Suicide シュイサイド・サークルからの招待状
2016年11月5日
静岡県静岡市のマンションの一室で二十代後半の男女の遺体が発見された、通報を受けて駆け付けた静岡中央警察署の磯村政義警部とその部下、小池雅史警部補は何やら怪訝な表情で現れた、
先に来て捜査をしていた刑事が「磯村警部、害者の身元何ですが…」と語りだすと、
「いや、身元は解っている、それより死因はなんだね」
どうやらこの磯山警部と小池警部補はこの被害者二人と面識があるようだった、
「はい、男女とも鋭利な刃物で心臓一突き、ほぼ即死だったと思われます」
「凶器はまだ見つかっておらず、犯人はおそらく窓から硝子を割って侵入したと思われます」と言ってベランダに面した割れた窓硝子を指差して磯村に告げた、
「第一発見者は、このマンションの管理人で、悲鳴を聞いて駆付けて来た時には二人の意識は既に無く、犯人の姿も見なかったそうです」
「悲鳴がして管理人が駆け付けた時間は?」
「はい、この部屋はマンションの二階で、おそらく十五分から二十分程度だと思もわれます、」
「そうか…」と言って磯村警部は項垂れた、
「親族への連絡はしたのか?」
「はい、男性の方は天涯孤独で親類らしい親類はいないようですが、女性の家族には知らせて今こちらに向かっている最中です」
「そっか、これから司法解剖とかあると思うけど早く終わらせて早く会わせて上げたいな」と言う磯村の声に「そうですね」と同調する小池警部補、
「小池君、私達は署に戻ってやらなきゃならない事がある、解っているね」
「はい、磯村警部、例のサイトの件ですね」
「そうだ」
と言って充血した真っ赤な目で殺害された男女に手を合わせ合唱しその場を後にしようとした時、
「あっ、磯村警部、それとこの二人もう時期結婚を控えてて、女性は妊娠四ヶ月だったみたいです、捜査で発見された母子手帳に記されていました」
「とういう事は来年の三月には新しい生命が誕生していたということか、」
「そうですね」
「チクショー!何て事だ!!」といって磯村警部は我慢していた涙が不覚にも一粒こぼれ落ちてしまった……。
「そうか、それじゃあ後は頼む、」と言って磯村警部と小池警部補はその場を後にした、
署に向かう車中で運転する小池警部補に磯村が「なあ、小池君、俺達は大変なものを見逃してしまったようだな」
「例のサイトの事ですよね、私もそう考えてました」
「あの時、ちゃんと捜査していたらこんな悲惨な事件は避けられたかもしれない」
そうこの二人はこの後起こる事件に関わった刑事だったのだ、
「なあ、小池君、この事件必ず解決しような、そうしないと殺された二人、いや三人だ、このままだと三人が報われない」と言う磯村警部に「はい、必ず解決しましょう」と返事を返す小池警部補であった。
2014年10月11日
夕暮れ迫る駅に私は一人降り立った、私、臼井幸 二七歳、静岡県静岡市の総合病院で看護師として働いている、どうして看護師という職業を選んだかと言うと、ナイチンゲールに憧れて…?いえいえ、そんな高尚なものではなくて、昨今世間を悩ませている就職難に伴い、手に職を持てて、一生食いっ逸れがないという安易な理由でこの職に就いたのだ、そんな訳で職業に対する生きがいを見出せないままただ生活のために仕方なく働いている感じで、一般的に世間で言う白衣の天使というイメージとはかけ離れているダメダメな看護師なのであります。
そんなダメダメな私は大きな悩みを抱えていて、それは男運が全くもって無いという女として最も重大な問題なのであります、今まで私の上を通り過ぎていった男達は出会った頃は皆優しく接してくれるのだが、次第に振り回されるようになり、挙句の果てには浮気され捨てられる、そんな男ばかりだった、きっと原因は私にもあると思います、そんな男を選んでしまう、そんな私が嫌で嫌でたまらない今日この頃の私なのです。
そんな私が一世一代の決意でやって来た、ここは新幹線の新富士駅、ある目的を遂げるためやって来たのだ、今日は自分が持っている数少ない衣装の中から目一杯おしゃれをして出かけて来た、だって二七年間生きてきた人生に終止符を打とうという晴々しい?記念すべき日なのだから…。
2014年9月20日
あれは半月前の出来事だった……。「バタン!」今三年という結婚適齢期の女として大事な日々を過ごした男が部屋を出てった、
「お前、ウザい!黙ってメール見たり、隠れて付け回したり、ストーカーみたいな事しやがって、もう重くって息が詰まる!うんざりだ、別れよう、じゃあな、」って捨て台詞を残して……。
だって、仕方ないじゃない、友達もほとんどイッちゃってる(結婚)し、中には一度イッて帰って来た子も、子供だって二人もいる子もいるのよ、あんなに尽しだのに、どうせ結婚するだからこれは共有財産なって言って私名義のローン組んで車買っちゃうし、生活費は全て私持ち、「チクショー!出て行くんだったらクルマ置いて行け!クルマ!!」
思い起こせば彼との出会いから可笑しかった、
ある日、職場の看護師仲間のちひろちゃんと居酒屋行った時、偶然横に座ったのが浩二だった、彼は屈託のない笑顔で幸たちに話し掛け、「やあ、俺浩二、そしてこいつ隆ね」ってもう一人の連れの男性を紹介し、得意の話術で一気に私たちの中に入ってきた、当時二十四歳の私は、二十歳の頃看護学校を卒業後、故郷の浜松市を離れ静岡市にある総合病院に勤め、これまで男性経験豊富とまではいかないが年相応それなりの経験は熟してきたつもりだった、そんな私の中に土足で入ってくる浩二が最初は疎ましくも感じたが時を重ねるうちに私の方も次第に惹かれ始めていった、
そうこうしている内に私の部屋に転がり込み半同棲生活になり、
看護師ならではの不規則な生活、それをいいことに私の勤務中に他の女性と遊びまくっていたようで、一緒に居酒屋で会ったちひろちゃんにまで手を出しまった最低な奴、単なるナンパ師の遊び人の浩二に振り回され、婚期を逃した私は…、う・れ・の・こ・り…?私の描いていた未来予想図はこうでは無かったはずなのに…。
そう、私は売れ残りのクリスマスケーキ?二四日までは絶賛発売中で、でも二五日過ぎたら誰も買ってくれない、その二五歳もとうに過ぎて只今二七歳、私はこれからどう生きればいいのやら途方にくれながら一頻り泣いた後、眠りに付いた、気が付き目覚めたのは夜中の二時頃、意図的か無意識かさだかではないが「し・に・た・い」と呟く自分に気付く、どうせ私の人生これまでも良いこと無かった、
総合病院に働き出して二年、二十二歳、ようやく仕事も慣れて来た頃、研修医の猪瀬悟くんに見初められ、もうすぐ結婚かという時に突然別れを告げられあっけなく猪瀬君は他の女性と結婚、後から聞いた話だがその時、個人病院の一人娘、言わばお嬢様と二股を掛けられていてそれにずっと気付かず彼を信じ続け付き合ってきたが、結局振られる結末、私が大バカ者だったのです、そりゃ~あ私はしがない看護師勤務、方や個人病院とはいえ、そこの医院長の一人娘、黙っても跡取りはそのお嬢様の婿になるわけで、最初から勝負にならないってもんです。
高校時代にずっと思いを寄せていたサッカー部の一年先輩の矢野君に一世一代の告白するも「ゴメン、今部活忙しくって付き合えないや」ってフラれ、しばらくすると今までそのことを相談していた親友の陽子と付き合っていた何てこともあったりして、
まだあるぞーー!小学生の頃どうしても欲しかったインコを親にせがんでやっと買って貰って一生懸命世話していたら、たった三日で死んでしまったり、
幼稚園の時、何時もイジメられいた私を唯一かばってくれていた同い年のユウ君、あまりにも幼かったせいで事情はまったくもって分からなかったけど、いつの間にか引っ越して居なくなっていたり?
そういやユウ君、今どうしてるんだろう?「サッちゃんに手を出したら、許さない、僕がお前らをぶん殴る」って幼く健気ながら私をかばってくれた、この時私若干五歳、初めて異性を意識し“ドッキン”とときめいた相手、そう」初恋の淡い思い出だった、
何時まで逆上るてんだって話だけど……、
もうそんなことはどうでもいい、やっぱり…「し・に・た・い」
どうせ私は、臼井幸薄い幸、これから生きていたってきっとイイことなんて無い……。
(ピッ!ピッ!ピッ!)
そんなことを考えながらベッドに横たわっているとスマホに一本のメールが届くエッ?誰?もしかして彼???今更「俺が悪かった、やっぱりお前しかいない、ヨリを戻してくれ!」って言っても知んないゾッ!と過度な期待をしつつメールを覗くと、「シュイサイド・ツアーズへのご招待」と書いてあった、「ん?これは何?」興味本位でその後を読み続ける、そこには…、
シュイサイド・ツアーズからの招待状と記され、
自殺志願者へ朗報、一人で死ぬのが怖い、一人で死ぬのが寂しすぎる、と不安な気持ちを抱えてる貴方、そんな貴方にピッタリの「シュイサイド・ツアー」を始めました!「怖い自殺も皆でやれば怖くない!」
シュイサイド・ツアーズ…?何て内容と不釣合いなキャッチーなコピーだろう?
普段では迷惑メールだと思い気にも留めないのだが、あまりにもグッドタイミングのそのメールに思わずエンターキーを押してしまった、そこにはキャッチーなコピーとは打って変わって興味深い内容が刻まれていた、
現在、人生の決断に悩まれてる貴方へ、今貴女は生と死の間で悩まれていませんか?一般的には死というのは体から魂が抜け、この世から全てが亡くなってしまうと言われています、しかしながらある宗教では、体は無くとも魂は残り、新しい生命となって再生するとも言われております、私どもシュイサイド・ツアーズは後者の方を推奨し、今現在、生と死の悩みを抱えている方々へ、人生の再出発をお手伝いするツアーをご用意いたしました、興味がおありの方は詳細希望のメールを返信フォームにてお贈り下さい、
「エッ!?私誰かに覗かれている?」
「この部屋盗聴器付いてんの~?」
「それじゃあ、彼とのあんな事やこんな事も、皆聞かれてる?」
「イヤ~ん、恥ずかし~♡」
しかし、何てタイミングのいいメールだろう?
