それぞれのスタート
ノーザ王国ヴェルダ城内図書室。
王宮関係者しか立ち入れないその図書室の読書スペースに、今にもカビが生えそうな暗い生き物がいた。
その生き物からシクシクと女の泣き声がする。
「やっちゃった・・・(泣)」
その正体は木村である。
隣には森くるみが座って木村の背中を撫ぜている。
「あれは酷かったよね。」
グサッ!!
「うぅぅ~~絶対に小倉君に嫌われたあぁぁ!!!(泣)」
木村は両手で顔を押さえて号泣しだしだ。
「ふぇ~~ん!わたじっやなおんにゃだあああああ!うー、ぞれもこれもっじぇええんぶあにょ子のじぇいよぉぉぉぉ!!うわああん!(泣)」
「玲奈はどうして小嶋さんに冷たいの?」
「グスン・・・だって。ぜんびゅ・・・もってりゅ・・」
「うん?何て言ったの?」
「うわああああん!」
森はダメだこりゃと諦めて木村を落ち着かせるために背中をさすった。
「ど・・・しよ。ひくっ」
「ん?」
「あにょ子に・・・っにかあったら・・・どうひよっ・・ヒック」
「ん?あのこになにかあったらどうしよう?」
コクコクと頷く。
「ったしの・・・せいだぁあぁぁあ!うわああん!(泣)」
「んもー、だったらあんな事言わなきゃいいのにぃ。」
「ひっく、ぐすっ、っつも・・・そうなっちゃ・・・う。いじっ・・ぐす・・わる・・しちゃう。ぎら・・い。」
「小倉君が好きだから嫉妬しちゃうんだよね?」
ガターン!!!
木村は驚いて椅子を倒して立ち上がり、鼻水を垂らしながら森を見た。
「なっなっなっ・・・!!!ぐすん、なんっで・・!!???」
「見てればわかるよ。小倉君、カッコいいもんね~?優しいし。」
「いやああああ!」
木村は両手で顔を押さえて真っ赤になって叫びだした。
「ぜっったい、ぐすっ誰にもっ・・・ひっく・・・言わないっでっ!!!」
「わかってるよ、言わないよ。」
でも本人以外は皆気付いてると思うけどなぁとは言えなかった。
今は、ひとまずこの不器用で可愛い友人の恋を応援しよう
森は倒した椅子を戻しながらうーうー唸っている木村を見てそう思った。
あーあ、ちゃんと調べ物するのは明日からになりそうだなぁ。
森は図書室の窓から見える空を見上げた。
良い天気。
ちなみに図書室には管理者の司書がいる。
彼が「図書室内ではお静かに。」とキーキー奇声をあげている勇者様に注意してもいいものかわからずに独り悩んでいた事は誰も知らない。
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「フラれたな。」
「フラれてねーし!!てかそんな話じゃねーし!!」
小倉パーティがいるのは城下町の武器屋。
柳瀬の槍を物色しに来ている。
一応、勇者武器ではないものの槍は支給されているのだが、それよりも良さそうな物が無いのか、相場を知り目を肥やすためにも何件か武器屋を回る事にしたのだ。
「てか、なんで木村さんはあんなに小嶋さんにキツイんだ?」
ゴンッ!!
