牛の悪魔
サランは目に赤白い光を灯して執務室で天井を見上げていた。
その顔は面白い玩具を見つけた子供のように笑顔だ。
「そうですか。ついに国境越えを・・・クスクス。紅蘭も大変ですねぇ。あ、わかってるとは思いますがあちらの防人に遭遇しても問題を起こしてはいけませんよ?」
瞳の中の光が蠢く。
「クス。私の感は結構当たるんですよ?」
また瞳の中の光がわずかに動いた。
「ええ。こちらからは以上と言いたいところですが・・・」
ここでサランの顔つきが真剣なものに変わる。
「緑玉からの最終連絡から半日以上経ちました。」
サランは椅子から立ち上がり、執務室の窓から王都を見下ろす。
「青月と黄鉄には既に連絡済です。紅蘭も十分に警戒してくださいね。まぁ、今はあなたが一番安全な場所にいるかもしれませんが。」
次にサランの瞳の光が動くとシュッと消えた。
サランは冷徹な、見様によっては恐怖を感じさせる顔で王都を見下ろした。
「やってくれましたね・・・ラウウェン。」
その声には明らかに怒りがこもっていた。
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「勇者様!コッチだよ!フフフ!」
「はやくはやく!フフフ!」
ピンクと緑の光が数m先をキラキラと飛んでいる。
「本当にこっちにナンディーがいるんですよね?」
アンデットがいた洞窟で一泊して再び森の中を西へ。
いけどもいけども木ばかり。
少々飽きてきた。
「ん?これさっきも見ましたけど、同じところ回ってません?」
見ると何かの角の生えた動物の頭蓋骨に骨の首飾りを付けた木の棒が、地面に深く刺さっている。
「そんなことないよ!」
「そうだよ、疑うの!?」
信用できないので愛華は【マップ】を開く。
「確かに・・・大丈夫みたいですね。」
【マップ】上では森を西に歩いて来ているし、これから進む方角は真っ黒で未踏の地だ。
「勇者様のそれ、ずるいよ!」
「そうだよ、ずるいよ!」
「はいはい。」
愛華はあまり相手にせずに【マップ】を閉じる。
ということはこの骨の飾りは何なのか?
ここらの森のいたるところにあるのか?
「じゃあ、この飾り棒はいったい何なんですか?」
試しに聞いてみる。
「し、知らないよ!昔からあるんだ!」
「ほ、ホントだよ!?」
「そうですか。」
怪しい。
すごく怪しい。
何かを隠してる?
とりあえず警戒して【アイテム】から【コキュの実】を口の中へ。
さらに【キュアボトル】を2本、穿いているショートパンツの左右のポケットに入れた。
もう【コキュの実】では回復役は見込めないので、駐屯地でもらった【キュアボトル】を仕込むことにしたのだ。
そして何が起きても良いように『双月』を両手でしっかり握りしめて進む。
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「何だか雨が降りそうだね。」
レイが分厚い雲の空を見上げている。
憂いた顔も素敵です、と見惚れていた和代がハッと我に返る。
「それでは・・・風邪を召してはいけませんので雨宿りできそうな場所を探しましょうか?」
その提案に肩をすくめたのは智康だ。
「こんな川に挟まれた場所でかい?」
現在、6人がいるのはクレール川とテノール川に挟まれた場所にあるアールヴの森だ。
この内、南にあるテノール川を渡り南下すると直ぐにノーザ領となる。
川と川に挟まれた部分は確かに深い森なのだが陸地としては5km程しかない。
「なら・・・むしゃむしゃ・・・川を・・・むしゃむしゃ・・・わらるべきですわ。ゴックン。雨風に当たるなんて有り得ませんもの。」
切り株に腰掛けながら何かの食べ物を食べながら彩乃が提案を後押しする。
「でもね、川を渡ると森の中では国境の目印となるものが無いみたいだからね。」
美しい仕草で顎に手をあてて考えるレイの横顔はどんな女性でも虜にしてしまうだろう。
和代はうっとりとその仕草を見つめている。
「アリアディーナが国境は超えないようにって言ってたしな。」
智康の発言に和代は再び我に返り横目で彼を見る。
「アリアディーナ様ね・・・智康、あなたまだ諦めていないの?」
