夢魔ルルーラ誕生
「こっちじゃ!!」
東の森を駆ける影が三つ。
先行する小さな影は空中を飛行しており、その後に鎧姿の二つの影が続く。
「それで?サクラは何で勇者情報に詳しいんだ?」
小倉は前方を飛行するサクラに、ずっと引っかかっていたことを聞いてみた。
「うぬ?」
後ろから質問されたサクラは、少し飛ぶスピードを緩め小倉の横に着く。
「何故って、ずーっとこの森の主をやっておるのじゃぞ。以前の勇者に会った事くらいあるわ。」
「ええっ!?1000年に一度の召喚なんだろう?君、何歳なんだい?」
声をあげたのは隣で同じように走っている柳瀬だ。
「ばっかもーん!!精霊に年齢など関係ないわ!寿命でもあると思うてか!?」
「そ、そうなのか。この世界は何なんだいったい。」
柳瀬はブツブツと独り言を言いながら走り続けている。
「ふーん。じゃあ見た目が女の子なのは昔からなのか?」
「む。復活したばかりの赤子同然じゃからな。力が完全に戻れば妾だって・・・ぼんきゅっぼんなのじゃがな。」
サクラは遠い目をして答えた。
「マジか。」
「マジじゃ。」
ふいに始まった質問タイムだが、良い機会なので小倉は聞きたかったあの件を聞いてみることにした。
「あーそれよりさ、小嶋さん・・・ナーガを倒した勇者について教えてくれ。その・・・、ケガとかしてなかったか?」
「なんじゃお主、急に歯切れが悪くなっておるぞ?」
「そんな事は無いっ!無いぞ!」
いつものことながら恋愛のことになるとポンコツ化する。
小倉は、顔を赤くしながら全否定した。
「うーぬ。封印されておると意識が朧気でな。」
サクラは小さな指を顎にあてて、「うーん」と記憶を探り出す。
「なんとなくの記憶じゃが・・・、確か、自分に攻撃魔法をかけて死にかけておったな。」
サクラの頭の中に湖でのぼやけた記憶が蘇る。
「はぁ!?」
「ど、どういう状況だ?」
二人は深刻そうにサクラの続きの発言を待った。
「いや、全くわからん。ぼやけた意識じゃからのぅ。」
柳瀬がちらりと小倉を見ると血の気が引いた顔をしているのがわかった。
「一応勝ったんだよな?」
黙ってしまった相棒の代わりに柳瀬が深堀する。
「ああ、じゃから妾は復活できたのじゃ。あんのクネクネした気色悪いナーガめを倒したのは、勇者小嶋と言ったな?感謝の意を伝えて欲しい。」
「わかった。伝えておくよ。それと死にかけていたと言ったが怪我か?その後どうしたのか覚えているか?」
「覚えておらん。じゃが勇者なんじゃから直ぐに自分で治すじゃろ。復活後に見たら死体も転がっていなかったしの。」
それだけ言うとサクラは飛行速度を上げまた先頭へ戻った。
「・・・」
「尚麒、確かにあの新聞にはハイロを出て北へ行ったという内容だった。」
「ああ。」
「つまり、森での戦闘は新聞の内容の前に起きた件で小嶋さんは確実に無事だ。お前だってわかってるだろ。」
柳瀬は小倉に言い聞かせるように言った。
「・・・そうだな。」
そうだな、じゃねーよ!