疑心暗鬼になりながらも、詳細希望の返信メールを送っていた。
そしてしばらくしたら返信メールが帰ってきた、そこに記された内容は驚愕なものでした、
このメールに返信された貴方は深い傷負った方なのでしょう、心情お察しいたします、当シュイサイド・ツアーズはそんな貴方に、死という恐怖を少しでも取り除た最良のツアーをお用意致しました、参加するかしないかは貴方のご自由です、ただしこれから記す内容はくれぐれもご内密にお願いいたします、
貴方が参加せれる意向されたので、詳しい内容を説明させていただきます、
参加者は貴方を含め計五名で構成されます、待ち合わせ場所は新幹線の新富士駅で集合し、こちらがご用意しているワンボックスカーに同乗し行動を共にしていただきます、あとはメールにて指示を送りますのでそれに従う事、ただそれだけです、
実行日は、2012年10月22日、集合時間は11時00分、くれぐれも遅れるないようにお願いいたします。
シュイサイド・ツアーズ 代表Mr.K
2014年10月11日
集合場所の静岡県新富士駅に予定の集合時間の5分前に着いた、今は、午前10時55分、そこにはすでに三人の男性の姿があった、一人は私と同年代のイケメン風な男性と、もう一人は30代半ばのちょっと疲れたサラリーマン風な男性、そしてもう一人は20歳前後の何か影がありそうな暗めな男性、軽く会釈をする私にイケメン風な男性が「やあ、よろしくね、」と言うと、微笑みかける30代半ば男性とその横でただそっぽを向いている影がありそうな暗めな男性、
「エッ!確かメンバーは私を含めて5人のはずでは?」すると、
すると「スミマセ~ん!」って満面の笑顔で駆け寄ってくるチョット?太めな小柄な女の子、
「あっ!転んだ」
「イタ~い!」ってちょっと涙を潤ませながら
それでも笑顔で近寄ってくる制服を着た女子高生、
「遅れてないですよね~?」って尋ねる女の子に「今、11時04分だから、ギリギリアウトッ!」時間を見て私と同年代のイケメン風の男性が言うとまた満面の笑みで微笑む女の子、それはこれから始まる「シュイサイド・ツアー」という死への恐怖の旅路を微塵も思わせないひと時の微笑ましい出来事であった、しばらくすると皆の元にメールが一斉に送られて来た
「皆様シュイサイド・ツアーズにようこそ」
「これから皆様にはこのメールの指示に従って行動していただきます。」
「まずは、こちらがご用意した車を取りに行ってもらいます」
支持された駐車場に向かうと、そこには割と大きめなワンボックスカーあった、するとまた皆の元へメールが届いた
「ドアは空いております、鍵は付けたままになっておりますので直ぐにでも運転できようになっております。」
「運転者、座る位置など等は、皆様お話し合いの上お決めください」
「また、目的地、決行場所は車内に設置しているカーナビに前もって設定していますので電源が入ったら導いてくれます」
「また、時折メールを送りますので必ずその指示に従って下さい」
「それでは皆様、シュイサイド・ツアーのスタートです、人生最後の旅を悔いのないようお祈りいたします。」
そのメールを受け取ると、皆笑顔だった顔が一斉に凍りついた
「よし、じゃあ~運転誰がやる?」とイケメン風の男性が口にする
そっか、まずこの女子高生の女の子は免許持ってないだろうし、イヤッ、万が一18歳でギリギリ持っていたにしても、こんなオッチョコチョイに命預けらんない!
「オイオイ、これがこれから死のうという人間のセリフか~?」と思いつつ当の私も18歳で免許取ってから、ほとんど運転はしておらずペーパードライバー、私とこの女子高生は無いな、ウン、ナイナイ、
するとイケメン風の男性が「この中で免許持っている人手を挙げて」
男性メンバーの三人が手を挙げ、そして遅れて恐る恐る手を挙げる私…、
「ヨシ、この四人で交代して運転することに決まり!」
「オイオイ、私に運転させるとは、本来の目的を果たす前に、不本意に目的を果たしちゃいますけど、私に命預けてホントにいいんですか~?」
元来、無口な私は心の声では人一倍おしゃべりだったのでしたwwwww
そして、ドライバーの一番手はジャンケンという公平なルールに従ってイケメン風な男性に決まった。
カーナビの指示に従って走ること15分が過ぎた頃、また携帯の着信音が一斉に鳴った、
「ねっ、俺運転していて読めないから誰か代表して読んで」とイケメン風の男性が言うと、
「ハーイ、私読みま~す♪」って女子高の女の子、
何て可愛いんだろう、本当にこの子が自殺志願者?俄かに信じがたい、
見るからに何も悩み事なんて無いように思えるだけど…、
それにしても可愛い、可愛い過ぎる♡
「おっと、私そっち系では無いですから、あ・し・か・ら・ず!!」
第一の指令
「皆様車の乗り心地はいかがでしょう?」
「さて、これから皆様には、自己紹介をしていただきます、別に本名ではなくて構わないですが、お互いの呼び名、ハンドルネームを決めていただきたいのです」
「そして、本日までに自身に起こった出来事、自殺を決意した経緯を一人約20分で語っていただきます、くれぐれも時間は厳守してください、これからのスケジュールもありますから」
「別に、その事を聞いて解決しようとか相談にのるとかは一切しなくていいので、ただ語り、聞いて下さい」
「それでは、良い旅の続きを…。」
「ヨシ、時間無いって言うから俺から言います」と堰を切ったように語りだしたのはまたしてもイケメン風な男性、
「ちょっと待って、いつの間にかこの人がこのパーティーのリーダー?」
「私は元来引っ込み思案だからいいけど、他の男性二人、疲れたサラリーマン風と何か影がありそうな暗めな男、もっと頑張って発言しろよ」
「このままだと存在感無さすぎるぞー!」
「しかし、この二人じゃあしょうがないか~、「まっ、イケメン風の君、君しかいない!このパーティーはまかせたぞ!ヨッ、大統領~!!」
今に始まった事ではないが、私は元来無口な方で…。ただ、ただ、心の中の声がお喋りなだけで…。
「まずは俺、タッチって呼んでください」ってイケメン風な男性、
「オイオイ、まさか本名が達也でタッチ?安易すぎるやろ~、それに同い年てかー!」
「残念ながら本名が達也でタッチではありません」
ん?私の心の声聞こえていた?テへッ(ノ∀`) おぬし中々やりおるな~、ヨシ、ここでイケメン風の男性からタッチに昇格ネ♪
「まっ、漫画のタッチからとったからには違いないんだけど」
「本来、この漫画のタッチって意味ってバトンタッチのタッチって皆んな知ってた?」
「甲子園を目指していた双子の弟、和也が不慮の事故に合い若くして亡くなり、その夢を兄である達也が受け継ぎ叶えるというストーリーなんだが」
「それに似た出来事が俺にもあって、それは、双子では無いが俺にも二つ上の兄がいて、喧嘩もよくしたが仲の良い兄弟だった」
「その兄が小学校に上がり、俺が幼稚園に通ってた頃、両親が交通事故に合い亡くなってしまった、後から聞いた話では、両親を死に追いやった相手は飲酒運転だったんだって」
「まだ幼く身寄りの無い俺たちは孤児院に預けられ、ますます俺はたった一人の肉親の兄を慕うようになった」
「そんな俺を兄は無償の愛で守ってくれた」
「中学で野球を始めた兄は元来の運動神経の良さと努力でグングンと頭角を現し、地元静岡を代表する投手に成長した」
「へ~、このタッチさんも静岡出身の人なんだ~」と心の中で呟くサチ、
「そんな俺も敬愛する兄の背中を追って野球を始めた」
「兄は実力を認められ特待生として甲子園常連の有名校に進学し、高校二年生の時、あれよあれよと勝ち進み、いよいよ甲子園出場掛けた決勝戦のその日、漫画のタッチみたく不慮の事故に合って死んでしまった」
「呆気なく、ホントマンガみたいだろう?」
「交通事故の原因がくしくも両親と同じく相手の飲酒運転よるものだって…。」
「笑っちゃうよな…、これがこのタッチって名前の経緯…。」
その事を話した後、イケメン風男性改め、タッチさんの目は涙は溢れてないけど赤く充血していた、私も思わず涙が溢れていた…」
「それから俺も兄ほど才能に恵まれた方では無かったが人一倍、いいや人の二倍努力をして何とか特待生として兄の通っていた高校へ進学して、二番手投手だったけど甲子園に行き兄の夢を継ぐことができた」
「そういえば、この人何処かで見たような?」
「いやいや野球に全くもって興味がない私が知る由もない」
「でも、何処かで見たような気がするな~?」
他の男性二人は顔は知っているようだった。
「自分で言うのは恥ずかしいんだけど、元来努力家の俺は、高校卒業後何とか実業団のチームに入ることができ、実業団でも勝ち星を重ね五年後、23歳の時プロ野球のドラフトである球団から三位ながらも指名を受けた」
「こん時はもう宙にも登るくらい舞い上がったよ」
「親父、おふくろ、お兄ちゃん、俺はやったよってね」
「しかし、俺ら家族に神様が与えられた試練は終わりでは無かった」
「プロ野球入団契約の当日、またしても俺の元に車が飛び込んで、二度とボールは握れない体になってしまったってこと」
「ホント、笑っちゃうだろ?こんな話、マンガにもならないよな~あ」
タッチさんは「ハッハッ…」と笑いながら目には涙をうるませていた。
「それから何もする気力もなく、自暴自棄になって毎日酒を煽るように飲み世間で言う落ちこぼれでダメ人間になってここに来たっていう経緯です」
「おしまいっと…。」陽気に締めくくろうとするタッチさんだったが、
皆の顔は話を気前の笑顔は無くなっていた
「そうだ、私たちこれから死ぬんだった。」と改めて実感した。
そんな重苦しい車内の中で「ハーイ、じゃ~あ、次私イキまーす♪」って屈託のない笑顔で、これまでの暗い雰囲気を一変するような声がした、そうあの可愛い女子高生の声だ
「助かった、この重い雰囲気耐え切れなかったよー、ありがとう女子高生ちゃん」
しかしその女子高生は言葉を発した後、沈黙が30秒位い続いたろうか、突然大粒の涙が溢れ落ちた
そりゃあそうでしょう、いくら今時の女子高生、気丈に明るく振舞っても、ここまで来る経緯はそれなりに重く深い理由があるに違いないでしょう…、
「私の名前は~」と女子高生が話しだした
「あゆ、そうだ!あゆって呼んでください♪」
でた、浜崎あゆみのファンであゆ?今時は西野カナでしょう?
