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鉄塊のフリューネイエス  作者: ひるま
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ep.1:名も無き機巧甲冑(アルミュール)

 城の工房に佇む巨大な鋼の騎士。


 名も無き“それ”の前に、シルフハイム辺境伯家の第二王女、パンドラ・ゴールデンバウム・シルフハイムは佇み、見上げていた。


 お金回りが悪かったばかりに、実に90年の歳月を掛けて建造するはめになった“それ”すなわち機巧甲冑(アルミュール)を4年前に完成させたというのに…。


 このアルミュール建造は、まだアイロンケイヴの鉄鉱石の採掘が盛んだった頃に着手され、それから年を追う毎に経済規模が縮小していき今日に至る。



 乗り手が決まらぬばかりか、未だに名前すら与えられていないとは。


 パンドラは嘆く。


 (ヒル)女と散々陰口を叩かれながら、夜会の貴婦人たち相手に小金貸しに勤しみ(ゼニ)を稼ぎまくって、ようやくアルミュールの完成にこぎつけたというのに、この体たらく!




「姉上!!」

 パンドラは、執務室にこもる実姉であり現シルフハイム辺境伯家当主を務めるエレイネ・トーネード・シルフハイムの元へとやって来た。


「姉上では無く陛下と敬称なさいと何度も何度も」

 エレイネは机上から目を離すことなく小言を並べてはパンドラを嗜めた。


「誰もいない時くらい“姉上”で構わないでしょう。それよりもー」「誰もいないからと気を抜いていると、いずれ何処かでボロが出てしまいます」

 礼儀にはとても厳しい。


「で、何事ですか?いきなり大声を上げて、はしたない」

 なおも礼儀には厳しい。


「工房のアルミュールが、未だにホコリを被ったまま放置されているのは、どのような了見でしょうか?」に始まり。


「置物を飾るために国費をつぎ込んだのでは、ただの散財に過ぎません。これでは今までの私の苦労が水の泡となってしまうではありませんか?」

 訴えかけるも、エレイネはしれっとしたまま机上から目を離しもしない。


「パンドラ、貴女が怒るのも無理もありません。しかし、現状から申しますと、アルミュールの目となり耳となる魔術師は、我がアイロンケイヴの地にはおりませんし、王家のアルミュールに奴隷や捕虜の体から取り出した心臓を用いるのはいかがなものかと」


 *アルミュールの動力源となる”アゾート”とは、生きた人間の心臓を用いて生成される。故に、提供者に同意を得る事など不可能と言えた。


 エレイネに理由を告げられるも、パンドラは納得がいかない様子。


 肩を怒らせて、震えも抑えられずにいる。


「魔術師など、どこからか金で雇えば良いだけの話!それに誰が好き好んで自らの心臓を我ら王家に捧げると言うのです!?"アゾート”とは、生きた人間から取り出した心臓なのをお忘れか!」

 怒りをぶちまけられるハメとなったエレイネは面倒くさそうに、左耳の穴に人差し指を差し込んで張り裂けんばかりの大声を遮った。


 そんな姉の態度にパンドラはさらに憤慨。


 バンッ!と強く机を叩いた。

「ならば、私がアルミュールのアゾートを調達して参りますわッ!」


「バカな考えはお捨てなさい!」

 さすがに聞き捨てならなかったようで、エレイネはようやく立ち上がった。


「そのバカをやらなければ、あのアルミュールは動かす事すら叶わないのですよ、姉上!要は動かせれば良いのです。罪人だろうが、捕虜だろうが、何者でも構わないのです。王家のアルミュールだから?そんなお上品なアルミュールがどこの国に在るとおっしゃられるか!?」

 まるで槍ぶすまのようなパンドラの言い分に、さすがのエレイネも気圧されそうになってしまう。


 しかし、ここは何としても姉の権威、もとい!現シルフハイム辺境伯家当主としての権威をこの愚かな妹に見せつけなくては。


「ならば案山子で結構!もしくは信頼のできるアルミュール持ちの傭兵に貸し与える等、方法はいくらでもあります」

 無茶苦茶な発想に至った。


 傭兵が手持ちとしているアルミュールからアゾートを取り出して移植するというのだ。


 早い話が、ガワを取り換えるというもの。


「大体、複合関節機構など得体の知れぬ最先端技術を盛り込んだ実験騎ふぜいを王家のアルミュールに祀り上げる事自体が間違っているのです!」

 複合関節機構とは、アルミュールの動作をより人間の動きに近付けさせるために、本来人間には備わっていない関節を新たに増設した機巧のこと。


 おかげで部品の数も増えて、非常にメンテナンス性の低い騎体となってしまった。


 パンドラはなおも不満をぶちまける。

「4年も前に、90年かけてようやく完成しました。だけど、未だ一度も動かせていないモノなど信用に値しませんわ!」


 とうとう見限ってしまった。


 90年も昔に、異世界の民”クトラの民”たちによって建造を開始されたアルミュール。


 当時のシルフハイム家当主は何を考えて、この機体を建造しようと考えたのか?今現在当家を守る者達には理由を知る術がなかった。




 忘れられた記憶…。想い…。




 いつかきっと、誰かの胸に伝わる日が来るのだろうか?


 岩をくり抜いた祠の前で少女は祈る。


 忘れられたものを思い出させる女神の祠の前で。


 その祠に祀られている女神も、今では祈りを捧げる少女以外には見向きすらされていない。


 忘れられたものを思い出させる女神のはずなのに、その女神が今では民から忘れ去られようとしている。



 女神の名はフリューネイエス。



 *  *  *  *




「何か忘れ物でもしたのかい?」

 従騎士のケインが声を掛けてきた。


 (ほこら)に祈りを捧げていた少女、アムリエッタ・ソイル・シルフハイムは、はたと顔を上げた。


「急に声を掛けないでよ。ビックリするじゃない」

 驚かせたケインにふくれ面を見せる。


「お祈りも良いけど、そんなに長く無防備でいるのは良くないな」

 目を閉じて祈りを捧げている事を注意してくれている。


 しかし、実際は周囲の音には気を配っているし、この場所は領内深くに位置しているので、さほど警戒する必要は無い。


 アムリエッタは、決して用心を欠いてなどいないと、言葉にはしなかったが、ケインに抗議する代わりに先に騎乗を果たし、馬を進める。


 遅れて騎乗したケインが、ようやくアムリエッタに追いついた。


「お祈りか…。神頼みも良いけれど、狩りの時くらいはせめて槍か剣を使ってくれないか。そんな手製の短重棍(ショートメイス)では、見ているコチラがヒヤヒヤさせられるよ」

 アムリエッタが腰から下げているのは、お手製のメイス。しかも薄く延ばした鉄板を鉄の棒の先にグルグルと玉状に巻き付けただけの粗製品だ。


 巻き付けた鉄板が剥がれ落ちないように、最終的にリベットを打ち込んではいるが、やはり使っている内に変形はしてしまうわ、鉄板が剥がれてきて、頻繁に修理を行わなくてはならないと短所ばかり。


