東の森のヤバいやつ
「はぁ?まだ戻ってない!?」
スルベスト村から朝一で戻った小倉と柳瀬は、木村と森から愛華がまだ城に戻っていない事を聞いた。
「・・・うん。」
「はぁ。」
「サランに状況を聞いてみるか。」
柳瀬もさすがに動くべきだと考えた。
「そうだな。」
だが木村にはさらに気になることがあった。
今朝、小松原と北野に昨晩小倉と柳瀬が帰ってきていないと聞いた事だ。
何か危険な目にあったのではと気が気ではなかった。
「小倉君たちこそ、昨日は帰ってこなかったけど・・・・その、何かあったの?」
踏み込み過ぎない程度に恐る恐る聞いてみる。
「まさか、この世界の、お、お、女の子と一緒だったとかじゃないよね!?」
しかし思いもよらない疑問が北野から投げられた。
「そ、そうなの!?」
木村は顔面蒼白だ。
「くそっ。イケメンは異世界でもリア充か!」
小松原と北野は心底悔しそうな顔をしている。
「アホか!」
本人が馬鹿らしいと一蹴し話が終わりそうになるが、柳瀬の悪戯心がそれを止める。
「まぁ、尚麒は帰り際に結婚を迫られて頬にキスされてたけどな。」
小倉の顔が引きつった。
「やっぱり!!!」
「はぁ!?何その女!!許せない!!」
木村は今にもその女を引き裂かんばかりの怒りに支配されている。
「玲奈、落ち着いて。」
「ずるいよ!爆発しろ!」
全員が「どういう事なのか?」と小倉に詰め寄った。
「おま、それはビビの話だろ!!」
「ビビちゃんっていうんだ。」
「名前からしてドジっ子巨乳系かな。」
「ビビって誰よっ!?誰なのよーっ!?」
全員の気迫に耐えかねた小倉がフツフツと怒り出す。
もちろん、親友に対して。
小倉は柳瀬の肩を力強く握った。
「拓・・・お前、責任もって説明しろや。」
「わ、わかった。怒るな。」
柳瀬は、昨日の出来事を掻い摘んで話し出した。
ホカの実の農作物被害があったこと、子供が拾ったポチが危険なモンスターだったこと、戦ったとこなど。
スルベスト村にそのまま泊まらせてもらった二人は早朝、ケヴィンの馬車で王都まで送ってもらった。
村を発つ際に、ビビが「ゆうしゃさまのおよめさんになるぅ~!」と泣きじゃくった件を、柳瀬は説明した。
「あ~、なんだ、そっか。」
「なんだつまんないな。」
死ぬ思いだった小倉としてはイラッとしたが我慢した。
「っていうか木村さんと森さんは図書室だとして、お前らはいったい何してたんだ?」
イラッとついでに男子オタク組に聞いてみる。
「ええー、僕たちは街をパトロールしてたのさぁー。」
「えっ?う、うん、まぁそんなとこかな。」
北野の目が泳いでいる。
「はぁ?アンタたちは遊んでただけでしょ?」
「そうですよ、美味しいお店見つけたとか可愛い子がーとかばっかり話してたじゃないですか。」
女子からのツッコミが入る。
「お前ら・・・サランから一週間でレベル20まで上げると言われてるんじゃなかったのか?」
「しらねーぞ。」
小倉と柳瀬の目もじと目になっている。
「あはは、今日から頑張るよ!今日から!」
「そ、そうだね、頑張ろう!あはは。」
「しかし、レベル20なら意外と早く達成できるかもしれないぞ?」
柳瀬が二人のやる気を出させるためにフォローする。
「俺らは一晩でレベル13まで上がったしな。」
「ええー!もうそんなに!?」
「昨夜戦ったクレオマンティスという敵がレベル20だったからな。」
二人は帰りの馬車の中で戦果を確認していた。
そして【スキル】に新しいスキルと【アイテム】にドロップ品がそれぞれ確認できた。
「あ!そうだ、小松原。お前、勇者装備は武器しかないけどそれ危ないぞ?」
「ええ?そう?」
「ああ、この装備に助けられた。」
「でも武器は強いからレベル20でも一発だったんでしょ?」
昨日の戦いを思い出す。
『草薙の剣』でポチを刺して一撃でHPはゼロだった。
まぁ、正確にはゼロになる前にさらに攻撃してしまったが。
「まぁ、そうだが。」
「じゃあ、楽勝だよ。」
「強くてニューゲームだからね、中盤までは一撃なんじゃないかな?」