「実は~、あたし~」
やめてくれ女子高生特有の語尾を延ばす話し方、そんな話し方じゃどんな重い話でも軽く聞こえてしまう、
しかし、そんな口調と裏腹に彼女の話は重く深い学校に蔓延る“いじめ“という内容であった
「幼い頃両親が離婚してお母さんに引き取られ」
「母は昼夜問わず働き続けで私を育ててくれまた」
「そのため自然に祖父母元に預けられることが多くなり、その祖父母から沢山の愛情を注いでもらいました」
おっ、この子この短い間で語尾が伸びなくなったぞ、流石成長期真っ只中、なかなかやるなお主!君もこれから、女子高生ちゃんからアユちゃんい昇格だ!
「その祖父母はありがたいことに私を目の中に入れても痛くない程の可愛がってくれ、何でも欲しい物は與えてくれました」
「そして食べ物も…」
「さあアユちゃん、アユちゃんの好きなものばっかり作ったから、沢山お食べ」
「アユちゃんの幸せそうな笑顔がおじいちゃん、おばあちゃんの一番の幸せなんだよ」
その事が切掛けでアユは絶えず笑顔を欠かさない、普通の少女よりちょっとポッチャリな、イヤイヤ、デップリナな少女に成長したのであった、
「中学生に入った頃には身長130センチで体重60キロ、間違いなく肥満道まっしぐらで、中二の頃には、身長もちょっと伸び150センチで体重75キロの大台になっちゃって…(テへ)」
「その頃から思春期を迎えた友人たちが私をさけるようになりました」
「だって、アユと一緒にいるとモテないだもん」
「それからは無視や暴言されるようになりましたが、全然我慢の範疇だったんです」
「中学校卒業間近は、ヨシ、」ダイエットして高校生デビューするぞと意気込んでいましたが」
「お母さん、祖父母の前では何の悩みもない明るい少女を演じていた私は、その祖父母が与えてくれる物をどうしても断ることができなかったんです」
と言うと再びその大きな瞳に大粒の涙を浮かべた。
「何て優しい子、ん?見方によっては単に食い意地が張っているだけって思えるんだけど…」
「それから高校生デビューに失敗した私は、高校に入っても中学生の時の噂を聞いた同級生たちからもいじめられた」
「今度は無視、暴言だけではなく、暴力、金銭要求されるまでエスカレートした」
「流石に金銭要求だけは拒否し続けました、うち貧乏だったから…」
「家からお金持ち出すって、いくら鈍感な私の母や祖父母だってバレたら、私がイジメられてることがバレバレ何で、心配掛けたくなかったんです」
「やっぱりこの子めちゃめちゃ優しい、愛おしい、抱きしめたい」
「おっと、くれぐれも私はその気は無いですから」
「金銭の要求を拒否すると、待っていたのは暴力です、殴る蹴るは当たり前、一度はプールの時間、プールに入っている私をみんなで押さえ付けられ、水の中に顔を沈められました」
「この時流石に私死ぬのかなって思っちゃいました」
「酷い、惨すぎる、この屈託の無い笑顔の裏でこんなひどい事をされていたなんて、かわいそう」
「で、生きるのや~めたって感じでここに参加しました~」
「と、私の話はここまでで~す」
また何時もの満面の笑みに戻った。
「じゃあ~次は私が…」と三十代半場のおじさん語り始めた、
見るからにあの佐村河内氏のゴーストライターの誰だったっけ名前は~?そうそう、新垣さんにソックリなおじさんが思い口を開いた、
「まずは名前か、皆さんとは違っておじさんなので、“おっさん”そう、“おっさん”でいいです、“おっさん”と呼んでください。」
「何やそのまんまないかい、」
「大学を出て大企業とは言えませんが、まあそれなりの会社に就職できました、
自分で言うのも何なんですが、真面目な性格でコツコツ頑張って会社でもそれなりの地位得ることが出来ました、まっ、係長何ですけどね」
「そして、二十八歳の時お見合いパーティーだったんですけど将来を共にできるすばらしいパートナーと出会い結婚することもできました、」
「一年後には長女の真実が生まれ、その二年後次女の朋実という掛け替えのない二つの子宝にも恵まれました」
そう言って家族四人が写った写真を見せ誇らしげに満面の笑みを浮かべるおっさんだった、
「本当この頃が私が生きてきた人生の中で一番幸せな時でした、三十歳になったばかりの頃、後輩の社員の佐藤君と営業に行き、その日その営業が思ったより長引いて、会社へ直帰する意向を連絡して、そのまま帰宅しようとしたんです、」
「するとその佐藤君が、係長、ちょっと寄って行きません?」
「そう言う佐藤君が示す方向を見てみるとそこはパチンコ店でした」、
「それまで本当に真面目一筋に生きてきた私です、営業の途中トイレでちょっと寄ったあったものの、実際に座って遊戯したことなどありませんでした、躊躇している私に佐藤君は、」
「ねっ、三千円だけでもやっていきましょうよ、俺も三千円打ったら止めますから、今後の営業の運試しと思って、ねっ、カ・カ・リ・チョ・ウ」
と言って中に入って行ったのです
「もう、仕方ないな~」と言いつつ其のあとを追って中へ入るとそこは、強烈な爆音の電子音が鳴り響いていました、
「おや、意外と綺麗だね~佐藤君、」
「そうでしょう係長、今この業界も俺ら営業と同じく競争率が激しく、こういゆうオシャレな感じでやんないと、顧客争奪戦に着いていけなくなるんすよ、つまりどの業界も偉業努力が大事って事っす」
と言うと佐藤君はそそくさと打つ台を決め遊戯を始めた、当の私は初めてのパチンコ店で戸惑いウロウロしていると、
「おっ、これは私でも知っているぞ、テレビCなどでも見たことある、“海物語”ってやつだ、」
この時問がまさしくこれからの私の人生の行方を決定づけた岐路、その分かれ道で一生後悔してもしきれないバッドチョイスをしてしまったのです、無造作に空いている台の前に座り、「え~と、どこにお金を入れてどこから出玉が出てくるんだ~?」
千円札を片手に戸惑う私に、
「兄さんココ初めてかい?ほら、ココ札を入れてココを押すと玉が出で来るんだよ!」と隣に座る優しそうなおばさんが教えてくれました、軽く会釈をして早速打ち始めると、千円分の玉はあっという間に無くなり、二千円目を投入しようとしたら、
「兄ちゃん、ここのハンドルの所に十円玉を挟むとハンドルが固定されて、飛び出しが安定するよ、」と言って十円玉を差し出してくれました、
そのおばちゃんに促された感じで二千円目を投入し、その後一発目の回転で、
「奥さん何か沢山の魚が横切りました」
「おっ、魚群かい?この台二百回転過ぎた所だろ、この回転数は外れ魚群が多いんだよね~」
と言いつつおばちゃんは私の台をガン見してました、
「あっ、当たり目通り過ぎた、」それを見てホッとした表情のおばちゃん、すると、
「あっ、走った!」
「当たった、当たりましたよ奥さん、」
と言うと般若のお面のような形相でこちらを睨み返すおばさん、それからあれよあれよという間に二十五連荘、
隣のおばちゃんはいつの間にか居なくなっていました、
連荘が終わり、出玉の換金方法を店員に聞き、換金すると十五万円弱、何とこの二・三時間で一か月の月収近くを手にすることができたのです、
今思えば完全にビギナーズラックというものでした、換金し終わって佐藤君の元に行くと、
「係長、三万やられちゃいましたよ三万、」と涙目で語る佐藤君に
「よし、お陰で今日はちょっと勝たせてもらったから一杯飲みに行こうか?」というと、
「ゴチにありま~す」と現金な後輩社員の佐藤君の声が力なさげに返ってきた、
居酒屋に着き、打ち始めて二千円目に直ぐ当たりを引いて二十連荘したことを正直に話すと、
「係長、凄いじゃあないですか、博才あるんと違います?」と言われ
「いや~そんな事無いよ~」と言いながらまんざら悪い気はしませんでした、
それから皆様のご想像の通りパチンコ依存症の道まっしぐらです、家族を顧みずパチンコにのめり込んでしまいました、
今回負けてもまた連荘すれば直ぐに取り戻せる、月々与えられた小遣いを使い果たすと、家族四人暮らすための生活費まで手を付け、それも使い果たすと、消費者金融にまで手を出した私は、返しては借りを繰り返しながらそれでも一度はハマった依存症から中々抜け出せず、家族を顧みずパチンコをやり続けました、
いよいよ支払いが滞り、どうしようもなくなり親類縁者に泣きつき、絶対にギャンブルはしないと約束し返済資金を借りたものの、一度ハマったパチンコの魔力は凄まじく、隠れてでも行くようになりました、
もちろん家族は崩壊です、私がこれまでの人生の中で唯一愛した妻、それに何事にも代えがたい愛娘たちは、私を置いて内を出ていきました、この世で一番大事なものだと信じていたものが、パチンコという魔力をもって簡単にも無残に崩れ落ちてしまったのです。全てを失って初めて自分の愚かさに気が付きました、後悔先に立たずです、と言い終わるとおっさんは、ホットした感じで目にうっすら涙を浮かべていました、
「このおっさんも真面目そうな顔して見かけによらず苦労してんのね、人に人生ありってか~あ」とサチの心の声が呟く、」
「え~と、後はと、そこの綺麗なお姉さんと、君?」と私とどこか暗い影を持つ青年を指すタッチさん、
「えっ、綺麗なお姉さんて私のこと?おぬし中々見る目があるな~タッチさんよ~」
「じゃあ次、私が話します、名前はサッちゃんて呼んで下さい、静岡市内で看護師をしていて今年二十七歳になります」
「私がこちらに参加した理由は、結婚の約束した三年間同棲していた彼に突然、いや予兆はあったと思いますが、いきなり別れを告げられ出ていかれたのが原因でこのツアーに参加しました、」
「出会いはナンパ、看護師の同僚と二人で居酒屋へ行った時に声を掛けられ、最初は社交的で強引な彼に嫌悪感を感じ、相手にしてなかったのですが、彼の強引な押しに負けて気を許した隙に私の中に土足でグイグイ入ってきた彼に、知らず知らずのうちに私も彼に惹かれ始めてしまいました、そして自然の成り行きで彼が転がり込む形で半同棲生活が始まりました、」
「彼は仕事しても長続きせず、定職も就かずフリーターでしかも“おっさん”さんじゃあないけれどパチスロ好きで生活費はもちろんのことそのパチスロ台まで私にせがむのです、」
「友達からはそんな男早く分かれちゃいなって何度も苦言をされましたが、それが惚れた弱み、中々こっちから別れを告げられずにズルズルと、」
「そうこうしているうちに決定的な事件が起こったのです、それは、準夜勤だった同僚看護師から深夜勤務の私に変更を頼まれ急遽交代する事になったのです、うちの病院は、準夜勤午後三時~十二時までで、深夜勤務午後十一時~翌朝の午前八時までの勤務形態になっていて、」
