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異世界の黒蝶  作者: ちょうちょ
~第1章 ノーザ動乱編~
26/36

クレイリーからの依頼

-翌日-


酪農一家の朝は早い。

愛華が起きた頃には、一家は皆外で作業をしていた。

その後、朝ごはんをご馳走になりクレイリー製作所へ行く。

その際、一家の主であるダルに話しかけられた。

「お嬢さん、クレイリーの奴に制作物を頼むんだろう?それなら完成まで数日はかかるだろうから、それまで家に泊まると良い。」

おお!なんてありがたいお言葉!

「え!良いんですか?」

「ああ、このあたりには泊まる場所なんてないからな。」

「あ、ありがとうございます!」

しかし数日間タダで泊めてもらうわけにはいかない。

西の山脈の方を見ると、遠くに山まで繋がる森が見える。

そこでモンスターでも狩って、ドロップした品で金目になりそうなものをプレゼントしようと考えた。

「行ってきます!」

愛華は笑顔で家を出た。



愛華は今泣きそうだ。

「無理ってどういう事ですか?」

「手形を見せられても申請するのに用紙が必要だ。この村にそんなものは無い。第一用紙があっても郵便を出すのにスクレイまで行かなきゃならない。依頼が立て込んでる状況でそんな余裕は無い。」

クレイリー製作所の男は、型を使い上手に革を切りながら無表情で話している。

「目の前の街道を通る方にお願いしてはダメなんですか?」

愛華は必死に食いつく。

「金が入る用紙だぞ?見ず知らずの奴に託すのか?書き換えられて自分の物にされたらどうする?紛失されたら?そもそも用紙が無いんだから無理だ。」

しかし男の答えは変わらなかった。

手形を見せ勇者だと明かしてもこの塩対応には恐れ入る。

「そんな・・・」

男が初めて作業の手を止めて向き直る。

「材料費、作業費、利益、全て込みで15,000ヴェル。現金でないと受けない。」

結論はこうだった。

男はまた怒ったように目の前の作業に戻った。

愛華はこの世界の現金を持ってはいない。

買い物も宿泊料も全て手形で払ってきた。

後は、回復アイテムといくつかのモンスターのドロップ品があるだけだが、それぞれの専門店でないと買い取れないという話だ。


ぐぬぬ。

ハイロかどこかで現金化しとけばよかった・・・

専門店・・・専門店かぁ。

やっぱり戻らないとダメかなぁ。

ん?専門店?


「あの、この革とか毛皮なら買い取ってもらえます?どこからか仕入れているってことですよね?」

「チッ。ああ。ウチで使えるものならな。」

い、今舌打ちした!?

まるで気付きやがったなと言わんばかりの態度だ。

「言っとくがウチは上等なものしか買い取らんぞ。」

ギロリと睨んで忠告した。

「あ、はい。」

もう涙目である。

愛華は【メニュー】から北鉄亭でドロップした【ヴォーグウルフの毛皮】を取り出した。

「うぉ!?」

あまりの大きさに作業中の男の机の上まで広がってしまった。

「ああっ、すみませんっ!大きくて。」

見るとヴォーグウルフの茶色い頭付きの毛皮が20畳ほどある部屋のほとんどに広がっている。

「これは・・・」

愛華は作業の邪魔になってしまったことを怒られると覚悟したが、予想外に男は毛皮に興味を示した。

「おい、これはどうしたんだ?」

「え?あ、ハイロ手前の宿がこのオオカミに襲われていたので仕留めました。」

「お前がか?」

「はい。」

男はしばらく口に手をあてて考えている様子だ。

「これは買い取れない。」

「え?ダメですか?」

「いや、正直喉から手が出るほど欲しい一品だ。だが金額が高すぎてウチに払う体力がない。」

「え!大体いくらくらいするものなんですか?」

「400,000ヴェルは下らないだろう。良いとこやマニアならその倍は払うんじゃないか?」

「おお!・・・って普通のオオカミの毛皮の相場がわからないのでなんとも。」

男はまた呆れた顔で愛華を睨んだ。

「通常のオオカミなら状態により5,000~12,000ってとこだろう。」

「そうなんですか。」

愛華は考えた。

どうしよう。

400,000ヴェル払ってもらわなくてもホルスターと交換ってことじゃ、いくらなんでも私が損し過ぎなのかな?

