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異世界の黒蝶  作者: ちょうちょ
~第1章 ノーザ動乱編~
24/36

サランと四賢者

ノーザ王国ヴェルダ城、サランの執務室のさらに奥。

スクレテール本人しか入室を許していない執筆の間。

サランは空いた時間は全てこの部屋に籠る生活をしていた。

壁には『小嶋様・北鉄亭』や『木村様・図書室』、『小倉様・スルベスト村』などとラベルの張られた書類の束が紐で結ばれ吊るされている。

また、別の壁際の棚には、勇者それぞれのラベルが付いたスペースがあり、沢山の書類が束ねられている。

そんな本や書類に埋もれた部屋で、王国のスクレテールであるサランは大きな机に向かって黙々と何かを書き込んでいた。

万年筆を持つ手はインクが跳ね汚れており指にはタコもできている。

心なしか顔にも少し疲労が見えた。

しかし、サランはとり憑かれたように書き物に取り組んでおり、聞こえる音は万年筆と紙が擦れる音のみという空間になっていた。


そんな彼がピクリと何かに反応し手を止める。

「ん?紅蘭ですか?・・・ええ、今ならかまいませんよ。」

すると、いきなり彼の目が白目をむき、目から赤みがかった光を発しだす。

その光は口からも漏れている。

座っていたはずの椅子からは体が少し浮かび、水色の髪も静電気を帯びたようにふわりと重力に逆らう。

そのまま体の内側から光を発し浮いた状態で数秒後、一瞬で光が拡散し消え散った。

光が消えたと同時に彼に重力が戻り、ドタンと元の椅子に腰かけて首から上は項垂れたように下を向く。

そしてクスクスと笑いだけが漏れ始める。

「・・・フフッ・・・クスクス・・・アハハハハ!!」

彼は大笑いして顔を上げた。

その目にはまだ赤白い光が少し残っている。

「最っっ高ですよ、小嶋様!!!」

彼は年相応の子供の用に無邪気な笑顔で腹を抱えて笑った

「しかしガイシュ卿も馬鹿な次男坊を持つと大変ですねぇ。まさか勇者様にまで手を出そうとするとは。」

そう言いながら笑って出た涙をぶかぶかのローブの裾で拭く。

「まぁ、彼の場合、その意味を知らずにやったのでしょうが・・・しかしこれで上手くいけば王都にいるガイシュ家を労せず潰せるかもしれませんねぇ。ふむふむ。同時に行きましょう。こちらからも兵を出します。」

サランの目の中の赤白い光が疼く。

「・・・ええ、明日にでもそちらに着くでしょう。それまでクラウスを殺させてはなりません。止めるのです。」

笑顔で話し続けるサランの目の中の光がまた疼く。

「・・・ええ、かまいませんよ。小倉様や柳瀬様には既に気付かれていますしね。ええ、でも気を付けてくださいよ?小嶋様は確実に我が王国の筆頭勇者になりますから。」

それだけ言うと、彼の目の中の光がシュッと消えた。


彼は椅子から立ち上がりうーんと伸びをする。

「まさかスクレテールの地位を楽しいと思う日が来ようとは、ね・・・」

彼の笑みはまた大人びたものに戻っていた。


--------------------------------------------------------------------------------


バリバリバリ!

ドシャーン!


「ひぃ!!きた!」

クラウスは閉めた隠し通路の入り口を壊されたことで、この後中から出てくるであろう愛華を見ずに自室から飛び出した。

「うわああああ!衛兵!衛兵!」


ガラガラ

さらに壁が砕け落ちる。

『双月』と蹴りで壊した壁と本棚の屑をミシミシと踏みつけて、壊れた壁の中から愛華が姿を現した。


「ここは・・・?」

豪華な寝室だった。

おそらく、クラウスの自室だろう。

足元に本と本棚だった木片が転がっていることから、自室の本棚の裏にでも隠し扉を隠していたと予想した。

見ると、部屋の奥の床からパチパチと小さな炎が上がっている。

位置的に丁度この部屋の下が隠し部屋で、炎が上がっているのが愛華が縛られていたベッドのヘッド部分だ。

愛華はローブの裾を翻し、クラウスが逃げた廊下へと向かう。


バン!

