一人旅開始
「う・・・オエェェェェェ!!」
柳瀬がポチの兜割れを見て吐いている。
「おいやめろよ、つられて俺まで吐きそうになるだろ。・・・うぷ。」
「す・・・すまない。・・・オエェェェェェ!」
「俺なんてまだ手に裂いた感触が残ってんだぞ。」なんて言ってると、ナイルがその死骸の傷口を開きだした。
「だせっ!!パパをかえせっ!!!ひっく・・・がえせよぉぉぉ!!」
「ナイル??」
ビビも困惑している。
「ど、どうしたんだっ!!!」
「まさか・・・」
柳瀬はナイルの手を掴んで止めた。
「ひっく!!こいつ・・・パパを!!!パパをぅぅぅう!!!」
その反応を見て小倉と柳瀬は何があったのかを大体察した。
「クソッ。俺たちがもっと早く村に戻っていれば・・・」
「尚麒、それは結果論だ。」
しかしそういう柳瀬の表情も自分を責めた険しいものだった。
「うわあああああああん!!」
二人はかけていい言葉が見つからず、黙って抱きしめることしかできなかった。
「ビビー!」
「勇者様!!!」
ナイルの背中をトントンしていると遠くから呼ぶ声が聞こえる。
見るとアビとケヴィンがこちらへ走ってやってくる。
「あ!パパ!!!パパ―!!」
「ビビ!ビビ!良かった!探したんだぞ!沢山探したんだぞ!」
「パパぁぁぁぁうあああああん!」
「勇者様、ご無事で!!・・・ひぃ!」
アビはビビを探しに、ケヴィンは戦いの状況を確認しに来たらしい。
最初こそポチの死骸を見たケヴィンは悲鳴をあげたが、勇者の勝利を悟り安堵する。
それから王都方面へ避難していた住民も呼び戻し、状況説明や安否確認・被害状況の確認などにおわれた。
王都から部隊が送られてきたのは2時間くらい経ってからだった。
「ケヴィン様!!」
ケヴィンのお付きの兵士が一番にケヴィンの元へ駆けつける。
「遅いぞ!既にこの私と勇者様でとっくにモンスターは誅した!」
何やら突っ込みたい台詞が聞こえたが二人は我慢することにした。
「おお・・・、流石でございます!!」
「ふふん。」
「ケヴィン様、兵が到着されたとか・・・。」
ラルクが外の気配に気づき村長の家から出て来た。
見ると20人前後はいるだろう軽い分隊クラスの兵が馬から降りてこちらにやってくる。
「なんと、このような小さな村にこんなに派兵してくださるとは。」
今夜、村の人々はまだ恐怖が癒えない精神状態と(父親を失った世帯もあり)今後の事を話し合う意味でも村長の家で一晩を過ごすことにした。
子供達はもう寝室でくっつきながら寝ている。
そんな村の人々を起こしたり不安にさせたくないという想いだろう、ラルクは「こちらへ。」と勇者や兵たちを含め全員を、家から離れた街道へ誘った。
兵たちは小倉と柳瀬の姿に気付き、「ご苦労様です!!」敬礼をする。
分隊長らしき人物が一歩前に出て再び敬礼をし口を開く。
「勇者小倉様、柳瀬様!この度はモンスターが出没と聞き及び馳せ参じました!」
ああ、そういう事か。
ここにいるケヴィン以外は分隊長の言葉と態度で、こんな村に分隊規模が派兵された理由に何となく察しがついた。
小倉はポチの死骸がある方を指さした。
「モンスターは一匹だけだ。もう倒した。」
兵たちから「おおお!」と歓声があがる。
「流石は勇者様です!では我々はモンスター討伐から被害状況の確認とモンスター種の特定へと作戦を修正いたします!」
「ああ、そうだな。」
小倉と柳瀬は顔を合わせて難しい顔をした。
ナイルの父親のこと、村の自作自演のこと。
色々な事が頭をよぎった。
「では、被害状況を聞き取りしたいのでご協力をお願いしたい。」
分隊長は先程まで勇者への態度とは違うトーンで村長に向き直った。
「はい、まずわたくしからお話ししましょう。そう、最初から。」
ラルクは伏し目がちに話し始めようとしたその時だった。
「モンスターによる人命被害、農作物被害だ!!」
ケヴィンが割って入った。
「ケヴィン様・・・」
「我がハイラー家の領地で起きたこと。わたしが話そう。」
「あ、あたな様がハイラー男爵家のご嫡男でしたか、失礼いたしました!では、お願いいたします。」
分隊長はケヴィンが派兵依頼主の貴族の息子だとは気付いていなかったようだ。
また声のトーンを変えて謝罪した。
「しかし・・・それでは・・・」
ラルクは私の罪が消えませんと言わんとしていた。
しかしケヴィンは受け付けなかった。
「最初はモンスターによる農被害、それから該当モンスターの潜伏先を発見後、住人と交戦になり一名の人命被害がでた。そうですよね、勇者様?」
小倉と柳瀬は驚いた顔を見合わせた後ニヤリと笑い大きく頷いた。
「ああ、その通りだ。」
「俺も証人になるぜ。」
「なんと・・・勇者様も!」
「村長ラルクよ、今後も我がハイラー家に尽くせ。言いたいことはそれだけだ。参るぞ!」
その後、ケヴィンは分隊長と村長を連れてランタン片手に状況説明に畑中を回ったのだった。
「あいつ、結構良いとこあんじゃん。」
「意外に良い領主になるかもしれないな。」
二人はケヴィンの背中を遠くから見つめてそんな話をしていた。
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「勇者様!」
う~ん、誰?
