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異世界の黒蝶  作者: ちょうちょ
~第1章 ノーザ動乱編~
18/36

尚麒の初戦

グロ回

「きゃああああああああああああああ!!!!」

「わあああああああああああああああ!!!!」

ナイル以外の二人は一目散に逃げ出した。

残されたナイルは腰が抜けて動けなかった。

「ポチ・・・なんで・・・」

ナイルは自分の股からあたかい液体が漏れるのを感じた。


ポチは初めて嗅ぐ人間の血の匂いをヒクヒクさせて嗅いだ。

「や・・・やめろ・・・ポチ・・・」

ナターを鎌に挟んだまま、少し持ち上げて見たり、顔を近づけたりして逆三角形の顔の先にある嗅覚受容体と頭の触覚を果敢に動かし、見定めようとしていた。

「パ、パパを・・・・はなせ!はなすんだ!やめろ!!!」

結論は出たようだ。

「やめろおおおおおおおおおおおおお!!!!」

ポチはナターの頭からかぶりついた。

頭を無くしたナターの首からは勢いよく血しぶきが噴き出す。

「ああっ・・・ああっ・・・!!!!」


ボキッ!バキッ!

ポチはナターを貪り始めた。

器用に鎌と真ん中の足を使いナターの角度を変えながら食べている。

ナイルは自分の父親が食われている様を見ている事しかできなかった。

食事に夢中のポチから今なら逃げることもできただろう。

でも動けなかった。

少しでも父親の近くにいたかった。

父親の最後の一かけらまで少しでも長く一緒にいたかった。

だから目を背けるわけにはいかなかった。


そしてつぎはぼくのばんだ。


ポチは一通りナターを食べ終わるとナターの血を滴らせながらナイルに近付いてきた。


こわい。

でもいたいのがまんすればパパのいるポチのなかへはいれるかもしれない。

そしたらずっといっしょにいられるかもしれない。


ナイルは動かずに見下ろしてくるポチを見つめていた。

ポチは逆三角形の顔を不思議そうに傾げている。

しばらくナイルとポチが見つめ合っていると、いきなりゴンっと大きな石がポチの後頭部に当たった。

「キーッ!」

ポチが石が来た方を睨むと村長のラルクが息を切らして立っていた。

「その子に・・・手を出すな。こっちだ。」

ラルクは、ナイルからポチを遠ざけようと背中を向けて走り出した。

「キシャ―ッ!」

ポチは威嚇しながら村長を追いかける。

「だめ・・・ポチ!もうやめて!!おねがいだからっ!!!」


ラルクはナイルからも村の中心からも遠ざかるように、走る。

しかし、足の悪いラルクの全速力は杖をつきながら大人の早歩き程度だ。

すでにすぐ後ろにポチが迫っていた。

「ううっ!」

畑の土に足を取られ畑の真ん中で倒れてしまう。

上半身を起こして振り返ると目の前にはポチがよだれを垂らして自分にかぶりつこうとしていた。

「ここまでか・・・」

後の事は息子のアビに託した。

ハイラー家の従者にも応援を呼ぶよう依頼済みだ。

それまで村の皆が逃げ切れれば、この身が食われようとも後悔はない。


ラルクが諦めた瞬間「ボカッ!」という打音と共にポチの頭が衝撃を受ける。

!?

