ドーラばあちゃん
「エンジンも段違いでパワー、すごいぞCRー0は」
1日2回の爆撃を行いその間で単座の整備を行う、前のがオモチャと思える程の先進的な出来でカーチスの技術者達も嬉しそうにしており、
「ただし離陸の速度がかなり速いため滑走距離が長くなる」
前のはふわりと優しく空中へ飛び上がりだが今回のはエンジンに機体が引っ張られており機体強度も上がっており重い、
「爆撃機よりは短いから安心してくれ」
その言葉と共にスロットルを押してエンジンの回転数をあげると加速して水面を滑るように進む、木製では体感出来ないしっかりとした感触に嬉しい反面なかなか空へと飛ぼうとしないのを気にしながらようやく飛び石のように跳ねて飛び上がった。
風に乗ると言う感覚ではなく風を切る様な状態でエンジンの回転数をあげていき左右に何度か旋回をする。
右よりも左の方が癖なのか旋回の始まりが遅く感じながらいくつかの技を試してみた。
「楽しい、こんな速度で旋回できるなんて」
金属製の機体は重い反面高速域での運動性能も木製に比べて反応がよく時間を忘れるまで飛び続けてようやく戻った。
「良いようだな」
ポルコが工場前の運河に止めるとコックピットまで上がってくる。
「エンジンのパワーと機体の剛性が安心できます」
「明日俺が乗っても良いか」
「楽しんで」
そう言うと皆が集まり工場へ引き上げるとカーチスの技術者が整備を始めた。
翌日、爆撃を終えて戻るとポルコが機体を乗り換えて運河から港に外港へ出て飛び上がった。
雲ひとつない空をポルコは飛び高速で低速でと旋回や降下をしたりしておりまだまだ技術でも追い付くことが何時になるのかと思いながら眺め、夕方に空が黄金色に輝くと高速で急旋回を行い主翼の端から雲を引いて皆を驚かせながら降りてきた。
運河の所に到着して台車にのせられて引き揚げ工場へと入り整備が始まり、私はポルコが何かを言ってくれるのを待っていたが疲れたのか黙って自室に入ってしまった。
今日も朝から爆撃機で地上の正社員の援護のため飛び上がる。
ポルコは珍しく風邪を引いたと言い私がコウパイロットの席について機首にはドーラばあちゃんが巨体を押し込んで飛び上がった。
「ショックだったらしいよ」
伝導管から不意にドーラの声が聞こえる。
「ショックだったようだよ、飛行艇ていう風に乗り飛ぶものと違った様だからね」
私にだけ言い私は、
「どうしたら、CRー0は戻すアメリカに」
「馬鹿なこと言ってんじゃないよ、そんなことしたら私がどやしつけるからね、気にせず乗んな」
伝導管でなく前から生のドーラの声が聞こえ「ありがとう」そう言うと帝国の陣地に爆弾を落として攻撃してくる飛行機をふりきると戻った。
「ポルコ大丈夫なの」
マリーアが工場前に戻ってきたときに椅子に座りながらこちらに手をふる。
ラジオからは歌声が流れておりそのまま飛行艇をロープで岸に固定するとクレーンで爆装を始めており私はマリーアと共にポルコの所へと顔を出した。
「元気そうで良かった。ポルコ死んじゃうかと思った」
先程のドーラの最後の大声を聞いていたのかマリーアが笑いながら聞くと、
「まったくばあちゃんは何を話したんだが、風邪だって言ったろ明日には治る」
そう言うとテーブルのワインの瓶を取ってつごうとするとマリーアが取り上げ「安静にしてね」とわざと神妙な態度でワインを持っていってしまった。
「おちおち酒も飲めん消毒にちょうど良いのにな」
空のグラスをテーブルに置くと背もたれに体を横たえ爆装中の作業を見ながら、
「あれに飲み込まれるなよ、勘違いすれば命が吸いとられるからな」
そう言うのを少しだけ考えていると、
「自分の力だと思えば隙が出来る。ただそれだけで命を落とすからな」
ポルコが昨日乗った時に感じた事を言うと頷きながら新聞を顔にのせると寝てしまった。
機体に乗り込み再度出撃をする。
「操縦を任せる。何かあったときには戻すがな」
ルノアが横の操縦席からウインクをしながら操縦をさせてくれる。
「単座と同じにするなよ、粘り強く繊細にだ」
操作のこつを教えてもらいながら外港へと向かった。
前方を確認してスロットルを引く、エンジンが唸りをあげて加速し始め単座よりも助走は長いし爆装をしているのでさらに離水に距離がかかり速度に達するとレバーを引いた。