寝室の扉を蹴り開け廊下へ出た。

その途端、左右から斧と剣が振り下ろされる。

クラウスの護衛が部屋から出てくる愛華を待ち伏せしていたのだ。


遅い。


愛華は素早くしゃがんで前方へ踏み出し、くるりと振り返って『双月』を構えた。

そのまま撃とうかと思ったが一発撃っただけで死んでしまうのでは?と思い構えるだけに留めた。

空振りした雇われ衛兵は、何が起きたのかもわからずお互いの顔を見合わせている。

「動かないでください。」

『双月』をそれぞれの護衛に向けてそう言ったが、護衛の二人は愛華の持っている銃が武器だとは思わなかったようで余裕の笑みを浮かべた。

「へへへ。見たところ魔法使いみたいだな。」

「悪ぃな、割のいい仕事なんだ。」

そう言って近づいてくる。

その様子を廊下の甲冑の影に隠れてクラウスが見ていた。

「ふふっ!勇者と言えども終わりだ!早く殺せ・・・」

クラウスはずれた顎を抑えながら愛華が惨殺される姿を想像しギラギラとした目で見ている。


愛華は少し困った。

人を殺したことがないし、できれば殺したくもない。

しかし自分の【魔力】では魔弾一発かすっただけで殺してしまう気がした。

悩んでいる内に二人の護衛の攻撃射程内に入ってしまったようだ。

二人は武器を振り上げる。

考えている暇は無かった。


もういい。

もう面倒くさい。


愛華はそのまま両手の角度を少し下に変えて、できるだけ殺したくない気持ちで、二人の足を撃った。

ヒュヒュン


「え・・・?」

撃たれた二人の足に閃光が走り穴を開けた。

遅れて穴から血が飛び出る。

「うああああああ!!」

「痛えええええええ!」

護衛の男たちは足を抑えて倒れてしまった。

愛華は驚いて直ぐに二人のHPゲージを確認する。

二人とも半分くらいしか減っておらず生きていた。


もしかして・・・手加減が可能なの?


新たな発見だった。

「うわあああ!役立たずめ!!!」

クラウスが甲冑の影から飛び出し廊下を走る。

その声で奴の場所を確認した。

愛華は再びツカツカと豪華な廊下をクラウスの方へ歩き出す。

「うわあああ!!」

クラウスは少しでも障害物を増やそうと、廊下の左右に飾られた甲冑や壺を飾った台などを倒しながら逃げるが、愛華はそれをひょいひょいと避けながらクラウスだけを見続けて歩き続ける。

途中、部屋から出て来たメイドが、クラウスを追う愛華を見て叫び声をあげたが気にしない。

慌てて駆けつけた執事が「勇者様、ご慈悲を!」とか言っていたが気にしない。


あいつは・・・あいつはダメだ。

生かしてはおけない。


クラウスはしばらく直進して逃げると、自分の右側と後ろの愛華を交互に確認した後いきなり右の壁の中へ吸い込まれた。

愛華が急いでクラウスが消えた場所を見ると、今愛華たちが鬼ごっこをしていた階は三・四階くらいだったようで、下に赤い絨毯が敷かれた螺旋階段をクラウスが必死で駆け下りている姿が見えた。

愛華は手すりに乗り上げるとそのままスルりと、螺旋の真ん中を飛び下りた。

そのままクラウスが駆け下りている二階くらいを通り越して一階まで落ちて着地する。

じーんと足に響いたが、これで先回りだ。

上を見上げるとクラウスと目が合った。

「ひぃぃぃ!!化け物め!!!」

クラウスは慌てて足にブレーキをかけ、下りて来た螺旋階段をまた上り始める。

それを追いかけようとした愛華に、後ろから「何事ですか!?」と声をかけられた。

チラリと後ろを確認すると、メイド長だろうか、偉そうな貫禄のある歳をとったメイドが立っていて他にもこの屋敷で働いているような感じの人達も集まっていた。

一階は屋敷に入って来た時に見たホールだったのだ。

「勇者様、ご説明ください!これは何事ですか!?」


愛華ははぁ?と呆れた声を出しそうになる。

何事か?

この屋敷で起こっている惨劇を知らないの?