私のこと?
「勇者様!着いたべよ!」
呼ばれてる??
でもまだ眠たいよ。
「勇者小嶋様!ハイロに着いたべさ、起きてけろ~!!」
「ハッ!」
小倉パーティがポチと戦う少し前に戻る。
そう、彼らがモンスターを探して西街道をうろちょろしていた頃、愛華は宿町ハイロに着いていた。
「う・・・眩し・・・」
見ると太陽が真上にあり燦々と輝いている。
「勇者様、宿町ハイロに着いたべさ。少し荷物下すからどいてけろ。」
「あ、はい。すみません。」
愛華はうーんと伸びをしてからぴょんっと荷台から降りた。
周りを見渡すと、建物が沢山あり出店もあり旅人や行商人が沢山いる。
ハックが止めたのは街道脇にある道具屋の前。
「ここの店に入った注文分の配達だぁ。ちょっと待っててくんろ。」
そう言うと木箱を一つ下して慣れた手つきで店の奥へ入っていく。
どれくらい北に来たんだろう?
目的のクレイリー製作所までは王都から三日くらいって言っていたから、1/3までは来たってことかな?
レアが描いてくれた地図によると、ノーザ王国の北の国境付近にあるテノール川の手前らしい。
川の向こうにはフリュッセイドという国があるとか。
「お待たせだっぺよ~っっ。」
ハックが店から出て来た。
「さぁて、これからオラは急ぎの荷物を届けにフリュッセイドに行くっぺよ。勇者様、それまで乗ってくか?」
やはりハックは愛華を最後まで送ってくれる気でいてくれたらしい。
確かにフリュッセイドに行く途中にクレイリー製作所はある。
しかし愛華にはウォーグウルフと戦った時から、いやそのずっと前から思っていたことがあった。
「いえ、私はしばらくこの町に滞在しようと思います。」
「そおかぁ?命の恩人だから送って行きたかったべよぉ、でもしょうがないべさね。」
「お心遣いありがとうございます。私・・・」
「??」
「私、もっと強くなりたくて・・・・」
「オオカミに噛まれても生きてるんだから十分強いと思うべさぁ。」
「あ、あれは防具でブーストしてるから・・・もっとレベr、じゃなくて戦闘経験を積みたいんです。」
「そっかぁ、魔王さん倒すくらいにゃあもっと修行がいるのかもしれねぇべな。」
あー実際どうなんだろう?魔王を倒す推奨レベルっていくつなんだろ?
