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6話 テロリスト

■1日目 午後3時30分 フロンティア西部地区ギルド 第一会議室



「……では、2人に質問だ。

――二人は具体的にテロリストがどういったことをやっているか、知っているか?」


そのカインの声は今までと打って変わり、まるで地獄の底から発せられたかのように暗いものだった。


「んー……そういえばテロリストと戦ったことは無かったかも?

でも、前にカイン君と仕事をしたときの敵は魔術結社だったよね。

それと似たようなものでしょ」


翠玉ツィユーは、唇に手を当てながら思い出すように答える。


『つい最近カルト集団に追い掛け回されたことならあるけど、あれはテロリストで良いのか?

ふーむ、それ以外だと、中東あたりでは記者や、軍人がテロリストに拉致られたり、首を撥ねられたりしているぐらいか』


 宗次も考えてはみたが、テロリストが何をしているかというと、意外と知らないと気付く。

その二人に対して、カインは説明を始める。


「テロリストというのは、簡単に言えば暴力を使用して政治的な目標を叶えようという輩だ。

だから、宗次が被害にあったカルト集団は分類的には違うな。

まあ、政治的な主張があったところで、俺は一切興味ない。

ただテロリストが問題なのは、その手段だ。奴らの暴力は一般人にも向けられる」


カインは冷えた声で淡々と続ける。


「いや、むしろ一般人こそが標的と言えるだろう。

なぜなら、テロリストにとって、自分達の主張を受け入れないものは、全て敵だからだ」


 カインは言う。テロリストの主張というものは、何時だって過激なものだと。

曰く、能力者は化物だ、全て殺すべきだ。

曰く、能力者こそが新人類であり、旧人類の無能力者は全て殺すべきだ。


「これらは、普通に生活している人間には賛同できないものだ。

しかし奴らは、一般人には手を出さないなんて、お行儀の良いことはしない。

だから……被害を受けるのは罪も無い一般人だ。

いくら能力者と言っても、多くの能力者は戦えないからな」


 そう言うカインの声は、冷たく無機質に響く。

その声音には怒りも憎しみも、およそ感情のようなものは感じない。

ただ、ぞっとするほどに冷たい。

それはまるで、地獄の底の死者が生者に語りかけてくるようだ。


「これから話すことは、罪のない一般人が蹂躙された話を2つ。

まず1つ目だが、宗次は『希望号 襲撃事件』を知ってるか?」


『……ああ、詳しい訳ではないが、概要程度なら。

能力者エーテルリンカーだけでなく、一般人ノーマルにも多くの被害が出たアレだろう。

犯人はテロリストだの、某国の工作部隊だの色々言われているが、確か犯人は不明だったはずだ』


そう言うと、宗次はキーボードをタイプする。


『えーと、事件の詳細は……あった』


 宗次はカインのデバイスにデータを送る。

すると、そのデバイスを通して3Dプロジェクターに事件の記録が映し出される。



『希望号 襲撃事件』

その事件は今から12年前に起きた。

日本とフロンティアを結ぶ大型旅客船"希望号"で起きた拉致事件であり、虐殺事件である。

当時の乗員1520名中、死者912名、行方不明者608名。

その大規模な犯行にも関わらず、未だに犯人も、行方不明者も所在が分かっていない。

なぜなら、その事件に遭遇して生き残った人間がいないからだ。


 残された記録は船内に取り付けられた防犯カメラの映像だけ。

その記録によれば、襲撃者は透明化の能力をかけた工作船で船に近づき、襲撃を行った。

その際、襲撃達は能力者エーテルリンカーだけを連れ去り、一般人ノーマルは虐殺して回った。

そのため、能力者を狙った拉致事件であると予想されている。


宗次の提示する資料に、カインは頷く。


「ああ、その情報は概ね正しい。

……1つ付け加えるなら、実際には行方不明者の所在も犯人も判明しているということだ」


『何、それは本当なのか!

なぜカインが知って……いや、なぜ事件の真相が分かっているのに、公表されていないんだ?』


「……事件の真相が分かった時には、すべてがもう遅かったから。

連れ去られた乗客は人体実験に使われて、まともな状態の人間なんて"誰一人"いなかった」


『人体実験……やはり、能力者狙いだったのか……』


 能力者を狙った拉致事件である以上、その答えは予想できたものだった。

しかし、その内容は予想よりも酷いものだった。


「俺の友人の1人は全身の8割を機械に置き換えられた。

もう1人は意識不明の植物人間状態。

だがな、これでもまだマシな方だった。

機械につながれ脳みそだけで、生かされていたり……

能力を使う動物、所謂"クリーチャー"と無理やり掛け合わせられていたり……

ああ、試験管に浮かぶ被害者たちのクローンも居たな……」


 カインは淡々と、まるで見てきたように語る。

いや、そもそそも……


『ちょっと待て、友人だと!……まさか!』


「……当時、俺はそこにいた。

"如月冬馬"で調べてみな」


 宗次は言われたままにキーボードをタイプする。

ヒットした結果は希望号の犠牲者一覧。

さらにそこから深く探る。


 ――検索、検索、ヒット。

目当ての情報は犠牲者の顔写真。

ずらりと並ぶその中に、確かにあった。


 その顔は、今よりも幼い顔だが、間違いなくカインのものだ。

記録によれば、"如月冬馬"は『死亡』と記載されている。

では、この目の前にいる男は何なのか?