「本当に急な交代で彼にも連絡出来ず、業務中は忙しさのあまり連絡さえ出来ませんでした、」
「そして仕事が終わり疲れた体で午前一時半頃部屋に帰ると彼は帰宅しているみたいで、薄暗い中電気を点けると抱き合う男女の姿が、もちろん男性の方は彼氏、女性の方は何と、親友だと思っていた同僚看護師のちひろちゃんだったのです、そうです、ちひろちゃんといえば、私と彼が初めて会った居酒屋に一緒に居たあの女の子です」
「私は、突然の出来事に声も出せずに暫くその場にボート立ちすくみました、すると彼は」
「これは違うんだ、違うんだ、お前が留守とは知らずちひろちゃんが訪ねてきて、相談があるからと言ったから上がってもらって話してる途中ちひろちゃんが眠くなって、じゃあお前が帰るまで寝て待ってようということになって、それで添い寝していただけなんだ、」
「何て見え透いた言い訳なんだろう、第一ちひろちゃんは同じ病院の看護師で勤務時間も把握済で、まして急遽準夜勤に後退したので彼女は私はこの時間は絶対に居ないはずだと分かっていた、完全に確信犯です、」
「そしてこういう時は何故だか男より女の方が肝が据わってると言うか開き直りが早い、」
「あ~あ、ついにバレちゃったか~、サチあんたが悪いんだよ、あんたが浩二君甘やかすから私にまでしつこく言い寄ってきて、一回だけならいっかって思ってさせてあげたら、これまたこの男のシツコイこと」
「でもサチ安心して、私この男とこの先どうこうなるなんて更々思ってないから、この先の事は二人で考えて、私は関係ないからね」
と言って服を着、険悪な雰囲気の二人を残してそそくさと部屋を出て行った、
暫く険悪なムードの中沈黙が続く二人、すると彼が、堰を切ったように話し出す、
「分かったよ、出ていくよ、出て行きゃいいんだろう?」
「大体お前ウザいだよ、黙って俺のメール見たり、隠れて付け回したり、ストーカー紛いの事して、重くって息が詰まるだよ、」
そりゃあ私も今年で二十七歳結婚適齢期も過ぎ、その焦りで少々行き過ぎた言動はあったと思います、でも、私の周りの仲間はもうすでにほとんどが結婚しているし、子供だって出来ている、焦るのは必然的だったのです、」
「思い起こせば最初から彼の言動は可笑しかった、私の時間的に不規則な看護師ということを利用して、私が仕事でいない間、結構他の女と遊んでたみたい、それに私が仕事で留守の間部屋に女性を招き入れてこれが初めてでは無かったことも後から知りました、」
「あんな男に惚れ振り回され挙句に親友と浮気され、つくづく自分の男を見る目の無さと愚かさを痛感しこちらに参加した次第です、」
と言い終わると自分でも気付かない間に瞳に涙が溢れて零れそうになっていました、
「それじゃあ最後にそこの君お願いします」とタッチさんがどこか暗い影のある感じの青年を指名した、
「こんな事話し合うって聞いてなかったからこのツアーに参加したんだけど…、まっ、皆さんが話したんでしょうがないから僕もお話しします」と言ってその青年は怪訝そうに重い口を開き語り始めた、
「名前はМ(エム)と言います、歳は二十歳です」
ん?確かに似ている、デスノートに出てくるМ(エム)に暗い雰囲気ソックリ、
「実は僕、自分で言うのも恥ずかしいんだけど、父親が開業医ともあって裕福な家庭で育ち、高校も有名進学校に通っていました、」
「僕には二つ下の真人という弟がいて、幼い頃はタッチさん家みたく仲のいい兄弟でした、そして僕が中学三年生で弟が一年生の時、お互いの進路を東大医学部と決めて切磋琢磨し頑張ろうと決意しました、」
「ところが東大医学部、一発合格確実と自他共に思っていた僕が、まさかの不合格」
「もう何もかもが嫌になって地獄、そう暗黒の世界に突き落とされた最悪の気分でした」
「それでも後に続く弟に対して挫けた態度を見せてはいけない、立派な兄の背中を見せて頑張るんだと思い直し、予備校に通いながら一生懸命頑張りましたが二年目の春も僕の所には桜は咲かず、また不合格通知が届けられました」
「子の頃から家庭での居場所が無くなり、今まで尊敬の眼差しで見ていた弟までもが次第に軽蔑の眼差しに代わり、下げずむような態度を取るようになったのです」
「両親は弟にだけ愛情を注ぐようになり、僕の方は見て見ぬ振りで」
「終いに、「今度落ちたら真人ちゃんの下級生になるね」って心無い言葉を母親かが僕に浴びせたのです、」とエム君の話は短く終わった、
エム君が話し終えると間髪入れず皆の元へシュイサイド・ツアーズの主催者からメールが届いた、それにしても何てタイミングの良いメールだろう?私たち覗かれてる?とそんな事を気に留めつつメールに目を通すと第二の指令が書かれてあった、
第二の指令
「皆様ご苦労様です、少し時間オーバーのようでしたが、まあ、予想の範疇でしたので良しとしましょう、これからしばらく自由時間です、皆様しばしのご歓談を…、」って結婚披露宴の司会かよ!
皆の話を聞いて暗く沈みかえったこの車内の雰囲気、よしここは私が何とかせねばとタッチに声を掛ける私、
「ねえ、タッチさんて野球選手でエースだったんだ~、だったら女の子にモテたでしょう?チョットイケメン風だし」
「まあ、そこそこね、」
「でも、笑われるかも知れないけど俺、運命の赤い糸伝説って信じていて、いつかこの人だ思える人にきっと出会えるだってね、もうすぐ死を迎える人間の言うことじゃあ無いけどね」
「何人かの人と付き合ってきたけど、しばらくしたらこの人違うなって」
「取替え引替えしていたんだ~」と私が言うと、アユちゃんも一緒に「ひどーい、最低―っ」そんな会話の中で今まで重い空気に包まれてた車内が一気に明るくなった、そしてタッチさんも優しい笑みを浮かべ笑った、
するとタッチさんが「でも、アユちゃんて、めっちゃ可愛いよ、太ってても、」
「太っている、はよけいですぅ~」
「あっ、ゴメン、ゴメン」
「思春期にはお兄さま、お姉さまには分からない悩みがいっぱ~い、いっぱ~いあるんですぅ~」とアユちゃんの発言に車内の雰囲気は益々明るくなった、
「あっ、ねえ~“おっさん”さん、もう一回娘さんの写真見せて~」つてアユちゃんが言うと、
「エッ、ハイ!」と言って写真を差し出すおっさん、
「可愛い~っ、こっちが真実ちゃんで~こっちが朋実ちゃん?」
「ハイ!今年小学三年生と一年生になります」って言うとおっさんは満面の笑みを浮かべて言った、
「ねえ、会いたいでしょう?」と尋ねるアユちゃんにおっさんは、
「実はここに来る前、子供二人に会えるよう前妻にお願いに行ったんですが、凄い剣幕で」
「会わせる訳無いでしょ、これまであなたがしてきたことよく考えてみてよ、」
「とけんもほろろに断られました」
そう言うとおっさんは溜息とともに大きく肩を落とした、
「そういやあ、サッちゃんさあ俺たち昔どっかで会ってない?」とタッチさんが私に声を掛けた、
「私もさっきから思っていたけど」、野球全然分からないし、ただ生まれが静岡ってくらいしか共通点無いから何かの勘違いかな~って思ってたとこ」
「そっか、そんじゃあ今日の事予感してデジャブで見たってことかな~?」
他愛もない会話は続いた、ただエム君一人を除いて、エム君は僕に話し掛けるなオーラを発し、それに気付いた皆はそっとしとくという方法を取った、
暫く走っていると誰かのおなかの音が「キュルル~」って鳴った、
「あっ、私だ」とサチが呟いた、
「ごめんなさい、こんな時に不謹慎で、」
「仕方ないよ、皆と話して少し気が楽になったのかな~、そういやあ俺も腹減っちゃったな~」
するとアユちゃんも「私も~っ」って同調した、
「あんな所にレストランかな?カフェみたいなものがあるぞ、」
エッ、まさかこんな樹海の真ん中にお店が?それにしてもこのツアー、偶然なのか必然なのか幾度となくグッドタイミング多すぎる、そんな違和感を覚えるサチだった、
するとタッチさんが「皆さんどうします?このまま空腹を堪えて死ぬもよし、お腹も心も十分満たされて死ぬもよし、皆さんにおまかせしま~す、」
「アユ、このまんま空腹の苦しみと死ぬ苦しみを一緒に味会うのは絶対にイや!、やっぱ死ぬ時は美味しいもの鱈腹食べて夢見心地で死にた~い、」
あなたなそう言うと思ってましいた、ハイ、ハイ
「エム君、君はどうする?」というタッチさんの誘いに、
「僕はいいです、お腹すいてないし、それに持ち合わせもそんな無いし、」
「そんなこと言わないでコーヒー一杯だけでも付き合ってよ、どうせあの世までお金持って行け無いし、おごるからさ~」
そう言うタッチさんにエム君は渋々頷き同調した、きっとそれはエム君を車に一人残して行って、私たちの楽しむ雰囲気を見て業を濁したエム君が一人暴走して、私たちが置いてきぼりにならないようにとタッチさんなりの気遣いだったと思う、
「さ、最後の晩餐と洒落込みますか!」
と言ってシュイサイド・ツアーズに参加した五人は食事と他愛もない会話を楽しんだ、
食事を終え車に戻った五人、エンジンを掛けカーナビ、携帯メールを確認したが、まだ指令は送られて来ない、
「ねえ、それにしてもこのツアーって不思議だと思わない?だってここ富士の樹海の満々中でしょ、携帯の電波はちゃんと入るし、カーナビだって、」
「それに指令にしたってタイミング良く入りすぎ、挙句にお腹が空いたらちょうどいい感じでレストランがあるし、」
「一番疑問なのはこのシュイサイド・ツアーズの主催者ってどうやってこれで儲けて
るな?やっているのが裏サイトだから広告収入は無いだろうし」とそう言う私にタッチさんが、
「サッちゃん、それは勘違いしているよ、樹海の真ん中だってちゃんと携帯電話の電波は届くしそれにカーナビの電波もね、ちょっと前まで噂で、携帯、カーナビの電波は届かない、それに方位磁石だって機能しなくなるって噂が流れたけど、そんなのデマさ、まあ、樹海の中を面白おかしく神秘的にさせるため誰かが流したオカルト的なもんだよ、レストランに関してはただの偶然、偶然しかないよ」
「そうかな~?」
「サッちゃん、怖くなった?」
しばらく沈黙が続き、
「いいや、そう言う訳じゃあ無いけど…」
「まあ、どうせどっかの金持ちが道楽で始めた事でしょう、これから死のうとという俺らは、そんな事関係無いでしょう、」
暫く沈黙が続た後、
「ハイ、」って頷く私、
今度は長い沈黙の後、
「これから私たち本当に死ぬんだね」と言う私の問いに、タッチさんが「うん、」とだけ一言呟き返した、
目的地が近付くにつれ皆も死という現実を改めて見つめなおした、