 唯一の長所は比較的軽い事。だけど重棍武器に分類されるメイスから重さを取り払ってしまえば、もはや、木製の棍棒とさほど変わりは無い・・・多少は丈夫であるけれども。


 アムリエッタはケインに語る。


「これで良いのです。確実に的に当てられる武器が何よりも私に合っていますから。槍や剣だと思った的に当てられなくて不便なのです」

 だからと言って、超近接戦を強いられるリーチの短いメイスでは、護衛を務める身としては気が気でならない。


 今日は、たまたま村に出没したのが普通のイノシシだったから良かったものの、これが家よりも大きな大獣(オオケモノ)のイノシシだったら、数人掛かりでも退けられるかどうかである。


「しかもアム。全身返り血だらけじゃないか。城に戻ったら、すぐに着替えを済まさないと陛下からキツイお叱りを受けてしまうよ」

 相手はイノシシとはいえ、やはり近接戦闘でなければ仕留める事は不可能。


 アムリエッタは興奮して向かって来るイノシシの鼻頭を、手製のメイスで叩き潰して戦意を削いだ後、全身ボコボコに叩きのめして、見事狩り取ったのである。


 なので、ビッシリと返り血を浴びてしまった。


「しかも獲物は被害を被った村人に与えてしまうなんて、お人好しも良いところだ」

 戦利品を持ち帰らぬアムリエッタをケインが嘆いた。


「ケイン。そろそろ村を抜けるわ。控えよ」

 アムリエッタから促され、「ハッ、仰せのままに」かしこまって、ケインは彼女の前へと出て先導に入った。


 先程までの軽口を叩き合った仲とは異なり、所領に入ったとたん、主従関係を鮮明にした。


 手入れされた防具に身を固める従騎士ケインを先頭に、一方の、彼の主とも言えるアムリエッタは破損が目立つ軽装防具に大きく歪んだ小盾、それに全身を返り血に染めている。


 一見しただけでも、誰の目にも立場は逆に映ってしまう。


 そんな彼らに大きな影が映り込む。


 アムリエッタたちは上へと見上げた。


「お帰りなさいませ。姫様」

 出迎えてくれたのは獣使いのナディ。大男の彼の隣りには、アムリエッタたちに影を作っている家よりも大きな大角鹿の大獣(オオケモノ)、ギガエルクが立つ。


 その姿は、“立つ”というよりも“建つ”と表現しても良いくらいに、とても大きい。


 彼らは、木製クレーンで、ギガエルクに取り付けていた槍を下している最中だ。


 興奮しないように、体中にブラシをかけてやっている。


「畑を荒らしていたのは、ただのイノシシでした」

 ケインがナディに報告をしてくれた。


「それは何より。だったら、相手がただのイノシシなら、村人の連中に任せて置けば良いものを―」

 無言で通り過ぎるアムリエッタに告げようとするも、これからエレイネにお叱りを受ける彼女を思うと、ナディはそれ以上何も言えなかった。


 毎度ながらにして、よくお叱りを受けるものだと、半分呆れてもいる。


 さて、今日は、どんな雷が落ちる事やら。



 *  *  *  * 




 城へと戻ったアムリエッタは、血まみれのままではエレイネに本当に殺されかねないと、先に身体を洗い流す事にした。


 湯浴(ゆあ)みをしている最中、姉のパンドラ・ゴールデンバウム・シルフハイムが浴場へと、ドレスをまとったまま入ってきた。


「あ、パンドラ姉様、服をお召しのままどうされたのです?」

 姉妹とはいえ、裸を晒すのは、さすがに恥ずかしい。


 アムリエッタは、顎まで湯船に浸かった。


 そんなアムリエッタの濡れた髪を、指でなぞるようにパンドラは撫でると。

「地肌に血が残っているぞ。それに、かすかに血のニオイも。何なら、むかし川遊びをした時のように、私が髪を洗ってやろうか?」

 昔話を持ち出され、アムリエッタは恥ずかしさのあまり、犬が水を切るように、頭をブンと強く振ってパンドラの指を退けた。


 ヒャッ!パンドラは反射するように、飛び散る湯を手で遮った。


「すまなかった。からかうつもりは無いよ」

 笑いながら謝るも、今度は湯船に浸かるアムリエッタの頬に手を宛てた。


「堅牢な城郭さえあれば、お前に騎士の真似事などさせずに済むものを。毎度毎度、野獣共の侵入の報せが入る度に、お前を遣わせてすまないと思っている」


 シルフハイム家の居城シルフハイム城の護りは、2重の堀(外堀は空堀・内堀は水が張ってある)に頼り切っている。橋は2つの堀を一直線には結ばず、数十メートルの距離を置いて架けられているため、大軍に攻め入られても多少の時間を稼ぐ事はできる。


 だが、所詮はそれだけの心許ない防御策でしかない。


 アムリエッタは、そんなパンドラの手の上から、そっと自分の手を宛てた。


「お気になさらずに、パンドラ姉様。私はレディーとして振る舞うよりも、こうして体を動かしている方が性に合っているのです」

 すると、パンドラの手が、スルリとアムリエッタの手の中から引かれていった。


「私は気が気でならんのだ。乙女のお前が、帰ってくる度に血の匂いを漂わせ、どこかに傷を負っているのを、正直見ておれぬのだ」

 心配をしてくれている事には、心から申し訳ないと思うし感謝もしている。


 だけど、自分の選んだ道を否定されている様で、アムリエッタはパンドラの言葉を素直に受け入れる事ができない。


 髪をすいた指を鼻先へと運ぶ。


 かすかなに香る血のニオイ。


 獣の血。


 アムリエッタはふと考える。


 現シルフハイム辺境伯にして領主としての務めも果たしているシルフハイム家の長女エレイネ・トーネード・シルフハイム。


 彼女は領主でありながら現役の騎士でもある。


 戦場で、兵士達は彼女の事を“嵐の乙女”と呼ぶ。


 乙女と呼ばれるには23歳と、ちょっとキビしい気もするが、世間ではそう呼ばれて敬れている。


 一方で、山賊からは死神の代名詞のように語られ恐れられている。


 彼女は幾多の命を戦場で奪って来た。獣ではない。人間の命をだ。


 アムリエッタは考える。


 人間の血と獣の血。匂いだけでは、どちらの血なのか?判断できない。


 その痕跡(遺体)が近くにあれば、獣臭で判断できるのだが。



 血の匂いをまとうシルフハイム家。


 それは、この家のさだめではないかと思えてならない。


 事実、シルフハイム家が治めるアイロンケイヴは、人間が治める地と、巨大生物が徘徊する“ガルガンチュアの地”との境界にある。


 かつては、もうひとつ国を挟んでいたのだが、その国はガルガンチュアの地の侵食を許して、数十年前に飲み込まれてしまった。


 そのためアイロンケイヴは、ガルガンチュアの地と隣接する最前線、つまり境界となってしまったのだ。


 ガルガンチュアの侵食は大波のように一気に迫った為に、当時のアイロンケイヴには強固な防護壁を築いている時間など与えられなかった。


 それが今日にも尾を引き、未だに防護壁の建造に着手すらしていない。


 まるで柵を設けていない畑のようなアイロンケイヴ。


 一度大獣の侵入を許してしまえば、街は大混乱に陥ってしまう。


 なので、大獣出現の報せが入る度に、アムリエッタたちが迎撃に出向くのであった。


 幸い、今回は、ただのイノシシであったが…。


「では、パンドラ姉様。そろそろ陛下の元へと参上致します」

 アムリエッタが湯船から立ち上がった。

 