「……」


沈黙する宗次の疑問に答えるように、カインは続ける。


「本当はな、速い段階で救援は出されていたんだよ。

残念ながら、救援が到着した時には全てが終わっていたけどな。

俺はその中の一人、"竜道カイト"って人に助けられた」


その説明を受けて、翠玉がポンと手をたたく。


「ああ、"りゅーどーかいと"で、"カイン・リュート"!

それでカイン君は、カイン君なのね!!

何で日本人なのに、そんな名前なのか気になってたのよ。

てっきり何かのコードネームなのかと思ってたわ」


「いや、似たようなもんだけどな。

当時は襲撃者の狙いが不明だったから、下手に生き残りがいるよりも、如月冬馬は事件に巻き込まれて死んだことにした方が都合が良かった。

ただ、戸籍なしで生きるのは辛いから、師の偽造用の戸籍である"カイン・リュート"を引き継いだんだ。

師も今の俺と同じく荒事専門のエージェントだったからな」


もっとも師の現役時代では、今のギルド制度は確立していなかったけどな、とカインは補足する。


「へー、初めて知った。じゃあ、カインは2代目カインなのね」


「まあ、そうなるな。あと、一応言っておくが同情は必要ない。

俺は同情が欲しいから話した訳ではなくて、必要だから話しただけだ」


「そう、折角慰めてあげようと思ったのに」


普段通りに返す翠玉に続き、宗次が口を開く。


『……じゃあ、遠慮なく聞くけど、結局、襲撃者は誰だったんだ?その目的は?』


「犯人は『エーテル統一戦線』。つまり、エーテルリンカ―至上主義者どもだ。

奴らの目標は、エーテルリンカ―が新人類として、旧人類であるノーマルを支配する世界を作ること、だそうだ。

まあ、頭のおかしい気狂いどもの言い分だ。鼻で笑ってやるといい」


『エーテル至上主義者?

なぜエーテルリンカ―が、同じエーテルリンカ―を襲ったんだ?』


「能力を研究し、さらに強い能力を手に入れるためだ。

いいか、宗次。能力者の強化を望んでいるのは、能力者自身なんだよ」


 事実 、能力者の強化を求めているのは、テロリストに限らず多くいる。

宗次が務める"霧島化学工業"の特殊研究部も、能力研究を行っている。


 その背景にあるのは、"能力者の全てが強力な能力を使えるわけではない"という事情がある。

まず、能力者の割合が、全人口の2割程度。

その中から、能力者と生まれながら、能力に覚醒していない者が4割。

覚醒しても"使える能力"と言われているCランク以上の能力者は3割程度と言われている。


 それでも世界全体で、Cランク以上の人間は2億人以上いる計算になる。

しかし、すべての能力者が能力を活かして生きているわけではない。

能力者だが"普通にサラリーマン"をしている人間の方が圧倒的に多いのだ。


そのため、彼らが望む世界革命を行うためには、能力者の数も質も足りていないのが現状だ。


「ただ、いくら何でも奴らはやり過ぎた。

最初は研究結果を欲して支援する組織もあったが、次第に"エーテル統一戦線"は先鋭化、スポンサーの制御も効かなくなった。

その結果、世界の敵として組織は壊滅した。

ただし、下手に神格化されても困るから、大体的に宣伝はされていないけどな」


『そうだったのか……それがカインが戦う理由か?』


「そうだな。今は別の理由も出来たが、この暴力の世界に踏み込んだ切っ掛けなのは間違いない。

だが、俺はプロのエージェントだ。常に依頼人が最優先だ」


カインは一瞬リィーンの方に視線を向けて断言すると、話を締めくくる。


「まあ、とにかく。

これは極端な例かもしれないが、少なくとも俺は取り返しのつかないレベルで人生を狂わされた。

今回の敵対者はどの程度の気狂いかは知らないが、俺らのやることは変わらない。

"一般人に危害を加える者は排除する"、ただそれだけだ」


「ふーん、まあ、私は誰が相手でも、私の魔術を使うだけだけど」


『テロリストが怖いのは良く分かった。

で、もう1つの話は何だ?

今の話でも割りと、お腹いっぱいなんだが……』


「そうか? 今のは軽いジャブのつもりだったんだが」


『重いわ!!』


「良いツッコミだ。

はは、もちろん冗談だよ」


 カインは場を和ますように、軽い口調でニヤリと笑う。

そうして場の雰囲気が少し軽くなったところで、彼は再び表情を引き締める。


「では、気を取り直して、2つ目の話だ。

こちらは正確にはテロリストではなく、能力犯罪の話になる。

2人は『ローラ・オーティスのマインドコントロール事件』を知ってるか?」


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