「む?もちろんだけど?」
智康は和代に顔を近づけて「嫉妬かい?」と挑発している。
「はぁ。あなたの女癖は相変わらずね。」
和代は疲れたようにため息をついた。
普通に考えて異世界の宗教国の巫女を落とそうとするなど正気の沙汰ではない。
しかもその巫女も自分と同じこの金髪美形王子様に夢中なのだから。
「放っておきなさいな・・・むしゃむしゃ・・・このならでは智康が・・・むしゃむしゃ・・・一らんおそめチックなんれすから・・・うっ!!!」
ドンドンと胸を叩いて青い顔をする彩乃に毘奏が黙って飲み物を渡す。
「クスクス。彩乃が喉を詰まらせて死んでしまうのは見たくないし、テノール川を渡って雨をしのぐ場所を探そうか。」
レイの一言で全員が広げていた食べ物などを片付け始め、出発準備を始める。
しかし和代だけはある疑問を解くためにそれとなくレイに近付いた。
「どうしたんだい、和代?」
レイはいつも通り優しい。
「レイ様。南に行きたがっておりますね?何かあるのですか?」
「おや?和代にはお見通しみたいだね。」
見抜かれたのに全くの余裕の笑みは崩れない。
一方、お前だけはわかってると言われたようで和代は嬉しくなり少し頬を赤らめた。
「国境越えの懸念があるのであれば、川を渡るのはテノール川でなくクレール川であるべきでしたから。」
その言葉にレイは満足そうに微笑んだ。
「流石だね。」
「い、いえそんな・・・」
和代は両手で赤くなった頬を隠す。
「コホン。そ、それで、何故なのか教えてはくださらないのでしょうか?」
「理由は単純。僕の我儘さ。」
「へ?」
和代は間抜けな声を出した。
レイ様が我儘を?有り得ない。
「和代は気にならないのかい?ノーザに召喚された勇者達を。」
「それは・・・正直、気にはなります。」
「そう、僕らと同じ、異世界から召喚されて勇者に祭り上げられている彼らとコンタクトを取りたい。」
「そういう事でしたか。ですがこのような森の中では・・・」
無理だろうと言おうとした。
「わかってる。会うことはないだろう。だから少し国境近くに行ってみて帰るだけだよ。それに、アリアディーナ様が言うにはそのうち会えるらしいしね。」
正直、隣の国の勇者と協力しない意図もよくわからなかった。
そしてその忠告を無視して国境を越えようとした場合、防人がどのような行動に出るのかも見たかった。
レイは広げていた絨毯を異次元へ戻し、全員の顔を確認していつものように笑った。
「さぁ、行こうか。」
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「勇者様、もう少しだよ!」
西へ歩いてさらに山が近づいてきた。
途中に出てくるモンスターも大体レベル35前後になって安定している。
おかげで昨日の戦闘もあり、またレベルが上がって41になった。
そう言えば昨日の物理攻撃が効かなかった敵は、【データ】上では幽霊のリーパーだった。
骸骨はアンデットのスケルトン。
この世界では幽霊系に物理攻撃は効かないのかもしれない。
「ん?」
なんだかさっきよりもあの骨の飾り棒が沢山ある。
気味が悪い。
ポツ。
横目で骨の飾りを見ているとポツポツと雨が降り出した。
「げ!雨!!」
ただでさえ肌寒い北の地なのに雨に降られてはより一層身体が冷える。
「か、帰りたいです。」
愛華は黒いローブをぎゅっと抱いてブルブルと震えた。
「そんなこと言わずに!さぁ、勇者様、ここだよ!」
「着いたよ!フフフ!」
「ここ・・・ですか?」
愛華は妖精に言われるがまま木と木の間を抜けた。
そこは木々が少し開けている空間だった。
真っ先に目に入って来たのは、一際巨大な動物の頭蓋骨。
トラックぐらいある大きさだ。
牛なのか鹿の骨なのかわからないが、巨大な枝分かれした角が付いている。
そしてその前にちょこんと台があり、色々な骨やら瓶が置かれている。
まるで祭壇のようだ。
そして臭い。
非常に獣臭い。
雨が降ってるのにその湿気に混じってかなり臭かった。
「フフフフ!!やった!」
「アハハ!起きてよ!人間を連れてきたよ!」
「んなっ!」
やっぱり!
また騙された!
いや、なんとなくわかってはいたけどさ!
