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異世界の黒蝶  作者: ちょうちょ
~第1章 ノーザ動乱編~
12/36

私は勇者

ドォーーーーーン!


「きゃ!何!?」愛華も大きな音に気付いた。

北鉄亭正面の街道の方から大きな音がする。


ドォーーーーーン!


「マズイ!正面玄関だ!」

「んにょ!?」

「奴が回り込んだんだよ!また鉄柵に穴を開ける気だ!!」


ドォーーーーーーン!


ガシャーンという何かが倒れる音もした。

「ヒヒィィン!」

室内に避難させた馬も怯えている。

キシャとハックは直ぐに先程まで戦っていた壁とは反対側の壁のバリケードに張り付いた。


「なんてこった・・・」

穴から覗くと正面入り口の鉄柵は歪ませるどころか完全に倒されていた。

丁度、出入口でスライドさせる部分が外れて地面に転がっている。

幅3~4mくらいの柵無し部分が出来上がってしまった。

「ウォォーン!」

それから直ぐにまた大量のオオカミがわらわら入ってきた。

「クソッ!」

キシャはまた詠唱を初め、ハックは槍を構えて応戦する。

しかし、裏手の穴は一匹ずつしか侵入できなかったが、今回は複数のオオカミが自由に入ってきてしまう。

壁の向こう側には既に「ハッハッ」というオオカミの息遣いが間近に聞こえる。

ガリガリと壁を剥きだしたり、バンッと宿の入り口に体当たりするオオカミが出始めた。

「キシャ!このままじゃあそのうちバリケード壊されるべ!」

「わかってる!」


「ここの階段の使ってください!」

振り向くと愛華が一階へ降りて来て階段入口近辺のバリケードを動かそうとしていた。

「そんなものでも足りないが、まあいい!ハックさん、頼む!」

「あいよぉ!」

ハックは脂肪を揺らしながら愛華の元へ手伝いに行く。

愛華は宿の入口バリケードにその分を追加しながら考えた。


このままじゃマズい。

やっぱりボスのウォーグウルフを倒さなきゃ!

でもどうやって?あいつは暗い林の奥から姿を出さない。


キシャは絶え間なく魔法を放ち、ハックは体当たりをされて揺れているバリケードを押さえている。

二人とも限界だ。


「屋根の上に上がらせてください!」

とりあえず360度見渡したかった。

「梯子が無きゃ無理だ!」

キシャが魔法を放ちながら答える。

「梯子はどこにあるんですか!?」

「地下の倉庫だ!」

キシャはそれだけ答えるとすぐに次の詠唱に入った。

「場所を教えてください!!」

「その必要はねぇ。」

知らない声に振り向くと二階からクリスが降りて来ていた。

「親父!!!」

「よぉ、息子。遅くなっちまったな。」

スキンヘッドを夜に輝かせてニカッと笑って見せた。

先程の毒抜きが効いたようだ。


「ハックさんも嬢ちゃんも俺ら親子の喧嘩に突き合せてすまんな。」

「いんにゃ、旅は道連れっていうべさぁ。」

なんて笑って答えてるがバリケードを押さえるのに必死だ。

「嬢ちゃん、きな。俺が屋根の上に連れてってやる。」

「は、はい!」



クリスは急いで愛華を連れて二階へ戻った。

それから寝室横廊下の窓から外へ。

そこは一階厨房の真上の屋根の上。


「ほらよ!」

そう言ってクリスは愛華の足元にしゃがんだ。


ん?


愛華には何が「ほらよ!」なのか理解できなかった。

「嬢ちゃん、肩車だよ!言わせんな、恥ずかしい。」

「えっ!!肩車ってあの!?ええっ。」

恥ずかしくて死にそうだ。

「時間が無い、早くしろ!」

「は、はい。」


愛華は言われるがままクリスの肩にまたがった。

フンと力んで立ち上がったクリスは、二階の壁際まで来て両手を壁につく。

「俺の両腕を足場にしろ。たぶん嬢ちゃんの背なら屋根に届くだろ。」


ひ、人の腕を土足でしかもヒールで踏みつける日が来ようとは・・・!


