コートの男達
「連日の要請でカーチスもM5も限界にきているか」
あれから半年、未だに帝国軍は半包囲でこの街を攻撃しており依頼が連日のように何度もあり人もだが飛行艇も修理を重ねており限界に近かった。
「オーバーホールしてもおおもとがもう限界ですからね、正社員の方にも余裕は無いと」
「開店休業と言いたいが金を貰ってるからな出るぞ」
カーチスにはポルコとルノアそしてマリーアとミチとじいさんが乗り、M5は私が乗り爆弾をロープで吊り下げて飛び上がる。
前線まではゆっくり飛んでも1時間程であり地上もだが空も両軍が入り乱れて飛んでいた。
正社員の飛行艇が破損した状態ですれ違ういつもと同じ様に、私はスロットルを全開にして先に飛ぶと帝国の塹壕めがけてロープを切って爆弾を投下して上空警戒にあたる。
他の飛行艇も次々と侵入しては爆撃を行っており運が悪いと敵の飛行艇に追われるはめになり爆弾を投棄して右へ左へと逃げる。
カーチスの上に上がり体を乗り出して見ていると1機の敵が近づくのを確認して降下した。
射程内におさめたと思い引き金をしぼる。その瞬間に相手は気がついて反転して避けまわりこもうとするのを上から押さえつつ良いポジションにつくために上空で旋回した。
カーチスはそのまま敵陣へ入り込み爆弾を投下して一目散に帰還を始める。
相手よりも優位に立とうとお互いが絡み合う、本来ならこちらの方がエンジンも機体も良いのだがすでにくたびれていて反応が鈍いのを必死に言うことを聞かせようとするがエンジンは悲鳴をあげている。
「逃げるにも速度がでない、ポルコ達は逃げきったけど」
思わず口に出してしまうほど重い気持ちを抱えており最初の墜落で命を落とす可能性もあり想像してしまいそうになり頭の中を振り払う。
次に相手がどういう動きをするのか予測をしながらひねりを入れるがまわりこめない、このパイロットは誰なんだ、だれ、どんな人、若い年寄り、頭の中をぐるぐるしながら堂々巡りな事を何度も繰り返しているとようやくわかる。
「ポルコ、ポルコの動きと考え方が似ている」
もっとシビアに今にも空中分解してしまいそうなM5を気にするのをあきらめ次の一撃をとと思い得意技をするため旋回から垂直に近い上昇と失速から急反転をする。
機体もエンジンも悲鳴をあげ操縦管からは各部の止め金が破断しつつあると感じさせながらぶつかる位まで接近をして機関銃を発射した。
綺麗にエンジンに吸い込まれていく、数発に1発の曳光弾が吸い込まれ煙をそして火を噴いて地上へと落ちていった。
「限界だ」
落ちたのも気にする暇もないほどエンジンは息をつき異音を発している。
「3気筒は死んでるいつまで持つか」
オイルが垂れてきて顔にもかかる。高度はすでに地上にいる兵士の顔も見えた瞬間、ハンマーにでも殴られたようにM5が止まり地上に落ちたらしかった。
「ロイが戻らない」
カーチスを逃がすためにM5にムチ打って迎撃したのだがその日の夜になっても帰ってこずマリーアが騒ぎ始めている。
「夜が明けなきゃこいつも飛ばせねえ、その筋に聞くしかないか」
電話を取ると本来かけたくもない番号を伝えつなげてもらう。
「おれだ、うちの若いのが混沌の中に落ちた、なにかわかるか」
向こうの陰湿な野郎は何時ものように答えると電話が切れた。
「明日早朝に捜索に向かうぞ」
夜空の中チェアーに寝転び夜が明けるのを待つことにした。
「ルノアもっと下げてもっと」
「下げるより上げた方が見やすい、言う前によく見ろ」
「半年で未亡人にはせんじゃろう」
じいさんが軽口を叩くとマリーアが怒りじいさんの襟首をつかみゆするので、
「ドーラばあちゃんが未亡人になっちまうぞ、みつけることが肝心だ」
そう言うと皆は目をさらにして地上に落ちたはずの飛行艇を探した。
「あそこに、あれじゃありませんか」
先端に乗っているミチが右前を指す。そこにはかろうじてわかる機体の一部が残っていたが人の姿は見えず場所をおおよそ確認する。
「ポルコこのままおりてよ、早く探さないとロイきっと待ってるから」
「わかってはいるがこいつは飛行艇だ、水がなきゃおりられないんだよ」
小娘相手にどなり返してしまうが陸上に落ちれば間違いなく大惨事となる。
