰か釣れるかな?」
幸いな事に、機動隊の嘱託魔導師として働いてるから、資金は結構ある。確か7桁ぐらいはあった筈。
ストリートチルドレン+機動隊の経験から、下手な大人より分別がつくという理由から、自分のお金は自由に使って良い事になっている。なのでこういう時便利だ。
ただし、この使い方にはユメ姉さんも渋い顔。
「……私としては、あんまりお金で交友関係を築いて欲しくないんだけど」
「そこら辺のさじ加減は弁えてるよ。昔はお金じゃないけど、似たような事やってたし。単に切っ掛け作りみたいなもんだよ」
「ならいいけど……」
あまり良い顔はしていないが、それでも納得してくれる辺り、信頼されている証拠だ。
それがとても嬉しく思う。
「ご馳走様でした。まあ、放課後は適当にぶらついてるよ。……でも相手がいなかったら、その時は訓練に行ってもいいかな?」
「……まあ、その場合なら許可します。実際、ナナ君がいれば出来る訓練がグンと広がるしね」
「お陰で引っ張りだこからねぇ」
「あはは……」
僕の魔法はとても便利、というか結構万能なので、色々なところに呼ばれるのだ。
訓練から本番まで。陸戦、空戦、海戦。戦闘は勿論、災害支援、救助活動、要人警護なんかもやった事がある。
もう扱いが便利道具というか。一時期は嘱託なのに正規職員よりも忙しいなんて事態も発生して、ユメ姉さんがブチ切れた事もあったっけ。
でも、それ程までに僕の魔法は状況を選ばない。僕が嘱託なのは、この辺りの貸し出しが正規よりも楽だから、というのが理由の大半を占めている程に。
上総中将なんか、僕の事を下手なオーバーSより重要だって言い切ったしね。
「ゴメンね本当。こっちも色々交渉してるんだけど、何処も人手不足というか、いればいるだけ欲しいというか」
「まあ、お金も入るしいいんだけどね」
基本的に僕の給料は歩合だし、内容によっては追加報酬も入る。てんてこ舞いにならなければ、仕事が入るのは構わない。僕自身、良い経験になるし。但しいきなり本番に放り込むのは止めて。普通にパニくる。
「さて、それじゃあそろそろ出るよ」
もういい時間だし、支度も終わった。そろそろ学校に行こう。
「はいはーい。じゃあ行ってらっしゃい。昨日はトラブルあったんだから、今日は気を付けるのよー」
「あれは防ぎようがないんだけど……。まあ、行ってきます」
昨日の件を言及され苦笑い。
冗談なのは分かってるから、適当に返事をしてから家を出る。
昨日は少し慌ただしかったけど、今日は結構余裕がある。のんびり通学路を眺めながら、学校に向かう。
「……あ」
「ん? あ、おはようセフィ」
「……おはようございます」
ちょっと歩いたところで、なんとセフィに遭遇した。どうも通学路が被ってたみたい。もしかしたら、家も結構近いのかも。
意外な偶然に驚いていると、セフィも同じような表情をして、そのあと少し苦い顔になった。……待って、僕何かした?
「え、何かやらかした僕?」
「あ、いえ。そういう訳では。ただシズクに少し悪いなと」
シズクちゃん? どういう事なの?
「……一応、尋ねますが……その、シズクの事、気付いてますか?」
「え? あー、僕が気に入られてる事?」
「……気に入られてるというレベルではないですが、まあそれです」
少しジト目を向けられたけど、肩を竦めて誤魔化した。……まあ、流石にね。僕、人の機微には結構敏感な方だし。シズクちゃんが友達以上の感情を抱いてるのは分かってるさ。
ただまあ、それはそれ。恋愛感情云々は個人の領分だし、そこに無遠慮で踏み込むのは想い人だろうが許されないと僕的には思うんだ。なんていうか、恋愛ってお互いが選択しあって生まれた状況を楽しむものだって認識なんだよね。その時々での伸るか反るかの駆け引きが面白いと思う訳で。
それなのに、いきなり『キミ、もしかして僕のこと好き?』的なこと言うのは無粋でしょう。……そもそもこの手の台詞、ナルシストでもなきゃ鳥肌が立つっていうのもある。
「……凄い苦い顔してますが、シズクの事それ程に嫌なのですか? あんなに甘い事を言っておいて?」
あ、ヤバ。お寒い自分を想像してたら、セフィに勘違いされた。すっごい険しい顔で睨まれてる。
「あ、ゴメンゴメン。そういう事じゃない。ちょっと自分の言動を考えて寒気がしてただけだから」
「本当に?」
「……本当に本当に。シズクちゃんの事は全然嫌いじゃないよ。可愛くていい娘だし」
「……ならこの後のフォローはお願いします」
「へ?」
おっと? 誤解を解いたら、また違う方向に雲行きが怪しくなってきたぞ?
