第1話 木の中にいる小人さん(おじいさん)
ちょっとほのぼのとした息子の話です。10年以上も前の話なので本人は、この出来事をすっかり忘れています。
息子が幼稚園に通うようになった,4歳の頃の話である。息子が通う幼稚園へ妻が送り迎えをしていた。
私の家の周りはお年寄りの家が多く,四軒ほど離れた家では,いつもおばあさんが庭におり,妻と息子に「おはよう」と声をかけてくれていた。息子や妻も「おはようごさいます」「行ってきます」とあいさつを交わすのが日課であった。その家の庭には,一本の木がありその木には,鳥の巣になりそうな小さな穴が空いていた。
ある日の夜、妻が教えてくれた。「息子ちゃんね,今日おばあちゃんがいなかったのに『行ってきます。バイバイ~』って庭に向かって手を振るのよ。かわいいでしょ」
どうやらおばあちゃんは,入院で少し遠くの大学病院に行ったらしく,その日から二週間ほど留守にしていた。(幸い,おばあさんは無事に手術も終わり、元気に帰ってこられた。)
問題は,その間のことである。始めは可愛く思っていた息子の「行ってきます~。バイバイ~」の仕草も,3日も続けてされるとしつこく思ったらしく,妻が「誰もいないでしょ」と注意した。
すると息子は,少しむくれて「いるよ。ほらそこ。」と何もない木の穴を指さした。続けざまに,「お母さんがしつれいしました。」とおませな感じで本当に何かがいるように頭を下げたそうだ。
妻は,子ども特有の頭の中での想像にすぎないと思ったらしい。とりあえずその場はそれ以上言うことはなかった。
しかし,それ以後も,息子は木に向かって幼稚園の行き帰り幾度かあいさつを繰り返したらしい。困惑している妻に向かって「あいさつしなきゃだめでしょ」と注意したりもしたそうだ。息子が言うには,木の穴にちいさなおじいさんがニコニコしながら腰掛けているという。
おばあさんが入院から帰って来られたとき,妻は,幼稚園の帰りにその話をおばあさんにした。すると,おばあさんは,「ああ,あの木は死んだじいさんと結婚記念に植えた木なのよ。」と話し,息子に「どんなおじいさん?めがねかけてるの?おひげは?髪の毛は?」と興味本位で質問した。
息子は,「目の前にいるのに何でそんなことを聞くの?」と言わんばかりの,不思議そうな目をしながら質問に答えたそうだ。
読者の皆さんがご想像の通り,息子は見たこともないおじいさんの特徴をぴたりと当てた。特に決定的だったのは,あごにあるほくろ(毛が生えている)まで言い当てたことだ。
「子どもは見えるっていうからね~。おじいさんがいるのね。ふふふ。」とおばあさんはにっこりと笑った。それ以後,木を見ながらのんびりと縁側でお茶をすするおばあさんを見かけるようになった。また,息子は,その後も幼稚園に行くとき,おばあさんと木に向かって『行ってきます~,バイバイ』を繰り返していた。
初めての作品になりますので、ドキドキしながらの投稿です。
やさしいご感想・評価をいただけるとうれしいです。