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異世界の黒蝶  作者: ちょうちょ
~プロローグ~
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同乗者たち

ついにその日が来てしまった。

修学旅行で台湾に行くのである。


愛華も覚悟を決めている・・・グループ活動で独りになることを。

そしてオタバレするわけにはいかない。

隙を見せないために髪型や服装のオシャレには手を抜かなかった。

薄いピンクのフリル袖チュニックに黒のショートパンツを覗かせて、ニーハイソックスとパンプスも黒で締めている。

そのせいだろうか・・・

私は今知らない男性2人に絡まれている。


「すんげー友達になりたいんだけどー」

いやー!


修学旅行の集合場所は空港の出発ロビーだった。

特に友人がいない愛華はギリギリの集合時間に現れたいがために、クラスメイトの目に付きにくい空港外で時間を潰していたのだ。

ただ見つかりにくいといっても集合場所から離れているというだけで、普通に人の行き来はある。

むしろバスロータリーへと続く道の脇なので、バスを待つ人々の目には留まりやすい。


「連絡先交換とかー」

むりー!


失敗した!こんなことならトイレに籠って時間を潰せばよかった!

ああっ、でももしトイレに行く瞬間をクラスメイトに見られたら・・・それは困る。

そう、長時間トイレに籠っていると思われるのはそれはそれで恥ずかしい。


「とりあえず友達からっつーことでー」

え?え?

と・・・友達ならいいかな?


とにかくこの状況から逃げたい一心でよくわからない方向へ志向が揺らぐ。

携帯を取り出しかけたその時、視界の外から思わぬ台詞が飛び込んだ。


「ああ、こんな所にいたんだね。探したよ。」

ぐいっと肩を寄せられた愛華は何が起きたのかわからず声の方向を向いた。


はぅっ!!

王子様!!!!!

第一印象にこれ程わかり易い例えはないだろうと確信する。

そこには、サラサラな金髪の少し堀の深い、おそらくハーフと思しき青年がいた。


「さぁ、早く搭乗手続きを済ませてしまおう。」

「あ、はい。」

唖然としているナンパの2人組を気にもせず、ハーフのイケメンは愛華の肩を抱いたまま空港内へ踵を返す。

「ぁんだ、彼氏と一緒かよ。」

後ろからそんな声が聞こえたが、この王子様は全然知らない人だ。


「あっ、あのっ・・・」

「静かに。もう少し我慢して。」


誰!?

私と同じくらいの大きさのスーツケースを持っている・・・ってことは空港利用者なんだろうけど・・・てか手が腰にあたってるーーー!!

こんなことさらりとやってのけるなんて・・・イケメン怖い!!




気付けば出国ロビーまでエスコートされていた。

「さて、ここら辺でいいかな。君、物凄く美人なのだから一人でぼーっと立っていてはいけないよ。」

彼はそう言って優しい口調で愛華を窘めた。

心臓が持たない。

しかし助けてくれたのは事実・・・とにかくお礼を言わなくては。

「はい、ありがとうございました。」

ぺこりと頭をさげる愛華に彼は王子様フェイスで微笑んだ。

キラキラという効果音が今にも聞こえてきそうだ。


「君の記憶の中に僕のような男もいると、覚えていてくれると嬉しいな。」

え?ああ、あんな男ばかりではないよと言いたいのか。

男性の名誉のためのフォローも欠かさない・・・どこまで紳士なのか!


