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八十八夜の物語  作者: 八十八夜の物語
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最終話

 

「千歳さん、いや、千歳、皆に何をしたんだ!!」


 犯人が千歳ではない可能性があるかもしれないが、きっと関係しているはずだ。


「何をしたって、私の幸治君に近づく蝿を駆除しただけだよ。それの何がいけないの?」


 僕は千歳の言って意味がわからなかった。唖然としていると、千歳はさらに続けて。


「だってアイツらは、色目を使っていたんだよ。虫の癖に、だから私は幸治君が穢れないように、何時でも、何処でも、ずっ~~~と見てたんだよ。虫が近づくたびに助けに行きたかったけど、そんなことしたら、幸治君に迷惑かかるでしょ?だから幸治君の知らないとこで、駆除してたの。」


 僕はだんだん、怖くなってきた。千歳は笑っている。けど目は笑っていない。


「何時でもだって!何を言っているんだ!」


「私は幸治君のことが大好きだから、何時でも声を聞いていたいの、だから幸治君の服とか持ち物に、盗聴器を仕掛けておいたの。」


 その言葉を聞いた瞬間、僕は気持ち悪くなった。持っていた鞄を投げ捨て、服もどこかに違和感がないか、隅々まで調べた。上着とズボンから盗聴器らしきものが見つかった。


 僕が調べてる間、千歳はずっと笑顔のままだった。


 今は恐怖よりも聞くべき事がある。僕は勇気を振り絞り千歳に聞いた。


「駆除したって事は、君が由美ちゃんや橘先輩、小森を殺したってことか!」


「もぅ、キミじゃなくてちゃんと名前で呼んでよ。まぁいいや後でたっぷりと躾してあげるから。」


「小森は、バイトの帰りに話があるって言ったら、簡単についてきて、橘先輩は飲み物にお茶を入れて、眠らせてからね。2人ともいっつも色目使ってたからすぐに殺したんだ。」


 雨が止み、雲の隙間から日がさしてきた。びしょ濡れの体も、雨が止んだこともどうでもいい。どんな感情よりも恐怖が勝っていた。


 千歳はゆっくりとこちらに近づいてきた。逃げないといけないのは分かっている、だけど足がすくんで動けない。


 千歳は僕の首に手を回してきた。振りほどきたい、だけど何故か振りほどかない。恐怖で体が動かない。


「幸治君、これからいっぱい、愛してあげるからね。」


『プス』


 急に眠気が襲ってきた。千歳の手には注射器のようなものが握られていた。


『プルプル…プルプル…もしもし、… うん、… そう、… わかったまってるね。」


 薄れゆく意識の中、千歳が誰かと電話しているのを見た。電話の終わった千歳がこっちに来た。千歳は、僕の顔の前でしゃがむとこう言った。


「ふふっ、愛してるよ。」


 僕はそっと意識を手放した。






 ○月○日


 僕はとてつもない異臭で目を覚ました。


 四方がコンクリートの壁で入口が鉄の扉の一つしかない部屋にいた。手足は椅子に縛られて身動きが取れない。床に血しぶきが飛び散っている。


 部屋の隅にはブルーシートが被せられた何かがある。あそこから生ゴミが腐ったような匂いがする。あの匂いで目が覚めた。


『ガチャ』


 扉が開いた。


「やっと起きましたか。幸治さん。」


 嬉しそうな顔をした千歳が出てき、手にはバスケットを持っていた。


「全くお寝坊さんですね。もうお昼ですよ。ご飯作ってきたんで一緒に食べましょ。私が食べさせてあげます。」


「ここはいったいどこなんだ!どうしてこんなことを!この匂いはなんなんだ!」


「質問は、1つずつお願いします。ここは山の中にある廃墟を改造した場所です。近くの町までは歩いて1時間かかりますし、電波も通じません。」


「幸治さんを愛しているから、ここに閉じ込めたんです。」


「この匂いの原因はブルーシートの下にいる小森と橘先輩です。幸治さんが思ったより早くに気づくから片付けられなくて、すみません。あいつ死んだくせに、まだ私をイラつかせる。後で退けときますね。」


「あぁ、そこに由美ちゃんの死体がない理由は、逃げられたんですよね。橘先輩を殺してるうちに。でも、ここは山奥なんでその辺で野垂れ死にしてると思いますよ。」


 僕は何も言えなくなってしまった。もし千歳の機嫌をそこねたら、何をされるかわからないから。大人しく従うことにした。




 ○月△日


 あれからどれだけの時間たったのか分からない。



 ○月□


 初めは千歳に何をされても嫌悪感があったが、もうどうでも良くなった。


 僕の心はもうクタクタでボロボロだ。


 ○月☆日


 そろそろ千歳がご飯を持ってくると思ったけど中々持ってこない。何かあったのだろうか?


 千歳の身はどうでもいいが、食事が与えられないのは困る。


 ○月◎日


 千歳が来なくなった。嬉しい半面、見捨てられたんだと感じた。


 意識がだんだん遠のいてきた。


 このまま僕は死ぬのだろうか。


 これ以上酷い目に会うくらいなら死んだ方がいいのかもしれない。


 そう思えてきた。

























 目を覚ますと白い天井が目の前に広がっていた。


 両手に違和感を感じた、左手は、管が伸び点滴に繋がっていた。右手は、僕の手を握って寝ている由美ちゃんがいた。


 ここは病院のベッドだと分かった。僕は生き延びたんだ。


「ん、幸治さん!良かった。目を覚ましたんですね。」


 由美ちゃんは起きた途端僕に抱きついてきた。由美ちゃんの体温が感じられる。生きていることが実感できた。そう思うと涙が流れてきた。


「心配したんですよ。無事で良かったです。警察の人呼んでくるので待っててください。」


 由美ちゃんは病室から出て行ってすぐに戻ってきた。その後ろには由美ちゃんが言っていた警察官がいる。


「起きてすぐで済まない。私は永浜警察署の鈴原アカネです。今回の行方不明事件の担当をしています。」


 それから僕は鈴原さんから様々な説明を受けた。


 僕が助かったのは、由美ちゃんのおかげらしい。廃墟から逃げた由美ちゃんは、たまたま通りかかった農家さんに助けて貰らい、そこから警察に行き、保護してもらったみたいだ。


 その後、警察に何かあったか伝えてた。警察はすぐに千歳を逮捕するために動き、逮捕しようとしたところ、持っていたナイフで首を切って死んだらしい。死ぬまでずっと『幸治くん』と連呼していたと聞いて監禁されていた時の恐怖を思いだした。


 僕が行方不明なの千歳について調べている時に分かり。同時並行で捜索されていた。千歳しか何処にいるかわからないため、千歳が死んでしまい発見に時間がかかったそうだ。


 発見した時の僕はとても衰弱していて、危ない状態だった。何とか一命は取り留めたが、体はまだ衰弱しているから当分は安静にしていないといけない。






 五月二日


 僕達は今お墓の前にいる。小森さんと橘先輩のだ。


「夏も近づいて来ましたね。」


「そうだね。」


「幸治さんのせいで2人は死んだ訳じゃないです。」


「うん。そうだけど。」


 分かっている。今回の事件で誰も悪くないのわ。


 でも僕は死んだ2人の墓に向かって手を合わせることしか出来なかった。


「フフッ、幸治さん、私が傍でずっと支えてあげます。フフ。」


 この時僕は、2人への謝罪の気持ちがいっぱいで、由美ちゃんの呟きを聴き逃した。


                    おしまい



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