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異世界の黒蝶  作者: ちょうちょ
~第1章 ノーザ動乱編~
14/36

愛華の一人反省会

無事に夜明けを迎えた愛華は、ハックと共に街道沿いをさらに北へ北鉄亭を立とうとしていた。

「寂しいがしょうがねぇな。」

「片付け手伝えなくてすまんっぺよぉ。急ぎの配達頼まれてんだぁ。」

「私もすみません。」

キシャは黙って愛華を見ている。

見かねたクリスがバンッとキシャの背中を叩いた。

「うわっ!なんだよ、親父。」

「お前は、別れの挨拶くれーちゃんとしろよ!」

「子供じゃないんだ、わかってる!てか親父はもう本当に体調はいいのかよ?」

「おう!ちょっと寝てる間に窒息死する悪夢を見てたが、もう大丈夫だ!」

ブッ

愛華が吹いた。

「まぁ、なんだ。また近くを通る時は寄ってくれよ。」

キシャが頭をポリポリ掻きながら恥ずかしそうに言った。

「はい、ぜひそうさせてもらいます。」

愛華はそう言いながらハックの荷台に飛び乗り、最後の挨拶にフードを取った。

「本当に、色々お世話になりました。」

荷台の上からぺこりと頭を下げる。

「・・・っ」

「???」

しかしキシャからは何も挨拶が無い。

どうしたのかと見るとキシャが顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。

クリスはあちゃーという顔をした。

「いやいや、礼を言うのはこっちだ。勇者様がいなけりゃ俺たち親子はここで戦死してただろうしな!」

パクパクしている息子の代わりにクリスが礼を言う。

愛華は複雑な笑顔になった。


本当に役に立っていただろうか?