残される家族、両親、祖父母へ心から申し訳ないという思いながらも、それでも死を選んだ五人の決意は岩よりも堅かった、
カーナビが目的地を示した、車を止めると第三の指令が届いた、
第三の指令
皆様本当にご苦労様です、お気付きと思いますがこちらが本日皆様の目的を果たす最終地点、」そう目的地でございます、まずは後ろのトランクに乗っておりますシュイサイドキッドをお確かめください」
皆は一斉に車の後部に回りトランクを開けた、するとそこには、大きめのクーラーボックスみたいな箱が一つ入っていた、中を開けるとガムテープと長さ五メートル程のゴムホース、小さめのタッパーに睡眠薬らしき錠剤二十五粒と500ミリリットルのミネラルウォーターが五本用意されていた、
そして再びメールが来た、
「お確かめいただけたでしょうか?質素ですがこれがあなた方五人を死の旅へと誘うグッズの全てです、それでは早速、作業をする代表者を決め作業を行ってください、」
代表者は満場一致でタッチさんに決まった、
「代表者が決まったら残りの方は元の定位置に戻ってタッパーに入った錠剤を各5粒ずつ服用してください」
最初に睡眠薬を飲んだのはエム君だった、それを見て後に続いたのがおっさんで、」私とアユちゃんは最後まで女の子らしく「せーので飲もう、」と言って後に続きました、
「段々意識が遠くなっていく、誰かが言ってたな~、死ぬ前には過去の記憶が走馬灯のように現れるって、」
「あっ、元カレの浩二?最後はあんな別れになっちゃってけど、楽しかった事もいっぱいあったな~」
「エッ!幼稚園の頃?楽しい思い出何て一つも無いはずなのに、あっ、私またイジメられてる、あっ、ユウ君がまた助けに来てくれた、でもユウ君の顔が見えない…」
するとうっすらとぼやけた顔の輪郭が次第にハッキリと映し出された、
「エッ!タッチさん?今より随分幼い顔立ちだけど、間違いないタッチさんだ!」
「そうっか、ユウ君はタッチさんで、タッチさんはユウ君なんだ!」
「どうりでどっかで見たことあると思った、あの日の優しかったユウ君がタッチさんだったなんて、」
「良かった、ちょっとだけ幸せな気持ちで死ねる…、」
「あっ、もう何も見えなくなった…、」
「さ・よ・な・ら私の人生」
「サッちゃん!サッちゃん!」と叫ぶ声がサチの耳に届く、
サチを揺さぶりながら叫ぶ男の声が、
「起きて!」
サチが薄目を開けると目の前に成長したユウ君がいた、
「ユウ君?」
「そうだよ俺ユウ、勇だよ!」
「サッちゃんをまた助けに来たんだ」
今度は大きく目を見開きよく見るとそこにはタッチさん?いや、大きく立派に成長したユウ君の姿があった、
「ユウ君、会いたかった、」
「俺もだよサッちゃん、俺もずーと君の事思ってたんだ、」
そう聞き終わると再び深い眠りに落ちたサチだった、
次に目が覚めたのは集合場所の新富士駅の駐車場だった、タッチさん、いいえユウ君は睡眠薬を飲む寸前で私の事を思い出し、不思議な縁を感じ、ユウ君のもっとうである赤い糸の伝説を信じることで自殺を思いとどまったらしい、当の私もずっと気に掛けていた」ユウ君が頼りになる逞しい大人に成長してたなんて、赤い糸で結ばれた二人、そりゃあ付き合うしかないでしょう、
それはそうとあとの三人は?
「本当は、本当は、メッチャクチャ怖かったの~、私一人死ぬのは嫌~ってとっても言える状況じゃあ無かったし~、これからダイエット頑張って皆を見返すぐらいのいい女になってみせま~す」って大粒の涙を浮かべながら叫ぶアユちゃん、」
あとおっさんさんは?
「一度死んだ命です、死んだ気になりゃああとは何も怖いもの無しです、これからは死に物狂いで働いて借金返済して、娘たちに恥ずかしくないよう頑張ります、」
エム君はと言うと、相変わらず無言でこちらを恨めしそうに睨んでいたような気がします。」
それから五人皆が幸せになるように努力するということを約束して別れました、
それぞれの道へ旅立って行ったのです。
それから二年後、2016年10月13日
私こと臼井幸と杉浦勇は、幸せな結婚に向けて同棲生活真っ最中で…?また同じ過ち繰り返すつもりか~ってお叱りの声が聞こえそうですが、いえいえ、先日、産婦人科に行って診察してもらったら何と妊娠三か月目と判明、その後私の両親に結婚の挨拶「サチさんを僕に下さい」って言ってくれた勇君、「いや~勇君カッコエエ、男前!」また再び惚れ直した幸なのでした~(チャンチャン)「幸せ続行中でーす」
「ねえ、サッちゃん、今日天気いいからさどっかドライブ行かない?」
「エッ、どこ連れてってくれるの~?」
あなたとならたとえ地の果てまでもお供しま~す、う~ん、めっちゃ幸せ!と心で噛みしめるサチ、
それから勇君は私を胎教にもいいからと言って、空気の綺麗な休耕田にピンクや赤のコスモスが咲き誇る穴場スポット、岡部町殿地区のコスモス畑に連れてってくれた、
休耕田内に組まれた櫓から眼下に広がるコスモスを見ながら勇くんが、
「サッちゃん、あんな事あったけど幸せになろうね、俺がずっと守って見せるから」
その言葉に「ホントに、し・あ・わ・せ……」って呟くサチ、
帰りの車中、時刻は午後八時頃、
「ねえ、サッちゃん喉乾かない?」
何でも私の許しを請う姿勢、これから夫となる君、百点?イヤ、二百点満点だ~」
「そうね、どっか近くのコンビニに寄ろっか、」
そう言って二人は次のコンビニで車を止め店内へ入るとそこに、
「あっ!」
「あっ!」
「あっ!」
と私と勇君、そしてもう一人の驚きの声がシンクロした、
「タッチさんにサッちゃんさん?」
そういうあなたは「おっさん?」
「お久しぶりです、ここで何を?」という勇君の問いに、
「ここで何をって、ここコンビニでしょ、買い物に決まってんじゃん、」
「あっ、そうか、」
「ところでおっさんは?」
「私ですか、見ての通りコンビニの店員です、」
「そりゃあ~見りゃあ分かるけど、」
「勘違いしないで下さいね、ちゃんと昼間は今まで通り営業マンもやっています、」
じゃあ、昼も夜も働いているんだ~」と私が聞くと、
「はい、」
「大変だね~」
「いいえ、こんなモン娘に会える喜びに比べれば何てことないです、」
「それじゃあ、娘さんとちゃんと会えているんだ~、よかったね」
「後に並んでいる方こちらにどうぞ~」と言っておっさんを睨む若い店員、気付くと私たちの後ろにレジに並ぶお客さんが三人がそれずれ怪訝な目で私たちを見ていた、
「どうもすみません」と会釈する私、
すると勇君がおっさんの名札を見て「おっさんて“奥田康夫”(おくだやすお)って言うんだ、だから“おっさん”ね、」
何ややっぱりそのまんまやないか~い!と心で呟くサチだった、
「俺、杉浦湧ね、そしてこっちは…、」
「臼井幸で~す」
「もうすぐ杉浦幸になるけどね~」って、勇が言うとうっすら頬を赤らめるサチだった、
「そうですか、それはおめでとうございます、はい結婚祝い、こんなもので申し訳ないですが」と言って手渡してくれたのは缶コーヒーとオレンジジュース、
「何で違うもの」
「私だって二人の娘の父親です、見ればわかりますよ、二重のおめでたですね、本当におめでとうございます、」って目に涙を潤ませながら言ってくれた、
「ゴホン、ゴホン」と咳払いをする他の若い店員、
「すみません、もう少しだけ」と言って勇君は奥田に尋ねた、
「ところでおっさん、いや奥田さん、あと二人の事何か知っている?」
「今までどおりおっさんでいいです、知り合いからもそう呼ばれていますし、あっ、そうそう二人の事ね、エム君の事はその後まったくもって情報は入ってこないし全く分かりません、残念ながら、でもアユちゃんの事なら分かりますよ、そうだ、明日午後八時にやっているミュージック・ミュージックっていう歌番組見て下さい、それを見れば今のアユちゃんの事すべてわかると思います、私はその時間もこのバイト入っていてリアルタイムには見られないけどちゃんと留守番録画してますんで後でじっくり見ます、ホント驚きですよ、」
「分かった、それを見たらアユちゃんの事分かるんだね、必ず見るよ」
と言ってコンビニを後にする二人におっさんこと奥田さんは笑顔で私たちが見えなくなるまで手を振って見送ってくれた、
「おっさん、これからも頑張ってね~」と私と勇君は大きな声で叫び別れを告げた、
「おっさん元気でよかったね」
「そうだね、ホントよかった」
少しの沈黙の後、
「ねえ、よくさあ頑張っている人に頑張って下さいて言うと失礼だって言う人いるじゃあない、」
「うん」
「何で頑張って欲しい人に頑張れって応援するのが失礼なの?」
「うん、確かに」
「私は、もっと言いたい勇君にもおっさんにも、そしてアユちゃんやエム君にも」
「ヨシ!私これから応援する!」
「フレーフレー勇君♪フレーフレーおっさん♪フレーフレーアユちゃん♪フレーフレーエム君♪」
「止めなよ恥ずかしいよ」
「あ~スッキリした」
「それにしてもサッちゃんてこんなおしゃべりだったっけ?」
そういえば私最近心の声が自然に出せるようになった気がする、それもこれも皆勇君優しさのお陰?そばにいて飾らない私を造ってくれるからだ、
「私やっぱり勇君が好き、だーい好き!」
「ヤホー!運命の赤い糸バンザーイ!」
2015年4月15日
シュイサイドのツアーに参加した半年後、おっさんこと奥田康夫は通常の生活に戻っていた、消費者金融と親類縁者に借りた借金返済のため、会社の業務を終えた後、夜の七時から深夜の一時までコンビニで働き出した、休日の土日にもシフトを組み込み休みなく働いた、もちろんお金のためではあるが、もう一つパチンコの魔の誘惑に負けないよう気を紛らわすというのも大きな要因でもあった、
忙しく毎日を過ごしていた奥田の携帯電話にある日、見覚えのある番号から着信が、それは前妻の和実の番号であった、あんなに激怒していた和実の方から連絡があるなんて、まさか娘たち何かあった?と不安な気持ちを抑え電話に出ると、
「ねえパパ、誰だか解る?」
それは今年10歳小学4年生になる長女真実の声だった、
「そりゃあ解るよ、真実ちゃんだろう、」
「そうだよ、真実、」
「それより大丈夫ママは?」
と言うのも、あの事があって前妻の和実から、こちらから会うことはもちろん電話を掛けることさえも禁じられていたからだ、
「あのね、パパ今度の4月18日、何の日か解ってる?」
「もちろん解っているよ、真実ちゃんの誕生日だろ、」
忘れた事などなかった、平成17年4月18日が真実、平成19年7月3日が次女の朋実の誕生日だ、離れて暮らしてもこの日には欠かさずプレゼントを宅配で送っていたのだ、