ポチの後頭部から大きな音がしたのだ。

ラルクから見るとポチの頭がガクッと衝撃で自分に近付いたようだった。

ついに食われるのかと思ったがそうではないようだ。

「キキーッ!!!??」



「おおー、ナイッシュ~!」


そんな声が聞こえた。

見ると勇者二人が畑の向こうでホカの実を持って妙なポーズをしている。

「じゃ、次俺な。ほっ・・・」

勇者小倉がジャンプして独特な手つきでホカの実を放すと、綺麗な弧を描いてポチにの顔面に吸い込まれた。

またボカッ!という音とともに今度はポチの顔面で実が砕けた。

ホカの実の甘い香りが充満する。

「異世界でも腕は鈍ってないな。」

柳瀬が安心したように言う。

ポチは頭を振りながらホカの実を自分に投げた対象を確認する。

「キシャァァァァァッ!!!」

怒り狂ったような声をあげてポチが勇者たちの方へ突進した。


「来た来た!あ、やべ、速ぇっ。」

「おい、尚麒、来るぞ!」

小倉は予想外に素早い動きに『草薙の剣』の【取り出す】が間に合わない。

とりあえず、足止め目的で柳瀬が手に持っているホカの実を投げつける。

「キシャ―ッ」

しかし大きな前足の鎌で一撃で払い落される。

あっという間に間合いを詰められ鎌による二連撃が繰り出されるが、間一髪で二人はそれを左右に散ることでかわす。

小倉の髪がかすったことで茶色く染めた髪の毛がパラりと散る。

レベル1の小倉と柳瀬が格上の素早さの攻撃を避けられたのは、二人の並外れた運動神経と反射神経のたまものだった。

ポチから見て右に小倉、左に柳瀬が飛びのいたのだが、ポチは最後に自分を攻撃してきた小倉しか見ていない。

そのまま右に舵を切り小倉を追う。

「拓!今のうちに武器を取り出せっ!」

「わかってる!」

柳瀬はピコピコメニュー画面を操作し始めた。



「ゆ、勇者様・・・来てくださったのか・・・・。」

畑の真ん中に残されたラルクは自分がまだ生きている事に気付く。

「おじいちゃん!!!」

「こっちだ!村長よ、立てるか!?」

ビビとケヴィンが迂回してラルクの元へ駆けつけた。

まさかまた生きて孫の顔を見ることができようとは。

「村人はナターとナイル以外全員、街道から王都方面へ避難済みだ。」

ケヴィンに肩を貸してもらいよろけながらも歩き出す。

「おじいちゃん、ナイルみなかった?」

「ナイルはナターの畑におる。迎えに行かねば・・・。」

ラルクは震えた指で自分が走って来た方角を指さした。

「そ、そなたを送った後に見に行こう。」

ケヴィンは勇ましく買って出ているが声は震えていた。

「じゃあわたしいってくるよ、おじいちゃん!!」

「そうかそうか!え?」

ビビは躊躇いもなく駆け出した。

「!!待て!駄目じゃ!ビビ!!!」

「子供では危ない、戻るんだ!」



「うぉっ!」「はっ!」

小倉は避けに徹していた。

ポチの右鎌からの斬りつけをしゃがんで避け、左鎌による下からの斬りつけは左に首を曲げてかわす。

「クソっ。武器を出す暇がねー。」

ポチの大振りを後ろへバク天して避けた。

「拓!今だ!」

「わかって・・・、るっ!!!!」

柳瀬は取り出した槍で、背後からポチの後ろの反り立っている腹部を思いっきり刺した。

グシュ

しかし柳瀬が槍を通して手に感じた感覚は、表面しか刺さっていない、だった。

「キィィィィィィィ!」

「ダメだ!攻撃が通らない!!うおっ!?」

今度は背後から攻撃した柳瀬をターゲットに鎌を振り回し始める。

「よし!そのまま引きつけろ!」

小倉は今のうちにとメニュー画面を開きだす。

「引きつけろ、と言われて・・・もっ!」

柳瀬は避けながら後退し背中が畑脇の木にぶつかってしまう。

気付けば後ろに逃げ道はなく追い詰められていた。

「キキー!」

ポチの大振りを間一髪のところで転がって避けるが、代わりに背後の木が斜めにスッパリ斬られてギィ・・という音と共に倒れる。

その殺傷能力を目のあたりにした柳瀬が青ざめる。

「これ死ぬぞ・・・。うぉっ!」

よそ見をしていた柳瀬を、ポチがトゲトゲの足で抑え覆いかぶさった。

「!!拓!!!何やってんだっ!!!」

小倉は操作を中断し、柳瀬を助けに走る。

ポチは柳瀬の上に乗りながら右の鎌を大きく振り上げた。

柳瀬はポチが自分にその振り上げた鎌を下すのを見て自分が死ぬのだと確信した。

今までの記憶が走馬灯のように駆け巡る。

はは、俺の人生・・・あいつのおかげで結構楽しかったかもな。


小倉は親友のピンチに全速力で走る。

-間に合え!!!-

柳瀬とポチまであと2・3mの所で鎌は振り下ろされた。

ザシュ!!!

「ぐはっ!」

ゴン!コツン!

「ポチ!やめてえええええええ!」

「ゆるさないぞ、ポチ!!」


「!?」

見ると横からビビとナイルがポチに石を投げていた。

なんでこんな所に子供が?ケヴィンは何やってんだ!