いや、もしかしたら一部の人しか知らない可能性も・・・


考えた上で愛華は言葉を選んだ。

「・・・彼は罪を犯しました。」

そこまで言うと、使用人達の顔に「あいつ何したんだ?」とか「どの罪の件だ?」というような険しい表情が出て来た。

知っているのか知らないのかはわからないが、どちらにせよ「あいつならやりかねん」といった雰囲気があった。

愛華は階段を上るクラウスを見ながら続ける。

「この屋敷は火事になろうとしています。早く非難してください。」

使用人たちがさらに動揺し始める。

「ええ!?そんなっ!?どこです!?」

「早く消火するのです!」

メイド長らしき人が指示を出すが、階段を上ろうとしていた愛華が足を止めた。

「待ってください。火元は三階か四階にあるクラウスさんの部屋ですが、あれだけ燃えれば消火は間に合わないでしょう。早く屋敷中に知らせて避難してください。」

メイド長らしき人は納得できないといった表情で眉を潜ませた。

「お待ちください、そのように一方的に・・・まずは状況を確認しませんと・・・」

そう言いかけた時だった。

あのバラの園とも言える豪華な庭の方から男性の怒鳴り声が聞こえた。

「大変だ!!!クラウス様の自室らへんから火が出てるぞ!!!」

同時に、庭から庭師のような人が興奮しながらホールに駆け込んでくる。

「・・・そんな。」

メイド長は脱力してその場に座り込んでしまった。

愛華は慌てる使用人たちを置いて、再び螺旋階段を素早く上り始めた。


「クソ!まだ追いかけてくる!!!」

螺旋階段の上からクラウスが下を覗くと、フードの奥から殺意のある目を光らせて素早く階段を上ってくる愛華が見える。

「クソ!なぜこの僕がこんなっ・・・!!!」

見ると、凄い速さで上ってくる愛華はすぐ下の階まで迫っていた。

クラウスは慌てて一番上の階まで上りきると、左右をキョロキョロした後、左の廊下へと曲がった。

愛華も左の廊下へと迷わず曲がる。

「来るなぁぁぁ!!」

クラウスは走りながら、廊下に飾られていた花瓶を愛華へ投げるが、愛華は右月を持ったままの右手でシュパ!っと払い割りスピードを落とさず追いかける。


クラウスが廊下の突き当たりに差し掛かると、その先にあるドアを開けて飛び出した。

愛華も同じドアを開けて追いかける。

そこは、左右に伸びる屋敷の左側の屋根の上にあるバルコニーだった。

数階下は奴の部屋があるのだろう、斜め下からはもくもくと煙が上がっている。

広くないバルコニーだが、奴の姿は無い。

と思ったら、バルコニーからすぐ下の屋根の上に飛び下りていたらしい、クラウスが息を切らしながらバルコニーを背に屋根伝いに逃げている。


愛華は殺さないよう念じながら、クラウスを撃った。

ヒュン!

「うわあああ!!!」

逃げているクラウスの右手に穴が空いて血が散る。

彼は撃たれた衝撃でよろけて屋根の上を転んだ。

それを確認すると、愛華もゆっくりとバルコニーの手すりから同じ屋根へと飛び下りた。

両手の『双月』をクルクルと回しながらゆっくりクラウスに近付いて行く。

「うう・・・ぐぞ!!ぐぞぉ!!」

クラウスは泣きながらも立ち上がりまだ愛華から逃げようとゆっくり走り出した。

いったい、この逃げ場のない屋根の上でどこへ逃げるというのか、とにかく愛華から離れたい一心でよろけながらも、屋根の端の方へと逃げる。


ヒュン


「うああああああああああ!!!」

今度は左足を後ろから撃たれ、屋根の上を転がる。

痛くて動きたくなかったが、愛華が屋根の上をヒールで歩くカツンカツンという足音が後ろから近づいてくることが耐えられず、左腕と右足を動かし匍匐前進しながら屋根の端を目指した。



