スルベスト村
ここは朝のノーザ王国西の街道入口。
小倉と柳瀬は手形を見せて優先的に通してもらった。
二人は道具類の準備を終えて戦闘経験を積むために外出しているのだ。
小倉は少し寝不足気味な顔をして不機嫌そうに歩いている。
「今朝サランに確認したら、ノーザ領の範囲ならレベル25以上あればギリギリ大丈夫とか言ってたぞ。」
「じゃあ当面はレベル25を目標にするか。しかし、よく小嶋さんを探しに行くのを我慢したな、尚麒。」
歩きながら柳瀬が信じられないといった表情で聞いた。
「あん?たぶん大丈夫だからな。」
「根拠は昨日の小松原と北野の話か?」
「そ。」
「だが絶対大丈夫とは言い切れないだろう。」
「ああ、だから迎えに行ける程度にはレベルを上げる。」
小倉は【取り出す】で勇者武器『草薙の剣』を取り出した。
眼鏡を上げる柳瀬の目つきが鋭くなる。
「ほう。強くなってカッコいい所を見せたい、と。」
「切りっ刻むぞ、お前っ!!!」
二人はそんな話をしながら城塞外の街道をひたすら西へ歩く歩く。
50分程歩いたところで我慢できなくなった小倉が叫んだ。
「全っ然出ねーじゃん!!」
街道から見える景色の中にモンスターがいそうな場所が見えないか気を付けながら歩いていく予定だった。
しかし王都から近い街道脇は思いのほか栄えていた。
「サランは各街道脇に弱いモンスターが出るとか言ってたが、流石にこんな人が多い場所の話じゃないだろうな。」
柳瀬も疲れた顔で同意した。
周りを見ると家や店が立ち並び王都ほどではないが町のような感じになっている。
「ああ~こりゃもっと田舎に行くべきか?足がいるな。」
「とりあえず最初は弱いモンスターの情報が欲しい。」
「はぁ、聞き込むか。」
そう言って二人は武器を異次元へ戻した。
二人が町で聞き込んだことで得た西街道沿いのモンスターの情報は三つ。
・スルベスト村のモンスターによる農作被害
・ヌビアの森近郊で見たことないモンスターの目撃例
・アイシャ村の若い娘が数人行方不明
この三つの中でスルベスト村という村が一番近く、馬車で2時間程度で着くらしいので行ってみることにした。
町で食糧を買い足し、街道を行く馬車をヒッチハイクして数時間後、二人は小さな村に着いた。
王都の城塞が遠くに見えるだけで、そこまで離れてはいない。
ハイラー男爵の領地であり、農業を主に営んで収穫物を王都に売りに行く生活をしているという話だ。
ここの名産はホカという大きな果物だという。
「おっちゃん、ありがとな!」
ヒッチハイクで世話になった行商人に挨拶をして小倉と柳瀬は馬車を降りる。
二人は、見渡す限り畑で、そこに4・5件しか家々が無い光景を見て軽く感動していた。
「田舎いいな!」
「ああ、空気が美味い。」
とりあえず、一番近くの一番大きな家から回る事にする。
家を訪ねるまでに畑を見た限りでは、大きな緑色のスイカのようなものが沢山地面に生っている。
「あれがホカの実か?」
「さぁ。」
家の前まで来ると、脇に不釣り合いな程豪華な馬車が止まっているのが目に入る。
疑問に思いつつもドアをノックしようとすると中から騒がしい声が聞こえた。
「この、ハイラー家の嫡男、ケヴィン・ブルエ・ハイラーに任せたまえ!!」
という声が段々近づいて小倉がノックしようとしていたドアが勢いよく開いた。
その拍子で小倉と声の主がぶつかりそうになる。
「うぉ!?」
「ぎゃっ!?・・・ん?おお!?なんとっ!勇者様たちもいらしていたのですかっ!!??」
小倉と柳瀬を見て瞬時に勇者だと気付いた彼は、もちろん一般人ではない。