「昨日の件で想像出来るかもしれませんが、シズクは結構アレな面があります。あの娘、性格に反してストーカー気質というか、粘着質なんですよ。嫉妬深くて独占欲も強いですし」
「あー……うん、分からなくもない」
性格だけ見ると首を傾げるところだけど、スパーのアレを知ったら、そういう面があるのも納得出来る。
「犯罪行為に走る程に強烈、という訳じゃないですけど、それでも世間一般から見ればズレています。あの娘自身もそれは自覚してますし、直そうとは努力してるみたいですけど、どうにも上手くいってません。性格の問題ではなく、もっと根本的な問題みたいなんです」
「ああ、偶にいるよねそういう人」
性格と性質が一致していない人間は、少なからず存在する。
例を挙げると、性質的に臆病なのに、性格は勝気な性格の人とか。性格は穏やかなのに、その実凄い大胆な行動を取る人とか。ヤバい奴だと、言動は常識的なのに、平然と人を殺せる奴もいる。
シズクちゃんもそういうタイプなんだろう。性格的にはポジティブだけど、根っこの方はネガティブな感じなのかな?
「そんな訳で、今の状況はあまりよろしくありません。2人で一緒に登校というのは、シズクの嫉妬心を刺激します」
「だからフォローしろと」
「ええ。シズクに嫉妬されるのは私も嫌ですし、なによりあの娘、地味に繊細なんですよ。必ず嫉妬した事に自己嫌悪して落ち込みます。大事な幼馴染の、そんな姿は見たくありません」
「なるほど。了解」
うん。そういう事なら納得だ。そして任された。僕もシズクちゃんが落ち込むのは見たくないからね。
「でも、そもそもバレなければ大丈夫なんじゃない?」
一緒に登校したとしても、シズクちゃんの耳に入らなければ問題無い気がする。
誰と登校したのかなんて噂される程、注目されてないし僕。セフィは知らないけど。
「……それがそうでも無いんですよ」
「何で?」
「いつもなら、私とシズクは一緒に登校してます。ナナと出会ったところで合流して」
「あ、そうなんだ」
あれ? じゃあ何でシズクちゃんいないの?
「今日は早く家を出ると、シズクから連絡が来たんです」
「ふーん。学校に何か用事でもあるのかな?」
「そういう話は聞いてないですけどね。ところで話が変わるのですが、昨日朝にシズクと会ったんですよね? この先の公園の道で」
「え? ああ、うん。そういえば昨日はセフィいなかったね?」
「委員会の方で用事がありまして。美化委員なんですけど、昨日は朝から学校付近の清掃があったんです」
へー。セフィって美化委員なんだ。ちょっと意外かも。
「まあそれは良いんです。重要なのは、そこがシズクの知る唯一のナナの通学路って事なんです」
あ、なんか言いたい事分かった。つまりそういうことだね?
「……待ってますよ、確実に。朝一でナナに会うために。何時に通るか分からないから、相当早くに家を出てまで」
「あちゃー……」
それはフォローいるかな……。
早起きまでして出待ちたのに、その待ち人が幼馴染と一緒に隣歩いてるってのはね。徒労感やら嫉妬心とかで心情的にキツいと思う。
「どうも感情を持て余してるようで、暴走気味みたいなんです。あの娘、あんまり人を好きになった事無いですし。今回は相当に入れ込んでるようですから。正常な判断出来てないっぽいです」
「待ち伏せするなら連絡くれればいいのに」
「家の場所も知らないからしょうがないのでは? ナナの印象的に、遠回りしてまで落ち合おうとするとでも思ったんですよ。きっと。あまり迷惑かけたくなかったんでしょう」
なるほどね。暴走気味でもその辺りの分別はつくのか。やっぱりシズクちゃんは良い娘だな。
ただ敢えて言わせ貰えば。
「男なんて女の子からアプローチされれば喜ぶ生物なんだから、そんな気を遣う必要なんて無いのにねぇ……」
なんというか気遣いすぎよね。そっち方面での男ってのは、基本的に超単純なのに。
「その認識はどうなんですか……?」
「いや本当にそんなもんだから。シズクちゃんやセフィみたいな可愛い娘なら特にね。適当なクラスの男子に頼みごとすれば、余程の無茶でもなければきいてくれるんじゃない?」
「またサラっとそういうこと言う……」
「可愛いのは事実じゃん。事実を言うことに何を憚ることがあるのさ」
「……やめてください」
事実を事実として言ったところ、セフィが僅かに頬を染めてそっぽを向いてしまった。どうやら照れてしまったらしい。ドストレートに容姿を褒められた経験が少ないのかな?