「おい!領主さまのお屋敷が燃えてるぞ!!」

「ホントだ!!」

「火事だ!!」

屋敷を囲む塀の外が煩くなってきた。

見ると、スクレイの町民たちや街道を行く旅人が屋敷の塀の外に野次馬のように集まってきている。




クラウスは匍匐してとうとう屋根の端まで到達してしまった。

これ以上逃げ道は無い。

すぐ下は屋敷の庭だ。

落ちれば助からない高さだ。

愛華はクラウスが匍匐した後に付いた伸びた血を踏みながら、逃げ場の無くなった彼に近付いて行った。

「うぐっ・・ひっく・・・ぐるなぁ!!」

クラウスはごろんと仰向けになり涙目で訴えた。

しかしフードの中の目は何の情も無くクラウスを見下ろしている。

愛華はそのままクラウスの横まで歩くと、『双月』を異次元へしまい彼へと手を伸ばした。

「や・・・やめろぉ・・・!!」



その光景は遠目にも見られていた。

屋敷に集まった野次馬達に「おい、あれ、この町に来ている勇者様じゃないか??」とか「本当だ!あれって黒蝶だよな?」と訝し気に話し合っている。




クラウスは左手をブンブンして愛華の手を払おうとするが、愛華の手はびくともせずに彼の首元を掴んだ。

「ぅぅ!!」

首元をしっかり掴むとそのまま持ち上げて、屋根の端に立ち、クラウスを屋根の外側へ突き出した。

フードの中の目が死ねと言っている。

クラウスが自分の状況を悟りボロボロと泣き出す。

「ぁんで・・・ひっく・・・兄様や父様だって女を飼ってるじゃないがっ!!!!なんで僕だげっ・・・!!!」



聞き捨てならない言葉だった。

ここの家族はどうなってるんだ。

腐ってる!



「その人たちもこの屋敷に?」

もしそうなら助けなくては。

しかしクラウスは鼻水を垂らしながらブルブルと顔を左右に振った。

「王都でっ・・・ひっく・・・兄様なんてエルフまで飼ってるんだぞっ・・・!」

「・・・そうですか。」

そう言って手を放そうとした時だった。


「お待ちください。」


右斜め後ろから聞いたことある女性の声がした。


???

いつの間に?


クラウスの首元を掴んだまま、視線だけ斜め後ろに向けると、そこにはあのヴァルダ城で勇者の世話係をしていたとんがりが屋根の斜めに下がった場所にある出窓の縁に立っていた。

背丈からいって屋敷の正面側から見ると丁度見えない位置だ。


「その男を殺してはなりません。」

「・・・なぜですか?死んで当然の奴ですよ?」

愛華は殺気立った視線で睨む。

「まず、ご自身の毒をお直しください。」

「は?」

言われてみると、視界の端に紫のバブルマークがずっと出ていた。

今まで気付かなかった。

クラウスへの怒りで気にしてなかったのもあるが、HPが少しずつ減っていく気配は無かったので気付かなかった。

「興奮剤を少量受けております、止まない怒りもそのせいかと。」


愛華の記憶にクラウスに注射器で胸のあたりを刺されたことが蘇る。

あの時の媚薬か。


「・・・」

愛華はクラウスを持ち上げている手とは逆の左手で『毒消し草』を使用した。


キラキラッ


しかし怒りは収まらない。


やっぱりこれは本心からの怒りだわ!!!

そう確信していると、とんがりは話し始めた。

「ありがとうございます。その男は重要な参考人として捕えます。こちらへお引渡しください。」

今更な提案だった。

「・・・今まであなた達が野放しにしてきた結果じゃないですか?信用できません。この国はおかしいです。」

「・・・」

とんがりは黙っている。


勝ったわ!

この男の命は私のもの!!!


「・・・明日、この屋敷へ火事の支援として国から派兵された兵が着きます。そうなれば、念願叶い、この屋敷への立ち入りが叶うというわけです。勇者小嶋様のお陰です。」

「まるで今まで手が出せませんでしたという言い訳に聞こえますね?」

「・・・その通りです。貴族の持つ領地の政治は貴族に全権がありますので、国としても手が出せませんでした。」


ええ?ノーザ王国ってそんな制度なの!?

言われてみればこの国の政治とか全然知らずに冒険してたな。


愛華の気持ちが揺らぎ始めた。

「先程のその男の発言を思い出しください。重要な証言になります。」

目の前に泣きながら今にも気絶しそうなクラウスを見て先程の言葉を思い出す。


-兄様や父様だって女を飼ってるじゃないがっ!!!-


「・・・家族全員を罪に問えると?」

「はい。その男は保身のために直ぐにでも吐くことでしょう。」

「だ・・・だすげてぐれ・・・頼む・・・」

出血のせいもあるだろう、段々とクラウスのHPが残り少なくなってきている。

「小嶋様、民衆の声をお聞きください。」

とんがりがいきなりそんな事を言い出して愛華の奥、街道の方を指指さした。

何かと思い左を見ると、兵の外に沢山の人が集まり愛華を見ているではないか。


いつの間に!?