ふと男を見ると、まだ何か考え込んでいる様子だ。

とりあえず、この人が作業にならないからしまおう。

愛華は毛皮を再び異次元へしまう。

しかしその際に部屋中に広がった毛皮が棚の上や作業机の上をかすめてバタバタと色んな物を落としてしまう。

「ああっ、すみませんっ!」

慌てて棚の上に置いてあったはずの物を拾う。

その時、床に落ちていた物に不恰好な革のポーチ?とベルトが含まれていた。

どう見てもプロが作ったものでは無い。

「!!!それに触るな!!」

男は愛華の手からそれを凄い剣幕で取り上げた。

「あ・・・すみません。」

涙目である。

「じゃ、じゃあ私・・・一旦お金を作りに戻りますので。」

失礼しましたと頭を下げて部屋を出ようとする。

「待て。」

しかし男が愛華を止めた。

「ヴォーグウルフを倒せる実力があるなら、頼みたい仕事がある。」

「??」

「その仕事の達成をもってお前の依頼を受ける。」

「はい?えーと、それはどういう内容で・・・?」

「西にアドルフ山脈が見えるだろう、その山から広がるアールヴの森の端が西に見える森だ。」

「はぁ。」

愛華は初めて聞く単語ばかりで頭の処理が遅くなる。

「知らんのか?」

またギロリと睨まれる。

「す、すみません。」

「はぁ、まあいい。そのアールヴの森はこっからフリュッセイド領にもまたいで伸びている。その国境近辺の奥に生息するナンディーという珍しい牛の革や角を獲ってきて欲しい。」

ああ、そういうことか。

愛華にもようやく話が見えてきた。

「どれくらい欲しいんですか?」

「あればあるだけ。二匹以上持ち帰った場合はそのナンディーの革で、お前の言うほるすたぁとやらを作ってやる。凄いパワーだぞ。俺も生きてて数回しか見たことが無い。」

ほう。

「その牛の特徴は?」

「乳白色の革だから白い牛なんだろう。角は黄金色だから白い体に黄金の角といったところか。」

なにそれ、見たい。

愛華も興味が湧いてくる。

「だが、強い。それに周辺のモンスターも強い。だから凄腕のハンターしか獲って帰ってこれない。」

「なるほど。」

「行くなら森の中で最低でも一泊しないと駄目だし相当な準備が要るだろう。」

「な、なるほど・・・。」

まさかの野宿!!

「それにフリュッセイドに密入国となる。森の奥だからバレたりはしないだろうが、とにかく気を付けるんだな。」

え!

「その、密入国がバレたらどうなるんでしょう?」

「さぁ?普通なら罪人として捕まるが勇者なら大丈夫ではないのか?知らん。」

男はフンと鼻を鳴らした。

あはは・・・はは。

なんかフラグ立った気がする!

「わかりました。やってみます。」

「そうか。依頼成立だな。俺はルイス・クレイリーだ。」

相変わらず作業をしながらこちらを見もせずに怒ったように言った。

「あ、小嶋 愛華です。よろしくお願いします。」

なんでいっつも怒った口調なのかな?