ゴゴゴゴゴゴ
「何!?」
地震のようだが違った。
目の前の大きな頭蓋骨が揺れ出したのだ。
「アハハ!今度こそ終わりだよ、勇者様!」
「死ぬところ見せてね!」
「はぁ?」
この世界の妖精はなんと性格が悪いのか。
なんて考えている暇はない。
巨大な動物の頭蓋骨が宙に浮かび、あるはずの無い肉がどんどん付いてくる。
愛華も雨に打たれながら呆気になって見続けてしまうほど見事な現象だ。
何もない空間からどんどん赤い糸のような血管のようなものがシュルシュルと骨にまとわりついて肉を形成していく。
しかも、胴体まででき始めている。
あっという間にお腹のあたりまで体ができると、大きな口をぐわっと開けた。
「オオオオオオオオオオオオ!!!」
大きな咆哮だった。
雨で隠れていたはずの森の鳥たちがバタバタと飛び立ち我先にと逃げ出す。
身体ができていくと愛華の視線はどんどん上に上がっていく。
足までできあがると、二本の足で立った状態で9m近くあるからだ。
見上げた愛華の顔に本降りになってきた雨があたる。
背の高い周囲の針葉樹よりも頭が飛び出ている。
「大きい・・・」
唾をのんだ。
大きな蹄の後ろ脚で立った状態だと上半身が下半身よりも大きいので、どことなくゲームに出てくるミノタウロスに似ているが、それよりももっと動物的な要素が強い。
上半身は茶色い毛がモサモサと生えているが、前足部分には毛が生えておらずゾンビのような紫混じりの気味の悪い肌色をしている。
それに前脚は蹄ではなく人間の手のようだが親指だけが手首くらいの位置にあり、全ての指から長い爪が鋭く光っている。
下半身は毛がモサモサとは生えておらず、黒い短毛か皮膚をしていて黒毛和牛やドーベルマンのようだ。
尻尾の先まで出来上がったところで最後に目のくぼみに赤い繊維が入り目に赤い光が灯る。
その赤い光の目がギョロりと顔の周りを飛ぶ妖精を見た。
「フフフ!その勇者生意気なんだ!食っていいよ!」
「そうそう!欲しかったでしょ?アハハハッ・・・」
ガチンッ
「「え?」」
愛華と緑色の妖精の声が重なった。
ピンクの妖精が一瞬で食われた。
「ピルケェェェェェェェ!!!!」
聞いたこともないような声で緑色の方の妖精が叫んだ。
「ウオオオオオオ!足リヌ・・・!!モット!!モット魂ヲ!!!」
「なにを!!何してるんだ!!!何してるんだよ!!!食うのはコッチの人間だ!!」
妖精は小さな指で愛華を指さした。
「我ハ偉大ナル神モラクス!!ピクシーゴトキの指図ハ受ケヌワ・・・!!」
「なんだと!悪魔堕ちしたくせに!!」
「グヌゥ黙レ・・・!」
「女王様に言いつけてやる!!お前なんてもう誰も信仰してないぞ!」
「黙レェ!!」
モラクスは前脚の鋭い爪で緑の妖精を切り裂いた。
「うわああ!!」
ヒュン
「ヌゥ!?」
しかし愛華が右月から発した魔弾でその手を弾き、緑の妖精は急所を外し傷口から緑の光を漏らしながら雨と共に落下する。
「あ。つい。」
つい緑の妖精を助けてしまった。
「貴様・・・人間ゴトキガ我二傷ヲ負ワセタナ!」
その言葉で愛華は驚愕する。
「傷って・・・エエーーーーーーーーーーーーーーーー!!!???」
目玉が飛び出そうだった。
モラクスのHPバーを見ると1mm程度しか削れていなかったのだ。
強すぎる!!!
「我二縋ッテオキナガラ信仰ヲステ、コノヨウナ姿ニマデサセテオキナガラ・・・ツイニ我二牙ヲ向ケルトイウノカ・・・・!!!」
「何を言って・・・」
「許サン・・・!!!人間ドモォォォ!!!」
モラクスは両前足を地面にドスーンとついて牛のように四つん這いになった。
すかさずその前足の爪で愛華を裂こうとしてきた。
「きゃあ!」
巨体のためリーチがある。
一撃目はなんとか宙返りで避けられたが、反対の腕による二撃目を着地と同時に受けてしまう。
「んああああっ!!」
激痛が走る。
そのまま飛ばされて一本目の木を打ち破り二本目の木の幹に打ちつけられる。
「くっ・・・」
自分のHPゲージが一気に1/3減って6割くらいしか残っていない。
強すぎる!
神だったって本当みたいね。
どうしよう・・・逃げようか。
起き上がろうとした時、既にモラクスが角をこちらへ向けて突進してきた。
ヤバい!!