柳瀬が店の棚に思いっきり頭をぶつけた音が響く。
「尚麒・・・お前、他の男子の前で絶対そういう事言うなよ?」
ぶつけたおでこを抑えながら忠告した。
「あ?ぁんで?」
小倉は不機嫌そうだ。
「そのうち世界中の男子が敵に回るぞ。」
「はあ?」
「いいから。」
柳瀬から見た小倉は完璧人間に近い。自分の恋愛部分に関して以外は。
ルックスはもちろん、スポーツ万能、成績も悪くないし頭の回転も速い、それにこれは心底俺が尚麒を羨ましく思う部分だが、本能、というか直感力というか感が鋭いところがあり、それでバスケの試合でも度々助られている。
おまけに天性のカリスマ性もあり、見た目や喋り方からは誤解されがちだが平和主義者で温厚だ。つまり性格も良いのだ。非の打ち所がない。
だが、恋愛だけはダメだ。ポンコツだ。
まぁ、そこが唯一俺が尚麒をいじれる弱点と見れば少しは明るい見方もできるが。
最近は特にこの件での気苦労が多い。
「あ。おい拓、見てみろよ。」
小倉が自分の【メニュー画面】を開いて見せた。
「ん?【アイテム一覧】か?」
「ああ、この画面でここを押すと・・・」
小倉はカテゴリー選択から【装備品一覧】を選んで見せた。
「!!【装備品一覧】なんてこの前は無かったぞ?」
「だろ?今見るとあるんだよな。たぶん、俺がでかい剣持つの嫌だから、異次元へ収納したことで選べるようになったんじゃね?」
「・・・なるほど。最低1つ以上の装備品を収納していないと表示されない選択肢だったのか。」
「ああ、それでさらに発見したのが・・・ほ~ら。」
小倉は【装備品一覧】から自身で借り受けた勇者武器『草薙の剣』を選択しさらに【見る】を選んだ。
アイテム名:草薙の剣 ランク:S
大種別:武器
小種別:ソード
攻撃種:斬撃
攻撃力:1820
魔 力:210
特 殊:蛇・爬虫類系へのダメージボーナス 30%
説 明:スサノオがヤマタノオロチを斬った時に尻尾の中から出て来たと言われている伝説の剣
こんな詳細が見れた。
「これは・・・!」
「な?これ、使えるだろ。」
「ああ、つまり・・・」
「そ。武器選びに迷ったらどんどん収納してけってこと。」
柳瀬は真っ直ぐに武器屋の店主の元へ向かった。
「お?兄ちゃんがた見ない顔だが立派な鎧着けてんなぁ?」
「店主、すまないが一度この店の槍を収納させてもらう。」
「はい?」
「あー、拓。ちょっと待て。手形を見せた方が早い。」
そう言って小倉は【取り出す】から王国手形を出して見せた。
「うぉ!?なんだ!?何もないところから・・・って勇者様ぁぁ!???兄ちゃん方勇者様だったのかっ!!!」
「そそ。」
小倉はあっけらかんと答えた。
柳瀬は手当たり次第に槍を異次元へ収納していく。
「ああっ!勇者様!!うちの商品に何を!?」
「直ぐに戻すから大丈夫だ。」
「ええぇ!?」
一通り収納し終えた後、【装備品一覧】を開く。
「おお!凄い!」
店主が叫んだ。
それは初めてメニュー画面が開かれる瞬間を見た人間の反応としてごく自然なものだ。
話を戻すと、現在、柳瀬は22本の槍を収納(所有)していることになっていた。
新着が上に来るようで21本のに槍は『New!』の印と共に上の方に並んでいる。
柳瀬はそこから【ソート】を選んで【攻撃力順-降順】を選択した。
すると、王国から支給された槍が上から二行目に表示されたことで、支給品よりも攻撃力の高い槍が一本あることがわかった。
「ふむ。」
しかし期待して【見る】で詳細を見てみたものの、店の槍の【攻撃力】が142で支給品の槍と【攻撃力】が8しか変わらず値段が高かったので結局買わないことにした。
「店主、ありがとな!」
店のカウンターに【取り出す】で戻した槍21本を山積みにして二人は立ち去った。
「な、何だったんだ・・・って、勇者様、片付けまでやってくださいよ~!」
店主の叫びは聞こえない。
「あと2件くらいまわったら飯にしようぜっ!」
「ああ!」
こんな異世界の魔王討伐も尚麒とだったら達成できる・・・柳瀬はそう確信している。
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「へい!いらっしゃい!」
「安いよ~!あんちゃん、見てってくれ!」
「今日逃したらしばらく入荷はないぞ!!」
「こっちは美味いよ!!」
活気のある呼び込みが飛び交う通りで、小松原パーティは異世界を満喫していた。
「露店多いな~!」
「どこまでも露店だね。」
そこは王都内で城の正門に続く大通り。
多くの通行人でごった返している。
「小松原君、見てよ!さっきまで僕等がいた城がもうあんな所にあるよ!」
「うひょ~!」
後ろを振り返ると、丘の上にそびえ立つヴェルダ城が見える。
