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異世界の黒蝶  作者: ちょうちょ
~プロローグ~
9/36

愛華の決意

ここはノーザ王国から北方の国、フリュッセイド聖国。

ノーザから1週間と少しで行き来できる隣国だ。

気候もノーザと比べると寒く、国の周りには大湿原や神聖な湖があったりと水源が豊富。

宗教色の強い国で一人の巫女を女神サザンドラの御使いと崇め、5名の神官評議会によって国政が成されている。

そんな評議会が今、真っ白な神殿の中の会議室で開かれている。


「では、今回6名の勇者召喚に成功したとこちらも発表するということで宜しいかな?」

脂肪の厚い神官が問う。


「王国のとは1人少ないが・・・仕方がないじゃろう。」

眉毛で目が隠れている神官が険しい顔をして同意した。


「数は少ないですが皆優秀だと報告が上がっておりますよ。」

一番若そうな神官がフォローする。


「判断するにはまだ早計じゃわ。」

しかし鷲っ鼻の神官がそれを牽制する。


「2000年前の聖戦では8名も召喚に成功したというのに。」

「それ言うなら5000年前の召喚は5名でしたが?」

等応戦は続く。


評議会の雰囲気が悪くなったところで、一番偉そうな立派な髭をしている神官が口を開いた。


「今回の召喚の報告を大々的に我が国と各国へ向けて発表する、ということで意義は無いな?」

「「異議なし。」」

他の神官が同意した。


「発表の概要はこうだ。」


我が聖国では『ホーリーナイト』『フェンサー』『ビショップ』『モンク』『アーチャー』『ソーサラー』の計6名の勇者召喚に成功した

6名内3名は上位クラスであり、此度の聖戦でも我が聖国の勇者達がことごとく魔王軍を撃ち滅ぼしてくれることだろう

これは我が聖国が女神サザンドラ様の祝福と庇護の下にある事の証明でもある

より一層の祈りを捧げるべし


------------------------------------------------------------------------------


翌朝、愛華たちは全員、サランによって城のホールに集められた。

城外活動解禁にあたり、城外でのマナーや流通しているお金の説明、国内の高級地区・商業地区・農村地区等の地理的説明をあらかたしてくれた。


また、最初はノーザ王国北方・西方・南方にある街道の脇や南方にある『スライムの森』の入り口近辺がレベル上げに丁度良いとも。

ただ、最初は直ぐMPも尽きるし城を拠点にあまり遠くへは行かないよう注意された。


サランからは「皆さんへの餞別です♪」と『キュアボトル×10』『月見草×10』『毒消し草×5』が贈られた。


「手形で買えばいいんじゃねーの?」

「嫌だなぁ、勇者小倉様。これは僕のポケットマネーからですよ♪」

「あそ。」

そんな話していると、とんがりがドダドタと慌てた様子でやってきてサランに何か耳打ちする。

一瞬、

「フリュッセイドが・・・」

とかいう単語が聞こえる。


「わかりました。直ぐに参りますと伝えてください。」

サランが言うと、とんがりは一礼して直ぐに何処かへ消えた。

「さて、急用ができてしまいましたのでお見送りはできそうにありません。」

「かまわない。とりあえず無理せず色々見てみるつもりだ。」

「僕も僕もー!」

男子はノリノリだ。


「ええ、私はこのヴェルダ城にいつでもおりますので、何かございましたらいつでもご用立てください。」

そう言って彼はとても子供とは思えない少し心残りのような、寂しげな笑顔をして奥へ消えて行った。


サランが消えた後も周りに衛兵が何人か立ってはいるが直立不動で動かないのでホール内は静まり返る。

残された者たちはお互いの出方を伺う。