 すると、控えていたメイドが、すぐさまタオルでアムリエッタの体を包み込んだ。


「姉上がいないところでも“陛下”と御呼びするか…。すっかりと騎士気取りだな。アムリエッタ」

 皮肉を込めて報告へと向かうアムリエッタを送り出した。





 執務室へと向かう途中、壁に背を預けて佇んでいたケインが、アムリエッタを見つけるなり、小さく手を上げた。


「どうした?ケイン。私に何か用か?」

 訊ねた。


「俺たち、イヤ!私たちが城に戻ったすぐ後に、先程の村から私たちを追ってやってきた魔術師の親子が、是非とも姫様にお会いしたいと申しております」

 執務室前の衛兵の存在に気付いて、訂正を差し込みながら報告をした。


「魔術師の親子?でも、今は陛下に報告をせねばならないし」

 そんなケインの態度に苦笑しながらも困惑している中、執務室から「良い。入られよ。アムリエッタ」


 エレイネが入室を許可した。


「失礼致します」

 一礼して執務室へと足を踏み入れる。と、「ケインもここに」エレイネからお招きを受けた。


 ケインも入室し、ドアを閉じたとたん。


「ほほう。して、魔術師の親子とな?」

 机の上で手を組むエレイネの表情は、どういう訳か?とても嬉しそうだ。



 魔術師の親子の来訪の報せは、扉を隔てて執務室にこもるエレイネの耳にも届いていた。


 戦場にて、エレイネの“嵐の乙女”と恐れられた片鱗を見せつけられた気がした。


 エレイネは目も良ければ耳も非常に良いのだ。


「魔術師ともなれば、クトラの民との会話も容易(たやす)かろう」


 巨大人型兵器アルミュールを建造できる異世界の民クトラ。


 アルミュールの建造には莫大な費用が掛かるだけでなく、建造開始に伴って、もう一つの問題を抱える事になる。


 それは。


 彼らクトラの民が話す言語は、魔力を介さない限り、何を言っているのか?こちらの人間には一切解らないのである。


 そのために、どうしても魔術師の魔力、つまり通訳が必要となる。


 ところが。



 アルミュールの建造に携わってくれた魔術師たちは、すでにアイロンケイヴを去っており、今は一人も城には残っていない。


 そもそも魔術師たちは流浪の民である。


 そんな風の向くまま気の向くままに暮らす彼らを繋ぎ止めるものは、何と言っても“お金”。


 エレイネは、さらなる報酬を要求してきた魔術師たちとは早々に縁を切っていたのだ。


「人は長く居つくと、どうしてもさらなる好待遇を求めてくるものなのだよ」


 契約更新よりも新規採用の方がコストは低く抑えられる。


「それはさておきケインよ。その魔術師の親子とは如何ほどの年齢なのか?」


「あの…報告は?」「どうせただのイノシシだったのだろう?報告は受けた。で、どうだ。ケイン」


 アムリエッタの報告は二の次と、エレイネは一方的に話を切り上げ、ケインにさらなる魔術師親子の情報を求めた。


 とても気まずい状況。


 付き従うアムリエッタを差し置いてエレイネの問いに答える事に、ケインは後ろめたさを感じた。


 何度もチラ見をしてくるケインにアムリエッタは。


「私の事は気にせず陛下の質問に答えられよ」


 促されるも、やはり申し訳なく感じてしまう。


「言葉を交わしていませんが、父親は40代前半、娘はアムリエッタ様とさほど変わらぬかと思われます」


 ケインの報告にエレイネは目を細めた。


「ほう…。其方(そなた)、見た目だけの報告を私にするつもりか?」

 まさか年齢を聞かれるとは思ってもいなかったので魔術師親子から年齢を聞いてはいなかった。


「ケインよ。報告とは事細かに伝える事にあるぞ。貴様の適当な見解など聞いてはおらんッ!」

 いや、だからそれは重々承知しています。


 ケインは小さくなるしかない。



「それにしても、魔術師としても少し若過ぎはしませんか?そんな若輩者がアゾートを生成できるものなのでしょうか?」

 アムリエッタの疑問は、願っても無い助け舟となった。


 エレイネの注意がアムリエッタへと向けられた。


「アゾートか…。ふむ・・・。考えてもみれば、そちらが優先すべき事項であったな」

 アルミュールの動力源となるアゾートの生成は、経験と実績を重ねた魔術師の集大成とも言える。


 なので、ほとんどのアゾートは高齢の魔術師によって生成される。


「動かずして数年も倉庫に眠らせていたアルミュールの調整はと考えていたのだが、どうやらそちらの依頼を本筋と捉えねばならぬな」

 エレイネが顎を撫でる。



 エレイネがケインに、魔術師親子を謁見の間へ連れてくるよう命令した。




 ―謁見の間にて―




 結局、報告を聞いてもらえなかったアムリエッタも同席する事に。


 魔術師親子が謁見の間へ通された。


「お初にお目に掛かります、麗しき“嵐の乙女”よ」

 父親の魔術師が片膝を地についてエレイネに挨拶をした。


「その名で呼んでくれるな。妹の前で恥ずかしいではないか。して、其方らの名を聞かせて欲しい」


「私めの名はクオーレ・ショー。魔術を究めんと諸国を旅しております。で、こちらは私めの娘にありますキュレイ・ショーにございます」「キュレイと申します。陛下」

 娘も父に従い片膝を地についてエレイネに挨拶をした。


「早速ではございますが、新規のアルミュールを建造されたとか」

 クォーレの言葉に、エレイネはあからさまに憤慨して見せた。


「どうして其方が我が国のアルミュールを知っているのだ!?」


「噂にございます、陛下」

 それは致命的な失態だった。


 噂レベルとはいえ、戦況を左右しかねないアルミュールの存在を他国の者に知れてしまうとは。


 しかも、未だ動力源となるアゾートを搭載していないこの状況で。


 内々に話を進めるつもりだったが、もはや取り繕ってなどいられない。


「う、噂とな?して、其方はどのような噂を耳にした?」

 訊ねた。


「長き年月を掛けて、たいそう立派なアルミュールを建造されたとか。そのような噂を耳に致し、ぜひ一目拝見しようとこの地へと足を運んだ次第にございます」

 好きで年月を掛けた訳ではないが、過大評価の噂が立っているとなると警戒を厳に引き上げる必要に迫られる。


 アルミュールとは戦の花形。


 強大な力となると同時に、それを手に入れたいと願う者も現れる。


 諸国の情報を集めていると、時折妙な噂を耳にする事がある。


 アルミュールを求めて戦を仕掛ける愚かな国があると。


 そんな彼らに"新品のアルミュール”ほど喉から手が出るほど欲しいと願う宝が存在するだろうか。


 もはや一刻の猶予も無い。


 エレイネの焦りは表情となって謁見の間に集う者たちに知れた。


「お焦りなのは重々承知の上でお訊ねします」

 娘のキュレイが表情ひとつ変えずに一定の低いトーンでエレイネに訊ねた。


「この国に、心臓を提供できる犯罪者もしくは奴隷はいますか?」


 やむを得ず同席しているアムリエッタは、キュレイの質問に我が耳を疑った。


(い、今、何て!?)