小倉は大きくため息をついた。
やっぱ一緒に行動すべきだった。
例えそれで小嶋さんが俺のことを嫌いになったとしても、その件でずっと恨まれたとしても、無理矢理一緒にいるべきだった。
「何やってんだ、俺は。」
しばらく進むとサクラが先導を止め停止する。
後に続いていた小倉と柳瀬は荒い息を整えてやってきた。
「ここじゃ。」
サクラが案内したのは、石台の上に割れた石碑のようなものが転がっている開けた場所。
「ん?なんだあの石板は?」
柳瀬が石板に興味を示し近付いた。
サクラもふよふよと飛びながら砕けた石板を一緒に覗き込む。
「これは妾が封印された後にできたものじゃからよくわからん。じゃがこの魔術形式からして、この先の湖に行けないようにしてあった何かじゃろうな。大方、この先のナーガの住処に行かせないようにした人間の苦策といったところか・・・」
「魔術形式?そんなもの見当たらないが?」
「妾には見えるのじゃ。褒めよ。称えよ。」
小倉は石板に気を取られている二人を守るように、武器を構えて辺りを警戒している。
「・・・にしても嫌な感じだな。」
「尚麒も感じるか?」
二人はこの場所に来てから肌にビリビリとした嫌な空気を感じていた。
「これが魔力溜というやつなのか。」
嫌な負のオーラが身体にまとわりつく感覚がして、目に見えないそれを振り払いたい衝動に駆られる。
「魔力溜は無から魔物を創造するほど強力じゃからのぅ、勇者じゃなくとも意外と感の良い人間でも感じるぞ。」
「そうなのか。」
二人は霊感とか超能力とかに近い、所謂シックスセンスがこの世界にもあるのかもしれないと考えた。
「んで、肝心の魔物はいつ出るんだ?」
「わからんが数日中には出現するじゃろう・・・」
サクラには、広場一体に網目のように広がりドクドクと脈打つ淀んだ魔力が見えていた。
「数日か・・・森に泊まる準備してねーわ。一度ハイロに戻るか。」
「そうだな。準備を整えよう。」
「んにゃにっ!?待て待てぃ!」
街に戻ろうとする二人の前にサクラは急いで立ちはだかった。
「あん?なんだ、まだ何かあるのか?」
「お主らが町に戻っている間に復活したらどうするつもりじゃ!?こんなか弱い精霊には何もできんぞ!?泣くぞ!?」
「はぁ?」
二人は顔を見合わせて困った顔をしてしまった。
「本当に泣くぞ!?泣く・・・ぅっ。」
言ってるそばから泣き始めたサクラを見て小倉は頭をポリポリ掻いてしまう。
「不憫だ。」
柳瀬は再びいたたまれない気持ちになってしまった。
「じゃあサクラ、お前、恐いなら一緒に町まで付いて来いよ。」
小倉は精霊なら宿代タダにしてくれるかなとか割と具体的に考え始める。
しかしサクラの涙目は直らない。
「うう、妾はこの森の主じゃ。この森からは出られん。」
「はぁ?何で責任感だけ強いんだよ。」
「違うわ!妾も超絶着いて行きたいが・・・物理的に出られんのじゃ。」
「物理的に?」
柳瀬が眼鏡を光らせる。
「うぬ。森が妾を存在させるのじゃ。だから森の外に妾の存在は無いのじゃ。」
「つまり・・・」
「森の外だと存在が消える?」
二人の解にサクラはコクコクと頷いた。
小倉と柳瀬は再び顔を合わせため息をついた。
「何か今日凄いため息ついてるわ、俺。」
「そうだな。何度も聞いてる。とはいえ、やはり何の準備も無しにモンスターの出る森に泊まるわけにはいかない。聞き分けてもらうぞ、サクラ。」
「そういう事。」
二人はそう言うと大の字で空中に浮かぶサクラの両脇をスタスタと抜け、ハイロの方角へ歩き始める。
「またな。今度はもっと飴玉持ってくるから。」
「甘い物ばかりだとバランスが悪いだろう、尚麒。野菜や肉も与えるべきだ。」
「お、その案採用。」
二人は全くサクラの方を気にする素振りも見せない。
勇者ともあろう男二人がなんと薄情な事だろうか。
こんな幼気な少女を魔物の出る森に置き去りにするとは。
こんな事を考え絶望したサクラに泣くことを抑えることは不可能だった。
「う・・・う・・・うわああああああん!!!魔力溜に置いて行かないでぇぇぇ!!!」
サクラは今までで一番大きい声で泣き出した。
びぇぇぇぇぇぇええええん!
ビリビリビリビリビリ!!!!