そうですね、なんて話ながらハックは愛華をハイロでのお勧め宿まで案内してくれた。
「休み処ピオリィ?」
愛華は宿屋の看板を読んだ。
「んだ、ごこはおがみさんが一人で経営している宿でぇ、客はおなごしか受けないだよ。」
「女性専用宿!」
「本当はもっとグレードの高い宿もあるげども、勇者様ならごこがいいと思ったべさ。」
ハックから見た引っ込み思案な愛華の性格と、一目見ただけで男性を虜にしてしまう美貌から、彼が気を利かせてチョイスした宿だ。
「いえ、ここが良いですっ!ありがとうございます!」
「じゃあオラはここで。勇者様ぁ、本当に助かったべよ。」
助かったのはこっちだ。
夕方に林の間の街道をとぼとぼ一人で歩いていたときの孤独感といったら耐えられなかった。
ハックさんが馬車に乗せてくれなかったらどうなっていたことか。
「何か急ぎで運びたい荷があれば言ってくんろ。王都なら『ヘルメス』って宿にいる事が多いっぺよ。」
「ヘルメス・・・わかりました。」
それからハックさんはクレイリー製作所までの行き方を簡単に教えてくれた。
クレイリー製作所まではあと一つの宿町を経由して街道を行けば右手にあるらしい。
それからハイロの町を拠点にするなら東の森で修行すると良いとか色々教えてくれた。
「じゃあ、達者でなぁ~!」
「はい、ハックさんも道中お気をつけて!!!」
ソロプレイを開始して初めて助けてくれた人だ。
恩人だ。
愛華は心からの感謝を込めてハックの馬車が見えなくなるまで手を振った。
「さて。」
《撃つ》ヒュン
《撃つ》ヒュン
「ギュエェ!!!」
「キィェェェ!!」
-腐鴉 Lv.2~5
黒いカラスだけど身体かが腐ってる。動物の死骸なんかを食べてるけどたまに生きた人も襲われるらしい。臭いが酷い。
《撃つ》ヒュン《撃つ》ヒュン
「ピュルピュル!」
-大蜘蛛 Lv.3~7
見た目が無理。普段は小動物を狩るらしいが人間の子供なども襲うこともあるとか。
《ファイア》
「ボァァァァァァァ!」
-人面樹 Lv.8~13
動かずに周りの木に紛れて獲物が来るのを待つ生きた木。燃やす!
私はハイロ東の森でとにかく戦闘をした。
それで気付いたことがある。
私の走る速度とジャンプ力が軽く運動選手並みになっている。
人面樹に気付かなくて、急によしかかっていた木が動き出したことに驚いた私は無我夢中で近くの木にジャンプした。
そしたら150cmくらいの高さにある木の枝の上に乗れてしまった。
運動音痴の私にはこんな事今まで有り得ない。
おそらくだけど、パラメータ値が関係していると思われる。
【瞬発力】を上げると、こういう人間離れした動きが可能になるのかもしれない。
《撃つ》ヒュン《撃つ》ヒュン《撃つ》ヒュン《撃つ》ヒュン
「キュー!」「キュキュー!」
-大ネズミ Lv.4~10
集団で行動。雑食で何でも食べるし襲う。あっという間に繁殖することでも有名。
数が多い!
走りながら撃ってはいるものの、囲まれないようにするのは一苦労だ。
愛華は森の木の幹を蹴って宙返り、
《撃つ》ヒュン《撃つ》ヒュン
後ろの木の上へと着地する。
《撃つ》ヒュン《撃つ》ヒュン
森の木を利用して上手く囲まれないように移動しながら撃ち続ける。
まさかこの私が宙返りとは・・・。
銃を装備したことでガンナーの動きになっているのか少しアクロバティックな動きができるようになっている。
これならレベル上げも作業感が出ずに済みそうだ。
と言っても愛華のレベル23に対して敵が弱すぎるのでまだレベルは上がっていないが。
【ステータス】のNextを見る限りあと少しのようなので、レベル24にしてから宿に帰ることにした。
カラン-
休み処ピオリィの扉が開かれる。
入口正面のカウンターで受付をしているガタイの良い女性が愛華を見た。
「あら、勇者様、お帰りなさい。夕飯はどうする?」
「あ、お風呂に入ってからいただきます。」
この宿は広めのお風呂が共同施設として付いている。
女性しかいないので気兼ねなくいつでも入れるのだ。
「はいよ。しっかし、まさかうちに勇者様が来てくれるなんてねぇ。」
そう言われると気恥ずかしい。
「でも、勇者様ならこの町の駐屯所に無料VIP待遇で泊めてもらえたんじゃないのかい?」
「え?」そうなの?