だが普通に考えて町一番の屋敷が燃え上がっているのだ。

騒ぎにもなるだろう。

耳を澄ますと、

「さすが勇者様!!」

「クラウスを懲らしめてくださった!!」

「いいぞ!もっとやれ!!」

とか風に乗って聞こえて来た。

どうやら集まった野次馬は、男の胸倉を掴んで屋根の端からブラブラさせてる女を見て褒めているようだ。



「はぁ・・・。でもあれがいったい何だと・・・」

「あなた様は化け物ではありません。」

「っ!!!!」


愛華の横を風が通り抜けた。



雷に打たれたような衝撃だった。

私は化け物ではない?

私は化け物ではない?

じゃあなんだというの?

じゃあなんで?

なんで皆は?

なんで私は!?


愛華は目を見開いたまま立ち尽くす。

「・・・」

風が止む頃には愛華の心の中の複雑な何かが少しだけ解けていた。

案外、誰かにそう言ってもらいたかっただけのなのかもしれない。


何て単純なんだろう。


「小嶋様は、民衆の希望なのです。否応なしに・・・勇者とは、そういうものなのです。」

民衆から見ると、屋根の上で極悪人を片手に立つその姿は黒いローブをはためかせて黒蝶(えいゆう)そのものだった。

「勇者様ーーー!!!」

「やっちゃえーーーー!!!」

なんて好き勝手言ってる声が聞こえる。

こっちの気も知らないで。

「そういうもの・・・か。」

気付けば左手で【メニュー画面】を開いていた。

【コキュの実】を取り出して、クラウスに《使う》と念じる。


キラキラッ


一瞬でクラウスの傷が癒え出血も止まり、顔色も良くなる。

「ぐ・・・許じてぐださいっ!!放じてぐださいっ~!!!」

それと同時にうるさくわめき足をバタバタさせだした。

「はぁ・・・もう悪いことはしないと誓ってください。捜査にも協力すると。」

「ぢか!!誓います!!!ぢかいますから~!!」

それを聞いて愛華はクラウスをとんがりの方へ放り投げた。

「ぎゃああ!」

斜めの屋根をゴロゴロと転がり、とんがりの足元で止まる。

とんがりがいる方の屋根はまだ綺麗だったが、反対側の屋敷正面側はすでにガラガラと崩れ始めていた。

愛華の足元にも屋敷内でなにかが倒れたりする音が響いてくる。

ふと下を見ると屋敷内からどんどん使用人たちが避難している様子が見えた。

その中には毛布にくるまった、あの檻の中の三人も混ざっていた。

「そう言えば、勇者様。コキュの実は通常人が食べてもそこまで回復効果はございません。もちろん勇者様のように念じるだけで回復するようなこともございません。」


え。


「そういう事は早く・・・」

振り向くともうそこにとんがりとクラウスの姿は無かった。

「ぐぬぬ。いつの間に。それじゃあ、あの檻の中の三人を助けたのは・・・」

答えは一つしかない。

愛華は困ったような笑顔になった。




翌日、

朝刊にて『宿町スクレイの豪華屋敷炎上』と見出しの新聞が発刊。

内容には当主不在で二男のクラウスしかいなかった件、黒蝶も居合わせた件などに触れる。


夕刊にて『恐怖のガイシュ邸で起きた惨劇』との見出し。

生存した被害女性三名の供述によりクラウスの罪が暴かれた経緯が掲載。

黒蝶の活躍があった件にも触れる。


翌々日、

朝刊にて『王都のガイシュ邸、家宅捜査へ』との見出し。

王国中を賑わせた。


夕刊にて『ガイシュ卿の爵位剥奪へ』との見出し。

王都の家宅捜査で奴隷と化した女性6名を救出。

ガイシュ家の犯罪による拉致監禁の被害女性は死者含め30名を超える見通し。

王国中を恐怖へ陥れることになる。



しかし、これらの情報に愛華が触れるのはもっと先の話であった。


【名 前】クラウス・オーストロン・ガイシュ 【クラス】なし

【レベル】1

【 Next 】20


【H P】23       【装備中】

【M P】10        【武器】   なし

【攻撃力】3        【頭】    なし

【防御力】2        【腕】    高級時計

【魔 力】2        【胴体】   貴族のブラウス+貴族のズボン

【命中力】2        【脚】    高級革靴

【瞬発力】3        【アクセサリー1】ゴールド指輪

【 運 】5        【アクセサリー2】ルビーの指輪

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