最終話
「千歳さん、いや、千歳、皆に何をしたんだ!!」
犯人が千歳ではない可能性があるかもしれないが、きっと関係しているはずだ。
「何をしたって、私の幸治君に近づく蝿を駆除しただけだよ。それの何がいけないの?」
僕は千歳の言って意味がわからなかった。唖然としていると、千歳はさらに続けて。
「だってアイツらは、色目を使っていたんだよ。虫の癖に、だから私は幸治君が穢れないように、何時でも、何処でも、ずっ~~~と見てたんだよ。虫が近づくたびに助けに行きたかったけど、そんなことしたら、幸治君に迷惑かかるでしょ?だから幸治君の知らないとこで、駆除してたの。」
僕はだんだん、怖くなってきた。千歳は笑っている。けど目は笑っていない。
「何時でもだって!何を言っているんだ!」
「私は幸治君のことが大好きだから、何時でも声を聞いていたいの、だから幸治君の服とか持ち物に、盗聴器を仕掛けておいたの。」
その言葉を聞いた瞬間、僕は気持ち悪くなった。持っていた鞄を投げ捨て、服もどこかに違和感がないか、隅々まで調べた。上着とズボンから盗聴器らしきものが見つかった。
僕が調べてる間、千歳はずっと笑顔のままだった。
今は恐怖よりも聞くべき事がある。僕は勇気を振り絞り千歳に聞いた。
「駆除したって事は、君が由美ちゃんや橘先輩、小森を殺したってことか!」
「もぅ、キミじゃなくてちゃんと名前で呼んでよ。まぁいいや後でたっぷりと躾してあげるから。」
「小森は、バイトの帰りに話があるって言ったら、簡単についてきて、橘先輩は飲み物にお茶を入れて、眠らせてからね。2人ともいっつも色目使ってたからすぐに殺したんだ。」
雨が止み、雲の隙間から日がさしてきた。びしょ濡れの体も、雨が止んだこともどうでもいい。どんな感情よりも恐怖が勝っていた。
千歳はゆっくりとこちらに近づいてきた。逃げないといけないのは分かっている、だけど足がすくんで動けない。
千歳は僕の首に手を回してきた。振りほどきたい、だけど何故か振りほどかない。恐怖で体が動かない。
「幸治君、これからいっぱい、愛してあげるからね。」
『プス』
急に眠気が襲ってきた。千歳の手には注射器のようなものが握られていた。
『プルプル…プルプル…もしもし、… うん、… そう、… わかったまってるね。」
薄れゆく意識の中、千歳が誰かと電話しているのを見た。電話の終わった千歳がこっちに来た。千歳は、僕の顔の前でしゃがむとこう言った。
「ふふっ、愛してるよ。」
僕はそっと意識を手放した。
○月○日
僕はとてつもない異臭で目を覚ました。
四方がコンクリートの壁で入口が鉄の扉の一つしかない部屋にいた。手足は椅子に縛られて身動きが取れない。床に血しぶきが飛び散っている。
部屋の隅にはブルーシートが被せられた何かがある。あそこから生ゴミが腐ったような匂いがする。あの匂いで目が覚めた。
『ガチャ』
扉が開いた。
「やっと起きましたか。幸治さん。」
嬉しそうな顔をした千歳が出てき、手にはバスケットを持っていた。
「全くお寝坊さんですね。もうお昼ですよ。ご飯作ってきたんで一緒に食べましょ。私が食べさせてあげます。」
「ここはいったいどこなんだ!どうしてこんなことを!この匂いはなんなんだ!」
「質問は、1つずつお願いします。ここは山の中にある廃墟を改造した場所です。近くの町までは歩いて1時間かかりますし、電波も通じません。」
「幸治さんを愛しているから、ここに閉じ込めたんです。」
「この匂いの原因はブルーシートの下にいる小森と橘先輩です。幸治さんが思ったより早くに気づくから片付けられなくて、すみません。あいつ死んだくせに、まだ私をイラつかせる。後で退けときますね。」
「あぁ、そこに由美ちゃんの死体がない理由は、逃げられたんですよね。橘先輩を殺してるうちに。でも、ここは山奥なんでその辺で野垂れ死にしてると思いますよ。」
僕は何も言えなくなってしまった。もし千歳の機嫌をそこねたら、何をされるかわからないから。大人しく従うことにした。
○月△日
あれからどれだけの時間たったのか分からない。
○月□
初めは千歳に何をされても嫌悪感があったが、もうどうでも良くなった。
僕の心はもうクタクタでボロボロだ。
○月☆日
そろそろ千歳がご飯を持ってくると思ったけど中々持ってこない。何かあったのだろうか?
千歳の身はどうでもいいが、食事が与えられないのは困る。
○月◎日
千歳が来なくなった。嬉しい半面、見捨てられたんだと感じた。
意識がだんだん遠のいてきた。
このまま僕は死ぬのだろうか。
これ以上酷い目に会うくらいなら死んだ方がいいのかもしれない。
そう思えてきた。
目を覚ますと白い天井が目の前に広がっていた。
両手に違和感を感じた、左手は、管が伸び点滴に繋がっていた。右手は、僕の手を握って寝ている由美ちゃんがいた。
ここは病院のベッドだと分かった。僕は生き延びたんだ。
「ん、幸治さん!良かった。目を覚ましたんですね。」
由美ちゃんは起きた途端僕に抱きついてきた。由美ちゃんの体温が感じられる。生きていることが実感できた。そう思うと涙が流れてきた。
「心配したんですよ。無事で良かったです。警察の人呼んでくるので待っててください。」
由美ちゃんは病室から出て行ってすぐに戻ってきた。その後ろには由美ちゃんが言っていた警察官がいる。
「起きてすぐで済まない。私は永浜警察署の鈴原アカネです。今回の行方不明事件の担当をしています。」
それから僕は鈴原さんから様々な説明を受けた。
僕が助かったのは、由美ちゃんのおかげらしい。廃墟から逃げた由美ちゃんは、たまたま通りかかった農家さんに助けて貰らい、そこから警察に行き、保護してもらったみたいだ。
その後、警察に何かあったか伝えてた。警察はすぐに千歳を逮捕するために動き、逮捕しようとしたところ、持っていたナイフで首を切って死んだらしい。死ぬまでずっと『幸治くん』と連呼していたと聞いて監禁されていた時の恐怖を思いだした。
僕が行方不明なの千歳について調べている時に分かり。同時並行で捜索されていた。千歳しか何処にいるかわからないため、千歳が死んでしまい発見に時間がかかったそうだ。
発見した時の僕はとても衰弱していて、危ない状態だった。何とか一命は取り留めたが、体はまだ衰弱しているから当分は安静にしていないといけない。
五月二日
僕達は今お墓の前にいる。小森さんと橘先輩のだ。
「夏も近づいて来ましたね。」
「そうだね。」
「幸治さんのせいで2人は死んだ訳じゃないです。」
「うん。そうだけど。」
分かっている。今回の事件で誰も悪くないのわ。
でも僕は死んだ2人の墓に向かって手を合わせることしか出来なかった。
「フフッ、幸治さん、私が傍でずっと支えてあげます。フフ。」
この時僕は、2人への謝罪の気持ちがいっぱいで、由美ちゃんの呟きを聴き逃した。
おしまい