「知らなかったって顔してるね。普通に考えて神の遣わされた勇者様なら公共施設は使いたい放題だろう。」
そうだったのか。
でも、ムキムキの兵士さんばかりのところに一人で泊まるとか・・・
愛華は兵舎に一人で泊まる姿を想像してみた。
・・・うん、嫌だな。
「女性専用宿だって知り合いに勧められたんで、ここで良いんです。」
「そう?やっぱり勇者様でも男がいない空間だと安心するかい?」
「はい。物凄く。」
「あっはっは!なら、毎日この宿を回してる甲斐もあるってもんだね。ありがと。」
女将さんはムキムキのポーズでウィンクした。
思っていたのだがこの世界の女性非常にはたくましい。
あ、体型の話ではなく・・・
毎日を必死で生きている。
辛い環境にも文句を言わず生きている。
私なら耐えられない。
私は逃げる、家族から、学校の友人から。
壁を作って逃げに徹してやっと一日が終わる。
それはこの世界でも同じだ。
逃げよう、私は。
今はとにかく戦闘に慣れたい。
そう、魔王を倒すことに専念する。
難しいことは考えない。
考えない。
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ヴェルダ城内図書室。
愛華を探しに行くのを諦めて二日目、まだ愛華がヴェルダ城に帰って来たという知らせは無い。
木村と森は勇者戦記の本を1巻からあさっていた。
「ったく、あの子はどこに行ったのよ、もう!」
プンプンしながら本のページをめくっている。
「心配だね。」
そう言うと森は木村の怒った横顔を眺めた。
言おうか言うまいか躊躇った後、森は口を開く。
「でも玲奈は結局どうしたいの?」
「?どういう意味?」
「小嶋さんが無事に帰ってきた後の話。やっぱり女の子一人は危ないよ。小倉君達と行動した方が良いと思う。」
「それはっ・・・そうだけど。」
木村は、愛華が嫌いだ。
でもこんな異世界で死んで欲しいわけじゃない。
でも想い人と愛華が親密になるのは耐えられない。
思考が矛盾する。
「んあーっ!よくわかんないっ!!!!」
木村は勢いよく本を机に叩きつけ考えるのをやめた。
今にも本を破きそうな気迫の木村を見て、森は諦めて手元の本に思考を戻す。
そこで森は勇者戦記に出てくるモンスターの挿絵を見て青ざめる。
「玲奈、こんなのが外に本当にいると思う?」
「えー?ちょっ・・・さすがにこれは嘘でしょ。なんか目と足一杯あるし。」
恐がりな二人は挿絵を見て無言になってしまう。
「大丈夫・・・だよね、小嶋さん?」
「うう。やっぱり探しに行こうかな・・・。」
木村は顔を手で覆い真剣に考え始める。
「ですから、僕に任せてくださいと言っているでしょう?」
「「きゃあああ!!」」
いつからいたのか二人の後ろにはサランが立っていた。
「ちょっと!あんた急に出てくるのやめなさいよっ!悪い癖よ、それ!」
「心臓に悪いですぅ。」
「図書室ではお静かに。」
しかしサランは二人の講義を無視して、口に人差し指をあて可愛いポーズをとっている。
こうして見るとやはりまだ子供に見えなくもない。
イラッとした木村は怒った口調で何しに来たのか問い詰めた。
「いえね、本当にお二人とも魔王退治に参加なさらないのか、改めて説得に来た次第なんです。もう、周囲からの圧力も凄くてですね。」
サランは大げさに困った顔をして見せた。
「しつこいなー、無理だって言ってるじゃん!」
「私は血が出たりするのが駄目なんです。たぶんお役には立てません。」
木村は怒ったように、森は申し訳なさそうに言った。
「ええ、伺っておりますよ。ですが今回の小嶋様の件のように、城の中からただ無事を祈るよりは、一緒に外に出て見守る方が有益だとは思いませんか?」
「はぁ!?私たちにあの子と一緒に戦えって言いたいの!?」
「仰る通りで。」
「あの子と協力なんて絶っっ対に嫌!!」
木村はフンっとそっぽを向いてしまった。
「傍で見張ればよろしいのでは?」
「え?」
「いえ、出過ぎたことを申しました。お忘れください。」
木村も森もサランが何を言わんとしているのか理解し、不愉快な気分になった。
「アンタね・・・子供でもキレるわよ・・・。」
木村は物凄い威圧的にサランに凄んだ。
しかしそれと同時に「最終的にそうするしかないのでは」という否定できない後ろめたさも感じていた。
当のサランは何とも感じていないようだが。
「では、勇者木村様と勇者森様は戦闘参加の意志無しということで、国王に最終報告いたします。・・・よろしいですね?」
それはまるで最後通告のようだった。
しかし、特に追い出されるとか城で働かされるといったことはないとのことだ。
あくまで神の使いという神聖な存在として今まで通り城においてくれると言っている。
そこまでの確認をして、木村と森は顔を見合わせて頷いだ。
「「はい。」」
【名 前】柳瀬 拓 【クラス】ランサー
【レベル】13
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【H P】 146 【装備中】
【M P】 75 【武器】 上等兵の槍
【攻撃力】 185 【頭】 なし
【防御力】1082 【腕】 なし
【魔 力】 494 【胴体】 天竜の鎧
【命中力】 76 【脚】 訓練兵のブーツ
【瞬発力】 68 【アクセサリー1】なし
【 運 】 24 【アクセサリー2】なし