二人は後ろで大泣きしている声が、まるで衝撃波のように聞こえて驚く。
振り返ると、先程まで自分たちがいた魔力溜に紫の稲妻が走っている。
同時に爆弾でも落ちたような衝撃が走り木々がギシギシと撓る。
「なんだっ!?」
二人は衝撃波から顔を腕で守りながら自分たちがいたほうを確認する。
なんとか薄目を開けていると、紫色のうねうねしたものが集まり形を形成していくのが見えた。
それを目の前で見ていたサクラは泣くのを止めて震えだす。
「たっ、大変じゃ・・・!きたっ・・・きたぞ!!」
「??」
「サクラ?」
衝撃波も落ち着き、辺りを舞っていた木の葉がひらひらと地面に落ち始めた。
「来たのじゃ!!!魔物が生まれるぞ!!!」
それを聞くと同時に小倉は『草薙の剣』を握りしめ動いた。
柳瀬も槍を構えて小倉に続く。
二人はサクラの前に出た。
「ちなみに、この魔物とやらが想像以上に強かったら俺らは逃げるぞ、サクラ。」
「なにぃ!?」
自分を守るように武器を構えた二人を頼もしく思ったのも束の間、小倉の逃げる宣言にサクラが叫ぶ。
「当然だろう。レベルを上げて再挑戦すればいい。」
柳瀬も同意する。
小倉も柳瀬もまだ死にたくはない。
まだ勝てないなら勝てるまで強くなってから戻ってくればいい。
当然の理論だ。
「・・・わかった。じゃがそれまでどれだけの被害が出るのか想像もつかんぞ?」
「は?」
小倉は一瞬意味がわからなかった。
「まさか、また人を食うとか言わないよな?」
「なっ!またなのか!?」
柳瀬の嫌な記憶と共に吐き気が蘇る。
「違うわ!いや、違うというかそれは魔物の種類によるじゃろう。お主ら何も知らんのじゃな。魔物やアンデットは人を積極的に襲う種族じゃ。類人種が嫌いなのじゃ。この東の森の魔力溜で誕生したのであれば、真っ先にハイロへ向かうじゃろうて。強い魔物程、人が沢山いる方を何となく感知するようじゃしな。」
サクラが説明している間にドロドロとした魔力は形を成して行く。
三人はそれを見つめながら認識を一致させた。
小倉と柳瀬は、町の人たちの安全が自分たちにかかっていることを理解し、渋い顔をしている。
「なるほど、ここで止めないと町に行くってわけか。」
柳瀬も覚悟が決まったようで鋭い眼光を光らせ眼鏡を中指で直す。
大きく集まった魔力が「ボチャ!」という大きな音をたて弾けた。
「生まれるぞ!」
サクラが注意を呼びかける。
ドロドロの魔力の中から羽を生やした可愛らしい生物が生まれた。
「キュキュ?」
白くフサフサとした毛が二頭身の全身を覆い、小さなコウモリ羽でパタパタと飛んでいる。
何と言ってもクリクリとした大きな目が可愛らしい。
誕生したばかりの魔物は三人に気付くと、尻尾を振りながら首を傾げ潤んだ瞳で見つめた。
「おい・・・ぬいぐるみみたいなのが出て来たぞ、サクラ。」
「ああ、何かのゆるキャラみたいだな。」
しかしサクラの顔は険しい。
「あれは・・・ルルーラか??」
目を細めて魔物を睨むサクラの様子から小倉は魔物への警戒を強める。
「強いのか?」
「いいや、弱いぞよ。お主の剣ならば一撃であろう。じゃが・・・」
ルルーラと呼ばれる可愛らしい魔物はキュルキュルと鳴きながら空中で一回転をしてみせた。
「ぐっ・・・あれは遊んでほしいということか?」
無邪気なルルーラ見た柳瀬は非常に苦しそうな顔をしている。
「お前、小動物好きだもんな。」
柳瀬の生きがいを知っている小倉は呆れたように言った。
横目で見た相棒は、頬を赤らめて苦しそうに魔物を睨んでいた。
「馬鹿者!早う息の根を止めんか!」
だが完全に油断している二人にサクラからの怒号が飛ぶ。
「!!」
その怒鳴り声に真っ先に反応したのはルルーラだった。
こちらを警戒したようでスローロリスのような丸い目から敵意を感じる細目へと変わる。
「おいおい、何か怒り出したぞ。」
油断していた小倉は『草薙の剣』を構え直した。
柳瀬は愛くるしい生き物を怖がらせたサクラを恨めしそうに見ている。
「サクラが怒鳴るから怖がっているぞ。」
さらに「キキー!」という高い声で威嚇し始めた。
そんなルルーラを見て柳瀬は心を痛めた。
「いいから!早う仕留めよ!こやつは・・・!!!」
サクラがそこまで言いかけるとあたりが白くぼやけだす。
「なんだ!?霧!?」