しかし迷ってる暇はない。

今も地上からはわんわんキャンキャンと戦闘音が聞こえている。


「し、失礼します!」

愛華はクリスの太い腕に足を乗せ、ゆっくりと立ち上がった。

すると、屋根の高さが愛華の胸あたりに来る。


これならいけそう!


愛華は少しためて屋根上に向かってジャンプする。

すると上半身はばっちり屋根上に収まった。

残りの足は下からクリスが押してやる。

「あ、ありがとうございます!」

「何する気か知らんが俺は下で戦うから援護はできんぞ。」

彼はそう言うと二階の窓を跨いで再び戻って行ってしまった。


屋根に上りきると愛華は周りを見渡した。

鉄柵の敷地内にはワラワラとオオカミが入ってしまっていて30~40匹はいそうだ。

正面は街道でその周りはひたすら木。

木と木と間からはまだ控えのオオカミがチラチラ見えている。

しかしその五倍もあるような影は暗いせいもあって見つけられない。

とりあえず、一階で戦っている三人の負担を減らすためにも、正面の鉄柵の切れ目をソイで埋めることにする。

それに侵入口が無くなればヴォーグウルフがまた現れるかもしれないと思った。

愛華は素早い手つきで【アイテム】から【月見草】を選んで使用した。

これでMPは全快だ。


《ソイ》!

あ!若干だけど発動速度あがってるかも!

《ソイ》!《ソイ》!《ソイ》!《ソイ》!


出入口の鉄柵部分を埋めるのに5回もソイを使用した。

それから中に残っているオオカミをとりあえず撃とうとした時だった。

愛華の後ろの林から「ギィー」という奇妙な音がした。


ビュン!


気配がして振り返ると愛華の目の前に横向きの木があった。

正確には幹が途中で折れている木。

それが屋根の上の愛華めがけて飛んできたのだ。

さっきの音は木が倒された音だったのだろう。

それを愛華が理解した時には、既に体に衝撃を受け、宿屋の正面側へ落下していた。


「まず・・・い」


背中に衝撃が走る。

飛んできた木と一緒に地面に叩き落とされた。


すると、柵内にいたオオカミ達が一斉に落ちた愛華へ食いかかる。

「きゃあああああああ!」


一階の穴から見ていたキシャは「やめろぉぉぉぉ!」と叫んで出て行こうとするがハックとクリスがそれを止めた。

「もう、あのおなごは手遅れだっぺよ!」

「今は耐えろ!冷静になれ!」

「くっそぉぉ!」

血がしみている包帯をした右手で、床を叩きさらに血が染み出した。

「ん?おい、出て来たぞ!見ろ!」

クリスが壁穴の先を指さす。

その先には大きなウォーグウルフが見せつけるように柵の傍に立っていた。

彼らにはまるで仲間の死をあざ笑うかのような目に見えた。

「絶対に・・・絶対に殺す!」



私、噛まれてる!食べられてる!怖い!

このまま死んじゃうんだ・・・やだよ。

痛い・・・痛・・・くない?

「あれ?」

確かに体中噛まれている。

だが、ちょっと強く甘噛みされてるかなという程度でそれ程痛くはなかった。

よく見ると噛まれている今もHPゲージがほんの少しずつ減り続けていてまだ8割以上残っている。

これはずばり装備中の勇者防具『夜の帳』(【防御力】+680)のおかげだった。

レベルが上がった愛華の現在の【防御力】693に加えて『夜の帳』独自の物理ダメージ半減も効いている。

「え!私生きてる!!!」

ただし、群がるオオカミが重たいのでなかなか動けない。

それにいくら【防御力】が高いといってもこのままダメージをくらい続ければいずれHPは0になる。

愛華は左月を握っている左手の手首を何とか動かし、上に乗って首に噛みついているオオカミへと震えながら角度を合わせた。


《撃つ》


ヒュン!