慌てて左へジャンプして転がり避ける。
そのすぐ脇を物凄い風圧と雨を弾く水飛沫が横切り、ドスーン!!!という凄い音と衝撃がする。
モラクスが頭突きした個所は、木々が潰れ砲弾でも落ちてきたのではないかという有様だ。
「ヌゥ・・・チョロチョロト。」
鼻と口から蒸気のように息を吐きながら赤い目をこちらへ向けて振り向いた。
ヤバいヤバい。
あと1回か2回くらうだけで死ぬ!!
愛華の足は震えだした。
「ぉぃ・・・ぅ・・しゃ・・ま」
「!?」
見れば少し遠くの地面に、さっき落ちた緑の妖精が死にかけて倒れている。
「ち・・・らか・・して・・・げる」
「!?」
本降りになってきた雨もあり、なかなか聞き取れない。
正面を見ると、またモラクスが頭を下げて角をこちらへ向けてている。
もたもたしていると先程の突撃がくる。
「なに!?なにを言っているの!?協力してくれるの!?」
体は正面のモラクスに向けたまま、目線だけ遠くの妖精へ向ける。
「ぼく・・・う・・い・・・て。」
「何!?何て言ってるの!?」
愛華は妖精の命がけの声掛けの中に何かこの窮地を脱するヒントがありそうな気がしていた。
モラクスは、右前脚で手前に地面をなぞっている。
いわゆる、突撃前のあれだ。
「くっ!」
愛華は仕方なくモラクスに背を向け、雨で濡れた泥の中に光る緑の妖精に向けて走り出した。
それと同時くらいにモラクスも雨でぬかるみ始めた地面を思いっきり蹴る。
後ろからドドドと凄い音が近づいているが一切振り返らずに、地面の緑の光まで手を伸ばしジャンプする。
「届けぇぇ!!」
妖精を泥ごとすくい上げるとそのままの勢いでゴロゴロと横に転がり、モラクスの突撃を避ける。
またすぐ横を物凄い風圧が通り過ぎ、その先からドスーン!!と凄い音がする。
「はぁ・・・はぁ・・・生きてる!」
「グヌゥ・・・マタシテモ!」
両手を確認すると、先程泥や土と一緒に緑の妖精が弱った様子で握りしめられていた。
「で?さっき何か言ってましたか!?」
「フ・・・フフ・・・」
緑の妖精はふいに笑い出して光を強くしている。
「!?」
まさかまた騙された!?
強くなった光は広がりやがて愛華を包み込む。
「えっ?何!?やめてください!何っ!?」
手に持っていたはずの妖精は消えて全て光へと変わる。
まさか私攻撃されてるの?
しかしHPゲージはそのままだ。
『いいから僕を受け入れてよ』
!?
「頭の中で声が・・・!!」
『勇者様の力になってあげる』
「ホゥ・・・ソレガ妖精の秘儀カ。見ルノハ初メテダ。」
「秘儀・・・」
『そうだよ、妖精は命と引き換えに生物に力を与えることができるんだ』
雨雲からゴロゴロと音が鳴りだし上空がピカピカと光り出す。
「シカシ所詮ハピクシーノ力。」
モラクスはまた頭を下げて角をこちらへ向け始めた。
愛華もモラクスの突撃に備えて構える。
『僕とピルケの仇をとって』
何を勝手な事を。
そっちが勝手に私をモラクスに食わせようと連れて来て自爆したんじゃない。
自業自得でしょう。
モラクスが地面を蹴って一気に突進してくる。
『フフフ!妖精は楽しいことが好きなんだ』
今度は右にジャンプするが大きな角の先が愛華の足をかすめる。
「っ!!」
かすった左足からプシュッと少量の血が出て雨に消える。
『今は、勇者様に協力してあのモラクスに一泡吹かせることのほうが楽しそうなのさ』
ゴロゴロと濡れた地面を転がりながら、HPが半分くらいになってしまったことを確認する。
『ピルケもきっとそう言うよ』
「くっ・・・」
愛華は急いで立ち上がり、右ポケットの中のキュアボトルを飲み干す。
キラキラッ
回復と同時に近くのどこかでドカーンと凄い音がする。
どうやら雷が落ちたようだ。
ピカッと黄色に光った時にモラクスがまた角をこちらへ向けているのが見えた。
『さぁ、時間が無いよ、僕を受け入れて!』
「ふぅ。わかりました・・・・」
もう迷ってる暇はない。
やってみてダメなら全力で逃げよう。
『さぁ、僕を受け入れて・・・僕の名前は・・・』
「名前は?」
『 エルカ 』
愛華の目が見開かれ全身の緑の光が強くなる。