そこで初めてお互いは名乗った。



--------------------------------------------------------------------------------


「ダメだ。こいつもだ。」

ダルは深刻な顔で額の汗をぬぐった。

「あんた・・・。」

ミシカも深刻な表情で牛とダルを見た。

「やっぱり今年は流行るか。」

見ると牛の腹部分に緑の斑点のような物ができて爛れている。

牛も心なし苦しそうだ。

「昨日も殺したんだ。昨日も!」

ダルは泣きそうな声を出して顔をしわくちゃにした。

「くっ・・・、ターニャには言うなよ。こいつは俺が処分しておく。」

彼は牛を連れて西へ向かい歩き出す。

「ああ、わかってるさ。」

ミシカは牛を連れて森へ歩いて行くダルの背中を複雑そうな顔で見送った。


--------------------------------------------------------------------------------



愛華は早速その足で国境の関所兼駐屯地へ出向いた。

クレイリー製作所からは既に大きな建物が見えていたので、そのまま目指した。

愛華が走って丁度4時間くらいの場所だ。

最初はやはり不審者扱いされたが、手形を見せると勇者として大歓迎された。

そこで腐りずらい食べ物や未使用の毛布などを分けてもらった。

そして国境沿いをそのまま西へ森へ入るという計画だ。

森の手前に出るようなモンスターの情報も仕入れた。

ただ、森の奥の方に行くにつれモンスターも強くなり、人は滅多に足を踏み入れない。

愛華は念のため駐屯地でキュアボトル(HP50%回復)や月下草(石化を治療)や聖水(呪いを治療)なども寄付してもらった。



メキメキメキ・・・

「来る!」

ドシャーーン!!

トレントは太い木の根を腕のように自在に操り攻撃してくる。

愛華はそれを横へ飛んで避け、すかさず『双月』で撃ち抜く。

トレントの大きな幹に穴が空く。

メキメキ・・・ビキ・・

トレントの動きが止まり普通の木となったことでHP0を確認する。


「トレント・・・初めて見たわ。」


愛華は駐屯兵たちに見送られて国境沿いに森に入った。

最初はウルフや大ムカデなどのレベル10前後のモンスターだったが、奥に行くに連れて初めて見るモンスターと出くわすようになってきた。

【データ】を確認するとトレントはレベル28~35。

「30前後が出てくるのね・・・。レベル上げに丁度良いじゃない。」

ここまで来るのに、既にレベルが二つ上がって38だ。

しかし、森の木々が針葉樹なので枝の上から撃つ戦法が使えないのが難だった。

「うー。流石にあの高さまではジャンプできないし。」

愛華は真っ直ぐに空へ伸びている背の高い木々を見上げぼやいた。

そのせいで、モンスターを発見するのが遅れたり木の影や上から不意打ちをくらう事がしばしばあった。

足場も凸凹していたり石が転がっていて戦いづらい。

木の葉が自分の背よりも高い位置にあり若干見渡しが効くのがせめてもの救いだ。

というか、360度木に囲まれていて既に方向感覚が無い。

そのため戦いが終わる度に方角をチェックする必要があった。

早速【メニュー画面】から【マップ】を開く。

「えーと、国境沿いはぁ・・・今コッチを向いてるから・・・んーあっち・・?」

マップが示す国境の方角を見つめ首を傾げる。

「フフフ」

「ん??」

今、何か笑い声が聞こえたような気がした。

もちろん、愛華ではない。

周りを見渡すが特に気配は無い。

気のせいだと思い再びマップへ向き直る。

「フフフ」

「!?」


絶対聞こえたわ!!

今、絶対笑い声が聞こえた!!


愛華は【メニュー画面】を閉じて『双月』を構えた。

「フフフフ」

「誰!?」

360度どこから出ててきても撃てるように気配を探る。

「フフ、勇者様だ!!」

「勇者様だ!初めて見た!!」

少なくとも2人の声がする。

「す、姿を見せなさいっ!」

しかも子供の声だ。

こんな深い森に子供がいるわけがない。

明らかにモンスターの類だ。

「フフフ、こっちだよ。」

「ちがうよ、こっちだよ。」

右と左から声がする。

とりあえず、『双月』で声がした方を撃つことにした。

ヒュヒュン!