周囲を見渡すと溜め池が見えルノアに伝える。
「この機体じゃ無理だポルコもわかってるだろう」
失速ギリギリでもとてもじゃないが足りる大きさではなく降りれば上がることはまず不可能でカーチスに返却をしなければならないことも頭によぎったが、
「ルノア、艇をもらうぞ」
操縦管を握り低空で溜め池に進入する。
「あーあっ、任せた補助はする」
ルノアがこんなときにも笑顔で返事をして他の3人に衝撃に備えるように伝えた。
溜め池を確認しつつエンジンを5つのうち2つを停止させ速度を落とし地面すれすれにしていくとその周辺で農作業をしていた農民や塹壕から出ていた兵がこちらを見てあわてて蜘蛛の子を散らすように逃げていきエンジンをもう1つ止めると失速し始め溜め池の手前で一度積まれたワラの上で軽くはねそのまま着水をした。
「曲がれ」
操縦管を左に目一杯倒す、
「ミチ、じいさん左へ体を乗り出してかぶせろ」
ルノアが声をあげ少しでも左に飛行艇が曲がるようにしてくれ溜め池の外周ギリギリをなめるように進み最後は土手に前方を接触させようやく止まった。
「じいさん留守を頼んだぞ」
ピストルを持って出ると落ちた場所に向かって走り出す。距離は6km程だろうか道を走り塹壕を越えながら走る。
「ポルコまって」
待てるかマリーアと思いながら久しぶりの全力疾走に息が上がりながら残骸へと到着した。
「おい、そこの飛行艇乗りを見なかったか、俺じゃねえこいつに乗ってたのだ」
まぬけな兵士が俺を指す。
「それなら村の医者に運ばれていった。軍ではなかったからな」
相変わらず頭の固い奴らに怒りが込み上げてきたが礼を言うと村へと走り出した。
村まではさらに3km走り抜け私を見て顔をひきつらせた村人が医者の場所を教えてくれ後ろからマリーア達の声がするが先に行くと言って走り出した。
どこにでもある村の中心にある噴水を通り抜け目的の家の前に到着してノックする。
「あんたが医者かい、すまないが昨晩運び込まれた青年を探してる」
髭の小太りの身なりのきちんとした男が出てきて、
「申し訳ないが軍の者が来て連れていきましたよ」
「軍て何で引き渡したんだ」
医者は困った顔をして、
「誰かもわからない人を軍の関係者だと言われれば引き渡さないわけにいかないんですよ、前線までは数十キロ先ですし他人事ではないんです」
「わかった。軍て言うのはどんな格好をしていた」
「軍人もいましたが背広着て暑いさなかコートを着ていました。」
やつら電話をしてから直ぐに動きやがったな場所は知らねえと言っていたのにだ、マリーア達が転がり込んで来たので、
「ここにはもういない、カーチスに戻るぞ」
戻る途中マリーアが何か言っていたが耳に入らず奴らの狙いを考えるとカーチスと考えて間違いないのだろう、技術はイタリアの1歩も2歩も進んでおりそう近くない時期に追い越され追い付けないのではと思いながらじいさんの待つカーチスへ戻り、工場に知らせるのとトラックを数台まわしてもらうようにルノアに頼んだ。
翌日落ち着かないマリーアをなだめながら周囲を警戒しているとミチが、
「周囲を帝国兵らしき人影、こちらを包囲しているようです」
「この機を狙ってやがる。帝国に化けた正社員だ」
「なんで、なら飛行艇を引き渡せば良いでしょ」
マリーアが叫ぶので、
「契約がある盗まれないようにもしそうなったら莫大な違約金を払わなければならねえ」
弾は補給したので十分あるし土手が機体の下半分以上を隠してくれているので準備を行う。
「しかし安易に化けるとはななめられたものじゃ、ポルコよ思いっきり暴れるぞ」
「じいさんあまり無茶するな死人は未だ出したく無いからな」
そう言いながらライフルで先ず敵の士官に狙いをつけ引き金を絞った。
「連中もあきらめ悪いの、まったく」
接近して突撃をするたび軽機関銃で撃退されたがあきらめた様子はない、
「しかしこれだけ音を出しているのに正社員が来ないってことはきな臭すぎるなポルコ」
じいさんにそう言われ同意する。
「しかし長引けば弾薬もだが我々がもつまいて」
そう言われて機体に火をかけ逃げ出す算段も夜まで状況に変わりがなければと思いつつ13回目の突撃を跳ね返した。