「ぬるゲーだよな。」
二人の専門用語?に付いていけない二人はそういうものなのかと納得する。
自分たちがゲームに慣れていないせいで最初は苦戦したのだと。
「ふーん、ま、俺らはゲーム詳しくないからわっかんねーけど。気を付けろよ?」
「そうだね、一応気を付けようよ、小松原君。」
「ああ、気を付けるのも良いけど、後方サポートがあればもっと安心感があるんだけどなぁっ。(チラっ)誰かいないかなぁ・・・(チラっ)」
小松原は木村と森にいやらしい目線を送った。
「うっざ。」
「こっち見ないでください。」
しかし女子の反応は冷たい。
「ぐはっ!」
「小松原君ーっ!!」
小松原は心にダメージを負いその場に突っ伏してしまった。
そのわざとらしい演技を見た女子の目はさらに冷たいものとなる。
「え?何?」
「キモっ。」
「ぐほっ!」
「大体、アンタらに付いて行くくらいなら小倉君と柳瀬君に付いて行くってーの。」
「身分をわきまえて欲しいですね。」
女子二人の目に光はもう無くどす黒い目で小松原を見下げていた。
「がはっ!」
「木村さん、森さん、それ以上は・・・!小松原君のHPはもうゼロだよ!」
「いや、満タンだが?」
「柳瀬君、真面目に答えないでよ。」
-----------------------------------------------------------------------------
《撃つ》ヒュン
「ぐおおおおおお!」
-イビルベア Lv.17~21
凶暴な大熊。森の奥地に生息。高レベルになると魔法も使う。
愛華は翌日も東の森のマップ未完成域を中心に回っていた。
森の奥に行けば行くほどレベルが高いモンスターが出てくるようだ。
昨日よりも若干強いモンスターに出会う事が多い。
それでも愛華の【魔力】値の魔弾であれば一撃死させるには十分だった。
《撃つ》ヒュン《撃つ》ヒュン
「ヒュルルルル!!!」
「ヒュリリリリ!!」
-エル・ブルーム Lv.12~15
花の魔物。甘い香りで獲物をおびき寄せる。毒や麻痺効果の花粉に注意。
だけど、近づかなければ無問題!
愛華はすっかり木の上から魔弾で攻撃するスタイルが気に入っていた。
この鬱蒼と茂る木々の中から、地上のモンスターを見つけやすいだけでなく、相手の攻撃の届かない距離から一方的に攻撃できる。
最初は恐かった木の上も、木の枝から別の木の枝へジャンプで移動できるようになっていた。
『双月』の扱いも大分慣れて、今では両手でクルクルと色々なガンプレイまでできる。
やっぱり形から入らないとね♪
腐鴉を撃ち殺しながら考える。
このまま行けば攻撃力の基本となる【魔力】は問題なしに成長し続ける。
今の所、大体1レベルアップごとに6~8アップする【魔力】が、マジシャンである愛華の一番の強みだ。
本来、マジシャンは【魔力】が高い分【攻撃力】が低い(育ちづらい)ので物理攻撃には向かない。
しかし、愛華には幸運にも『双月』がある。
『双月』はサブ機能として魔弾が発射できるが参照値が愛華の得意な【魔力】なのである。
つまり、【攻撃力】ではなく【魔力】で物理攻撃も魔法攻撃もできてしまうという奇跡が起こっている。
ということは、『双月』がある限り攻撃に関してはとにかく【魔力】さえ育てれば良いのだ。
「クフフ。」
ならば【攻撃力】は捨てる。
《撃つ》ヒュン《撃つ》ヒュン
ドサッ
-大ムカデ Lv.15~18
岩陰など日陰の場所を好む。獰猛で毒持ち。
攻撃はこれで問題ないとして、防御面だ。
敵の物理攻撃を防ぐパラメーター値は【防御力】だ。
その点、『夜の帳』が現在ほとんどの攻撃を防いでくれている。
どこまでのレベルの敵に耐えられるかはわからないが、しばらくは【防御力】を育てる必要性を感じられない。
一方、魔法攻撃に対する防御パラメーター値は【魔力】だ。
これはさっき考えた通り放っておいても一番育つので心配ないだろう。
防御面も問題なし。
愛華はウルフの群れを襲いながら考える。
《撃つ》ヒュン《撃つ》ヒュン