そして城から両腕で町を囲むように続いている壁が、意外と大きいことに気付く。
壁の上を巡廻している兵士の頭が壁の下からは小さく動いて見えた。
「立派な国だよね。」
「もぐもぐ。そだね。もぐもぐ。」
小松原は興味無さそうに答える。
「えっ、小松原君いつの間に串焼きなんて買ったの!?」
「あっち。もぐもぐ・・・ゴクッ。売り子の子が凄い可愛かったんだよぉ~!」
「ええっ、本当!?ずるいよ、小松原君!」
「あれは、そうおん!のじゅんたんだった・・・」
「ええー!!!早く教えてよぉ~!くそーぉ!!」
北野は拳を強く握りしめ心の底から残念そうな顔をした。
「そんな事より、北野君。僕はまた新たな発見をしてしまったようだ。」
「可愛い子かい!?」
「いや、そんなチャチなもんじゃない・・・・これは、ダンジョンだ。」
「はぁ!?こんな街中に!?」
「ああ、恐ろしいダンジョンだ・・・僕らが・・・未踏のね!」
勇者になって初めての外出なんだからダンジョンが未踏なのは当然だ。
「ゴクリ。それは・・・どこに?」
北野は唾をのんだ。
「これを見てくれたまえ、同志よ。」
小松原の指さした先にはメインの大通脇にある狭い曲がり角に立てかけてある看板だった。
『可愛い子沢山♪キャバクラぴーち☆この先直ぐ!遊びに来てね❤』
看板は路地裏へと誘っている。
「初回60分無料・・・・えええええええ!?キャバクラ!!??」
「ああ、ダンジョンぴーちだ。勿論、制覇するだろ?(キリっ)」
小松原の顔は濃ゆく影も入っており声も変わって別人のようだ。
「で、でも冒険用のアイテムを準備するって言ってたじゃないか、それに1日に使える上限は7,000ヴェルまでってサランも言ってたしそんな余裕は・・・。」
「北野君、君は勇者じゃないのかい?」
「へ?たぶん勇者だと思うけど。」
「じゃあ目の前に未踏のダンジョンが存在すっていうのに逃げるのかい?」
「へ?いや、キャバクラでしょ?」
「僕らの知らない未知の領域があり、今の僕らなら攻略することができるかもしれないんだぞっ!!!」
「ええーー!でも・・・」
「ここをよく見たまえ!!!!」
小松原は看板の下の方を指さした。
『お触り3回までならOK』
「行こう・・・未知の世界へ!」
「おお!わかってくれたか同志よ!」
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小倉からのパーティの誘いを断った後、愛華はそのまま一人で城下町メイン通りを進んでいた。
ファー付のフードを深く被り顔を見えないようにして歩く。
最初は不審者に見られないかドキドキしたが、通りには愛華と同じようにフードや帽子を深く被り歩く人もちらほらいて、誰も気にしていないようだった。
あー。落ち着く。
ジロジロ見られることがない!
顔を隠して歩くって最高!
愛華のお目当ては道具屋と装備品を売っている店もしくは服飾屋だ。
この人通りの多い場所で『双月』を握りながら歩くわけにもいかず、例の異次元へ収納しているのだが、今後の戦闘時にいちいち【取り出す】操作をするのには無理があると考えた。
そこで腰かどこかにホルスターを着ける必要があると考え今店を探している。
ホルスターがいくらするのかはわからないが、それを買った後の7,000ヴェル/日の残りの分は全て回復アイテムに使うつもりだ。
ソロプレイで回復魔法が無い愛華にとって回復アイテムは生命線。
できれば様々な種類を上限の99個持ち歩いて安心感を得たい。
キョロキョロしながら歩いていると、早速、盾をいくつか店の外に飾っている建物を見つけた。
おそらく防具屋だろう。
近付くと看板に『防具のことならお任せ!防具屋ホープ』と書かれていた。
ビンゴ♪
愛華は防具屋のドアを開けた。
チリンチリンという音を聞いた店主だろう、奥の方から愛想の良い「いらっしゃい!」が聞こえた。
店内は金属臭に土の匂いも混ざったような独特な臭いがする。
愛華は狭い店内に所狭しと陳列してある防具をゆっくり見渡した。
壁にかけてある鎧や盾なんかは高そうだが、結構使い込んでそうなものは棚の上に無造作に積まれている。
視線を移すと、とある棚にベルトやリストバンド等がごちゃごちゃと盛ってあるのを見つけたので、迷わず近づいた。
ゴソゴソとあさってみるがしかし、短剣用の収納ベルトばかりで銃用のものは見当たらない。
後は弓用の矢筒ばかりだ。
愛華は意を決して店主に話しかけることにした。
「あ、あのー。」
「へい!何か?」
「銃用のホルスターを探しているんですが、置いていますか?」
「?ほるすたぁ?」
「え。」
まずい。店主の反応からしてホルスターという単語を知らない。
えーと、この世界でいうと何ていうんだろう?