愛華もここにきて緊張しだした。

いよいよ、冒険がスタートするのだ。

そして初日の夜に決めた決意を思い出す。


最初に口を開いたのはやはり小倉だった。

「じゃ、行きますか!とりあえず木村さんと森さんは居残り組だろ?」

「うん。まずは城内の図書室に行って帰れるヒントが無いか探すつもり。」


ほうほう、図書室なんてあるのか。

私も今度行ってみようかな。

この世界の文字は全て日本語なので私たちでも読めるのだ。

正確には日本語で書かれているわけではないようなのだが、私たち勇者にはこの世界の全ての文字が日本語になって見えるのだ。

サラン曰く「神のお力」で。

「そっか。俺らもなんか情報があったら連携するよ。」

「ありがとっ。」

嬉しそうな木村の笑顔を見て森も嬉しそうだ。


「じゃあ、戦う組で【パーティ】組むとこから始めるか?」

「そうだな。」


【パーティ】機能は2日目の講義で習った。

メニューの【パーティ】から【パーティを組む】を選ぶと、近くにいる勇者の名前が一覧で出てくる。その中から1人~複数人選んで【誘う】を選ぶと、誘われた側の勇者の画面が開き通知が出るのだ。

これは実際に2日目にやってみた。誘われると念じていないのに勝手に画面が出るのだ。

その通知から【受ける】を選ぶとパーティ成立って流れ。

そして最初に【パーティを組む】を選択した人がそのパーティのリーダー扱いでパーティ名も勝手にその勇者の名前になるらしい。

私なら絶対リーダーとか嫌だな。

ちなみに、既にパーティを組んでいる勇者も誘えるし、もし誘いを【受ける】とした勇者が別パーティのリーダーだった場合、そのパーティに所属している全メンバーが誘った側のパーティに編入されるらしい。


パーティを組む利点は色々ある。

まず、【マップ】上にパーティメンバー全員分の位置がどんなに離れていても表示されるようになる事。

次に、敵を倒すとメンバー人数で割った経験値が全メンバーに配分されること。

これは低レベル者の底上げなんかに使えるだろう。

それから、補助魔法や回復魔法のスキル使用時の有効範囲が、どんなに離れていても有効になる事。

例えば城の中から城の外にいる遠くのメンバーにもHP回復魔法が届く。

そして最もデカいのが、各メンバーの【ステータス】値の中で一番値が高い種類の値の1/10が全メンバーに付与されること。

レベルが上がり【ステータス】値が上がればかなりの相乗効果が期待できるだろう。

後は利点かどうかはわからないけど、敵のドロップがメンバーの中から抽選になるっていうことかな。

他にも色々あるけど、まぁ、一緒に行動するなら絶対に【パーティ】を組むべきだろう。




「あ、小嶋さんも・・・いい?」

「はへ?」

油断していたため変な声が出た。恥ずかしい。


「あ~、あのさ、折角だし皆で一緒にパーティ組んで行かない?」


小倉は「よし!言えた!」と自分で自分を褒めていた。

だがその誘いの言葉を聞いて一番動揺したのは木村だった。


「まさか・・・小倉君、あの子と一緒に行くつもりなの?」

「玲奈?」

自分は戦わないので、着いて行くこともできないどこかの戦地で、小倉と愛華が一緒に行動するなんて想像していなかった。

戦わないという私の選択は間違っていただろうか。

一気に焦りが込み上げる。

そんな切迫した表情を横から森が心配そうに見ている。


「ご、ごめんなさい。」


しかしそんな愛華の返答が木村の焦りを吹き飛ばした。


「わ、私は皆さんと一緒には・・・行きません。」


ホールが再び静まり返る。


「え?小嶋さんまさか一人で行くつもりなの?」

「さ、さすがに危なくないかな?」

「小嶋さん、よく考えてみてくれ。」

慌てて他の男子も止めに入る。


あ・・・私、まずいこと言っちゃった?