金髪の前髪を九一分けにして固めているという特徴的な髪形をしており、ブラウスに短パンに白タイツというどうみてもお坊ちゃんの風貌をしていた。
あー、貴族たちの顔合わせにいたような・・・
「拓、こいつ誰だっけ?」
「確か、ケヴィン・ブルエ・ハイラー・・・ハイラー男爵家の一人息子だ。」
「ああっ、なんという偶然!なんという奇跡!そして勇者小嶋様はいずこに!?」
愛華も一緒だと思ったようでキョロキョロ探している。
「俺たち二人だけだよ。」
小倉はウザそうに答えた。
「そ、そうでしたか!ははははは!」
ケヴィンは笑いながら泣いている。
「ケヴィン様、勇者様と聞こえましたが?」
家の中から白髪の老人が出て来た。
「村長、このお二方こそ先日の召喚でこの世界に舞い降りた勇者様だ!」
「おお!」
「え!?ゆうしゃさま!?」
家の奥で可愛い声がした。
村長の後ろからひょっこり6歳くらいの女の子が顔を出している。
「それはなんと恐れ多い。立ち話もなんですので、どうぞ中へお入りくだされ。」
「ゆうしゃさま!ほんもの!?」
「これ、やめなさい。」
村長は小倉と柳瀬を家の中へ招き入れた。
家に入ってすぐの部屋はリビングダイニングのような部屋だった。
シンプルで使い古された木のテーブルと木の椅子が中央に置かれている。
さらに奥は簡易的な藁で編んだようなベッドのような物が4台置いてある。
おそらく寝室だろう。
かなり質素な暮らしをしているようだ。
小倉と柳瀬は木の椅子の上座に通された。
何故かケヴィンも一緒になって座る。
「どうぞ。」
子供の母親だろうか、中年女性がお茶を出してくれた。
「こんなものしかありませんで・・・」
「いえ、お構いなく。」
挨拶もそこそこに村長が本題を切り出す。
「すると、勇者様も我が村の農被害の件で?」
「ああ、そんなところだ。俺は小倉 尚麒、んで・・・」
「俺は柳瀬 拓、一応勇者らしい。」
「わああ、ゆうしゃさますっごいカッコいいね!ね!おじいちゃん!」
「ああ、わかるよ、僕の男としての魅力は年齢問わず魅了するからね。」
何故かケヴィンが誇らしげにそう言っている。
「こら、ビビ!失礼でしょ?」
「フォフォッ。そうだな、ビビ、お目が高いな。」
「もう、お父さんまで!すみません、礼儀がなっていなくて。」
「いえ。」
「あと10年したらデートできるかもなっ。」
そんな軽口を叩いて小倉はビビにウィンクをした。
ビビは「きゃあ~!」と両手でほっぺを押さえる。
そんなやり取りを見て皆の緊張が少し和む。
「申し遅れましたが、私はこの村の村長のラルクと申します。こちらは息子アビの嫁のヒラリー、そしてこのじゃじゃ馬っ子が孫のビビです。」
「うんっ、私ビビっていいますっ!5歳です!」
ビビは元気に手をパーにして見せた。
「ああ、よろしくな。」
「よろしく。」
可愛らしく自己紹介するビビに小倉と柳瀬はにっこりほほ笑んだ。
「それで・・・農作物の被害っていうのは、そこら中に生えてたあの青くて丸い実か?」
「ええ、ええ、ホカの実といってこの村の特産品なんです。」
「いつからだ?」
「最初に発見したのは3日前です。」
ヒラリーが答えた。
「モンスター被害と聞いたが根拠は?」
「歯型です。ホカの実に歯型が付いており食い荒らされているのです。」
「今までもそういう事はあったのか?」
「ええ、数年に一度、近郊の森からはぐれたアクリスやエアレー等がここら辺の農作物を食べてしまうことが度々ありました。」
「その度に我がハイラー家が派兵したり被害分を援助したりしてきたのさっ。」
ケヴィンはフフンと誇らしげだ。