えーと。
「剣を携帯するための剣帯?」
そこまで言って店主が「ああ、剣帯ね」という顔をしてくれた。
「それの銃用です。」
ここでまた店主の顔つきが変わった。
「ちょっと待て、嬢ちゃん銃ってあの勇者戦記に出てくる伝説の武器のことかい?」
えっ!銃ってこの世界じゃ一般的じゃないんだ!
どどどどうしよう。
勇者だって明かさないといけない流れかな。
愛華は諦めて手形を取り出した。
「うあああ!」
店主は何もない所からヌルりと手形が出て来たのを見て後ろの棚へ飛びのいた。
「私の武器は銃なんです。私の銃が収まるなら剣用でも良いので売ってください。」
「は・・・ははーっ!」
店主がカウンターから飛び出て床にひれ伏した。
「きゃあ!そ、そんな事しなくても良いですっ。」
愛華は慌ててやめてくれとお願いした。
「いや、俺は子供の頃から伝説の勇者様に憧れて生きて来たんです!家内も同じで・・・って、そうだ!おーい!かぁーちゃぁぁぁぁん!!!」
凄い剣幕で店の奥に怒鳴っている。
すると少し経ってから女性の図太い声が返ってきた。
「あーーー?あんだーーーい?昼飯ならまだだよぉぉぉぉ!??」
「ちっっげーーーーよ!ゆーーーーしゃ様だ、ゆうううう者様がきてるんだぁあぁあぁぁ!!」
「ぁぁぁぁぁぁあああああ!???」
ドタドタドタという足音と共に声が段々近づいてくる。
「本当かい!?」
店の奥から息を切らした中年女性が出て来た。
「昨日お触れがあったあの勇者様かい!?」
「ああ!俺らの店に来てくださったんだよ!!!ほら!!」
「ああ~なんてこったい!こんな汚い店に!」
防具屋のおかみさんは心底申し訳なさそうな顔で店内を見渡した。
「い、いえそんな。それで・・・銃用の携帯具はありますか?」
「銃!!」
「ああ、こちらの勇者様は銃をお使いらしい!!あの銃だ!!」
「あらあらあらあら!あの離れた場所でも攻撃できる、あれ!」
二人のテンションはMAXだ。
「あ、あの、ありますか?」
愛華の問いかけに我に返ったのか二人はうーんと何かを考えた後、おかみさんがハッと何かを思い出した。
「あ、あんた、あの短剣用ならいけるんじゃないかい?ホラ、あの!」
「あー、っと、ちょっと待てよ、確かここに・・・」
ポイポイと似たような革製品を後ろに投げて何かを探している。
「あった!」
ついに店主が見つけたようだ。
愛華も期待感が膨らむ。
「こいつはどうですかい!?」
見せてもらうとギリギリ入りそうだがどうなんだろう?
現物で試すしかない。
愛華は諦めて『双月』を取り出した。
案の定おかみさんは「ひぃぃ!」なんて叫んで店主は「な!凄いだろ!」とか言って興奮している。
もうそういうのはいいから試させてくれー。
結論としては、『双月』が入ったことは入ったのだが、剣用なので安定感が無かった。
愛華はそれでも良いと思ったのだが店主が待ったをかけた。
勇者のように激しい動きをする場合は、角度や衝撃によってほろりと銃が落ちてしまうことも考えられると力説された。
え?激しい動き?
まぁ、専門家がそう言うならそうなんだろう。
それなら作れば良いんじゃ?
そう思い、「オーダーメイドはやってないんですか?」と聞いてみた。
「一応うちでもやってることはやってるんですが、銃となると・・・」
店主の返答は暗かった。
「そうだねぇ、難しいだろうねぇ。」
えー、そうなの?その手のプロじゃないの?
「うちは複数の仕入れ先から卸でやってるんで。うちで作ってるわけじゃねーんです。」
「そうなんですよ、うちでオーダーメイドを受け付けて各製作所へ発注して、仕入れているんですよ。」
おお、そうなのか。
「剣や弓なら種類と大きさを測って発注するだけで出来上がるんですが、伝説上の銃となると見たことない職人は何をどう作って良いのかわからないと思うんで。」
おお、確かに。
「でも勇者様なら王国お抱えの職人に作らせりゃあ良いんじゃないですかい?」
おかみさんの一言で、愛華はすっかり忘れていたあの地下の鍛冶場を思い出した。
盲点だったー!!