 心臓を『提供できる』?しかも『犯罪者もしくは奴隷はいますか?』ですって?


 確かにキュレイはそう言った。


「・・・それって、まるで生きている者から心臓を抜き取るみたいじゃない」

 思わず口に出してしまった。


 しかし。


「???」ショー魔術師親子はともかく、姉のエレイネさえもが不思議そうな顔をアムリエッタに向けている。


「わ、私・・・何か可笑しな事を言いましたか?」

 おずおずと皆に尋ねつつケインへと向いた。


 すると、ケインでさえ不思議そうに自身を見つめているではないか。


「アゾートとは”活力の源”つまりアルミュールの動力源となるものです」


「それは解っています!」

 はね除けるように、キュレイの声にアムリエッタは自らの声を被せた。


 が、キュレイは冷めた眼差しを向けたまま説明を続ける。


「活力とは"活きた力”を意味します。死んだ心臓でどうやって力をもたらすと言うのです?」


 アムリエッタは目眩(めまい)を覚えた。


 この少女は何を言っているのか?理解し難い。


 肉弾戦をものともしないアムリエッタであっても、”死んだ心臓”の反対語とも言える"死んでいない心臓”の存在に、体中から血の気が引いてゆくのを感じた。


 フラフラと足下がおぼつかず、その場にヘタリ込みそうになったところをケインに支えられる。


「大丈夫?」「ですか?が抜けておるぞ!ケイン!!」

 つい二人きり時のやりとりをしてしまったケインに、エレイネの怒声が飛ぶ。


 それにしても。


 やれやれと勢いよく立ち上がった我を取り戻し、エレイネはドスン!と深く椅子に座ると。


「アムリエッタよ。戦の場で腰を抜かしておれば、お主はすでに命を落としていたぞ」

 たしなめながらショー魔術師親子へと目を戻した。


「あいにく我が国は他国から人質を取っておらぬし、心臓をえぐり取ってやるような大罪人は即刻首を()ねておるのでな。都合の付く相手がおらぬのよ」


 この淡々とした口ぶり、大方大罪人を牢屋で養ってやる道理も無ければ情けも無用と即刻首を刎ねたものと想像に難しくない。


 見た目こそ美麗で思慮深く映るエレイネではあるが、行動そのものは非常に合理的で平然と取り返しの付かないミスをしまくる実に短絡的な人物であった。


 魔術師親子の、エレイネに向けられる眼差しもまた、無知なるアムリエッタのそれと同じものとなった。


「活力とは活きる力。その実態は、自らの心臓さえも利用する者たちへと向けられる憎悪そのもの。だからこそ恨みを抱く人質や罪人がふさわしい」

 戦場の花形と呼ばれる"甲冑乗り”は、実は深い怨念を鎧と共にまとう死神に過ぎない。


「末代まで恨まれる覚悟はお有りか!?嵐の乙女!」


「笑止!!恨みが怖くて大罪人の首が刎ねられるか!」

 それ以前にエレイネは戦場で幾多の騎士達、兵たちの命を絶ってきた。


 それに国を担う領主ならば、誰もが他者から恨みや妬みの一つや二つ向けられていて当然。今更恐れなどしない。


「私が、あのアルミュールのアゾート獲得に着手しなかったのは、綺麗事をを並べ立てるためではない。あのアルミュールはアイロンケイヴを未来永劫守る護り神として建造されたもの。ならば、そのアゾートは領主たるこの私が担うべき役割と判断したまで」


 大人しく聞いていれば、随分とご立派な綺麗事を並べ立てて下さる。


 さて、『動かぬアリミュール』の情報が漏出した今、この御領主様はどのような判断をお下しになられるか?

 クオーレは見定めるようにエレイネを見つめた。


 引っ込みのつかない豪語をした以上、エレイネには逃げ場は無い。


 どうしますかな?麗しき嵐の乙女。


 クオーレは今にも噴き出しそうな思いを堪えつつ、やっぱり抑えきれずにエレイネから視線を逸らしてプフッと噴き出してしまった。


「おのれぃ!何と不届きな!いま私を見て笑ったな!?」

 エレイネが勢いよく立ち上がった。


「これは失礼。思慮深い領主様ならご理解頂いているものと存じますが、今仰った事が事実なら、御領主様は自らの心臓をアルミュールに捧げる事になります。では、コレより先のまつりごとは誰が執り行われると言うのですかな?」


 答えに詰まるエレイネの顔が紅潮してゆく。


 引っ込みがつかないと、ようやく理解したのだろう。


 そんな彼女を見ている者たち皆がクスッと顔を逸らして噴き出しているのがエレイネ本人の目に届いた。


 妹のアムリエッタさえも顔を逸らして笑っているではないか!


 ますます恥ずかしさに顔を赤らめてゆく。と。


 遠くから、ブォォォーッ!と低く鳴り響くホルンの音が耳に届いた。


「これは!?」


 より遠くへと響くようにと非常事態を知らせる手段としてホルンを用いている。


 やがて次のホルンの音へとバトンタッチされて新たなホルンの音が鳴り響いた。


「大変です陛下!!」

 大声で叫びながら謁見の間へと兵士が滑り込んできた。


「何事か!?」


「大獣の襲来にございます!」


「何を馬鹿な!?」

 エレイネが疑いの声を上げるのも無理も無い。


 大獣たちは通常の獣と異なり、自分たちよりもはるかに小さな人間になど脅威を感じてはいない。


 なので、身を隠す必要に迫られる事も無く、彼ら大獣は夜目を利かせる必要も無い。

 ほとんどの種が昼行性のままなのである。


 そんな彼らさえもが脅威とし、光無き大地を逃げ惑わざるを得ない存在。


「・・・まさか!?」

 数十年に渡り目撃情報が皆無とされながらも、言い伝えによって最悪の巨大生物とされる。


 一つ目巨人(サイクロプス)が現れたのか!?