ゆっくりと上昇して高度が取れたところで旋回する。
「スロットルを調整して小回りに回れるようにしないとカーチスは癖を知らないとなかなか難しいからね」
そういってる間に海から陸になり味方の塹壕を飛び越えて帝国側に入り込む、先発の雇われは爆撃を終えて急いで退散する。
何か良い目標が無いかと見ていくと退却しているのか隊列が続いておりその上を飛ぶ、歩兵はこちらをみて銃を構え射ってくるが早々当たるわけでもなくその列の先に馬車が見えた。
「投下準備」
爆弾をくくりつけているワイヤーの安全ロックを外す、ドーラが合図をしてからワイヤーを引くと爆弾が落ちる。私が何時も機首に寝転んで合図をするのがだ上手くいくかなと呟いた。
「いまだよ落としな」
ドーラの声に取っ手を引いてワイヤーを引っ張ると、爆弾の重量が無くなったので機体は高度をあげていき旋回に移る。
ルノア越しに窓から見てみると見事に馬車がいたところは黒煙があがり兵士は逃げ惑っておりそれを見ながら南へさらに進路を変更して海へと向かった。
「やった、ドーラもロイもすごいよねあんな速度で命中させちゃうんだから」
ドーラは嬉しそうに笑いながら私の頭を鷲掴みにすると髪の毛をくしゃくしゃにしながら、
「よくやったよ、ワインをおごってやるよ」
そう言い工場の女性達に報告をすると皆喜ぶ、私は戦果の確認もかねてCRー0を飛ばした。
午後の日差しも傾き始めた中を速度をあげて飛び続けていると帝国の隊列が続いていた道を見つけてその上を飛び赤い飛行機が3機見えてきた。
3機は上空を警戒しているようで私を見つけると向かってきた。
3機とも三枚の主翼の飛行機で以前戦ったのと似ていると思いながらエンジンを全開にして旋回しながら上昇をする。
後ろを見るとパワーがない悲しさなのか誰も追っては来ず3機別々に別れたので端の1機に狙いを定めて急降下をした。
ガラスとその手前についている標準器でとらえると引き金を引く、機首ではなく羽に機関銃がついているため難しくそれたのを調整しながら命中させると落ちていく、残りの2機は慌てて旋回してきており、私は急降下でのスピードを生かしてそのまま上昇した。
「300km/hを120kmも越えた」
発明されたピトー管から今の速度が表示されており驚きながらも上昇して再度反転すると速度に驚いたのか逃げ出し始めた1機を追いかけ、驚きと悲鳴をあげているパイロットを見ながら引き金を引いて落とした。
もう1機はと周囲を見るが姿が見えずそのまま右旋回をすると左側で空気を切り裂く弾の通過音がしたのでそのまま直進して後ろを見ると上から降下して攻撃をしたとわかり相手は左に旋回をする。
それを後ろをみて確認するともう一度有利なポジションをとるために高度をとった。
相手はこちらと正対をとるように飛び急降下をしても短時間でしか狙いをつけられないように飛ぶ、何か方法はと思って失速をわざとして急激に機体の方向を変えることを思いつき相手を確認した後操縦管を引いて角度をつけた。
飛行機は垂直に近い形で上ると速度が落ちて後ろを吸い込まれる感覚がある。ラダーを踏んで操縦管を倒すと機首が下を向いて勢いをつけ始める。
相手は下で旋回を始めたところで私が急に落ちてくるのをみて地面ギリギリに降りて逃げ始めた。
「この機体でそこまでおりると怖いな」
思わず呟きたくなるほどの危険な高さを飛び必死に逃げる手負いとかしているので少し上を飛びながら隙が出来るのをまつ、
「ベルトの弾薬の残りは30発使ったから220発か、でも使いすぎると弾代高いし日は暮れ始めたし」
無理する必要がないと思うがこの機体を撃墜すればみんなの危険が少なくなるしと考えていると何かの影で地面が見えにくくなり慌てて上昇すると敵は何かの障害物に当たったのか地面にきりもみしながら激突をした。
「やっぱりそうなるよね、無理しないようにしよっと」
安堵しながら夕闇の中慌てて我が家へと機首を向けた。
「ロイ、こないだの事で確認をしたいんだが」
CRー0の整備を手伝っているとポルコが呼ぶので部屋に顔を出す。
「爆弾を命中させたあとあれで飛んだろ、何やった」
怒っている様子なので言葉を選びながら3機を撃墜したと言うと革袋に入った金貨を取り出して机に置くと、
