残酷な夢から覚めて
前作「夢に見るほど」を読まれてから読む事をお勧めします。
俺は中学の頃からあの子に夢中だ。
高校生に今でも彼女は変わらずに綺麗だ。いやより一層魅力に磨きがかかりハニーブラウンの長い髪は緩いカールがかかって背中に流れているし、ハーフな事が一目で分かるような目鼻立ちのはっきりした顔は昔より大人びて神々しいほどに整っている。
でも俺が思うに彼女の１番の魅力は近寄りがたいほどに整った容姿にも関わらず、一度懐に入れた者には可愛い甘えを見せる所だったり一気に甘くなる表情などのギャップだ。
こう見えて俺は容姿もいい方だと思うしモテる。実際に今の高校ではNo.１のモテ男だと言われているが、そんな俺が彼女のギャップにやられて今でも長い片思いも燻らせているっと一体何人の人が気づいているのだろうか。
隣にいる口実が欲しくて彼女の容姿に惹かれて寄って来る虫たちを追い払う為に、当時の友人たちを巻き込んで彼女を守っていたら気づけば騎士と姫というあだ名までつけられる始末だ。今ではナイト役を喜んで買って出ているから、彼女の１番近くにいるのは俺で間違いないだろう。いや正確には俺たちだ。
ナイト役は俺１人じゃなく小学校から可愛がっていた後輩と中学から仲良くなったアイツだ。そうなのだ。アイツだ。アイツが厄介なのだ。正直いうと俺より整っている容姿に長身で硬派な雰囲気から少し声が掛けづらいっと陰ながらアイツに熱い視線を送る女子たちは多い。俺が高校内で１番モテるとは言われているが、そんなのは表立ったもので陰の実際のモテNo.1は確実にアイツだろう。
そして俺が片思いしているあの子は、俺が君を見ている事など気づきもせず今日も一心にアイツを見つめているのだ。アイツは他の女子より優しく彼女には接しているし、正直言うと強敵なライバルすぎて太刀打ちできない。ただ俺は最近確信しているアイツはあの子の気持ちに気づいているのだと、その上でどっち付かずな行動をとっているのだ。
俺も彼女も一方通行な恋を何時まですれば良いのだろう。
そんな俺らの関係が変わる予感がしだしたのは１ヶ月前ほどだろう。アイツの態度が少しずつ分かりやすいように変わったのだ。今まではどっち付かずだったあの子への対応も少しずつ一線を引いたものになり、彼女には悪いが少しホっとしてしまった。
どうやらアイツにもようやく気になる相手が出来たらしい。あの子に負けるとも劣らぬ熱い視線を事あるごとに相手に注いでいるのが見て取れる。絡めとるように相手を自分の元に誘い込む様子は内面はどこか冷めていた彼にそんな情熱があったのかと感心すると共に、そんなアイツから絶対逃げられないであろう相手の子に少し同情もする。
あの子にもアイツは自分の気持ちを聞こえるように言っては、自分が他の相手を気になっている事にやんわり気づいてもらえるように行動もしだした。
ただアイツにとっても誤算だったのは、あの子はそんな彼の言動の気づいてないようなのだ。アイツが相手の子に対して行った言葉も、まるで自分の事のように頬を染めて聞いている。アイツは彼女は少し幼い所があるから遠回しの方法じゃ気づかないのではと思っているらしい。このままでは相手の女の子に誤解されかねないので、最近では「いつまでそうしているつもりだ。惚れているなら早くアピール手に入れろ」っと俺をせっついてくる始末だ。
アイツも必死なのは分かるが結局は妹みたいに可愛がっている彼女の事も傷つけたくなくて、どっち付かずな行動をとって自分の首を自分で締めている事に気づくべきだ。
あの子がが傷つくのはもちろん見たくない。だが彼の変わらぬ優しい言動に彼女が蕩けるような表情を浮かべるの様子を見る度に、最近は心の奥からドロドロしたものがわき上がってくるのを隠すのに俺も必死だった。
あの子が気づいてないっとアイツは言うが、彼女だけをずっと見て来た俺が思うに彼女は実は気づいている。気づいているけど必死にその現実から目を背けようとしているのではないかと思うんだ。
長く片思いしている相手が他の子を気になっているなんて認めたくないだろう。認める事はそのまま自分の失恋を認める事に直結する訳だ。だから少しでも自分の都合のいいように湾曲して受け止めては、そんな自分の都合のいい夢のような世界に一時避難しているのではないか。
でもそれももうお終いだ。
アイツも来週いよいよ相手の子に想いを告げるようだし、俺もこれから隠さずに君にアピールするつもりだ。
残酷な夢なんてもう見ないで、そんな夢から早く覚めて
夢じゃない現実に君は傷つくかもしれないが
傷ついて泣く君は誰かに縋り付きたくなるだろう
慰めるのは騎士の役割だし、君のそばに寄り添って一生懸命なぐさめるよ
そうしたら少しは俺の事もようやく君の中に入れてくれるかな？
さあお姫様、優しいほどに残酷な夢から早く覚めて……
俺の所に落ちておいで。