「ま、兎も角よ。落ち合ったらその辺も話し合おうか。どうも家も近いっぽいし、そこらへんも教えといた方がいいかな?」
「そうですね。その方が都合が良いでしょうし、なによりシズクも喜びます」
「あはは。その内、自宅に凸されるかもね」
「……ナナが嫌な顔しなければ、恐らくすると思いますよ」
曖昧な言い方に反して、確信してるようなトーンでセフィは僕の冗談を肯定してみせた。そっかー。なら歓迎用のお菓子とか補充しとこうかな。
「その時はしっかりおもてなししないとねぇ」
「……あの、訊いていいですか?」
「んー?」
何か訊きたい事があるらしいので、何かなと思って振り向いた。
そしたら、セフィが真剣な顔をしていた。どうも訊きにくい事を訊こうとしているようで、微妙に顔が強ばっている。それを見て、僕も真面目に話を聞く姿勢をとる。
「正直に答えて欲しいです。シズクの事、どう思ってますか?」
「……それは恋愛的な意味で?」
「いえ。性格的な意味です。私が話したのは、どれもシズクの悪いところです。こうは言ってはなんですが、親友に対する評価じゃない事も言いました。待ち伏せに関しても、普通なら少しぐらい距離を取ろうと思ってもいいのに、ナナの態度は変わらないじゃないですか。一応昨日も似たようなことを訊きましたが、それでも改めて尋ねます。あの娘のこと、面倒な奴だなとか、重い奴だなとか、気持ち悪い奴だなとか、そういう風に思わないんですか?」
「ああ、そういうこと」
てっきり早く答えを出せとでも言われるかと思ったよ。
そしてこの質問は愚問だね。
「何度も言うけど気にならないよ。実害がある訳でも無いし、法律違反をしてる訳でもないしね。それで可愛い娘のに積極的に迫られるなら、男として本望でしょうよ」
何度も言うけど男なんてそんなもんで、僕だってその例には漏れない訳で。女の子、それも可愛い娘に迫られたら嬉しいものだ。
「……じゃあもし、シズクの容姿が優れていなかったら? そしたらナナはあの子を拒絶するんですか?」
「んー、そういう意味の無いたらればは好きじゃないなぁ……まあ一般論で言えば、容姿が悪いとそれだけ与える印象は悪くはなるだろうね」
「っ、なら!」
「はいはい落ち着いて。まだ話の途中だよ」
僕の台詞ち声を荒らげようとしたセフィを宥め、ただしと言葉を繋ぐ。
「僕は確かにシズクちゃんを可愛いと言ったよ。でもね、それは容姿だけを指して言ってるんじゃないの。勿論、僕も第一印象は容姿で判断するけどね? ただ、その後はちゃんとその人を見るようにしてるんだ。その上で、僕はシズクちゃんが可愛いと思ったの。容姿は勿論、性格や行動とか、諸々ひっくるめてそう思ったんだ」
「っ……」
まだ僕はシズクちゃんと出会って間もない。それでもあの天真爛漫とした性格が。熱心に魔導戦技と向き合うひたむきさが。嫌われたくないと小さくなる臆病さが。人助けの為に命を投げ出せる勇敢さが。決して逃がさないという決意を滲ませる妖艶さが。そしてなにより、あの溌剌とした笑顔が。その全てが合わさって、あの娘をとても魅力的だと感じている。
「セフィ。容姿は確かに美点だよ。でも人を惹き付けるのは魅力なんだ。そして容姿だけでは美点にはなっても魅力にはならないんだよ。そこを勘違いしちゃいけないよ」
人は容姿だけで誰かを好きになる訳じゃないからね。もしそうだったら、この世にこれほど夫婦恋人は溢れていない。……いやまあ、顔が良ければ他はいらないっていう極まった面食いも少数ながらいるけどさ。
それでもやっぱり、そういう関係ではお互いに必ずどこか一つ、内面的な部分を好きになっている場合が多いんだ。
「だからねセフィ、」
「……」
「……セフィ?」
なんか無言になってない? あの、結構真面目かつ小っ恥ずかしいこと言っているから、流石にリアクションないと辛いんだけど……。
っていうか、なんかセフィの顔赤くない? さっき照れたのまだ続いてる?
「どしたの?」
「……いえ、その、思ってたよりも強力な惚気が飛んできたので……」
他人事ながらちょっとのぼせましたと、セフィは言った。
えー……。
「もうシズクのこと貰ってくださいよ。祝福しますよ?」
「別に惚気けてないんですがそれは」
「それはそれでどうなんですか……」
ジト目でそんなこと言われましても。小さい時から女の子の褒めるところは褒めろと教わって生きてきただけだから。
「……まあ良いです。その調子でシズクを口説いて煙に巻いてください」
「さっきまで幼馴染云々って言って心配してた人の台詞とは思えない……」
キミも大概アレなこと言ってる自覚ある?
セフィも好きだよクール系もね!! ……まあヒロインじゃないんですけど。
それはそうとナナ君つおくない? どストレートで女の子褒めれるゆだぜ?