最初は足手まといだったし。

最後のトドメは運が良かっただけな気がする。

もっとレベルを上げる必要がある。

もっと強くなりたい。


そんな愛華の思考を読み取ったのかクリスは言った。

「ま、あまり考えるな。今回の戦いは必ず勇者様の力になる。それに気付くのはきっともっと後なのさ。」

おお、そういう考えもあるのか。

愛華は少し気持ちが楽になった。

「んじゃあ、いくべさ~!」

ハックがピシッと馬を叩いて馬車は動き出した。

「達者でな!勇者様もあまり無理せんように!」

頷いた愛華とハックは手を振る。

ハッとしたキシャは両手をメガホン代わりに叫んだ。

「気を付けて!ケガとかするなよーーーー!」

急ぎの配達のためか馬車の速度は意外と速い。

馬車が小さくなりかけたところで、街道に駆け出す。

「必ずまた来いよーーーーーーーー!!!」

キシャは大きく大きく手を振った。


-----------------------------------------------------------------------


豪華なシャンデリアの部屋に本棚が沢山並んでいる。

その中央に、複数の大きな机と椅子が並べられている静かな空間。

そこに二人の女子が座っている。

一人はちょこんと座り分厚い本に目を通し、もう一人は拗ねたように机に肘をついている。

「小嶋さん、大丈夫かな?」

本を読んでいた森は心配そうなこえで呟いた。

「さぁ?」

聞かれた木村はフンっと鼻息を荒くして答えて続けた。

「大体喧嘩の場から逃げるんじゃないわよ、あの子!」

メラメラと怒りの炎を後ろに浮かび上がらせて続ける。

「しかも弱虫のクセに一人で飛び出すとか有り得ないっ!皆に心配かけて!!帰ってきたらもっと苛めてやる・・・!」

言ってることが滅茶苦茶だ。

「でも玲奈が一人で大丈夫って小倉君に言ったんじゃあ・・・」

「だってあの子はいっつも一人じゃん!・・・一人じゃん。」

トーンダウンした木村の目には涙が溜まり始めた。

それを見て森は

あ、ヤバい。

と察する。

「そーよ、私のせいよぉ!!うわあああああん!」

木村はおいおいと泣き始めてしまった。

こうなると長い。

森は落ち着くまで木村の背中をさすった。


落ち着いてきたころで森は話題を変えようと切り出す。

「ねぇ、玲奈。この世界の神話って面白いね。」

森は読んでいる神話の本を撫でた。

「ちょっとちょっとくるみん、帰れそうなヒントを探してるんだからねっ?」

まだ目の赤い木村は唇を尖らせながら不謹慎だと言いたげに答えた。

「ごめんごめん。でもどことなく日本神話とかギリシャ神話に似てるんだよ。」

木村の目が丸くなる。

「ええっ!?くるみん、そんなん知ってんのぉ?」

驚かれたことに森は急に恥ずかしくなって少し下を向いてしまう。

「へ、変・・・かな?」

「ヘン!」

ガーン

即答過ぎて森は傷つく。

「で、でもこの男神スプサラスと女神サザンドラなんてイザナギとイザナミみたいだよ?」

「いざ・・・何それ?」

ガビーン!!

「ええーっ!?玲奈ってば知らないの!?」

今度は森が目を丸くした。

「うん。」

「二人は夫婦で、色んな神を生み出すんだけど・・・」

「あーあー、興味無いわ。」

「ぅー。」

森もここまで言われて涙目になる。

「あ、ゴメンゴメン。」

そのことに気付いてばつが悪そうに謝った。

「ちょっと・・・今のはあたっちゃったかも。」

木村は申し訳なさそうに机の上にコテンと顔を乗せて森を見た。

森も愛華のことだとわかっているがあえて言わない。

「神話を読んだ限りだと、特に帰るヒントみたいなのは無いしね。」

「はぁ~。」

実際、神話を調べたのはほとんどが森だ。

木村はずっとぐだぐだイライラしてるだけだったが、森はあえて言わない。

そして考えていたことを口にする。

「じゃあさ、次は勇者戦記を読んでみない?」

「あー。サランが言ってたやつ?」

「そう!」

「確かに・・・今まで召喚された人達の話だもんね!何かヒントがあるかも!!さすがくるみん!」

木村の顔がパっと明るくなる。

やろーやろー♪と賛同するが、おそらくこれも読むのは森の役目となるであろう。

だが木村の機嫌を損ねたくない森はあえて言わない。

それに森自身も本が好きで苦ではないのだ。



-----------------------------------------------------------------------


馬車の荷台に揺られながら愛華はメニュー画面を開いていた。


「クフフ。」

【ステータス】画面を見ると愛華のレベルは23だ。

ウォーグウルフを撃った後、一気にレベルが上がった感覚はあったのだが、見てみるとオオカミ数匹とウォーグウルフだけで22も上がったようだ。

上々だわ♪

そして【ステータス】画面の右上に【振分可能ポイント 24】と表示されている。

さて、ポイント振分けはどうしようか?

現在の愛華のステータスは『双月』を握った状態で

【H P】 132

【M P】 219

【攻撃力】 97

【防御力】 761

【魔 力】 728

【命中力】1016

【瞬発力】 90

【 運 】 95

こんな感じだ。


うーん、まだよくわかんないなぁ。

もうちょっと戦闘の感覚を掴むまでとっておこうかな。


そして【スキル】を開く。

「クフ❤」

新しい魔法を覚えていた。

《ファイア》《ウォーター》《ソイル》《エアル》

威力は「F」。

それぞれ地水火風の一ランク上の魔法だ。

使うのが楽しみだ。


それから愛華は【データ】から【敵一覧】を選択した。

一度戦った敵は登録されるとサランが言っていたので見てみた。

こういうアーカイブ的なものは好きだ。

開くと二行だけ選択可能な行が作成されていた。

【ウォーグウルフ】と【ウルフ】

どれどれ。


【ウルフ】 Lv.3~6 種類:動物

世界各地で見ることができる。オオカミ。集団で行動し、獲物を狩る。地域によって毛色やレベルも違う。

【ヴォーグウルフ】 Lv.29~32 種類:動物

オオカミの生息地に魔力溜まりができると稀に発生する。通常のオオカミと比べて全ステータスが高く体も大きい。知性が高く、周囲のオオカミを従える。


こんな内容が絵付きで載っていた。


ん?ヴォーグウルフってこんなレベル高かったの!?