「うわあ!」

「待ってよ!」


愛華はようやく声の主の姿を見ることができた。

「ばぁ!」

それは40㎝くらいの小さな人型に光る羽を生やしたモンスター。

いわゆる妖精の類だった。

「か、可愛い。」

愛華は初めて見る妖精に感動した。

一人は緑色の光を、もう一人はピンク色の光を全身から放っている。

「ねぇねぇ、勇者様、さっきの見せてよ!」

「そうそう、あの光る板の魔法やって!」

二人の妖精は羽をパタパタさせて光の粉を散らしながら愛華の周りを飛び回る。

「え?戦わないの?」

「ええー、嫌だよ。勇者様強そうだもん。」

「そうだよ、それよりさっきの見せてよ。」

「さっきの?」

「そう!指で動かしてた光の板!」

ああ、【メニュー画面】のことか。

どうやら敵意は無いようだと安堵する。

「これですか?」

愛華は念じて【メニュー画面】を出して見せた。

「うわあ!これこれ!」

「勇者様だけの伝説の力!初めて見た!」

愛華の顔の横まで来て覗き込んでいる。

か、可愛い。

「えい!」

一人が【メニュー画面】に触ろうとしたが、オレンジ色の光に触れることはできずスカってしまう。

「あれ?触れない?」

「ええーつまんないや!」

勇者本人以外は触れられないようだ。

愛華も初めて知った。

「そう言えば、勇者様、こんな森の端に何の用?」

緑の方が愛華の前に八の字を描いて飛ぶ。

「あ、えっと、ナンディーていう牛を探してるんです。」

「ナンディー!?」

「ぼく知ってるよ!ねー?」

「うん、ぼくたち知ってるよ!」

「え!本当?」

「うん、付いておいでよ、勇者様!クスクス!」

ピンクの妖精がくるくる円を描きながらコッチだと教えてくれる。

「ありがとうございます!」





妖精たちの案内が始まった。

「コッチ、コッチだよ!」

「フフフ!」

「待ってください!」

くそ、飛べるって良いな!

愛華は付いて行くのに必死だ。

大分北へ走った気がするが【マップ】を見ないと現在地がわからない。

とにかく二人の妖精に着いて行く。

途中、何匹かモンスターにも遭遇したが全て一発で倒していく。

「さぁ、着いたよ勇者様!」

「見て、あそこだよ!」

「はぁ・・・はぁ・・・へ?穴?」

見ると斜面に大きな穴が空いている。

「穴に住んでるんですか?」

「そうだよ!入ってごらんよ。」

言われて愛華はそうっと足音を立てないように穴の入り口に立ってみる。

ゴクリ。

直径3mはある大きな洞穴。

今は真昼間で森の天気は良い。

そのせいか穴の中は真っ黒で奥が見えない。

ぶっちゃけ入りたくない。

「本当にここにいるんですか?」

「いるよ!」

「もっと奥に隠れてる!」

二人は洞穴の奥を指さした。

それならしょうがない。

「お、お邪魔します・・・」

小声でそんな事を呟きながらそろりそろりと穴に足を踏み入れる。

なんだか確かに家畜小屋みたいな臭いがする。

牛が隠れていると言われても納得の臭いである。

抜き足差し足で十歩以上は進んだだろう、ゴツゴツの地面を踏んでいたのにふと何かを踏んだ感覚がした。

薄くて柔らかいような硬いような。

しかし暗くてよく見えない。


《ファイ》


愛華は仕方なく少し手前に炎の一番弱い魔法をかけた。

サッカーボールくらいの火の玉がボウっとあがり洞穴内を明るく照らす。

「キィィェェェェ!」

「きゃあああああ!!」

明るく照らされたことで奴は突然姿を現した。

8m程先に巣の中で足を折りたたんでいたそいつは一目散に立ち上がり、愛華の方へ口から何かを吐き出した。

愛華はそれをかわそうと咄嗟に左へ飛び『双月』で撃ち返すが、右足にかかってしまう。

足に痛みが走る。

「クェ・・・」

ドサッ

レベルが上がる感覚がする。

倒れた巨体は鶏のそれだった。

頭には真っ赤な冠があり足は鋭い爪のある鶏の足だ。

だが尻尾だけは緑の鱗の蛇だった。

周りを見ると大きな羽が散乱していて、途中で踏んだのはこの羽だったとわかる。

『ファイ』の効果が切れ「ジュッ」という音と共に再び暗闇に包まれる。


「く・・・」

痛い右足を触るとなんだか硬くてざらざらしていた。


この感触は・・・!?


「やぁーーーい!騙された!!」

「やったね!!勇者様死んじゃったかなぁ??」

洞穴の出口からは二人の妖精のウキウキとした声が聞こえる。


だ、騙された!!!!

酷い!!!