「遅かったか!!」
見る見るうちに数メートル先も見えない程に濃くなる。
そして小倉と柳瀬の二人を強烈な眠気が襲う。
「お主ら~!!この魔物はな!・・・・なの・・・じゃ!」
サクラが何か怒鳴っているが聞こえない。
ドサッ
二人は深い眠りに落ち、その場に倒れた。
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アウシュトロンの頭上で気配がする。
「陛下。サラン様からです。」
「うむ。」
ここはノーザ国王アウシュトロンの執務室。
大きな机に山のように積まれた書類と向き合い、アウシュトロンは頭上からの声に応えた。
書類から目を離さずに左手を上げると、天井から腕が伸びる。
鎖帷子のようなものを着ていると思われるその腕の先には一枚の紙切れが握られている。
アウシュトロンはそれをただ受け取る。
直ぐにその手で紙切れを開くと、
「ヴィゼルハイツ」
ただそう書かれていた。
それを確認すると表情を一切変えず、机の上の蝋燭の炎でその紙切れを燃やした。
それから手にしていた書類を読み終えると、横にある豪華なソファに深く座り込んだ。
頭を押さえたその顔には疲労がうかがえる。
しばらく考え込むと、アウシュトロンは口を開いた。
「黄鉄に勇者小松原と勇者北野を捜索させるよう相談するのだ。その代わり、レッドアイを勇者木村と勇者森に付ける。選考は任せる。」
「御意に。」
それだけ言うと天井の気配は消えた。
部屋の中に自分だけの世界が戻って来る。
彼は自分以外の気配がしないことを慎重に確認すると、大きなため息をついた。
そして執務室の窓から見える下の階の中庭に二人の少女の姿を見つける。
ヴェルダ城中央区画にあるこの庭はすっかり木村と森のお気に入りの場所になっていた。
城内の高い階層にも関わらず綺麗な水が汲み上げられ、花壇の横を心地いい音を立てながら水が流れている。
そして庭に放たれている小鳥の囀りとのハーモニーは最高に癒されるのだ。
二人は中央にある猫脚ベンチに腰掛け、あるノートを覗き込んでいた。
「えーっと、今日は『ファンデーション』『ピアノ』『冷蔵庫』の三つだね。」
森は相方に確認する。
その内容に木村がピクりと反応する。
「ねぇ、くるみん。そこに『ピザ』も足さない?」
まだ未調査の単語群から『ピザ』の文字を指さした。
「でたよ、玲奈のグルメ紀行!」
「調査が必要だと思うの。」
木村は真剣な表情で訴えた。
「駄目。昨日も『パフェ』を検証しに城下町のカフェに行ったでしょ?」
「ええ。桃が入ってたわ。」
思い出すだけで涎が分泌される、濃厚なクリームとアイスを使用した絶品パフェだった。
「そう。とっても美味しい変哲もないパフェだったよね?食べ物全般は私たちの世界と大差ないってわかったよね?」
「ええ、そうね。でもたまに変なのもあるじゃない?お米とか。」
「そうだね。あれは・・・驚いたね。」
二人は二日前に食べた料理を思い出す。
それは南大陸に伝わる『肉乗せ丼』という食べ物だ。
米という穀物の上に何の肉かわからない肉が乗っており、甘辛いタレがかかっている料理だった。
王都でも南の地区に一店舗しかないレアな料理だ。
しかしこの世界で『お米』と呼ばれているそれは、木村や森が知っている形とは違い丸みが強かった。
発泡スチロールを細かくしたような形でなんとも食感が悪い。
味は確かに米なのだが。
「あれはいただけないわ。」
木村は首を振りため息をついた。
「結構カルチャーショックだったよね。」
「そーね。この世界にはとても寿司は望めないわ。」
二人の頭の中でマグロ、甘海老、ウニ、イクラが回転寿司のように回る。
「もうっ、そういう事言わないでっ!食べたくなっちゃう!」
「ほう、何が食べたいのだ?」
「「!!」」
二人は、寿司の連想中に突然声をかけられ驚いた。
聞き覚えのある威厳に満ちた男性の声。
そこには執事と侍女と護衛をぞろぞろと連れて歩くノーザの国王、アウシュトロンがいた。
「へ、陛下!?」
森が驚いた声をあげ立ち上がる。
「食べたい物があるなら申すがよい。用意させよう。」
木村と森は顔を見合わせた。
まさか「寿司が食べたい」などとこのファンタジーの世界で通用するはずがない。
材料と作り方を教えればいいのだろうか?