「それにしても君の彼氏は大変だね。こんな美人を一人で行かせるのも心配だろう。」

え?ああ、私に彼氏がいると思っているのか。。


「いえ・・・彼氏はいませんので・・・。」

「え?」

王子様は少し驚いたように目を見開いた。


「そう・・・ではもしまた君とどこかで会うことができれば・・・、その時は改めて僕とお友達になってはくれないかな。」

「えっ!?」

それは無理だな。

愛華は瞬時に結果を算出した。

だがそんな拒否感と裏腹に王子様は冗談だよと言わんばかりにクスりと微笑む。

「ではお互いに良い旅を。」


そう言って彼は出国ロビーの人混みへ爽やかに消えていった。

あ・・・名前くらい聞けばよかっただろうか。

いや、あんな王子様キャラと会話とか難易度高すぎる。

結局何もできなかった。

今度、ナンパをかわすイメトレでもしよう。

いつも他人の前では何もできないことにストレスを感じつつ、自校の集合場所へと向かう。





集合場所は直ぐにわかった。

見慣れた同級生がテンションマックスではしゃいでいるのが遠目からもわかるからだ。

ただそうは言ってもワイワイしているど真ん中に行くわけにもいかない。


あんな魔獣の巣窟のような渦の中に・・・・・・無理。


愛華は素早く集合場所の空港ロビーの柱の陰に隠れた。

やることが無いので携帯いじりでもしていようか。

最近始めたスマホゲームでもしようかと携帯を取り出す。

明らかに同じ学校の生徒なのに、一人だけ柱の影にもたれかかっているその状況が傍から見ればおかしかった。

そんな事には気付いていない。


「小嶋さん、何してんの?」

「きゃああああああっっ」

「うぉ?」

学年一のイケメン小倉に呼ばれて驚く。

予想外の叫び声に小倉も驚く。

多少離れた場所でワイワイしていた同級生にも聞かれたに違いない。


「えっと別に・・・よしかかれる場所が良いかなと・・・思いまして・・・」

「??具合悪いの?」

「だいじょう-」

「小倉くーーーーーーーーーん!コッチコッチ!」

言いかけた途端集合場所の女子たちが小倉を見つけて次々に騒ぎ出した。

「ちょ・・・引っ張んなって!」

女子たちに連れられていく小倉の後ろに、彼といつも一緒の柳瀬がいた。


「小嶋さん、本当に具合悪いなら早めに先生に言っといた方がいいよ?」

彼は親友の小倉のモテっぷりを呆れ顔で見送った後、心配そうに愛華に向き直してそう言った。

「大丈夫です、ありがとうございます。」

「そう。楽しみにしていた修学旅行だからってあまり我慢しないようにね。」

そう言うと彼は中指で眼鏡の位置を直した後、女子に囲まれている小倉を救出へ向かう。


「楽しみ、ね・・・。」

愛華は悲しそうに目を伏せた。


相変わらず良い人だ。

柳瀬君はいつもやんちゃな小倉君をソフトに受け止めているように見える。

見たことはないが同じバスケ部でも凄く良い連携をしているらしい。

女子がキャーキャー話しているのを聞いた。

きっと良い感じに凹凸が出来上がっている二人組なのだ。

良いな・・・。


愛華には眩しい存在だ。

これから起こりうる楽しいイベントにはしゃぐ同級生たちを、羨ましそうに眺める。

愛華と彼らとの距離は数メートルだが、愛華にはとてもとても遠い距離に思えた。



「ふー。また小嶋が小倉をひっかけてたし。」

集合場所の人混みから、ピンクのメッシュを入れた女子が不機嫌そうに出てくる。

「おっつー、真央。」

それを待っていた女子グループの一人が、スマホをいじりながら敬礼のポーズを取る。

どの女子もピアスをしていたり化粧が濃かったりと、何とも気の強そうな集まりだ。


「玲奈、アンタ同じクラスっしょ?何とかならんの、アイツ?」

真央と呼ばれた女子が、自分の背後を睨んだ。

その視線の先には愛華がいる柱がある。

「はぁ?何とかって何よ?」

話をふられた木村は呆れたように肩をすくめた。

「だーかーらぁ、こうよ、こう!」

別のギャルが拳を作ってシャドーボクシングのように空気を殴って見せる。

「いい加減ヤキ入れた方がよくね?」

「はぁ、あんたらねぇ。」

木村はこう見えて暴力的な事は嫌いだ。

友人たちがタバコを吸おうが誰かを苛めようが、そこへは参加せず諌めるタイプだ。

正直幼稚な行為にしか見えない。

しかし愛華のこととなると木村の心も乱れる。


大体なんなの、あの子。

いつもいつも男に守られて。

小倉君も小倉君よ!

なんでいつもあの子をかまうの???

あんなビクついた子・・・



木村は学校での小倉と愛華の様子を思い出す。

するとモヤモヤとした感情が湧きあがった。

「どした?玲奈?」

友人の声で我に返ると、フルフルと顔を横に降り心のモヤを掃った。


「でもま、イラつくってのは同意。」

木村は鋭い視線で遠くの愛華を睨んだ。






『ただ今より昇陽高校の皆さんを機内へご案内いたします』


「イエーーーーィ!」

「やっとかよーー!」

CAから放送がかかると、待ちわびたのか生徒がざわつき始める。


いつものごとく愛華はそれを冷めた目で見ているのかと思いきや、さっきまでの気分とは打って変わって少しワクワクしていた。

実は飛行機に乗るのは中学の修学旅行ぶりだったからだ。

家が貧乏なため飛行機に乗るような旅行にも行ったことが無く、人生で空を飛ぶ経験は2度目ということになる。

(往復入れれば3度目だが)

しかも愛華は今回窓側のシートが宛がわれたため、隣のクラスメイトと話さなければいけない状況に陥ることはないと予想した。

景色を見るか・寝たふりをすればいいのだから。


その時、同じ飛行機に同い年くらいの見慣れない集団も乗り込もうと整列している事に気付く。

何だろう?と思った愛華の疑問には、直ぐに回答が来ることになる。


「ねー、聞いた?東京の名門校の開星高校も同じ日程で台湾なんだって!」

「えっ!?あの開星!?うっそ!」

そのような会話が耳に飛び込んだ。


別のところでは「開星に凄いイケメンがいた!」やら「可愛い子がいた!」など

盛り上がっている。

開星高校といえば東京の超進学校だ。

愛華でも名前を聞いたことがある。

 

嫌な流れだ。


外見が整っている愛華はとにかく第一印象が良く話しかけられる事が多いのだ。

何度か誘われたり話しかけられているうちに、

「ああ、この子は独りでいたいんだな」

と理解して大抵は去っていくのだが。。


どうか話しかけられませんように。


そう願い愛華は機内へ搭乗した。






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