でもあの夜、考えて出した結論がこれだし。。


チラリと木村の方を見てみる。

目が有った事で木村の中のドロドロとした部分が染み出す。


「小倉君、無駄よ。あの子はいつも一人じゃない。」


気付けば口を開いていた。

「玲奈、そんな言い方・・・・。」

森はアタフタしている。


「それは、周りの影響もあるだろ?」

小倉は周囲の女子からの冷たい態度を訴えようとしているのだが、それが木村には一方的に庇っているように思えてイラついてしょうがなかった。


「あの子が自分から一人が良いって言ってるのに、止める理由がある?」

「いや、でも俺らの世界と勝手も違うし団体行動した方が絶対良いだろ?」

「団体行動なんてあの子にはゼッタイに無理よ。」


このままでは言い争いになりそうだった。

周りの同級生もどうしようといった感じで恐怖を感じているが、二人の間に入って行けないようだ。

学校のヒエラルキー最上位の存在が、自分の話題でヒートアップしている。

そんな空間にいるのは耐えられなかった。


私がいるからいけないの?

私のせいなの?

言い争いの中心に私がいるならいっそ無関心でいて欲しい。

放っておいてほしい。


「ごっ・・・ごめんなさいっ!」

気付けば愛華は外に向かって走り出していた。


「あ!小嶋さん!!!!待って!!!!」

小倉は愛華の後を追いかけた。


「あ・・・。」

それを複雑な表情で見送る木村。



まだレベル1で現実世界で足の遅い愛華に追いつくのは余裕だった。

小倉が愛華の手首を掴んだのは、城門へ続く長い下り階段の途中。


はぁはぁとお互いの息が切れる。

「私は・・・はぁっ、だい・・はぁ・じょうぶですから。」


いや、全然大丈夫じゃないだろと突っ込もうかと思ったが小倉はぐっと我慢した。

「はぁっ・・・何か不安な事があるなら言って?俺も・・はぁっ・・協力するからさ。木村さんにはちゃんと・・・はぁ・・・俺から話するよ。」


それから二人の息が整うまで、お互いに少し黙り込んだ。

そして沈黙を破ったのは意外にも愛華の方だった。


「小倉君・・・どうしてそこまで。」


小倉はしまったと思い掴んでいた手首を離して顔を真っ赤にする。

愛華も手首を掴まれていた事をを意識して顔が赤くなる。


「え。いや、だって女子が一人でよくわからない異世界を歩くなんてフツーに危ないだろ?」

目をキョロキョロさせて答えた。


た、確かに常識的に考えて女子が一人でとか有り得ないな。

なんだそういう事か。

本当に良い人だなぁ、小倉君は。


愛華は改めて小倉の優しさに感心する。


「心配してくれてありがとうございます。でも私決めてたんです。ソロプレイしようって。」

「ソロプレイ?」

「あ。何でもありません。自分でもどこまでできるのかやってみたくて。ずっと、憧れてたんです、こういうの。」

「こういうの?」

「異せか・・・コホン、あの嫌な現実から飛び出してみたくて・・・」


「小嶋さん・・・」

小倉は学校でいつも独りで寂しそうな愛華の様子を思い出す。


「木村さんの言う通り、私は一人が気楽で良いんです。とにかく・・・-」


「お互い魔王退治頑張りましょう。」


女神のような笑顔だった。

それ以上何も言えなかった。

惚れた女を傍で守りたい、ただそれだけなのに。

彼は城下町に続く城の階段を降りる愛華の背中を見送った。



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この何日か後に聞いた話だと、男子4人もパーティを組むのは何となく有耶無耶になってしまったみたいで、勇者小倉パーティ(小倉・柳瀬)と勇者小松原パーティ(小松原・北野)で別々に行動することになったみたい。


ありがとう、小倉君。

いつも優しくしてくれて、気にかけてくれて・・・本当に本当にありがとう。




【名 前】木村 玲奈    【クラス】ダンサー

【レベル】1

【 Next 】6


【H P】27       【装備中】

【M P】35        【武器】   なし

【攻撃力】4        【頭】    なし

【防御力】4        【腕】    なし

【魔 力】7        【胴体】   チュニック+ミニスカ

【命中力】6        【脚】    ヒールサンダル

【瞬発力】7        【アクセサリー1】シンプルピアス

【 運 】7        【アクセサリー2】なし

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