だが新鮮な生の魚を手に入れるところから始めなければいけないし、寿司というのは職人でも作るのが難しいと言う。
プロの料理人でもない二人が正確な作り方を知っているわけでもない。
考えるだけで億劫だ。
「・・・この世界には無理よ。」
「!」
木村のこの世界を見下したような発言に、空気が凍りつく。
アウシュトロンも眉を上げ、後ろの従者達もどことなく顔色が悪いようだ。
玲奈、空気読んで~っ!!
「い、いえっ、お気持ちだけいただいておきます!」
焦った森が咄嗟にフォローする。
首が外れそうな勢いでペコペコと頭を下げる。
「・・・そうか。足りないものがあれば何なりと申すが良い。」
「ありがとうございます!」
凍りついた空気が溶けたことを確認し森は笑顔だ。
一方木村はムスっとして目を合わせようとしない。
「くるみん、時間ももったいないしそろそろ行こ?」
「あ、はは。」
だからぁ~時間が勿体ないとか言っちゃあ失礼だからぁ!
森の笑顔が引きつる。
そんな二人の様子を見て、アウシュトロンは今日も二人が外出するのだと察する。
「今日も出るのだな。其方らの欲するものは無理でも、せめて菓子でも用意させよう。」
そう言うと後ろに控えていた侍女に目で合図する。
侍女は一礼するとお持たせを用意しにその場を後にした。
「いいんですか?いつもありがとうございます。」
森は自然に頭を下げた。
実は二人は最近、アウシュトロンから差し入れを貰う事が多かった。
焼きプリンやマフィン等、とても美味しい王宮スイーツを堪能していたのだ。
「それで・・・元の世界に帰る方法は見つかりそうか?」
「!」
木村は痛いところを突かれたように喉を詰まらせた。
「それは・・・まだ。」
「そうか、苦労をかけてすまないな。」
心がこもっているとは思えない謝罪の言葉に木村の心が引っかかる。
「本当に?本当にそう思ってるの?」
「れ、玲奈。」
止めなよと止める。
しかし木村は止まらない。
「・・・本当に、知らないの?魔王を倒さなくても私たちを返す方法を。」
普通の女子なら木村のこの鋭い眼光に睨まれればすぐに心が折れてしまうだろう。
だが相手は一国の王だ。
顔色一つ変えることはない。
「ああ。すまぬな。」
アウシュトロンはきっぱりと言い放った。
白を切っているのか真実なのか、その表情からはイマイチ読み取れない。
木村はそんなアウシュトロンから真意を読み取ろうと睨むように詰め寄った。
そんな木村の態度に森が再び焦る。
んもー、玲奈ってば王様相手に食い下がらないでよ~!(泣)
森は豪華な寝床に豪華な食事を与えてくれるノーザには従っておく方が吉と考える従順派だ。
そんなノーザのトップの王に向かって失礼な態度は取りたくない。
自分たちの処遇を決められるのはノーザ王なのだから。
機嫌を損ねて牢屋行き・・・そんな事だってあり得るのだ。
森は何とか話題を変えようと頭を回転させる。
「ああっ、そうだ!私、聞きたいことがあるんです!」
森はわざとらしくハイハイと手を上げて二人の空気に割って入った。
「どうして勇者戦記は六巻以降が無いんですか?」
「!」
アウシュトロンは顔色一つ変えなかったが、彼の後ろに控えていた執事が顔色を変えた。
ふむと一考するとアウシュトロンは口を開く。
「それは・・・民衆には刺激が強すぎるからだ。」
思いがけない答えに森と木村は目を丸くした。
「え?」
「それってどういう・・・?」
「民衆に悪影響を及ぼす内容が含まれるため非公開にしておるのだ。」
「そ、そうなんですか。」
「グロいってこと?」
「たぶん。。。」
二人が戸惑っていると、頼まれていた侍女が袋を二つ持って現れた。
袋からはふんわりとバターのような匂いが漂う。
「こちらに。」
侍女が頭を下げながらお菓子の用意ができたことを告げる。
「うむ。では受取り行くが良い。」
「はい、いただきます。」
森だけが素直に返事をし木村は受け取ろうとしない。
しょうがないので森が木村の分まで受け取るとぺこりとお辞儀をしこの場を後にした。
しかしアウシュトロンは、あんなに無礼な態度を取られても怒った素振りを見せてはいない。
「フッ。気の強い娘だ。」
微笑んだアウシュトロンの瞳は木村の背中を捉えていた。