 もしかして、闇夜に眠る大獣をサイクロプスが追い立てているのか?。


「もしや、サイクロプスが出たのか!?」


「いえ、確認できたのは山羊の大獣だけで」「山羊だと!?だったら、さっさとエルクたちを出撃させて追い払え!」

 本来ならば山羊の大獣(オオケモノ)は、大きな金属音を鳴らし続ければ嫌悪感を抱いて退散してくれる。


 しかし、恐怖に我を忘れているとなれば、こちらも大獣を駆り出して迎撃に当たる以外に手立ては無い。


 山羊の脚はとても速く、エルクたちに対大獣用の大槍を装備させている時間など与えてはくれない。


 とにかく先発する2頭のエルクたちには丸腰のままで出撃してもらう。


 その間に、残りのエルクたちに大槍を装備させてから出撃させる。



 エレイネは状況を把握すべくテラスから身を乗り出して、ガルガンチュア方面へと向いた。


 月夜に照らされる城下街の向こうに幾つもの明かりが灯っている。


 それは、迎撃に赴く兵士達の松明の灯り。


 そして、その先に巨大な影が。


 山羊の大獣だ。


 でも、不思議な事に、山羊の背後、随分と距離は開いているが、数個の明かりが灯っているのを発見した。


「ん?」

 その光景は、とても不自然なものに感じられた。


 これでは、まるで馬に跨がる何者かが山羊の大獣を追い立てているように見える。


「おかしい。人間ごときに大獣を追い立てられるものなのか?ヤツらは音を立てたところで、あんなに一目散に逃げたりはしないはずだが・・・」


 すると、キュレイがエレイネの隣に立ち、魔法を唱えると水の玉を宙に浮かせた。


「陛下、魔術とは使い方次第で本来とは異なる力を発揮します。このように、水の玉を二つ前後に並べると」

 水の玉から覗く風景は、まるで遠くの景色を手前へと引き寄せたように錯覚させる。


「おぉぉ!炎を消す水の魔法でこのような芸当ができようとは!?」

 驚きながらもエレイネは水の玉を覗き見る。


 !?


 水の玉の向こうに映るのは、おぼろげながら人のカタチ。


 しかし、それは明らかに人に非ず。


 その巨体は大獣に匹敵する。


「なっ!あれがサイクロプスなのか?」

 エレイネはテラスからさらに身を乗り出した。


「馬鹿な!サイクロプスがすぐそこまで迫っているではないか!」


「慌てる事はございません、陛下。サイクロプスはまだまだ遙か遠くにございます。これは遠眼鏡と言って、本来ならば薄いガラスのレンズで見る道具の原理を水の魔法で代用したものにございます」


 これで山羊の大獣の後ろに馬を走らせる輩の目的が掴めた。


 彼らは山羊の大獣を追い立てるために、わざわざサイクロプスのねぐらを突いて呼び寄せたのだ。


 ガルガンチュアの地以外でサイクロプスが目撃された記録はほとんど無い。


 しかし、古くからの言い伝えには残っている。


 彼らサイクロプスは、縄張り(テリトリー)が他の大獣たちよりも遙かに狭く、さらに遠出をしない。


 彼らをおびき寄せる為に、誰かが執拗に矢を射って刺激したに違いない。


 刺激さえしなければ、やがてサイクロプスは元のねぐらへと引き返して行くはず。これ以上彼らを刺激しない限りは。


 これは獣害ではなく、明らかに人災だ。


 まあ、こんな手の込んだ真似をする人物に、エレイネは心当たりがあった。「フンッ!」鼻で笑ってみせる。


 しかし、問題は山羊。山羊であっても大獣。


 すでに領内へ侵入を果たしている上に、こちらも大獣で対応しないと足止めは難しい。


「アムリエッタ!呆けていないですぐさま対応に当たれ」

 何が起きているのか?考えを巡らせていたアムリエッタは、突然声を掛けられたばかりに、思わず肩を波立たせた。


「行きましょう」「え、ええ。ケイン!付いてこい」

 アムリエッタは慌ててケインを引き連れ謁見の間を後にした。



「さて、これから、どうなさいます?」

 立ち去る2人の背を見送りながらクオーレが訊ねた。


「貴様に問われるまでもない」

 エレイネが手を挙げると、近くに控えていた兵を呼び寄せ家臣たちを招集するよう命じた。


 これより、戦闘の準備に取り掛かれ!さぁ時間は無いぞ。


 敵襲に備えよ!


 触れが回り、たちまち城内は慌ただしさに包まれる。


 元々兵力の少ないアイロンケイヴは、この状況下でさらに戦力を二分しなければならない。


 そんな中、兵からの通達が入る。


「ダノイ側より多くの明かりを確認。敵侵攻の模様」


「やはりフォーゲルセン侯爵が動いたか。直接ガルガンチュアの地を隣りに、枕を高くして眠れん小心者のくせに、よくもまあ我らの領地へ侵攻してくれたものだ」

 元々が鉱山地域であったがために他国へと交易路を数多く伸ばしているアイロンケイヴを、かねてより狙っていたのは重々承知していた。


 ダノイにとって、アイロンケイブを奪うにしても、結果としてガルガンチュアの地と直接隣り合わせになる脅威を抱える事となるので、なかなか侵攻に踏み切れなかった。


 何故ヤツは今頃になって我がアイロンケイヴへ侵攻してきたのだろう・・・。


(やはり"アレ”を狙っているのか?)

 推測するも、フォーゲルセン家にはすでに"虹のペイヴォー”がある。


 今さら、わざわざ他のアルミュールを欲するだろうか?


(いや、待てよ。あのフォーゲルセン侯爵の事だ。誰かにそそのかされて侵攻に踏み切ったとも考えられる)


 そうとしか思えないほどに、エレイネから見ればフォーゲルセン侯爵という人物は腰抜けの小心者でしかない。


「明かりの数をそのまま敵の数と見てはなりませぬぞ」

 クオーレからの助言。


「貴様、私の軍師にでもなったつもりか?そのような事、言われるまでもなく心得ておるわ。それよりも、其方たちはこの国の者ではない故、我らの戦に巻き込まれたくなければ、早々に立ち去られるがよい」


「そのようなお気遣いは無用にございます。我ら親子、占い師の言葉に従い、この国に眠るアルミュールを目覚めさせるお手伝いをさせて頂きたい」

 これから戦となるというのに、何とも肝の据わった連中であるか。


 エレイネは少々気に入らずとも、彼らの気概に惚れた。


「その占い師とは、あのアルミュールが動くと申したのか?」「はい。しかとこの耳に」

 とても信じられない話に、エレイネは懐疑的な眼差しで親子を見やった。


(とてもではないが、信じられぬ。長年放置されたアルミュールを動かす事などできようか?それ以前に、あのアルミュールは未だアゾートすら載せてはいないのだぞ)


 でも、ウソと決めつけるのは早合点にも思えた。


「お前達、私に付いて来い」

 エレイネは魔術師親子を引き連れて、謁見の間を後にした。




 名も無きアルミュールが静かに佇む工房。


 そこへ領主のエレイネがショー親子を連れてやって来た。


「長年放置していたものではあるが、アゾートを得れば動かせるものなのか?」

 表面に所々に見られる錆が、中の機巧に及んでいないか心配だ。


 すると、娘のキュレイがアルミュールの足へと寄り、突然クンクンと匂いを嗅ぎ始めた。


「あ、彼奴(あやつ)は何をしておるのだ?」

 突然奇行に走るキュレイを指さしてエレイネが訊ねた。


「錆び付いているのは表面の装甲部分だけですね。内部機構は我々の世界では造る事の叶わない金属?で出来ているので心配はありません」

 どうして金属?の部分を疑問詞にして伝えたのだろう?