「ちょっと待って、今ママに変わるね、」
「えっ!ママに?ちょっと待って」と言う間に、
「モシモシあなた、元気?」
「はい、」何時頃からだっだろうか和実と会話をすると緊張してしまう、借金した後ろめたさから?いいやもっと前、そうだ結婚した当初からこんな感じだったろう、
「最近ギャンブルも辞めて頑張ってるそうじゃない、」
「ええ、まあ、」
「あのね、真実と朋実があなたにどうしても会いたいんだって、」
「えっ、いいの?」
「仕方ないじゃない、あなたと私は他人でも、娘たちとは血の繋がる親子なんだから、それに気持ちを改めて頑張っていると聞けば、私も鬼じゃないんだから、」
「本当にいの?」
「でも勘違いしないでね、寄り戻す気はさらさら無いから、もちろん私は不参加ね、」
そっちの方がこちらも助かると思いながらも、
「そうか、残念だが仕方ない、」と返す奥田だった、
すると「朋ちゃんにも変わって」と言う声が、そうだ次女の朋美実が和実に変わるようにせがんでいるのだ、
「もしもしパパ、私朋ちゃんだよ、パパに早く会いたいよう、」
「パパもだよ、」と答えた奥田は、久々に娘たちと会話できた喜びを心から噛み締めていた、
「それじゃあ、18日夕方迎えに来て、いい?」
「はい、」
と答え電話を切った。
そして2015年4月18日長女真実の誕生日当日、以前妻の和実と娘二人と暮らしていたマンションに真実と朋実を迎えに行った、和実は快く二人を送り出してくれた、それから近所のファミレスで食事をしなだら、学校であった事や友達の事、先生の事、好きな男の子の事など他愛もない話をする娘たちをただ微笑みながら聞いた、楽しい時間はあっという間に過ぎて別れの時、送り届けたマンションの前で「じゃあ、パパまたね」と真実と朋実が声を合わせて言った、
そんな二人の笑顔を見て奥田は、涙が出そうになった、この涙はけして別れが悲しいからでは無く、この二人の娘のおかげで再び生きる糧ができた、この子たちをもう二度と苦しませてはいけないと心に誓う涙だった。
2016年10月6日午、後八時、勇と同棲する幸の部屋、
「ねえ、サッちゃんそろそろ始まるよ」台所で洗い物をする幸を促す勇、
「は~い、」
「ねえ、勇君一応録画しといて、」
「ハイハイ、分かっていますよ、準備万端と」
「それにしてもアユちゃん何処で出てくるのかな~?歌番組って番組スタッフだったらテレビ映る訳ないし、観客性?そひたら一瞬でも目を離せないね」
「見れば分かるんじゃあない?おっさんもそう言っていたし」
「そうね、分かった、じゃあ」見よ、見よ」
「チャラチャチャ~ン♪チャラチャチャ~ン♪」と番組のオープニング曲が始まった、
サングラスを掛けたお馴染みの司会者が語りだす、
「さあ、今回は今をときめくアイドルグループAKA48特集―!」
「まずはセンターの内村歩美ちゃんこと“あゆゆ”!」
「この子知ってる、“あゆゆ”ってめっちゃ可愛いんだよね~」
「ん?“あゆゆ”?」
するとサングラスを掛けた司会者が「今日は皆の事掘り下げて聞いていいって上からお許しがあったもんで。何でも聞いちゃうけど本当にいいのかな~?」
「ハーイ、何でも話しちゃいますよ~」ってあゆゆが代表して答える、
「ところであゆゆは高校時代ちょっとおデブちゃんだったってホント?」
「はーい、本当でーす、ジャーン!」と言って自ら昔の写真をカメラの前に露わにするあゆゆ、
「あっ、あゆちゃん!?」テレビ画面に釘付けで驚愕し同時に声を上げる幸と勇、
「ありゃ~こりゃ~あ酷いね~」と想像以上のギャップに驚きを隠せず唖然とするグラサンの司会者、
「ハイ、この頃身長152センチで体重85キロありました~」
「これがほんの1年前?」
「ハイ、そーで~す」
「またどうしてここまで太ったの?」というグラサン司会者の問いにあゆゆは、
「私、おじいちゃん、おばあちゃんっ子でめちゃくちゃ可愛いがられていて、何でも欲しいものは買って貰えるし~、昔の人は良く食べて太っている子が健康的だって思ってて、いっぱい、いっぱ~い美味しい物食べて、こんなになっちゃいました」と満面の笑顔で答えるあゆゆ、
「何でも半年で30キロ瘦せたって噂あるけどホント?」
「ハイ、ホントで~す」
「切掛けは?切掛けは何だったの?」と迫るグラサン司会者、
「それは~、あることが切っ掛けで~、あっ!」あゆゆは慌てて手で口を押えた、
「そのある事とは絶対に内緒です」
「それは絶対?絶対に内緒?」
「ハイ、トップシークレットで~す」(笑い)
「じゃあ~聞かな~い」と気を利かすグラサン司会者、
「ただ、その事が切っ掛けで掛け替えのない人達に出会い、とってもとっても勇気を貰ったんです」
「それからはおじいちゃん、おばあちゃんの甘い誘惑にも負けず半年でこんなになっちゃいました!」
「見て、見て、お腹の肉割れ~っと、そして二の腕の振袖―っ!」
とあゆゆは戯けて見せて、はち切れんばかりの笑顔で答えた、
「今のあゆゆを見て現在太ってる女の子も、結構勇気貰ったんじゃあないかな~、それでは歌っていただきましょう、dreamで『夢 My dream』」
「夢は~願い続けるときっと叶うはず~♪だから歩み続けるんだ自分の道を~♪明日はきっと青空で♪輝く太陽の日を体中に浴びて輝くの♪……、」
テレビの前で歌を聴きながら大粒の涙を流す幸と目を赤く充血させる勇、
「アユちゃん強くなったね~、エ~ン、それにめちゃくちゃ可愛くなって~お姉ちゃん嬉しいよ~エ~ン」
アユの人間としての成長を見届けた幸はそのことを心から歓喜した、
2015年3月20日
10月11日のシュイサイド・ツアーズから帰ったアユこと内村歩美は、日常生活に戻っていた、一度は死を決意し参加したシュイサイド・ツアーで掛け替えのない仲間と出会い、生命の大切さを心から感じた歩美は、自分の意識改革に努めた、それはいじめられて休みがちになっていた学校にも毎日通い、今まで以上に明るく振舞った、そして祖父母の甘い誘惑にも断る勇気を持ち、絶えず与えられる食事も断り、自分自身で作ったカロリー計算されたメニューを実行して、何と半年で体重85キロあった体重を55キロと30キロのダイエットに成功したのである、
そんなアユは、ダイエットと同時に歌手になるためのオーデションを受けだした、それは以前から大好きな歌とダンスをやりたかったのと、小学三年生の時から趣味で書き留めていた自ら作詞作曲した曲を世に出したかったのと、自分自身に自信を持つためにどうしても叶えたい夢となったのだ、
そしてこの日歩美の運命を大きく変えるアイドルオーデションが行われた、
アイドルを探せ!オーデション会場
ここは新宿にあるオフィスビルの一室、芸能事務所が各社協賛して、新規立ち上げアイドルユニットを作るという企画の元開催されたオーデションである、日本全国から寄せられたアイドル志願の応募の中から各地域ごとに100人を選出し、第一審査で30人に絞られ最終審査で20人が選ばれアイドルユニットが誕生するという流れで結構大々的なオーデションなのである、今日はその第一審査の日、歩美は緊張を隠せずにいた、
「じゃあ、次の方、お入りください」
「はーい、」と会場のドアを開け、持ち前の明るさで元気いっぱいで答える歩美、そこにはメガネをかけた小太りのプロデーサーらしき人を中心に、その他5人ほどの芸能事務所の代表者らしき人たちが長テーブルを前にしてに座っていた、
「それでは自己紹介お願いします」
「エントリーナンバー29番、東京都町田から来ました、内村歩美です」
「内村歩美さんだっけ、君はプロフィール見るとシンガーソングライター希望だけど、今日はアイドルのオーデションなんだけど大丈夫?」
「ハイ、歌も大好きだし、ダンスも大大大好きですから、このオーデション絶対合格するんだって意気込みでやって参りなした、ハイ!」
「内村歩美さん?あなたの第一印象では随分自信に満ち溢れていますがそれはどこから?」
「自信なんて全くないです、ただ、自分の人生を変えるため必死なだけです、
「まずは、このオーデションを受ける切っ掛けは?志望動機何かあったら教えてよ」
「実は私先日卒業した女子高で太っていた体型のせいで酷いイジメにあっていました、辛くて本当に死のうと何度も悩みました、そんな時ある人たちに出会い勇気をもらい、そしてそれから前向きに生きようと決めました、これからは何でもチャレンジしようと思いこのオーデション参加した次第です」
「そっか、このオーデションに参加した理由はイジメっ子達へのリベンジ?見返してやろう気持ちから?」
「いえ、そんな気持ちは全然ありません、ただ、私のように現在イジメられてる子たちに一歩踏み出す勇気があれば変われることと、夢は願い続ければ必ず叶うって伝えたくて、」
「ところで内村さん、あなたご自身で作詞作曲された楽曲何曲ぐらい書き留めてるの?」
「ハイ、そうですね~、小三の頃から初めて100曲位はあると思います、」
「じゃあ、自信作アカペラで一曲披露してみてよ、」
「ハイ、え~と、じゃあ行きます、『夢 My dream』と言う曲です、」
「夢は~願い続けるときっと叶うはず~♪だから歩み続けるんだ自分の道を~♪明日はきっと青空で♪輝く太陽の日を体中に浴びて輝くの♪……、」歩美の歌う曲がオーデション会場に響き渡った、その小さな体から発せられる声量と楽曲の素晴らしさに審査員達は度肝を抜かれた表情を浮かべた、
「いいよ、内村さん、今の君にピッタリの曲だね~
「ありがとうございます」
「それでは、結果は後日に、」と一次審査は終わった、
そして後日、歩美の元へ一次審査合格を知らせる通知が届た、県代表の30人の中に選ばれたのだ、次の二次審査は、歌唱審査とダンス審査で5人に絞られる、そして最終審査全国大会でアイドルユニット20人が選出される、なんと歩美はこの最終審査まで勝ち残りアイドルとしてデビューを果たすことになるのだった、
2016年11月5日
そして結婚間近を迎えたある日のこと、切掛けは私でした、
「ねえ、勇君一つ気になって頭の中に痼のように残っているものがあるの」
「シュイサイド・ツアーズのこと?」
「エッ、何で分かったの?やっぱり私たち以心伝心だね」(テヘ)
「その事だけどもう気にしちゃいけない、もう忘れよう」
「だってエム君の安否だって気になるし…、」
「実はね、サッちゃんに内緒でその後一度だけサイトを覗いた事があるんだ」
「エッ、ホント?」
「うん、途中まで見て怖くなって止めちゃったけど」
「何があったの?」