愛華は『双月』で姿は見えないが声のする入口付近を撃った。

「うわあ!!」

「まだ生きてる!!逃げろ!!」

どうやら当たらなかったようだ、残念。


《ファイ》


もう一度穴の中を炎で照らす。

痛い右足を見ると、思った通り靴やニーハイソックスごと灰色の硬い物になっていた。

「石化だ。」

少し減ったHPゲージとMPゲージの上に石のマークも確認できる。

愛華は【アイテム】から【月下草】を選んで使用した。


キラキラッ


石化が解除され右足にいつもの感覚が戻りホッとする。

同時に、もしあの時の攻撃を全身に受けていたらと思うとゾッとした。

他に回復の手がいないのがソロプレイの弱い所だ。

倒れた大きな鶏を見ると、巣の中に大きな卵が二つ入っていた。

卵を温めていたようだ。

普通に考えて子育てをしている最中に巣に侵入した愛華が悪い。

若干申し訳ない気持ちと二人の妖精への恨みで愛華は洞穴から外へ出た。



---------------------------------------------------------------------------


「うおおおおおお!!!」

屈強な男が自分よりも大きなワニと思われるモンスターを持ち上げ放り投げる。

しかしワニと言ってもその醜悪な見た目は普通ではない。

黒い傷だらけの鱗の内側からは赤い光が漏れ、背中には頭から尻尾まで刺々しいヒレが付いている。

唾液を垂らしている口からは呼吸をするたびに赤い霧のような吐息を出し、複数の人間を前に赤い目を血走らせている。

男を囲んでいる複数のうち一匹が勢いよく突進してくる。

「ふんっ!」

それを左手で受けて右手でワニの顔面めがけて殴る。

殴られたワニはたまらず右に仰け反ったと思わせ、そのまま勢いよく尾で大男を弾く。

男は両手をクロスさせその攻撃を受けた反動で両足を着きながら1m程下げられる。

鉄之助(てつのすけ)、油断するな!」

《連続撃ち》

「グギャアア!!」

後方の木の上からたれ目のイケメンが、大男の死角から迫っていた別のワニに弓の三連続撃ちを撃ちこんだ。

「むぅ、すまない。」


そこは大きな川辺の砂利の上で、五匹のワニと六人の男女が対峙していた。

前面に鉄之助と呼ばれた大男、黒髪の知的な女性、金髪の美青年の三人が、後ろの男女二人を守るフォーメーションをとっている。

また、少し後方の木の上に仲間と思われる弓使いの男が控えていた。

「これがイビルゲーターですか、中々硬いですね。」

黒髪ロングの知的な女性がスモールソードを構えて佇む。

「鉄之助、和代(かずよ)、戦線を乱さないよう、いつも通り出てくる敵からいきますよ?」

リーダーと思われる金髪の美青年がサラサラの髪と白いマントを川辺の風になびかせて言った。

その言葉にはどこか余裕がある。

「承知いたしました、レイ様。」

「わかった・・・。」

和代と鉄之助はイビルゲーターから視線を逸らさずに答える。

囲んでいるイビルゲーターのHPを見ると、大体半分近くまで減らしてあることが確認できる。

「あとスキルで一撃ずつと言ったところですか。左側2匹は僕がやります、毘奏(びす)、中央の一匹をお任せしてもいいですか?」

「・・・うん。」

後方に守られている前髪で目が隠れた暗そうな小柄な男が小さく頷いた。

「おいおい、俺も忘れないでくれよ?」

後ろの木の上からたれ目の優男の声がする。

レイがクスリと笑う。

「忘れてませんよ、智康(もとやす)は今まで通り陽動と援護をお願いします。」

智康が髪をかき上げて「オーケー」と答えると囲んでいるイビルゲーターが動きを見せる。

左から1匹、右から二匹が巨体を左右に揺らして突撃してきた。

「行きますよ!」

「はい!」


弓矢が飛んでイビルゲーターの足が止まる。

鉄之助がすかさずその隙をついてスキルを叩き込む。


《爆裂拳》!!!!


しかし一番早かったのは和代だ。

右から来たもう一匹に飛び込んだ。

イビルゲーターは鋭い爪を使った引っ掻き攻撃を連続で繰り出してくるが、和代は一撃二撃三撃とスモールソードでくるりと手首を返し逸らして行く。

「グギャアアアア!」

痺れをきらしたイビルゲーターが自分の体を回転させ得意の尻尾攻撃に切り替えた。

「お見通しです!!」

和代はその攻撃をジャンプでかわしイビルゲーターの背中に着地して、間髪入れずに頭をスモールソードで突き刺した。


《ファイア》!