「お前ら・・・ダメだ!離れてろ!!」

「キシャ―ッ!!」

誰が石を投げたのか気付いたポチは柳瀬から子供たちの方へ興味を移す。

「うわあああ!!」「きゃーーーーーー!!」

ビビとナイルは自分たちの方へ来ようと勇者柳瀬から降りたポチを見て逃げ出した。

「クソッ!行かせねーよっ!!!」

小倉は子供達の所へは行かせまいと目の前のポチに飛びかかった。

すると丁度背中の反り部分に馬乗りになる形で後ろから羽交い絞めにできる。

「キキー―ッ!」

ポチは驚いて小倉を振り落とそうと暴れだした。

前かがみでお尻の腹部分を跳ねさせたり上半身を勢いよく反ったりと躍動感あるその動きはまるでロデオの暴れ牛だ。

「うぉっ!」「うあっ!」

小倉も必死にしがみつく。

「うわっ!ゆうしゃさま、ポチにのってる!すごい!」

ポチが追ってこないことに気付いたビビとナイルが、小倉が馬乗りしているのを見て感動している。


一方、鎌で刺された柳瀬はむくりと起き上がる。

自分が死んでいないことを認識するまでに少し時間がかかっていた。

刺されたはずの鎧の胴体部分を撫ぜる。

傷は付いてない。

視界の下部分にほんの少し削れたHPバーが見える。

そして先程斜めに切断された木を見る。

それから少し考えて思い出す。

自分が、自分たちが着ている鎧は歴代の勇者たちが残した伝説の装備なのだと。

ああ、こんなことを忘れていたなんて。。

なんて愚かなんだ。

小倉と柳瀬の弱点はまさにゲーム慣れしていないことだった。

【ステータス】画面で自分たちのパラメータの数値などを見たものの、現実でモンスターを目の前にしてしまうとその数値がどう作用するのかなど頭から吹っ飛んでしまった。

HPバーの存在すら忘れ去っていた始末だ。

「尚麒ぃぃっ!!!!」

気付けば大声で叫んでいた。

「おまっ・・・生きて・・・っ!!」

必死にロデオを続けている小倉の目が少し潤む。

「大丈夫なんだっ!!!!俺たちの『天竜の鎧』と『パトリオット』ならそいつの攻撃はかすり傷だ!!!!」

それを聞いた小倉は少し間抜けな顔をした。

そして思い出す。

「そっか・・・そうだよなぁ・・・ハハ。・・・よしっ!!」

小倉はポチの腹部の跳ね動作により空中へ高く放り上げられた、ように見えたが実際はその遠心力を利用して綺麗に一回転しポチの数メートル前に足から着地した。

着地の衝撃でサバトンにより畑の土が巻き上がる。

「来いよ。」

小倉は真っ直ぐにポチを見つめそう言った。

言葉を理解したのかポチは「キシャァァァァ!」と雄叫びをあげながら小倉に向かって行く。


「ゆ、ゆうしゃさまーー!がんばれぇぇぇ!!」

「ゆうしゃさまーーー!」

先程まで逃げ回っていたビビとナイルはすっかり観戦気分だ。



しかし小倉は棒立ちで動かない。

「・・・たく。最初からこうしてれば良かったぜ。」

「キシャ―――ッ!」

小倉はポチの左の鎌に挟まれて持ち上げられてしまう。


「きゃあああ!」

「ゆうしゃさまぁ!!」


しかし持ち上げられたまま小倉は挟まれていて動きづらい右手の代わりに左手で確実にメニュー画面を操作していく。

「キシー!」

鎌に挟まれた鎧はミシミシと音を出している。

小倉の視界にHPバーが出現した。


【アイテム】


ポチが小倉の左肩にかぶりつく。

ガキンッ!

HPバーのゲージは6%程度しか減っていない。


【装備品一覧】


しかし鎧の肩部分に少し傷がつくだけで小倉の操作は止まらない。


【草薙の剣】


「キキーィ!!」

今度は右の鎌で小倉を突き刺す。

ガキッ!ガキッ!

HPゲージの右端がじわじわと減る。


【取り出す】


ポチの右鎌の攻撃が続く中、小倉は気にせず左手で何かを掴み引き抜いた。

するとそこには見事な剣が握られていた。


「キィィィィ!」


「ゆうしゃさまぁぁぁぁぁ!!!」

「がんばれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「やれぇ!!尚麒っ!!!!」



グチュッ!!!



鈍い音と共にポチの背中から『草薙の剣』の先が飛び出した。


「キキッ・・・」

持ち上げられた状態で剣を突き刺した小倉の力強い目線の先は、ポチの頭上のHPゲージだ。

急速に0に近付いて減っていく。

このままでもあと2秒で0になるだろうが、小倉はそれまで待てなかった。

小倉は突き刺した『草薙の剣』をそのまま、上に向かって切り裂いて行く。

「っぅぉぉりゃぁぁああああっっ!!」

剣を振り切ると、ポチの胸部から頭部は二つに割れて黄色の血液が噴き出した。

そのままずるりとポチの体が崩れ小倉は解放された。

「っはぁっ、はぁっ・・・っしんど!!」

小倉は大の字で畑の上に仰向けになった。




【名 前】小倉 尚麒    【クラス】ファイター

【レベル】13

【 Next 】98


【H P】 156      【装備中】

【M P】 66        【武器】   草薙の剣

【攻撃力】1932       【頭】    なし

【防御力】1337       【腕】    なし

【魔 力】 528       【胴体】   パトリオット

【命中力】 65       【脚】    訓練兵のブーツ

【瞬発力】 52       【アクセサリー1】シルバーピアス

【 運 】 40       【アクセサリー2】なし

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