「サッちゃんは知らない方がいい、絶対に知らない方が…」
「でも…。」
「実はね、あの時勇君て頼りがいあるし、紳士的な態度だったからもしかしてこの人、シュイサイド・ツアーズのスタッフ?って少し疑っていたの、だから疑ったままで結婚するって正直不安でたまらないの、だからお願い、」
私は、どうしても謎を知りたいがため嘘を付いてしまった、本当は誰よりも信頼してるし、誰よりも愛している、
「分かった、じゃあこれだけは約束して、これから見る全ての事、絶対に口外しないって事」
「うん、分かった」
すると勇君は押入れの奥から一台のノートパソコンを取り出した、
「パソコン?スマホでは見れないの?」
「ああ、パソコンではスマホサイトでは出て来ない秘密の入り口があったんだ」
シュイサイド・ツアーズのサイトにログインで一番下へスクロールするとそこに『特別有料会員様』というバナーがあった、確かにこのバナーはスマホサイトには無かったはず、
「さあ、入るよ」と勇君がバナーをクリックして次の画面に入るとそこには、四分割されたモニターとその下に幾つもの数字が乱列していた、右上には秒単位で動いている数字には今現在の時刻を刻んでいた、
「何?この画面、車の中?」そう言う幸に勇が、
「もう気付いた?あの日俺らがやっていたシュイサイド・ツアーズが、今現在も何処かでやっていて、その動画がこの『特別有料会員』のページではリアルタイムで見られるって仕組みみたいなんだ、」
「これで謎が解けたわ、そういう事だったのね」
ねえ、勇君この下のBETって書いてあるとこの数字何?」
そこには五つに分かれたカウンターの数字がランダムに上下している仕組みになっているようだ、
「たぶんこの五人の中で何人の人が生き残るか、何人の人が死ぬか『特別有料会員』の人が賭けている数字だと思う」
「酷い、酷すぎる、人の生死をギャンブルの道具に使うなんて…、ねえ、勇君これは?」とサチはアーカイブと獲得賞金一覧と書いてあるバナーを見つけ勇に問いただした、
「あっ、それ気付いちゃった?これだけはサッちゃんには気付いてほしくなかったけどな~、そこには、過去に行われたシュイサイド・ツアーズの映像が保存されて見やれるようになっているはず、そしてそのツアーの獲得賞金額とね」
「過去の映像ってつまり、私たちの動画もここに残っているって事よね」
「たぶん、そうだね」
ここまで来たら私の好奇心は誰にも抑え付けることはできない、
「ヨシ、次のページに進もう」
躊躇する勇を制し、勝手に暴走する幸、次のページに入るとツアーが行われた年代と月日がプルダウンメニューで選べるようになっていた、
「二年前だから2014年で、あの日は~?」
「10月11日だよ」て勇君、
そこに映ったのは先ほど同様四分割に分かれたモニター画面だった、早速プレイボタンを押し動画が映し出された、
「あっ、懐かしい、この日勇君と二十二年ぶりに再会したんだよね~、赤い糸伝説の始まり始まり~」と陽気に振る舞う幸を尻目に勇は暗い表情を浮かべていた、
最初に出会った新富士駅の駐車場から動画が始まり、車内でのそれぞれの自己紹介シーンが流れ始めた、それも終わり何気ない雑談シーンもしっかり映っていた、として次の場面には、
「あっ、ここ睡眠薬を飲むとこ、勇君ちゃんとホース通してガムテープウインドウに貼っている、ここまではしっかりやってたんだね、」
「当たり前だろ、こん時は死ぬ気満々だったんだから、」
「ん?、今、勇君の表情が変わった、この時ね私があの時のいじめられてた少女だって気付いたの」
「うん、」
「あっ、勇くんが私の元に、」
「サッちゃん、サッちゃん、起きて」
「ユ、ユウ君?」
「そうだよ俺、ユウだよ、サッちゃん俺また守りに来たんだ」
「タッチさん!いいやユウ君!会いたかったよー!」
「俺もだよサッちゃん」と言って二人は唇を合わせた、
「イヤ~、眠れる森の美女と王子様みたい~、カッコイイぞ勇くん」幸は顔を赤らめながら今現在の幸せをしみじみと感じた、
「ここからは俺以外皆眠っているシーンが続くからちょっと飛ばしてっと…」
「ここは、新富士駅?そっか、ここで別れのシーンてことか」
「それじゃあ皆さん、お元気で」と言って再びこんな馬鹿げた事をしないということでそれぞれの道に別れたはずだった、
「多分これがラストシーンでしょう?ん?でもこの動画大分余ってない?」と言う幸の問いに焦る優、
とその時「キュルキュルー、ブーン、ブーン」とエンジンを駆ける音とエンジン音が聞こえた、
「あ、車が走り出した、なになに?いったい誰?」
「あっ、エム君!どうしてエム君が?」
「俺もここまで見て後怖くなって消してしまったんだ、だからこの後の結末は解らない、けど…」
「けど、ってどういうこと勇くん」
「想像は付く」
「…?」
「サッちゃんまだ気付いてない?動画の下の番号の羅列を見て」
そこには当選ナンバー「1」と獲得賞金「5963万円」と記されていた、」
「何これ、全然気付かなかった、」
「そう、彼エム君は、俺たちと別れ一人で何らかの形で死を遂げたんだ、そこに記された当選ナンバー「1」が動かぬ証拠っていうやつ」
「サッちゃんどうする?最後まで見る?」
「ん~、まだまだ分かんない、きっと生きてるよエム君!」
「分かったよ、俺もサッちゃんと一緒なら恐怖心も薄れるし、最後まで付き合うよ」
「きっと生きているよ、いや、絶対に生きてるよエム君!」と自身に言い聞かせ動画を再生させるサチ、
「サッちゃん動画ちょっと飛ばすね」「うん」
動画のシーンはあの日の目的地、富士の樹海に飛んだ、
「あっ、あの場所」
すると「バタン」と車のドアを閉める音がした、ヘッドライトは点けっぱなしで周りの光景は微かだが見えた、そこにはロープと脚立を持ったエム君が立っていた、
「ロープと脚立?あんなもんあった?」
「うん、脚立はトランクの奥に立てかけてあったのは気付いていたんだけど、ロープはきっとトランクのシートの下にあったんだろう」
ほどなくして「うっ!」という声にならない声がした後、車のヘッドライトの微かな明かりに照らさたエムくんの首吊り死体が映し出された、
「アーン、アーン!エム君が、エム君が死んじゃった!」と泣き崩れるサチにそっと寄り添う優、
「あっ、警察、警察に電話しなきゃ」と携帯電話を手にしたサチに
「サッちゃん、最初に約束したろ、絶対に口外しないって」
「だって、」
「サッちゃんよく聞いて、前にも言ったけどこのシュイサイド・ツアーズってとてつもなく大きな裏の組織がやっていると思うんだ、そうでなきゃこんなやばいサイト今現在も運営できているとは思えない」
「……。」黙り込むサチ、
「じゃあ勇君はいいの?子供が生まれて何らかの事件に巻き込まれ死んじゃって、愛する子供の亡骸にも会えなくても、私はそんなのイヤだ、エム君の両親が可哀想過ぎるよ~」
「あ~あ、サッちゃんには敵わないな~、これから先思いやられるよ、かかあ天下間違いなしだ」
「ありがとう、勇くん」
再び携帯を手にして電話を掛けるサチ、
「もしもし、警察ですか?実は…」
事情を説明した後、翌日静岡中央警察署に呼ばれた二人、
2016年10月4日
別々の取調室に案内され、事情聴取は一人一人個別で行われるようだ、事務用のテーブルの奥に座るように促され初めてのこういうシチュエーションに緊張を隠せず居ると、四十代中半だろうか、一人の男性が取調室に入ってきた、
「今日はお忙しい中御足労頂きありがとうございます、私はこういうもので」と言って私の目の前に座り名刺を差し出した、そこには警部、磯村政義と明記されていた、
「こちらの方もネットの動画を確認して、大まかなところは分かりましたが、どうしてこう言う経緯に至ったか詳しいことをお聞きしますが、答えにくい事もお有りでしょうがどうか捜査にご協力ください」と穏やかな表情で語りだす磯村警部、
「はい、全てお話します、それでエム君は今……」
「エム君……?ああ、あの青年ですね、」
「現場検証の所持品の免許証を確認して名前は森川健人 二十歳だとそこまでは分かっています、」
そこでエム君の本名が森川健人だったと初めて知った、
「そうですか、森川健人は皆にエムと呼ばれてたんですね、」
「ところでそのエム君と貴方、臼井幸さん以外に後三人居られたそうですが、その方達のお名前は解りますか?」
「はい、杉浦勇と奥田…?そうだ奥田康夫さん、あと……。」
サチはアユちゃんの名前を公表することを躊躇した、それは、今や芸能界でアイドルスターとして大活躍中の彼女が過去に自殺を画策していたと世に知れたら、せっかく頑張っている彼女が世間からどんな酷いバッシングを受けるかも知れないと考えたからだ、
「あと一人のお名前は?」
「お気持ちは察しますが、いずれは解ることです、どうかご協力お願いします」
意を決したサチは「はい、すみません、もう一人は、今アイドルとして活躍している内村歩美さんです、」
「そうですか」と磯村警部は別に驚きもしない様子で平然と答えた、きっと動画を確認した時点で、あの時のメンバーの所在は解っていたはず、それならわざわざ私に聞かなくてもと思ったが、警察の事情聴取ってそういうものなのだと思った、
「この五人の皆さんは以前からお知り合いだったのでしょうか?」
「いいえ、この日初めて会ったばかりの人達です」
「さてさて、この五人が何故行動を共にすることに?」
それからサチは、三時間にわたる事情聴取でシュイサイド・ツアーズこと、2014年10月11日の事を全て包み隠さず告げた、そして最後に磯村警部から、
「臼井さん貴方はまだ若い、まだまだこれから苦しい事や不条理でやりきれない事も沢山あるかもしれません、しかし生きていればそれ以上に楽しいことや生きがいも生まれてきます、それに何より残される家族のお気持ちを貴方は考えたことありますか?もし貴方があの時お亡くなりになっていたら、残されたご両親はどんなにお嘆きになるか、これからはどうぞ命だけは大切にしてくださいね」
まったくその通りである、あの頃の私は、自分の事しか考えられない愚か者でした、自分の命は自分だけのものではない、命をかけて産んでくれたお母さん、ここまで育ててくれたお父さん、運命の再会を果たした勇くん、そして今度生まれてくるこの生命、そんな当たり前のこと何故気付かなかったのだろう私、磯村警部の心ある優しい一言に涙を浮かべながら取調室を後にすると、小池雅史警部補という刑事さんから事情聴取を受けていた勇くんが一足先に終えてベンチに座って私を待っていてくれた、
でも本当にこれで良かったのだろうか?