レベル1で挑む相手じゃな~い!

よく生きてたな、私。

正直、勇者装備でブーストしてなければゲームオーバーだった。

ゲームは敵のレベルが表示されることが多いから戦う時に相手の強さがなんとなくわかる。

この世界ではそれが無いから、今後出会う敵が自分より強いのか弱いのか判断する材料が無い。

これってかなり危ないことだと思うんだけど。

とりあえず、相手の力量がわかるまではなるべく攻撃を受けない。

あとはとりあえず『双月』で撃つ、でHPがどれくらい減るのかを見定めるしかない。

できることはこれくらいかな。

ん?攻撃をなるべく受けない・・・

愛華は【振分可能ポイント 24】を見つめる。

いや、でもさすがにそんなギャンブルみたいなこと。

ま、もう少し考えようっと。


もう一つ、愛華はヴォーグウルフの解説にある「魔力溜まりができると稀に発生する」を見て数時間前のことを思い出す。

あの後、全員でヴォーグウルフの死体を確認しに林の中に入った。


-------------------------------------------------------------------


死体は大きいので直ぐに見つかった。

大きな黒茶の毛をしたオオカミが横たわっていた。

「死んでるだべか?」

離れた場所からクリスさんが槍で突いてみる。

付いた先から血が出るがヴォーグウルフはぐったりと動いていない。

「死んでるな。」

「大丈夫です・・・死んでます。」

愛華はヴォーグウルフのHPバーを確認してから発言した。

撃った場所を確認したら、おしりの右部分に一発、左後方の腹部にもう一発、穴が開いていた。

愛華はあの距離からよく当たったなぁ、と自画自賛する。

しかし死体を見るクリスとキシャの顔は恐い。

「こんなの今まで見た事ない。」

「ああ、北鉄亭を建てて20年になるがこんなデカいの見たことねぇ。」

「伝説の通りってことだべか?」

「どういう意味だ、ハックさん?」

キシャが不思議そうに尋ねた。

「魔王復活の兆しってことだよ、馬鹿息子!」

「え?そうなんですか?」

キシャではなく愛華が反応する。

「え。勇者様聞かされてねーのか?」

「は、はい。」

愛華はしょぼくれた。

「そ、そうか。魔王が復活するにあたって世界中で魔力溜まりが局所的に発生することがあるらしいんだ。」

「伝説によるとそのせいでモンスターが活性化したり、突然強い魔物が出現したりするらしいっぺよ。」

「そうなのか・・・知らなかった。」

「お、同じくです。」

くそう、サランめ。

「まぁ、それならここいらはもう安全ってことだ。」

「そうか!俺らは今まで通り北鉄亭を続けられる!」

「ああ、勇者様がヴォーグウルフを倒してくれたからなっ!」

「えっ。でもそれは皆さんが頑張ったお蔭で・・・」

「はは!謙遜なさるなって!」

バンッ

「きゃあ!」

クリスが愛華の背中を叩く。

「でも、もしかしたらこれから世界中でちょっとした騒ぎになるかもだっぺよ。」

「ああ、気を付けろよ。」

「は、はい。」

嫌だなぁー。


---------------------------------------------------------------------------------


そんな事があったのだ。

記憶を振り返り終わって、ふと顔を上げると左右の林が消えていた。

その代わり広大な敷地に遠くまで続く畑に景色が変わっていた。

「わぁ!」

急に視界が広くなり土の匂いと野菜の匂いがまざったような風が吹く。

やっぱり冒険っていいなぁ。

頑張ろう。。。

皆はパーティ組んでワイワイやってるのかな?