でも、さっきホールであんな雰囲気だったところを勢いよく飛び出した手前戻れない!
気まずすぎる!
「あーうーっと、セクハラしてくる伯爵がいるのであまり近付きたくないんです。」
咄嗟にごまかしたが、これは一応本心だ。
「なにぃ!!」
店主の雰囲気が変わった。
「許せないね、あんた!!!」
「ああ!!今度王国のもんが来たら問い詰めてやる!!!」
顔の血管をブチブチさせて城の方を睨んだ。
ああ・・・言い過ぎたか?
「そういう事なら・・・っと。」
店主はカウンターから紙とペンを取り出して何かを書き始めた。
それを覗き込んだおかみさんも「ああ、そりゃいいね。」と相槌を打った。
「?」
愛華は首をかしげた。
「ああ、すみませんねぇ。うちと取引のある製作所で北の街道脇にある所がね、そういうの得意なんですよぉ。」
「へい、そういう事で、今、紹介状書いておりやすんで!」
おおお!有り難い!
「あ、ありがとうございますっ!」
「クレイリーっていう一家でやってるんですがね、品質は良いんですよ。うちの国の貴族なんかも買い付けるくらいで。あ、今地図を描きますね!」
そう言っておかみさんもカウンターの上で紙とペンを持ち始めた。
まぁ、なんて親切なんでしょう。
よく見ると、おかみさんも店主もペンを持つ手がボロボロだ。
苦労している手だった。
おかみさんが出て来た奥にはきっちりとした作業場もあるので、簡単な修理なんかはここで店主がしているのかもしれない。
作業場の奥には二階へと続く階段があり、上が住まいいになっているのだろうと思った。
ここ大通の両脇のお店はほとんどがそういう作りなのかもしれない。
「へい!終わりやしたよ!」
紹介状が入った封筒と地図を受け取る際、愛華は二人の親切にお礼を言うべくフードを脱いだ。
「おおおお!」
「まぁ、綺麗・・・!!」
「店主、おかみさん、ご親切にどうもありがとうございます。私、小嶋愛華っていいます。」
愛華は丁重に頭を下げて名乗った。
「いえいえ、いいんですよぅ!」
「そですぜ、勇者小嶋様!俺らはたまたま勇者戦記が子供の頃から好きで勝手に憧れてる馬鹿夫婦ですから!」
「でも、中には勇者様達の事を良く思わない人もいるから、気を付けてくださいよ?」
え・・・そうなんだ。
そんな人に会ったらどうしよう。
「かーちゃん、あんま不安がらせること言うなよっ。」
「あらま、そうだね。ま、大抵の人間なら勇者様は憧れの存在ですから、大丈夫ですよ!」
「いえ、覚えておきます。」
情報はとりあえず有り難い。
心に留めておこう。
「では、また街に来る事があれば寄ってってください!」
さぁ、お別れの時間だ。
その流れで入ってきた入口ドアの方を三人が向くと、ドア横の窓に無数の顔が張り付いているという衝撃の状況を見て三人は黙ってしまった。
「あーあ、あんたが大声で勇者様がぁぁなんて叫ぶからだよぉ?」
あー、そういう事か。店の外まで聞こえてたのね。
「はぁー、何やってんだか。」
店主が呆れて窓の外の野次馬を追っ払おうと店のドアを開けると、ドサドサドサッと人が倒れ込んできた。
どうやらドアにも聞き耳を立てて張り付いていたらしい。
「お前ら・・・」
「や、やぁ、アルバ。ちょっと鎧を探していてね。」
「ぼ、僕も急に盾が欲しくなっちゃって。」
この後店主の「出てけえええええええええ!!!!」という雷が落ちたが割愛しよう。
私はこの後再びフードを深く被り、街を歩いた。
とりあえずの目的地はノーザ王国の北の街道と決まったが、その前に店主のアルバさんとおかみさんのレアさんに聞いたお勧めの薬草屋で買い物をした。
目的は「HP回復」「MP回復」「状態異常回復」のアイテム。
具体的に買った物こんな感じだ。
・コキュの実×99 :HP30回復
・月見草×99 :MP60回復
・毒消し×99 :毒を治療
・火傷軟膏×99 :火傷を治療
・ストホムの実×99:麻痺を治療
・月下草×99 :石化を治療
合計 5,346ヴェル
初期レベルのHPやMPを回復する程度ならこれくらいで十分だということだ。
道具屋に売っているようなキュアボトル(HP50%回復)等は値段が安くとも200ヴェルと高いので、まずは薬草屋で揃えてはどうかとアルバさんとレアさんに勧められた。
それぞれ安い店を教えてもらえたので一気に99個買うことができ、残り1,600ヴェルくらいの余裕ができた!