そんなケヴィンの話は流して小倉と柳瀬はチンプンカンプンと言った表情になっている。
「アクリス?エアレー?」
「アクリスはおっきいよぉ~!角も立派なの!」
ビビがこ~んなのといって両手を広げているが子供の両手幅なので大きな猫ぐらいにしかなっていない。
「ビビ、静かにしなさい。大事な話をしているんだから。」
「ぅー。」
それからは見た方が早いということで、実際に被害にあった畑を見せてもらうことになった。
この村は街道の両脇に広がっており、南側に村長とナター家族の家と畑、北側にアルベルトとバンの家族とその畑が広がっているらしい。
その全世帯の畑に被害があったとか。
まずは、すぐ横の村長の家の畑に向かう。
家を出てすぐ右を向けばそこに広がる全てが村長の家の畑だ。
畑には既に一人の男性が農作業をしていた。
その男性もこちらの存在に気付いて手を止めた。
「息子のアビですじゃ。」
村長が紹介してくれる。
ということはビビの父親ということになる。
ビビは父親似のようだ。
「親父、この方たちは?それにケヴィン様まで?」
「やぁ!」
ケヴィンが挨拶し、ラルクが小倉と柳瀬を紹介した。
「こちらのお二方は勇者様だ。」
「はぁ!?この前召喚されたばかりのあの勇者様!?」
またこの反応か、と嫌気がさしたがとりあえず挨拶を済ませる。
「農被害について調べに来ました。ご協力をお願いしたい。」
柳瀬が簡単に経緯を話した。
「勇者様がわざわざこんな村を救いに来てくださったのだ。案内して差し上げろ。わたしは他の家にも伝えてくるでな。」
ラルクは案内を息子のアビに任せ杖を突きながら街道向かいへとゆっくり歩いて行った。
何故かケヴィンが「うむ、ご苦労。」とか言っている。
「実際に被害にあった実を見せてくれ。」
「ええ、かまいませんよ。こっちです。」
小倉、柳瀬、ケヴィンはアビに被害のあった畑へ案内された。
「これ・・・か。」
柳瀬は大きな穴が空いたホカの実の元にしゃがみ込んだ。
ボコボコ穴が空いていて中からジュクジュクとした果汁が甘い香りと一緒に漏れている。
その周りにはジグザグの歯型が確かについている。
「で、アクリスとやらはこんな凶暴な歯をしてんのか?」
小倉は見たことないモンスターを想像しながら質問した。
「いえ、アクリスやエアレーにこんな尖った牙はございません。別のモンスターだと思っています。足跡も違います。」
アビはついでにアクリスやエアレーは蹄があると教えてくれた。
「なるほど。」
見ると、人間の足跡以外にラグビーボールやレモンをもっと細くしたような跡が畑の土に沢山残っている。
とりあえず足跡を追跡してみると、畑の周りの砂利道へ消えておりそこから追跡はできそうになかった。
そのまま畑の周りの砂利道を少しあるいて観察してみたが、同じように食い荒らされている実がいくつもあった。
「どれくらいやられてるんだ?」
「うちの畑では大体3割くらいです。一生懸命育てたっていうのに酷いもんですよ。」
「そうだな・・・。」
「しかしホカの実ってーのは色んな柄があるんだな。」
見ると黒い斑点や黒いぐるぐる模様や縞模様、牛柄など緑地に様々な柄の実があった。
「ああ、面白いでしょう?人の顔みたいな柄ができた年は豊作だっていう言い伝えもあるんですよ。」
「へぇ。」
「ちなみに、その人の顔の柄ができたホカの実は我がハイラー家に毎回献上されているんですよ?」
「フーン。」
自慢気に言うケヴィンを無視して話を続ける。
「んで、今回はまだモンスターの形がわからない、と。夜型のモンスターってことか?」
「はい、おそらくは。」