オオカミは右腹を撃たれ愛華の横に転がった。

少し軽くなる。

さっきよりも少し動かせるようになった手でさらに一匹、もう一匹と撃ち殺していく。


「何が・・・起きてるんだ??」

「あれは・・・」

一階の覗き穴から見ていた三人からはオオカミが重なったモフモフの山から一匹ずつ、噴水のように順番に跳ね上がっているように見える。


ウォーグウルフもそれを見て異変に気付く。

目を細めて観察し「グルグル」と喉をならして警戒している。


すると、いきなりオオカミの山がムクりと動いた。

少しずつだがヴォーグウルフのいる方へずるずると動いている。

「グルグルグル・・・ヴァアンッ!!」

警戒するヴォーグウルフが吠えると、見ていたオオカミもそのオオカミの山に突撃し出す。

オオカミが増えたせいか、ガクッと山の高さが低くなり動きが止まった。

すると、オオカミとオオカミの間からスッと細い腕が出てきた。

その先にはキラキラと揺れるタッセルが付いた黒く光る物を持っている。

そしてその黒く光るものは、ヴォーグウルフの方に向けられていた。


「ヴァン!!」

するとヴォーグウルフはすぐさま踵を返した。

目の良いヴォーグウルフには見えていたのだ、噛みついて放さないオオカミとオオカミの隙間から確かにこちらを睨んでいる目を。

ヴォーグウルフは本能で危機を感じたのだった。



「逃げんなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


ピュン!ピュン!


オオカミの山から出たピンクの光は一瞬で鉄柵の間を・・・林の木々の間を・・・抜けて林の奥に行ったヴォーグウルフを2回打ち抜いた。

「キャイィィィィン!!」

林の奥から断末魔が響く。

街道の奥へ、林の奥へ、どこまでも届きそうな叫びだった。


「まさか・・・やったのか!?」

「んにゃ!?見るべさ!」

敷地内のオオカミたちがこぞって林へ逃げていく。

最後には傷だらけの愛華がぽつんと外に座っているだけだった。

「おおおおおおおおおおおお!!!」

「やったどーーーーーーーーーー!」

「あいつ、生きてやがったか!!」

ハックとキシャは抱き合って喜んだ。

出入口のバリケードをガシャーン!と壊す音とともに、三人が愛華の元へ急いで駆け寄る。

「お前・・・大丈夫か!?・・・ぐはっ!」

駆け寄ったキシャをクリスが殴った。

「何すんだ、親父!?」

「このお方は、勇者様だ。」

ギクり。

「っはぁーーー!?」

「なぁるほどぉ、だぁから旅の基本も知らねぇで街道を歩いてたべか。」

「なにーーー!?ハックさん、納得するのか!?」

キシャは「どうなんだよ?」と言った顔で愛華の返事を待つ。

「う・・・隠してたわけではないんですが。一応勇者やってます。」

「はぁ!?俺の中の勇者はもっと強いんだが!?」

「あ~、それが今夜が初陣でして・・・その・・・勝手がよくわからず・・・すみません。」

ボカッ!

クリスが再びキシャを殴る。

「うちの息子が申し訳ない。まぁ、最初は誰でもビビるもんさ。」

「い、いえ、本当にすみません。」

「まぁまぁ、皆で生き残れたっぺよ、それでけでもありがてぇことだっぺ!!」

「はは、違いねぇや!」


皆で笑った。

よくわからないけど凄く笑った。

生きてることが心の底から嬉しかった。


空を見上げると、東の空が白んでいた。



【名 前】小松原 昭大   【クラス】マジックナイト

【レベル】1

【 Next 】9


【H P】40       【装備中】

【M P】585        【武器】   オベロン

【攻撃力】997        【頭】    なし

【防御力】5         【腕】    なし

【魔 力】806        【胴体】   Tシャツ+チェックシャツ

【命中力】5         【脚】    スニーカー

【瞬発力】4         【アクセサリー1】なし

【 運 】3         【アクセサリー2】なし

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