この世界には他にも呪いや魅了等のゲームお馴染みの状態異常があることにはあるが、ノーザ王国近辺のモンスターには具わっていないとのことだ。
それで今回の買い物リストから除外した。
それよりも、地図を見せてもらった時に聞いたが、クレイリー製作所は歩くと3日はかかる場所にあるらしいので、移動手段を考えなくては。
一番良いのは行商人や運送業者の荷馬車に乗せてもらうヒッチハイクで2日くらいという話だが・・・。
ヒッチハイク(笑)
難易度高すぎて笑っちゃうくらい無理。
それにクレイリー製作所に着く前に、戦闘を経験しておきたい。
城を拠点にすると城砦の外に出るまで時間がかかりすぎるので、どこか街道と城砦の間くらいに拠点となる宿屋みたいなのがあればいいんだけど。。
そんな事を考えながら北側の通門所に着いた頃には既に日が傾きかけていた。
とりあえず、城砦を出ようとする列に並んで自分の番が来るのを待った。
「名前と住所は?」
「あっと、小嶋 愛華です。」
「変わった名前だな。ん?どこかで聞いたような・・・まぁいい。住所を言え。」
住所!?城の住所でいいの!?でも住所はわかんないし。。
「住所は・・・わかりません。」
「ん?家無しか?どうやって入った?入ったのはいつだ?」
いや、確かにホームレスかもしれないけど・・・とりあえず手形見せればいいよね?
関所とかにも使えるってサランが言ってたし。
「入ったのは五日前ですが、とりあえずこれを・・・」
「五日前?記録には無いぞ!?どうやって入った!?別の門か!?」
あ、怪しまれてる?
「あ、あの、とりあえずこれを・・・」
【取り出す】操作をしようと手を動かした。
「動くな!!手を上げて顔を見せろ!」
愛華は怒鳴り声に驚いて固まってしまった。
傍にいた兵士も駆けつけて愛華を囲む。
もう涙目である。周りからの不審者扱いの目線も痛い。
とりあえずフードは被ったまま両手を上げて降参のポーズをとった。
「怪しい奴め・・・ん?なんだ?」
窓口を担当していた兵士が誰かに話しかけられて奥に呼ばれたようだ。
すると慌てて窓口まで戻ってきた。
「ももももも申し訳ありません!!!どうぞ、お通りください!!!!お前ら、もういい!この方は大丈夫だ!!」
え?もういいの?戸惑っていた愛華がどうしていいのかわからずキョロキョロしている。
「さささ、どうぞお通りください!!!大変失礼いたしました!!!」
そう言って彼は窓口の小部屋から出てきて門の外までエスコートしてくれた。
なんだったんだろう?
終いには「ご多幸をお祈り申し上げますっ!」とか敬礼して見送ってくれたし。
態度の急変にも程があるだろう。
なんだかモヤモヤの晴れない愛華だったが、王都への通行審査待ちの行列や行き交う馬車を抜けたらそんな気持ちは吹っ飛んだ。
「わぁ!!!」
開けた空。
視界の右側の端には海。
左側には雪化粧をした山脈が連なり中央にはどこまでも続く街道がうねうねと続いている。
街道脇には建物も多く店や宿屋もありそうだ。
「んーっ!」
愛華は大きく深呼吸をした。
城砦の中は視界のどこかに必ず壁があったので圧迫感があった。
愛華は今その謎の圧迫感から解放された気分だ。
「異世界最高~!!」
愛華は黒いローブをはためかせ、街道の下り坂を駆け下りた。
【名 前】北野 凛太朗 【クラス】シーフ
【レベル】1
【 Next 】7
【H P】35 【装備中】
【M P】27 【武器】 カルンウェナン
【攻撃力】726 【頭】 なし
【防御力】655 【腕】 なし
【魔 力】623 【胴体】 シルフィードバックラー
【命中力】6 【脚】 スニーカー
【瞬発力】416 【アクセサリー1】なし
【 運 】519 【アクセサリー2】なし