毘奏が唱えた魔法が一番中央後方にいたイビルゲーターに当たり、燃え上がる。

イビルゲーターは身体をくねらせてのた打ち回る。


「HP0を確認・・・レイ様!!」

イビルゲーターの背中に立ったまま和代がレイの方を振り向くと、丁度一匹を切り殺した所で別の一匹が口から水魔法の『ウォータートルネード』を吐いていた。

その先はレイだ。


「お任せあそばせ!」


《シールド》!!


レイの目の前に魔法の透明な壁が発生し、水を防ぐ。

「く・・・長くは持ちませんわ!」

後方にいた金髪縦ロールのぽっちゃり女子がフレイルを片手に必死に力んでいる。

「ああ、十分だよ、彩乃(あやの)。」

見ると、和代も鉄之助も毘奏も言われた通りイビルゲーターを狩り終えている。

笑みを浮かべたレイは一っ跳びで口から水を吐いている最後のイビルゲーターの元に辿り着いた。

驚いたイビルゲーターが魔法を中断し大きな口を傾けて素早くかぶりつこうとするが、レイは剣でそれを受け流すとその後ろをとった。


《ホーリーエッジ》!


イビルゲーターの尾から背中、頭部へと白い閃光が三本入る。

「グルァァァァ!!」

叫ぶとイビルゲーターの体から血が吹き出し体制を崩して力なく事切れた。


「レイ様!お怪我は!?」

和代が心配そうに駆け寄った。

「大丈夫だよ、和代。皆も、大きな怪我は無さそうだね。」

レイは一通り仲間のHPゲージを確認して優しく微笑んだ。

「・・・問題ない。」

「当然ですわ。」

鉄之助は無表情で、彩乃は縦ロールを触りながらフフンと鼻を鳴らしながら答えた。

「お前は・・・!守られてるからでしょう?」

「あら、前衛が後衛を守るのは当然でしょう?」

二人の女子の間に火花が散る。

それを無表情で毘奏が眺める。

「まぁまぁ、とりあえずこれでスベラの滴を使ってこの川を渡れるんだろう?」

木から降りてきた智康が女子の間に入り合流した。

スベラの滴とは川や湖の水を狭い範囲ではあるが自在に操ることができる摩宝石で、フリュッセイドの国宝の一つである。

「ああ、このクレール川を渡って今夜は向こう岸で野営の準備になるだろうね。」

レイは目の前に流れる綺麗な川の先を見つめた。

同じように針葉樹林が茂る森になっている。

「ああっ、このわたくしがまた野宿をしなければならないなんてっ!!」

彩乃は額に手をあてて倒れそうになっている。

「少しは痩せられるのではなくって?」

和代が横目で突っ込む。

「むきぃーーーーーー!」

再び二人の女子の間に火花が散る。

「彩乃、あと一泊の辛抱ですから。お願いしますよ?」

レイが申し訳なさそうに頼んだ。

「わ、わかっていますわ!」

彩乃はフンっと拗ねたように了承した。

流石の彩乃お嬢様もレイにお願いされてしまっては断れないようだ。

「じゃ、当初の目的通り、行って帰ってレベル40達成ってわけだ。」

「ええ、このペースなら行けそうね。」

和代は彩乃を横目で睨みつつ智康に同意した。

「むぅ・・・強い敵・・・戦いたい。」

「わかっているよ、鉄之助。このまま南下を続けて国境付近まで行けばレベル35くらいのモンスターばかりになるとの話だしね。」

全員が【メニュー画面】から【マップ】を開いた。

現在地と目的地を確認している。

しかしレイだけはクレール川の向こうを見つめて目を細めた。


「どんな出会いがあるのか、楽しみだね。」


【名 前】霧島 レイ    【クラス】ホーリーナイト

【レベル】35

【 Next 】62


【H P】 345       【装備中】

【M P】 224        【武器】   デュランダル

【攻撃力】1932        【頭】    なし

【防御力】1343        【腕】    ホーリーガントレット

【魔 力】1211        【胴体】   ホーリーメイル

【命中力】 205        【脚】    ホワイトサバトン

【瞬発力】 195        【アクセサリー1】ソードベルト

【 運 】 144        【アクセサリー2】なし

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