ノーザの影
翌日、傷が消えてHPバーも見えなくなっていた私たちは謁見の間で王様と宰相に紹介された。
王の名前はアウシュトロン・サライ・ノーザというらしい。
改めて見ると40代くらいで茶髪の立派な王様だ。
どこか懐かしい感じの雰囲気をさせる。
宰相はラウウェン・シュ・・・忘れた。
内容は何てことはない「ご機嫌よう、これから頑張ってね」って感じだった。
でも王様や宰相からの値踏みするような視線が耐え難かったな。
とても真剣でどこか焦っているような、それでいて下心もあるような。
ああ、あと木村さんが「私は戦いません。」って言い出した時は場が凍りついたけどサランが上手く取り繕ってくれた。
後は、街中の買い物や関所の通行に使う手形みたいな物をノーザ王から頂いた。
この手型を見せるだけでお店の物を貰えて、代金の請求が後から国に来るらしい。
ただ1日あたりの限度額があってそれを超える分は自分で払うんだって。
無くさないようにしよう。
国民に発表するのは明日だから自由に城から出ていいのは明後日以降になるとも。
それから午後は沢山の貴族にも紹介された。
もう老若男女沢山だ。
イケメンもいたし美女もいたしダンディなおじ様もいればマダムもいた。
心臓が破裂するかと思うくらいドキドキした。
だが名前は一人として覚えていない。
どんだけ他人に興味無いんだろ、私。
でも私の頭はパンク寸前だったのだ、と言い訳してみる。
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「わぁ。」
「素敵!お姫様みたい!」
木村と森は着せられたドレスと並べられた豪華なケータリングに夢見心地の気分だった。
「玲奈、凄くよくにあってるよ。」
木村は金髪に映える薄い水色の生地に同色のオーガンジーがふんだんに使われているドレスで普段のギャルのイメージとは真逆の妖精のような印象になっていた。
「くるみんこそ、めちゃカワだよ。」
森はアッシュピンクの生地にシルバーのラメがグラデーションのようにあしらわれていて背中に縦に細断が入っている部分だけ白地のレース生地が見える作りになっていた。
「小倉君と柳瀬君は流石だね。」
森もうっとりと遠くにいるタキシード姿の二人を眺めた。
「うん。凄く・・・カッコいい。」
木村は顔を真っ赤にして一点を見つめている。
本当はタキシード姿の小倉を他の女子に見せたくないくらいだ。
自分だけに見せて欲しい。
複雑な表情で小倉を見つめたが、彼の視線の先には・・・
「小嶋さんも綺麗~。」
そこまで言い切って森はハッとした。
「・・・そうね。」
木村の声のトーンが先程までと明らかに違う。
「あ、あ~、美味しそうなスイーツが一杯あるよ!」
話を逸らそうと綺麗な飴細工でコーティングされているケーキを口にした。
慌てて食べたせいか森の顔はリスの様に膨らんでいる。
そのスイーツを頬張る姿が何とも可愛らしくて木村も機嫌を直す。
「ホントだ。超美味しい。」
太っちゃうねなんて笑い合っていると、出入口から「クレイル公爵家ご一行様お成~り~!」との合図からその人と思わる人々が笑顔で会場入りしてきた。
それからは次々と貴族の紹介と共に本人たちが入ってくる。
「うげぇ、貴族ってこんなにいるの?」
「皆さん、髪がカラフルですよね。」
「そこ!?」
薄々気づいてはいたがこの世界の住民は髪色がバラエティに富んでいる。
そうこうしている内に次々に貴族たちから話しかけられ対応に追われた。
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「お前、見過ぎ。」
「んなっ・・・!?」
不意を突いた柳瀬からの忠告に小倉は顔を真っ赤にした。
「ちっちげーし。見てねーし。」
「確かにあのドレス姿は反則だと俺も思う。」
柳瀬はベージュの花柄レースを何層にも重ねたロングドレスを着こなし男性貴族に囲まれている愛華を見ながら囁いた。
今日は朝から王への謁見と貴族への紹介ということで、勇者7名、女性陣はドレス、男性陣はタキシードを着せられている。
「だからちげーって。」
「おっと、次が来たぞ。」
小声で合図した先を見ると妖艶な貴族の女性が近づいてきた。
「ふふ、勇者小倉様、柳瀬様。お初にお目にかかります。侯爵家次女の・・・」
こんなんばっかりだ。
小倉も柳瀬も女性の扱いには慣れているので笑顔で応対するが、内心違和感を感じていた。
確かに貴族にもパイプがあった方が何かと魔王討伐のサポートには有利だろう。
だが、当主の紹介よりもその家の若い娘の紹介の方に力が入っている。
そしてどうもその目に欲情が見えるのだ。
学校では純粋な「大好き!」という熱意がこもった目をしている女子ばかりだが、ここの貴族たちは「ヤりたい!」という目をしているのだ。
普通、異世界から来た素性もわからん男と高貴な淑女がヤりたがるだろうか?