警察を後にしようとした二人に、「サッちゃんさーん!タッチさーん!」と声を掛ける見覚えある、満面の笑を浮かべた今ではスターアイドル「あゆゆ」となった「アユ」と「おっさん」こと「奥田」の懐かしい二人の姿があった、
「久しぶり~会いたかったよ~」って駆け寄るあゆゆ、その横で「本当、お二人共お元気でよかった」と微笑む奥田、
「アユちゃんゴメンネ、私の一言で芸能界震撼させちゃって」
「何言っているんですか、私もメッチャ、エムさんの事、心配してたいし、それにこうしてまたサッちゃんやタッチさん、おっさんさんに再会する事できたんですもの、全然気にすることないです~」
「でもって、今までダイエットアイドルの“ダイドル”に元自殺志願者の“ジサドル”?“殺ドル”?て異名が付いてハクが付いたってもんですよ~、これでダメになっちゃう芸能界ならこっちから辞めてやりますよ、ダンナ!」
アユちゃんは相変わらずの満面の笑で答えてくれた、コントこの子って可愛いって思い直すサチ、
「アユちゃんホント強くなったね、それにこんなに可愛くなっちゃって…、お姉さん嬉し~い(エ~ん 泣き笑い)」
「おっさん、イヤ奥田さは大丈夫?」という勇くんの問いに、
「おっさんでいいです、おっさんで、私の方はもう全然、37年も生きてりゃあ一度や二度位、死にたいって思う事もありますから、会社もコンビニ店主もそんな風に理解してくれると思います、それに娘たちに会える喜びに比べりゃあこんな事大したことじゃあありません」
「ああ、また自慢してるよ(笑い)おっさんも幸せなんだね」
「ハイ」
そう会話を終えると、私たち二人と入れ替わりに奥田さんとアユちゃんは事情聴取に入って行った、
自宅に戻ったサチと勇、
「ゴメンね勇くんこんな大変な事になるなんて…」
「思ってなかった?」
「うん…」
「大丈夫、それがサッちゃんの生きる道なんだろう?」
「ハイ!」と言って勇の背中に抱き付き、これがホントの幸せなんだと噛み締めるサチ、
「でも、本当にこの後何にも無きゃいいけど…」と不安を口にする勇、
「何が?」
「ううん、何でもない」
すると付けたままにしていたテレビから、あるニュースに目を奪われる二人、
「昨日未明、山梨県富士の樹海の山林で東京都品川区在住の森川健人二十歳の首吊り自殺と思われる白骨遺体が発見されました、」
「この森川健人、二年前2014年10月に東京都品川区で起こった、森川健三さん当時五六歳とその妻、君子さん当時五五歳と次男真人さん当時十八歳を金属バットで殴打惨殺した容疑で重要参考人として行方を捜査していたところでした、死体には外傷は無くほぼ自殺と間違いないと思われます」
「エーッ!?」とほぼ同時に驚愕の声を上げるサチと勇、
そう、あの日エム君こと森川健人君が語った身の上話には続きがあったのです、2014年10月11日のあの日の二日前、彼は両親と弟を金属バットで殴打し殺害後、のシュイサイド・ツアーズの情報を潜伏中のネットカフェで知り参加したという経緯だったのです、
2014年10月9日
その日、健人は予備校の授業を終え、何時もの様に自分の部屋に籠り勉強していた、二年前東大医学部の不合格通知を受けてから友達との連絡も断ち、予備校に通う以外はほとんど部屋から出ず、家族との会話も無くなり、食事も部屋で食べる様になり、トイレ以外は部屋を出る事はない、いわゆる引き籠もり状態だ、二年前の受験まで健人は自他共に認める秀才でまさか受験に失敗するとは夢にも思っていなかったのだ、人生で初めての挫折だった、二年目の東大医学部の受験を向かえようとした時、予備校講師から一ランク下の大学を滑り止めに受けるように提案された、しかし健人にはその選択は有り得なかった、何故なら開業医をしている父親健三もまた東大医学部出身で、幼い頃から「健人もお父さんみたいに東大医学部を出て立派なお医者さんになるんだよ」としつこい言われていたことと、何より二歳離れた弟、真人と自身が中学三年生、弟が中学一年生の時、「これからお互いに東大医学部を目指して頑張ろう」と言う健人に「うん、分かったよ兄ちゃん」と約束を交わし、それから真人は健人の背中を追うように頑張っていた、そんな弟に簡単に目標を変える恥ずかしい姿を見せたくないのだ、まして今年その弟が東大医学部受験に一発合格したら、同学年でしかもランク下の大学へ行くなんてとても恥ずかしくて我慢できない、健人は確かに意地になっていた、
何時の頃だろうか、そうだ二度目の受験失敗したあたりから両親の健人に対しての態度が変わった、父の健三はたまに顔を見ても何も話しかけないし、母の君子は健人を腫れ物に触るかのように接し、その反面弟の真人に全ての愛情を注ぐようになったのだ、それから健人は意固地になり引篭りが激しくなった、
そんな日の午後8時を過ぎた頃、健人はトイレに行くため二階の自分の部屋から一階降りた、トイレを済ませてリビングの前を通りかかると両親と弟の真人とが楽しく笑い会話する声が聞こえた、何時もならそのまま通り過ぎやり過ごすのだが何故だかその時は気になり聞き耳を立てた、
「ねえ、兄貴は何してんの?」と真人の声がした、ついこの前まで自分の事、兄ちゃんと呼んでたいのに今は兄貴か、そういえば真人も受験失敗したあたりから、その前は尊敬の眼差しだったのに軽蔑の眼差しに変わったな~と思いつつ会話に聞き耳を立てる健人、
「さあね、二階で勉強でもしてるんじゃあない」と母君子の声がした、
「兄貴、今度は大丈夫かな~?俺も次、同じ東大医学部受けるし、もし又落ちるて事になったら……」
「そうね~、今度落ちたら真人ちゃんの下級生になるね」と言う母君子の言葉に横で聞いてた父、健三は「ハハハ」と大きな声で笑った、
それを聞いた健人は頭の中で何かが「プッチン」と切れた、それから健人は足音を忍ばせて自分の部屋に戻り小学生の頃に健三から買って貰った金属バットを手に取り一回のリビングに向かった、ドアを開け健人の姿を見た三人は顔面蒼白となった、
「何をする健人、止めないか!」と叫ぶ健三の脳天に金属バットを振り下ろした、
「ごめんなさい!ごめんなさい!」と許しを請う君子の顔面にヒットさせた、
「兄ちゃん、何を血迷っているんだよ!」と叫ぶ真人にも頭にもバットで殴打した、
一発づつ喰らった三人は激痛でのたうち回ってる中、健人は金属バットを振り下ろし続けた、ふと我に返り呆然と立ちすくみ辺りを見ると自分以外の家族三人の血まみれになった姿があった……。
2016年10月4日
「うそ~、嘘でしょ」
「そういえば彼だけ俺らと何時も一線を置いて振舞ってたっけ、それに何か切羽詰ってた感じだったし、」
「そりゃあそうだったけど…、ダメ、いっぺんに色んな事があり過ぎて、頭クラクラしちゃう」
その時、「ガチャーン!」と窓ガラスの割れる音がした、
「キャー!」とサチの悲鳴が響き渡る、「バタバタ!」
「うっ!」
翌日朝のニュース、
「七時のニュースです、昨夜未明、静岡県静岡市のマンションで同棲中だったの男女二人の刺殺死体が発見されました、男性の遺体は杉浦勇さん二九歳、女性は臼井幸さん二九歳、悲鳴を聞いて駆け付けた管理人の田中均さん話によるとすでに犯人の姿は無く、二人が互いに手と手を取り合った状態ですでに心肺停止の状態で発見されました、なお亡くなった女性の臼井幸さんは妊娠五ヶ月という身重だったそうです、実に悲しい事件ですね~」
The end
初めて小説というものを書いてみました、そうこれが正真正銘の処女作です、なので読みにくいかと思いますが、内容的にはよくできたと自負しております、昨今世間を騒がせてる自殺サークルをモチーフにしたもので、何の因果もないそれぞれ悩みを抱えた男女五人がある秘密の団体シュイサイドから招待状を受け、死のツアーが始まる、そんな物語です、この小説の全編はアマゾンにて販売しております、よろしかったらそちらもどうぞ。
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