「グォォォォォォン!!」
-アッシュホーン Lv.19~22
縄張り意識が強い。見た目は獰猛そうだが草食である。見事な角は高く売れる。
あとは【命中力】と【瞬発力】と【運】。
【命中力】は『双月』の本来の物理攻撃参照値だ。
なので装備するだけで「+890」と爆上げだ。
それに【命中力】は元々【魔力】の次にレベルアップ時の上昇率が高い。
これも今の所育てる必要性を感じない。
【瞬発力】は今まで正直よくわからなかった。
敵からの回避率に影響しているのかと勝手に思っていた。
でもこの森のレベル上げでようやく理解した。
「【瞬発力】って身体能力のことだわ!!」
愛華はエクリスを撃ち殺しながら叫んだ。
確認できた限りでは、走る速さ、ジャンプ力、物理攻撃の速さに影響している。
「これって、結構重要・・・っていうか銃で戦うならスピーティな方がカッコいいし!!」
何度も言うが愛華は形から入るタイプだ。
最後の【運】は敵からのドロップ率に関係するらしいが、愛華は興味は無かった。
この世界では敵を倒すといつの間にやら【アイテム】の一覧に色々なアイテムが入っている。
この前のヴォーグウルフの時は「ヴォーグウルフの毛皮」と「ヴォーグウルフの牙」が勝手に入っていた。
でも死骸には毛はそのまま付いていたので不思議に思い、休み処ピオリィの部屋で【取り出す】を選んでみたら本物の大きな毛皮が頭付で出て来て叫んだことがあった。
ここら辺のことはよくわからないので今度サランに聞いてみるつもりだ。
ひたすらモンスターを撃ち殺していると、遠くに人の形をしたモンスターが数匹見えた。
「人型!!」
警戒し木の上から近づくと、本物の人だった。
う、撃たなくて良かった!
見ると全員肩や胸に「ハンター教会」のバッジを付けている。
ああ、なるほど。
ピオリィの女将さんから話は聞いていた。
森に入るならこの町のハンターと鉢合わせるかも、と。
彼らはモンスターが増えすぎないように定期的に危険なモンスターを狩ったり、賞金目当てにモンスター関連の仕事を請け負う人達と聞いた。
勇者は商売敵とも言えるから愛華は気付かれる前にそっと立ち去った。
ミシッ
「ん?」
だが耳の良いハンターの一人が木の枝を蹴った音を聞き逃さなかった。
一瞬愛華の黒いマントが見えた。
「あれは・・・?」
「どうした?」
「今黒いローブを来た奴があそこの木の上にいた気がしたんだ。」
男は遠くの木の枝を指さした。
「見間違いじゃないのか?」
「うーん、わからん。腐烏かもな。」
「というかさっきからモンスターの死骸だらけだな。」
「ああ、嫌な予感がするな。何かヤバいモンスターでも発生しているかもしれん。」
「報告した方がよさそうだな。」
「ああ、必要なら町に注意勧告も発令した方がいいかもな。」
そんな話になっているとは知らず愛華は森でモンスターを狩りまくった。
ピオリィに帰った時に確認するとレベルは29まで上がっていた。
「よしよし、クフフ。」
お風呂上がり、新しいスキルも覚えて上機嫌の愛華が濡れた髪をタオルで拭きながら自室に戻ろうとしていた時、備品の補給をしていた女将さんに話しかけられた。
「あ、勇者様、明日も東の森に行くのかい?」
「え?そのつもりですけど。」
「そうかい、じゃあ気を付けな。なにやら物凄く強いモンスターが発生したらしいよ。」
「え、そうなんですか?わかりました、気を付けます。」
お礼を言って自室に戻る。
愛華は明日そのモンスターを狩ろうと決めた。
それが自分のことだとは微塵も思っていない。
【名 前】小嶋 愛華 【クラス】マジシャン
【レベル】29
【 Next 】264
【H P】 165 【装備中】
【M P】 267 【武器】 双月
【攻撃力】 119 【頭】 なし
【防御力】 782 【腕】 スターブレスレット
【魔 力】 772 【胴体】 夜の帳
【命中力】1051 【脚】 ニーハイ+らくちんパンプス
【瞬発力】 120 【アクセサリー1】なし
【 運 】 121 【アクセサリー2】なし