女性の挨拶が終わり僅かな休憩が入る。
「はぁー、まずいな。」
小倉は男性陣に囲まれている愛華を見つめる。
「心配か?」
「ああ。ーって、ちげーし!」
「腐っても貴族。人の目もあるし滅多な事にはならないとは思うぞ。」
「わーってる。だが、この茶番がいつ終わるのかだけサランに聞いてみる。」
「了解。貴女の相手は任せろ。」
見えないように軽く拳を合わせた後、会場内を探し始めた。
「サラン、どこにいやがる?」
一通り会場を見渡した後、人を縫って会場脇の通路に入ると奥からサランの声がした。
「サラン、こんなとこにいやがったか。」
角を曲がると黒髪の女性と茶髪の男の子がサランと一緒にいた。
彼らは驚きのあまり言葉も出ないようで固まったまま小倉を見ていた。
黒髪の女性はその身に着けている物や驚きの仕草から明らかに位の高い人だとわかる。
男の子は2歳くらいだろうか?
不安そうに女性にくっついている。
サランは咄嗟にその二人を隠すように小倉との間に入った。
「どうかなさいましたか?」
「あ?えっと・・・」
集中力が隠れている女性と子供に移っていたので突然の質問に一度頭が白くなる。
「ああ、あの下品なお見合いパーティみたいなのはいつ終わるんだ?」
「下品な・・・おみっ・・・ぷぷ!」
サランは小倉の表現が壺に入ったようで「ぶはっ!」と吹いた。
「ふふふ、顔合わせはもう飽きてしまわれましたか?」
「っていうか長時間のパーティにする意味が無いだろ。顔合わせなら謁見と同じ感じで済むはずだ。」
「ふむふむ、なるほど。今後の参考にさせて頂きますよ。それならば・・・」
サランは自分の倍近くある背丈の小倉の腰に手を添えて来た道を戻らせた。
「ささ、終わりを告げに参りましょう!」
「ああ。」
小倉は後ろの女性と子供から自分を離したがっているようにしか感じられないサランの態度が気になったが、今は愛華を開放してやりたい一心で良しとした。
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貴族とのパーティは夕方までかかると聞いて絶望していたけど、開始から2時間もしないうちにお開きになったから助かった。
貴族たちも予想外だったようで一瞬ざわついたけど、サランの終了の合図に異を唱える貴族はいなかった。
小松原君と北野君だけは「俺たちの青春を奪うのか!」とか「人生初モテ期が!!」とか文句言ってたけど。
っていうかサランて謁見の時も壇上で王様の横にふつーに立ってたし実は偉い人なのかも。
支給された寝間着に着替えた愛華は、ベッドに仰向けに寝ながら今日あったことを考えていた。
そういえば明日は私たちの似顔絵と名前等の情報が国中に公表されるらしい。
その間私たちは城の敷地内の外れにある兵舎区画の訓練場で少し実践をするって話だ。
クフフ、楽しみ。
愛華は【スキル】画面の【スキル一覧】を開いた。
見た限りでは初期スキルとして《ファイ》《ウォー》《エア》《ソイ》の4つの魔法を覚えている。
《ファイ》・・・炎属性 攻撃魔法
《ウォー》・・・水属性 攻撃魔法
《エア》・・・風属性 攻撃魔法
《ソイ》・・・土属性 攻撃魔法
威力ランクは全てH。たぶん一番低い威力ランクなんだろう。
んもう、早く使ってみたくて使ってみたくて。
スキルは許可無く城内で使わないように散々サランから言われてたから使ってないけど、皆同じ気持ちだったことだろう。
「はぁ、にしても魔法使いかぁ。」
後衛サポートタイプだよなぁ。
いやいや!でも私の決意は固い!
もうこれしかないし!
ここまでの決意で愛華の意識は途絶え深い眠りに落ちた。
【名 前】柳瀬 拓 【クラス】ランサー
【レベル】1
【 Next 】5
【H P】45 【装備中】
【M P】20 【武器】 なし
【攻撃力】8 【頭】 なし
【防御力】5 【腕】 なし
【魔 力】5 【胴体】 Tシャツ+パンツ
【命中力】6 【脚】 スニーカー
【瞬発力】6 【アクセサリー1】なし
【 運 】2 【アクセサリー2】なし