 不思議に感じつつ、エレイネは内部にまで腐食が進んでいない事に、ひとまず安堵した。


 つくづくコレを造ったクトラの民とやらが不思議でならない。


 彼らは大金を要求しておきながら、それらの金品を城下の街はおろか、この世界で使っているところを見たという者がいない。


 果たして、彼らクトラの民は何処で得た金銭を消費しているのだろう?


 それに、アルミュールが傷つけば"何処からともなくやって来る”という噂は本当なのだろうか?


 実際のところ、肝心のアルミュールは破損する以前に動かした事も無い。


 でも、表面は老朽化が進んでいても、内部が健在なら申し分ない。


「では、聞こう。クオーレ、お主らが出会ったと言う占い師の話では、このアルミュールのアゾートは何者から譲り受けたものと告げていた?」

 エレイネには当初から覚悟は出来ていた。クオーレの口から自身の名が出てきたのならば運命を受け入れ、このアルミュールに自らの心臓を捧げるつもりだ。


 クオーレが佇むアルミュールの顔を見上げた。


「さて・・・占い師は未来を感じ取るだけであって、未来を見通せる訳ではないと言っておりました。このアルミュールが他のアルミュールと対峙している姿を見たと言っているだけで、どのような経緯があって、あのような場面が巡ってきたのかまでは判らないのでしょう」


 クオーレの答えに、エレイネは苦笑した。


 それもそうだ。何を血迷って占いなどにすがろうとしてしまったのだろう。


 敵が両面攻撃を仕掛けて来たのならば、策を巡らせて対抗するまで。


「よいか、お前達。私は、このアルミュールが動くのは今では無いと見た。だから、コイツに期待などせぬ。もしも敵がこの工房にまで攻め入ったその時は、このアルミュールを手土産に投降せよ」


 言い残すと、エレイネは敵の攻撃に備えるべく、工房から立ち去ってしまった。


 残された親子は。


「随分と気前の良い女王陛下だ。このアルミュールを手土産にしろとは。やれやれだ」

 エレイネの気風の良さに、呆れて笑いがこみ上げてくる。


「さぁキュレイ。お前の腕の見せ所だ。我ら魔術師はアルミュールの整備は出来んが、診断くらいは出来よう。ひとつ、この放置されたアルミュールを診てやってはくれぬかな?」

 クオーレの願い出にキュレイは頷いて見せると、すぐさま診断に取り掛かった。



 *  *  *  *




 山羊の大獣退治に向かったアムリエッタたちは、火のごとく馬を駆り立てて現場へと急いだ。


 そんなアムリエッタたちに伝令の兵が合流した。が、アムリエッタの出で立ちに、伝令の兵は一瞬嗚咽をもよおした。


 甲冑の手入れもしないまま再び出撃したので、浴びた返り血はそのままに。色は黒ずんでおり、酔うほどに血の匂いを漂わせていた。


 対照的に、アムリエッタの器量の良さは見る者の目を()く。


「エルクの到着が間に合わず、エドの村は壊滅。村民達は事前に山へと避難していたので死傷者は出ていません」


「報告ご苦労。しかし、大獣が去った後、村民たちにはしばらくの間は山で待機しておくよう指示なさい。後方にサイクロプスが控えています」

 状況によっては波状攻撃になりかねない。


 そうなる前に、サイクロプスが格好のエサと見る人間の姿を見せてはいけない。


 津波が発生した時でも、波が引いた後にもう一度大きな波が押し寄せ、油断した者たちを飲み込んでゆく。決して用心を欠いてはならない。



 カッコォォォーンッ!!


 乾いた音が遠くから鳴り響いてくる。


「始まったな。急ぐぞ!」

 伝令の兵を加えて、山羊の大獣とエルクが角と角をぶつけ合っている現場へと急いだ。




「やはり槍でも持って来ねぇと山羊の野郎、怯みもしやがらねぇか・・」

 エルクを従える獣使いのナディが頭を抱えていた。


 体格差では圧倒的にエルクの方が勝っている。


 さらにエルク独特の横長の角で威嚇しても、山羊の大獣は一歩も退かない。


 角による突撃も、山羊も角を向けて来るものだから、剣と剣を交えているようなもので一向に決着がつかない。


「スゴイな、あの山羊。エルクの突進をものともしませんよ」

 ナディの部下も勇猛果敢な山羊に舌を巻いている。


「2頭目で対処しろ。もう一頭を側面に回り込ませて角を山羊の横っ腹にブチかましてやれ!!」





 カッコォーンッ!!




 同じ乾いた音ではあるけれど、先程のものよりも、遙かに音が小さい。


 多分、どちらかの助走距離が短かったのだろう。



「ナディーッ!」

 アムリエッタたちがようやく現場に到着した。


「姫様!エドの村まで間に合わず申し訳ない!」


「良い!それよりも第二陣が来るぞ。次はサイクロプスだ。さっさとここを突破して、早く村民達に避難を継続するよう伝えねばならん」

 サイクロプスの名前が出たとたん、ナディの血相が変わった。


 遠い昔話に出てくるサイクロプスは、もはや人間の手には負えない凶悪最悪な化け物だ。


 アルミュールがあれば追い払う事くらいはできるだろうか。


「で、では、あの山羊の大獣は、そのサイクロプスから逃れる為にこの地へとやって来たと言うのですか!?」

 あの一歩も退かぬ山羊の行動は、勇気からではなく恐怖に駆られてのものだった。


「ああ。正確には、そのサイクロプスを仕向けた奴らが、この山羊の大獣の後ろに控えているがな。私たちは、これからその者たちを仕留めに向かう。ここを頼むぞ」

 告げて、アムリエッタは数人の兵を従わせ、残るほとんどの兵たちをナディに預けて、この騒ぎを引き起こした張本人たちの討伐へと向かった。


 だが、道を迂回している余裕など無い。


 アムリエッタたちは山羊とエルクが角を交えている側を決死の覚悟で突き抜ける事に決めた。


「姫様ぁ!しばしお待ちを。只今道を空けます!」

 ナディの部下が後方から声を張り上げて報せた。


「しばしだと?」

 一刻の猶予も無いというのに。


 アムリエッタは苛立ちを表情に出して振り向いた。瞬間。


 地面が大きく揺れて馬たちが混乱した。 

 必死になだめるも、何が起きたのか。


 地を鳴らすほどの落下音がした前方へと視線を戻す。


 2体の大獣同士が角を交えている間に、もう一頭のエルクが山羊の横っ腹に角を突きつけ押し飛ばしたのだ。


「今です!姫様。山羊はすぐさま立ち上がります」「うむ」


 Goサインが出されると、アムリエッタたちは一気に馬を駆け出させた。


 まずは山羊の壁を抜け。


 次は。


 サイクロプスを領内へと引き入れてくれた忌々しい連中の討伐だ。


 明かりが見えた。


 アムリエッタは先頭をケインと彼の部下に任せて、一旦後方へと下がった。そして伝令の兵の前を走り、彼の盾となる。


「巨獣の地ガルガンチュアと隣接する我らがアイロンケイヴ兵の戦いを、あのならず者たちに見せつけてやれ」

 後方から前へと出てきたケインたちを鼓舞する。


 オォォォーッ!!