「どんな風に落としたんだ」
再度聞かれたので不味いと思いながら説明をして最後のは逃げていてミスをしたのが地面にぶつかったと言うとポルコはタバコに火をつけ大きく吸い込んで吐き出すと、
「聞いていた話と違うな、2機目の相手を落としたときに速度がどのくらい出てた」
420km/h近く出ていたとは帰ってきた時に言えず、カーチスの技術者からも350いや400は絶対出すなと注意されていたので、それが何処から知られたのかと思いながら400は越えていたと話した。
「運が良かっただけだ、わかってるな」
それは解っていたので何度も謝罪をすると、
「それと最後の相手が落ちたって言う話だが何で落ちたんだ」
一番の事を聞かれて思わず黙ってしまうがポルコはタバコをふかしながら待っており怒られる決心がついたので、
「夕暮れの中で地面すれすれに逃げた敵機を追っていきました。自分では安全な高度をとっていたつもりです」
ポルコは少しだけ考えながら私を見て、
「黄昏の光を地面が失った時に自分が行方知れずになっただろう」
そう言われていきなり視界がブラックアウトして上空へ逃げたのを思い出して頷く、
「もし一瞬でも判断を誤ったらお前も地面にだ、気をつけろ」
そう言って立ち上がるとドアを開けてでて行こうとするポルコが、
「ブルーノが上空から見ていたそうだ、3機撃墜を報告してくれたのでそれが報酬だ礼を言っとけ」
そう言うと出ていき中には金貨が9枚もあり破格の報酬だった。
翌日から護衛と簡単な爆装をして爆撃機と共に向かう、帝国の戦線は崩壊して退却しており追撃をかねた攻撃を繰り返すことになる。
「先行して攻撃せよ」
ポルコが手話でこちらに指示してきたのを頷いて加速する。
山岳地帯では正社員から渡された敵国側の地図は不完全と言うか適当過ぎてしまうので軽快な私が爆弾を落として目印にしてそこに皆が集まってくる。
あれからポルコがブルーノと話し合って連合を組む事になり護衛は私でポルコの爆撃機がそして遅れること10機が一斉に突撃するのは爽快ですごい、私は山岳地帯に入りコックピットから下をのぞいていると線路を見つけそれに沿って飛ぶと列車が見えてきた。
「なんだあれ、汽車が重連しているけど」
そう呟いた瞬間、列車の前後から火線が延びてきて慌てて離れる。
少し上昇しながら先頭の機関車に向けて小さな爆弾を落とすと退避した。
先ずはカーチス爆撃機ドーラノンナ号、ブルーノ達がカーチスを見に来るのとマリーアに会いに来た時に、私の代わりに機首にドーラばあちゃんが乗っていると知って誰が言い始めたのか知らないがドーラノンナ(ドーラばあちゃん)とコールしたので名前が決まった。
それに続いてブルーノのチェロリベロ号(自由な空)が続き爆撃をする。対空砲火の苛烈さに回避するタイミングが早まり外れていき、それを見たブルーノが大声と光通信で、
「馬鹿野郎死ぬ気で行け」
そう言うとそれぞれの機長が、
「こんな対空砲無理、われ投下装置故障、後方に任せる、狙われている退避」
等言い訳をして南へと進路をとる。
ブルーノは怒り炸裂弾の機関砲を射ち大空に花を咲かせポルコは呆れマリーアは手話で私に、
「綺麗だね花火みたい」
と、緊張感のない事を話しかけて苦笑させる。
海に出ると私達は海岸線沿いに西へ、ブルーノ達はそのまま南へと向かいこの海の秘宝と言われる島々の寝蔵へと帰っていった。
「綺麗だったねドーラ」
マリーアが降りてくるなり腰がいたいわと呟くドーラに抱きついて笑う、
「そうだねブルーノも皆を楽しませるのにあんなに高価な花火打ち上げるんだからまったく、それとルノアもう少し優しく旋回をしておくれ腰がまがっちまうよ」
そう言いながらマリーアと工場へと入りポルコからは、
「ありゃ装甲列車だ、下手に手を出すと手痛い反撃を食らうからな、もし次回あったら前に回り込んで線路を破壊しろそうすれば脱線する事になるから停車せざるおえないからな」
「すごかったね、船の砲頭がみたいなの沢山ついてたね」
「占領地で敗色が濃くなってきてパルチザンが輸送列車を狙うんで造ったらしいぞ帝国は」
「じゃあお昼の攻撃でもう一度会えるかな」
CRー0に小さな爆弾をくくりつけ技術者の点検を受けると飛び上がった。




