2話
四月一日
今日は僕の大学の入学式だ。今年から二回生になった僕は、今正面の門で人を待っている。
「おはようございます、幸治さん。お待たせしてすみません。」
「大丈夫だよ由美ちゃん。僕もさっき来たとこだから。」
僕は由美ちゃんと待ち合わせしていた。由美ちゃんが賢くて進学するとは知っていたが、まさか僕と同じ大学なんて思ってなかった。
「でも、由美ちゃんが僕と同じ大学に進学するなんて、どうしてギリギリまで黙ってたの?」
「ふふっ、それはもちろん、幸治さんを驚かすためです。まぁ実際は千歳さんと同じ大学に進学する予定で、まさかお二人が同じ大学とは知りませんでした。」
「ごめんごめん。いつ言おうか考えてたら、結局言えなくてね。」
「あら野分君じゃない。今日は休みでしょどうしたの?隣の子は新入生だと思うけど、妹さん?」
由美ちゃんと話していると、三回生の橘先輩が話しかけてきた。
橘先輩は僕が入っているサークルの先輩で、いつも奇抜(トイレの壁紙みたいな感じ)な服を着ている。
「あっ、おはようございます。橘先輩。彼女は下浦由美さんです。由美ちゃんかの人は橘先輩、サークルの先輩なんだ。」
「下浦由美です。幸治さんと同じバイト先でいつもお世話になっています。よろしくお願いします。」
「私は、橘野乃花よ。三回生で幸治君と同じダンスサークルに入ってるの。よろしくね。」
「どうして橘先輩学校にいるんです?」
「明日のサークル説明会の打ち合わせよ。幸治君はどうしたの?」
「由美ちゃんの入学式の後、お祝いでご飯を食べに行くんです。」
「そうなの、楽しんできてね。」
橘先輩は手を振りながら校舎の中へと消えていった。
その後僕と由美ちゃんは一旦別れた。僕は、由美ちゃんの入学式が終わるまで時間があるため、食堂に行こうと向かっている。
食堂について、適当にスマホを触って時間を潰していると、由美ちゃんから、連絡がきた。
『今式が終わりました。どこにいますか?』
『今食堂にいるよ。場所がわからないなら迎えに行くけど。』
『大丈夫です。すぐにそっちに行きます。』
2分くらいしたら由美ちゃんが食堂に来たけど、不機嫌そうな顔をしている。多分他の新入生に声をかけられたんだろう。
それから僕らは、ご飯を食べに行った。それと予想どうり、新入生からこの後ご飯に行かないかと声をかけられたらしい。断っているのにしつこく声をかけてきて、その場から強引に逃げてきたらしい。
四月八日
由美ちゃんは僕と同じダンスサークルに入った。今は、ドラゴンスターの『Moon&Night』を踊れるように練習しているところだ。
「おい幸治、橘知らないか?」
「あっ、部長。いや、今日は見てないですね。そう言えば昨日由美ちゃんが、明日橘先輩と遊びに行くって言ってましたよ。」
「そうか、連絡しても返事がないから気になってたんだが、下浦と一緒なら大丈夫だな。」
「ココは?どうして椅子に手足を縛られてるの?さっきまで由美ちゃんの家でお茶をしてたはずなのに。」
目を覚ました橘は周りを見渡した。そこは四方がコンクリートの壁で、入口と思われる扉は鉄で出来ている。
手足が縛られていて、このような空間にいたら誰だって恐怖を覚えるが。橘がもっとも恐怖したのは、床に散らばった血の跡だ。
『ガチャ』
鉄の扉が開くと、そこからは、覆面を被った小柄な人が出てきた。
「おや、目が覚めましたか。もう1人の子はまだ眠っていますよ。」
覆面の手には、工具箱が握られていた。
「あなたが私をこんなめにあわせたの?!一体なんのために。それにもう1人って、まさか!!由美ちゃんのこと、彼女は一体どこにいるのよ!」
「ふふっ、落ち着いて下さい。もう1人の子は無事ですよ。用があるのはあなたなんですから。」
「一体なんのために、私が何をしたって言うのよ!!」
「は?アナタは、ワタシの、幸治クンに、近づいて、色目を使ったじゃない。何を言ってるの?知らないなんて、言わせないわよ。この目で何度も何度も見たんだから。」
そう言って橘を責め立てる覆面の目は、とても、とても狂気的で濁っていた。
「まァ、それも今日で終わりなのでもうどうでもいいですが。」
覆面は持っていた工具箱を置き、その中から猿轡を手にして、橘の口を塞ぎ、更には目隠しで視界も塞いだ。
「知っていますか?人は体内の血液の30%を失うと、出血死すると。」
工具箱からカミソリを取りだし、橘の右手の動脈を切りつけた。
「ん?!」
「ふふっ、橘野乃花さん、アナタが幸治クンに近づかなければこうはならなかったのに、さようなら。」
『ガチャ』
ポタ、ポタ、ポタ、ポタ、ポタ、
橘は自分の中から血が抜けていくのを感じながら、意識を手放した。
実は橘の体からほとんど血は抜けていなかった。
死因は、出血死ではなく、ショック死だった。
どちらにしろ、橘野乃花は21歳という、短い人生をここで閉ざした。