ゴロゴロと光る雨の中、緑色の光が愛華を包む。
同時に愛華の中に何かが流れ込んでくる。
目を閉じて力を感じる。
こちらに転移された時と似ているが、あの時のような気持ち悪さはない。
寧ろ暖かい感じだ。
「ふぅ。」
目を開けると目の前に突進してきたモラクスの頭があった。
脳裏にマズイの三文字がよぎった。
慌てて横へ避けようと全力で地面を蹴った。
「うきゃ!?」
すると自分の予想外に速く遠くへ飛ぶ。
今までの愛華の横跳びは全力で4m程度だったが、10m以上は横へ飛んだ。
『フフフ!驚いた?』
頭の中でエルカの声が響く。
「まだ生きてたんですかっ!?」
思わず声に出してツッコむ。
『フフフ!もう直ぐ僕の自我は消えるけど、その後もしばらくはこの力は残るからね』
「なんだ期限付きなんですね。」
『そうだよ。だからこの力が消える前にアイツを倒して!』
「ふむ。」
愛華は『双月』でモラクスを後ろから数発撃った。
「小賢シイ!」
モラクスはイライラしながら鼻と口から白い息を吐いた。
「えっ!全然HP減ってないんですけどっ!!!」
見るとモラクスのHPゲージはほんの少ししか減っていない。
まだ98%は残っている状態だ。
『僕は攻撃や防御の加護は持ってないからね』
「ええーっ!」
モラクスは突撃体制をやめて二本足で立ち上がり周りにある木を前足で掴むとバキバキと引っこ抜いた。
『僕は風属性だから素早さとかなんだ』
「つまり【瞬発力】アップってことか。」
モラクスは両手に持った木を愛華めがけて同時に全て投げる。
愛華は投げられた二本の大木に自分から飛び乗り、木と木の間をくるりと潜るとその木を足場に『双月』を構えたまま右へジャンプした。
モラクスからは自分が投げた木の死角から突然現れたように見える。
木からジャンプすると当時に『双月』で撃ちまくる。
モラクスのHPゲージが少しではあるがジワジワと減る。
『その調子!!』
なるほど、これはチクチク作戦としては悪くないかもしれない。
絶対に相手の攻撃をくらわないという前提になるが。
この身体能力なら時間はかかるけどできるかもしれない!
愛華は着地すると、両手に『双月』を構えて撃つのをやめずに森の中へ入る。
そのままモラクスを軸に反時計回りに木々に紛れて走りながら木の合間から撃ちまくる。
「オオオオォォォォォォォ!!」
モラクスは怒り愛華を追いかけてくる。
その巨体のためドスンドスンと数歩歩けば愛華が撃っている位置まで追いてしまう。
そして大きな腕と鋭い爪で木ごと薙ぎ払いに来る。
しかし、今の愛華の【瞬発力】ならば集中していれば避けられる。
両手の『双月』で撃つのを維持したまま、左からの薙ぎ払いには左へ、右からの薙ぎ払いには右へ、それぞれ空中で側転避けしながら撃ち続ける。
モラクスによって破壊された木の細かな木片がバラバラと愛華の頬や足をかすめて僅かなダメージを与えた。
その光景が愛華にはスローモーションに見える。
破片の合間からもモラクスを睨み撃ち続けていると、モラクスが下を向いた。
その後、モラクスは下から突き上げるように頭の立派な角を振り上げる。
空中にいる愛華は足場が無いため、撃つのを止めて体をよじり空中でくるくると回転しそれを避ける。
そのままモラクスの角と上半身の毛の部分をコロコロと転がり、モラクスの真横に着地すると、その勢いのままジャンプでモラクスの後方へ飛びながら『双月』で再び撃ち始める。
モラクスの残りHPは7割程度。
「ウォォォォォォ!!オノレェェェェ!!!」
【名 前】泉 和代 【クラス】フェンサー
【レベル】37
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【H P】 757 【装備中】
【M P】 91 【武器】 シーブアメール
【攻撃力】1339 【頭】 なし
【防御力】1117 【腕】 なし
【魔 力】 890 【胴体】 聖女の鎧
【命中力】 284 【脚】 ホワイトサバトン
【瞬発力】 317 【アクセサリー1】スモールソードの剣帯
【 運 】 111 【アクセサリー2】なし