 声を上げながら兵達は手綱から両手を離したかと思えば、皆、弓を番え始めた。



 彼らアイロンケイヴ兵たちは、長きに渡る大獣相手の戦いから”騎射”なる戦法を身につけた弓騎兵で構成されている。


 弓騎兵とは、その名の通り、馬に乗りながら弓を射る兵士であり、弓矢を番えるため手綱から両手を離さなければならないが、優れた馬術によって可能としている。


 大獣相手の戦い。


 大獣は自分たち人間の何倍もの体長を誇る巨大生物。彼らの一歩が自分たちの十数歩に相当する場合もあれば、それ以上もある。


 だから踏み潰されないように、馬を我が脚のように乗りこなす。


 さらに、弓は小型の複合弓(コンポジットボウ)を用い、(やじり)も軽い銅製を使用している。



「狙うは松明の明かり。撃てぇ!」


 敵の姿を確認する前に、松明の明かりめがけて先制攻撃。


 10はあったと思われる松明の何本かが地面に落ちた。


「皆の者、これで仕留めたと安心するな。敵は松明を捨てて我らの脇をすり抜けるつもりだ」

 注意を怠らぬよう指示を送りながら、今度はアムリエッタが先頭へと出た。


「抜刀!誰1人として敵を後ろへと抜かせるな」

 松明の明かりが無くとも月明かりに照らされて敵の数は5人だと判明した。


 予想通り、敵は左右に分かれてすり抜けるつもりだ。


 キンッ!闇夜に交わる剣と剣。一瞬起こる火花があちこちで散り咲く。


 敵すべての脚を止める事に成功。


「今だ!伝令兵!急げ!」

 この間に、伝令の兵に、村民達に山に留まっているよう伝えに向かわせた。


 敵の中には彼を追う者など1人もいない。皆が皆、一刻も早くこの場から立ち去りたいはずだから。


 早く立ち去らねば、サイクロプスのエサになりかねない。


「貴様ら、後方にサイクロプスが迫って来ている。死にたくなければ、我らに道を空けろ」

 ようやく本音を漏らしてくれた。


「承知の上での討伐だ。お前達を討って、山羊の大獣も討ち取り、共にサイクロプスのエサにしてくれる。そうすれば、サイクロプスも腹を満たして大人しくガルガンチュアの地へと引き返すであろう」

 聞き伝えによるサイクロプスの習性なら、縄張りから遠出はしない。エサを与えて満腹にしてやれば、さっさとねぐらへと引き返してくれるに違いない。


「山羊を仕留めるのならば、わざわざ我らを討伐する必要も無かろう。無駄な殺生は控えてくれぬか」

 懇願しながらも敵は剣でアムリエッタめがけて撫で斬りを仕掛けてくる。


 左腕に装着した小盾(バックラー)で剣を弾いて、メイスで敵の太ももを叩き潰す。


「ぎゃぁあ!」

 痛みに悲鳴を上げた敵兵の顔がアムリエッタへと向けられる。


 その表情は痛みよりも、恐怖に歪んでいる。


 「!」

 一瞬の間を置いて、アムリエッタは下からメイスを敵兵の顎へと振り上げ叩き付け、敵は回転しながら落馬した。


 動かない。


 アムリエッタは騎手を失った馬の尻を蹴飛ばして、この場から馬を追い払った。


 敵が死んだか死んでいないか?死んでいなければ、意識があるのか?無いのか?そんな事はどうでもよく、彼が逃げる脚を失った事が何よりもアムリエッタの戦果となった。


「ケイン!」

 他の者たちはどうなった?


 当のケインはすでに敵兵を切り伏せており、心配そうな眼差しをアムリエッタに向けたまま止まっていた。


 ケイン以下8名全員が負傷すること無く敵を倒して見せた。

「良くやった。では戻るぞ」


 伝令兵が無事に村人達の元へと辿り着ける事を祈りながらの退却。


「アム…」

 傍へと寄って来たケインが声を掛けるも、敵を仕留める際に、一瞬ためらってしまった事を注意されると悟ったアムリエッタは彼の声を無視した。



 *  *  *  *




 その頃、工房では。



「父上。この"名無し”には異常は見当たりません。アゾートさえ得れば、即座に動かす事ができます」

 キュレイが父クォーレに報告した。


「キュレイよ。今の言葉、エレイネ様がお聞きになられたら、きっと良いお顔はなされぬぞ。名は無きとはいえ、言葉には気を付けよ」

 たしなめつつも、ひとまずは安心した。


 エレイネはこのアルミュールの起動が今宵ではないと言っていたが、もしかしたら、もしかするかもしれないと期待感に胸踊らせていた。


「父上!」「何だ、キュレイ」

 頭部の魔術師コクピットから顔を出すキュレイを見上げた。


「角のぶつけ合う音がまだ続いています。このままでは、もう間に合わないかもしれません」

 それは不吉な報せであった。



 これ以上大獣退治が長引くようであるのなら。


 アムリエッタたちが山羊を仕留められぬままなら、最悪、サイクロプスと出くわす事になるかもしれない。



 +  +  +  + 




 集めた1100人の兵達を従えて、いま正にエレイネ・トーネード・シルフハイムが出陣、城門を後にした。


 敵方ダノイの軍勢は、およそ2000人。今回のアイロンケイヴ侵攻に先駆けて周辺諸国と不可侵条約を結んだとしても、全兵力を向けて来るとは考えられず、結局のところ半数に満たない兵力を動員しての侵攻と思われる。


 迎え討つシルフハイム軍は、2000人の兵を城に残し、300人の兵を現在アムリエッタを指揮官に大獣退治へと向かわせている。


 お互いに辺境の国同士、双方が激突したとしても、戦としては比較的小規模ではあるのだが。


 また、敵が攻め入ってくる地形は、山道が続く南方の交易路からではなく、北方の平原を跨いだ丘陵地から。


 それもそのはず。


 ダノイにとって、どうしても広大な平原から攻め入らねばならない理由があった。


「敵軍の中に機巧甲胄(アルミュール)を確認!」との報せを受けて、エレイネは敵大将の首を早々に落とす短期決戦を決断した。


 弓兵や騎馬兵では、どう転んでもアルミュールには敵わない。


 何としてでも敵陣を突破して敵大将の首を落とさねば。


「陛下!」


「パンドラか。見送りなど要らぬし、縁起が悪い。止してくれぬか」

 出立したばかりのエレイネの前にパンドラが駆け寄ってきた。


「出撃前に我が密偵から送られてきた情報を陛下の耳に入れたく参上致しました」「聞こう」


 パンドラからもたらされた情報は、敵アルミュールのものだった。


 敵が此度のアイロンケイヴ侵攻に駆り出したアルミュールの数は2騎。


 1騎はフォーゲルセン家が所有する”虹のペイヴォー”。どんな塗装を施してあるのか定かではないが、玉虫色の装甲をまとった見た目きらびやかなアルミュール。


 騎士はレイヴン・ダク・フォーゲルセン。フォーゲルセン家の第三王子だ。そうなると、全軍を指揮しているのは、第二王子のシーガル・トーン・フォーゲルセンと見て間違い無いだろう。