私は少し強くなったっよって伝えたい。

一人でも頑張ってるって。


このように思えることは実は愛華にとって物凄い進歩なのだが、当の本人はその事に気付いてはいなかった。

ハックは徹夜の重労働で疲れた体を奮い立たせて、馬車を走らせる。

景色が畑に変わったことであと数時間もすれば最初の宿町に着く。

その事がわかっているハックは後ろの愛華にそれを伝えてようとした。

「勇者様!昼飯時には宿町『ハイロ』につくだべよぉ!もうちょっと荷台で我慢してけろー!」

しかし返事は無い。

「んにゃ!?」

ハックが振り返ると、荷台に突っ伏して腕を枕にした愛華が寝息を立てていた。


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フリュッセイド聖国、禊の間。

禊の間には、水信仰から神聖なフルメイ湖から引いた水がスパのように溜められている。

スパと言っても北方の国の湖の水温は低い。

フリュッセイドの巫女は毎日その禊の間で魂を清めることが、沢山求められる義務の一つだ。

月の満ち欠けにより禊の時間は変わるものの、特別な祭典や儀式のある日以外は毎日の公務となっていた。

そして今日も、聖国の巫女でありスクレテールであるアリアディーナは、聖なる水に浸かり禊を行っていた。

「アリアディーナ様、そろそろ勇者様達が本日の試練へ向かわれます。」

禊の間の仕切りの奥から従者の女性が告げる。

アリアディーナはハッとして落ち着きがなくなった。

「それは大変です。今行きます。」

一枚の大きな白布を巻きつけて腰のあたりを金の金具で留めた禊用の衣装の裾が水面に浮いて、まるで優雅に揺蕩うクラゲのようだ。

やがてゆっくりと水から出ると、白布が濡れてアリアディーナの肌が透けており、その美しさは女神のようだった。

ひたひたと仕切りの影に向かうと、控えていた侍女達が冷え切ったアリアディーナをタオルで包む。

そこからは大急ぎだ。

着替えに、香油、髪を整える。

アリアディーナはまだ湿気の残る桃色の髪をなびかせて高官用の出入口へ向かう。


「はぁっはぁっ・・・レイ様っ!!」


声の先には装備を整えて出立しようとしていた6人の男女がいた。

皆、白を基調とした質の良さそうな装備をしている。

その中から一際美男子の金髪の男子が呼ばれたことに気付き振り向いた。

まるで王子様のような白いマントを付けたその男子はアリアディーナに優しく声をかける。

「おや?アリアディーナ様。禊はもう終えられたのですか?」

アリアディーナの頬が赤く染まる。

「はいっ。本日も皆様がご無事に戻られますように、せめてお見送りをと思いまして。」

「いつもありがとうございます。」

そう言って優しく微笑んだ彼の笑顔は王子様そのものだ。

アリアディーナの目が喜びに満ちる。


「やれやれ、俺らもいるんだけどね。」

少したれ目で軽そうなイケメンが皮肉めいて二人の世界を壊した。

「あっ、いえっ。わたくしは皆様のご無事をお祈り申し上げております。」

慌ててアリアディーナは釈明する。

「フッ。照れたお姿も可愛らしい。」

たれ目のイケメンは自分の赤茶の髪をかきあげた。

智康(もとやす)、それ以上は失礼よ。」

見ていた長い黒髪の女子が睨みつけると智康は肩をすくめた。

「時間が・・・・無い。」

「そうですわ。早くレベルを上げたくてうずうずしていますのに。」

一番がたいの良い色黒の男子と金髪縦ロールが不釣り合いな程一重でぽっちゃりな女子が急かした。

「そうだね。では、そろそろ行こうか。」

そう言って彼らは今日もレベル上げのために出立する。


彼らをまとめる金髪の王子は、まさに愛華が空港で男に絡まれていたのを助けたその人であった。


【名 前】小嶋 愛華    【クラス】マジシャン

【レベル】23

【 Next 】109


【H P】 132       【装備中】

【M P】 219        【武器】   双月

【攻撃力】 97        【頭】    なし

【防御力】 761        【腕】    スターブレスレット

【魔 力】 728        【胴体】   夜の帳

【命中力】1016        【脚】    ニーハイ+らくちんパンプス

【瞬発力】 90        【アクセサリー1】なし

【 運 】 95        【アクセサリー2】なし

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