「夜中に鳴き声や音を聞いたことは?」
「昨晩も村の男たちで見回りをしていたのですが、姿を見ることはかなわず・・・しかし朝方にはまたバンの家の畑で被害が発生していました。」
「うん?いつやられてるのかもわからないのか?」
「はい。用心深く、さらには僅かな時間で食い荒らして去っていくようです。」
「モンスターの種類さえ特定できれば、我がハイラー家の権力でその情報を元に国へ派兵依頼をすることができるんです。それで嫡男であり次期当主の僕が調査に来た、というわけです。」
「なるほどねぇ。」
「わかった。とりあえず他の家の畑も見せてもらうことにするよ、ありがとう、アビさん。」
小倉と柳瀬とケヴィンは街道を横切り今朝被害が発覚したばかりだというバンさんの家に向かった。
「勇者様!!まさか本物を目にする日がこようとは!」
バンという男性は感動しながら出迎えてくれた。
畑を見せてもらったところ同じようにギザギザの歯型が付いて穴が空いていたホカの実が沢山並んでいた。
「ん?こちらの畑は青地に白い柄が多いんですね?」
柳瀬が見ると食い荒らされたホカの実の柄に僅かに白が混じっている。
「え、ええ、同じ畑でも違う柄がでますし同じ育て方でも違う柄が出て、ホカの実の柄の発生経緯は謎なんですよ。」
「そうだったのか!」
ケヴィンが軽くショックを受けている。
「お前、自分の領地の特産品なのに知らねーのかよ?」
「面目ない。わたしがホカの実を見る時は既に調理済みなので、調理前の姿など気にしたことは無かったのです、はい。」
小倉は涙目のケヴィンを横目で見ている。
「ま、勉強になったんだからよかったんじゃないか?」
なんて柳瀬がフォローしていると、「あっ!ゆうしゃさまだっ!!」と畑の外から子供の声が聞こえた。
「本当に勇者様なのかよ?」
「ほんとうだもん!」
「わぁ!ビビの言ったとおりカッコいい!」
見ると4~6歳くらいの男女の子供達がキラキラした目でこちらを見ている。
子供達は「お~い!」と手を振り片方の手にはバケツに沢山生ごみを入れている。
小倉が「おー。」と適当に手を振りかえすと「わぁっ!」と子供たちが喜んで去って行った。
「騒々しくてすみません。」
バンは小倉と柳瀬に申し訳なさそうに謝った。
「いえ、子供達が良い顔をしている良い村だと思います。」
「そうだろう?」
何故かケヴィンが自慢気だ。
「あのチビたちが持っていたのはゴミか?」
「ええ、廃品のホカの実や生活で出た生ごみです。来年の肥やしにするので肥溜めに捨てます。最近では専ら子供達の仕事です。」
「それは偉いな。」
柳瀬が優しそうにほほ笑む。
それから三人はアルベルトとナターの家の畑を回って被害状況を確認した。
どこも被害にあった実は同じ歯型が付いており、2割~3割が食われていた。
アルベルトもナターもモンスターの姿を見ていないという。
一通り見た後、三人は村長の家に戻る事にした。
時刻はすでに夕時を迎えている。
しばらく無言で歩いたが最初に口を開いたのは小倉だった。
「拓、この村の大人何か隠してる。」
「ああ、この村何か変だな。」
「えええええっ!?」
【名 前】小倉 尚麒 【クラス】ファイター
【レベル】1
【 Next 】4
【H P】 48 【装備中】
【M P】 18 【武器】 草薙の剣
【攻撃力】1828 【頭】 なし
【防御力】1240 【腕】 なし
【魔 力】 492 【胴体】 パトリオット
【命中力】 5 【脚】 訓練兵のブーツ
【瞬発力】 4 【アクセサリー1】シルバーピアス
【 運 】 4 【アクセサリー2】なし