 相対する敵は、戦場で名を馳せた”嵐の乙女”。万が一にも、返り討ちに遭う可能性は無きにしも(あら)ず。


 よって、跡取りとなる第一王子を差し向ける真似はしないだろう。


 そして、もう1騎は、昨年までシルフハイム家が傭兵として雇っていた流浪の騎士ブラグ・ダイが駆る"大盾のジョアン”だ。


「ジョアン?ブラグ卿だとォ!?」

 エレイネは声を裏返させて驚いた。


 この変わり身の早さ、最初からアイロンケイヴ侵攻に加担しての傭兵志願だったのだと、今さらながら悔やんでも悔やみ切れない。


「彼奴ぅぅ・・、我がシルフハイム家の台所事情につけ込みやがってぇ・・。どうりで格安で雇われても良いと申し出てきたはずだ」

 それに関してはお金にうるさいパンドラも肩をすくめて見せた。


 安物買いの銭失いとは、正にこの事を言うだと肝に銘じておこう。


 今回に関しては銭では無く、ありとあらゆる内情を漏らされ国を奪われかねないが。


「全軍出撃!丘陵地で敵を迎え撃つ」

 シルフハイム軍が足を速めた。


 全兵力の3分の1にも満たない兵力での出撃は、城下町を出て街道を挟んだ丘陵地に向かうため。最速で進軍できる最大の人数でもある。


 1100人の内、装備を持たずに走る歩兵の数は300人。途中で荷馬車から装備を受け取り戦闘態勢に入る。何よりも体力温存が目的だ。


「我が所領に足を踏み入れたこと、とくと後悔させてやる」

 出陣そのものが、”嵐の乙女”ことエレイネが得意とする高速敵陣突破の開始でもある。



 嵐のように出撃してゆくエレイネを見送るパンドラ。


 姉上の事だ。


 この闇夜に乗じて敵が布陣を敷き終える前に、左翼もしくは右翼を突いて敵勢力を混乱に陥れる事だろう。


 何ら心配は要るまい。


 さて、とパンドラはガルガンチュアの地方面へと見やった。



 妹アムリエッタ・ソイル・シルフハイムが対峙するサイクロプスは、果たして恐怖を抱いてくれる相手だろうか・・・。


 出会う前に、何とかカタを付けてくれれば良いのだが。




  +  +  +  +  +





 大獣とはいえ、山羊はその重量の軽さから、エルクに弾き飛ばされても、さほどダメージを受ける事も無く、またもや立ち上がってきた。


「まずいですぞ、姫様。早くこの山羊めを仕留めねば、サイクロプスがこちらに来てしまいます」

 やきもきしながら告げるも、当のアムリエッタも焦りの色を隠せない。



 通常の大獣(オオケモノ)退治の場合、大獣の前にエルクを立ちはだからせて行く手を塞ぎ、その間に弓騎兵たちが大獣に雨あられのごとく矢を放つ。


 針山と見紛おう程に突き刺さった矢からは大量の血が流れ出て、徐々に大獣の体力を奪ってゆく。


 やがて立っていられなくなった大獣は倒れるか、もしくは座り込んでしまうと、あとは剣でザクザクと突き刺して、さらに出血させて動けなくする。


 相手も命を持つ生き物。動けなくなったら、即座に首に刃を入れて絶命させる。



 流れとしては非常に長丁場を強いられる作業なのだ。



 ところが。



「わかっている!それよりも、何としてでもあの山羊をここで食い止めよ。突破などされてしまえば、我が国はダノイの軍勢とサイクロプスの両面攻撃を受ける事になる。命を惜しむな。死ぬ気で取り掛かれ」

 2人が話している最中、一際大きな地鳴りが伝わってきた。


「親方ぁ、待たせたなぁ!」

 地鳴りは城の方から、それにあの声はナディの配下の者だ。


 ようやく槍を装備したギガエルクがやって来たのだ。


「エルクを止まらせたら、その場で動かなくなるぞ。そのまま山羊に槍を突き刺してやれ」

 強行軍を強いた上に、さらにむち打つ仕打ち。


「えぇぇーッ!エルクの槍は威嚇用で、突き刺しなんてしてしまえば、一発で折れてしまいますよ」

 威嚇で退いてくれれば苦労など無い。


「いいから、やれッ!」

 


 ここで山羊を仕留める!


「行けぇーッ!!」

 地鳴りを上げて横を通り抜けて行く槍持ちエルクを送り出す。


 片や山羊の大獣は再度頭を低く構えて槍を持ったエルクめがけて突進してくる。


 槍の威嚇をものともしない、死にもの狂いの狂気の沙汰だ。


 一歩も退こうともしない。


 山羊の角と槍が、カッコッォォォーンッ!!激しくぶつかり合う。


 だが、エルクの平らな角とは異なり、槍の先は鋭利に尖った金属製。力をいなす事が出来ずに山羊の頭蓋骨に直撃した!!


 ところが命中はしたものの、頭蓋骨の曲面に槍の先が滑ってしまい仕留めるには至らなかった。


 鮮血をまき散らして、お互いがすれ違って行く。


 突破されてしまったか!


 ケインは次なる指示を求めてアムリエッタへと向く。が。


 山羊が駆け抜ける先には、次の槍のエルクが控えていた。


 グサリと第2波の槍が、見事に山羊の喉元を突き破り、山羊の動きを止める事に成功。


 横倒しになって倒れゆく山羊の大獣。


 地を鳴らし、土煙を上げる中、アムリエッタたち大獣討伐隊は横倒しになった山羊へと群がる。


「時間が無いぞ。かかれ!」

 アムリエッタは号令を下しつつ、自らは山羊がこれ以上呼吸できないようにメイスで鼻っ柱を叩き砕く。


 兵たちも倒れ伏す山羊の体中に次々と剣を突き立てる。


 やがて口で呼吸を始めた山羊の喉元へとケインは寄ると、剣の縦一閃を走らせた。


 噴き出す鮮血。そして。


 悲鳴のようなうめき声を上げる山羊の大獣。


 この声がサイクロプスを呼び寄せてしまおうが構わない。


 とにかく山羊の死骸をエサに、早々にこの場から立ち去らねばならない。



 激しく上下していた山羊の横っ腹が動かなくなった。


 山羊の死を確認すると、アムリエッタが号令を掛ける。

「退くぞ!皆の者!」

 馬を駆り出そうとした、その矢先。


 またもや激しい地鳴りが響いてきた。


 今度はガルガンチュアの地方面から響いてくる。


 まさか!?振り返ったアムリエッタが見たものは。



 一つ目巨人(サイクロプス)


「くっ、間に合わなかったか」


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