5話 戦う理由
■1日目 午後3時30分 フロンティア西部地区ギルド 第一会議室
「よし、これより作戦会議を始める。
作戦目標は"シーピース社"所有の倉庫へ潜入し、脅迫者の特定、並びに排除を行う!!
明日の面会までに終わらせてやる!!」
「はい、カイン君!!質問!!」
カインの宣言に対して、翠玉が手を上げて質問する。
「何だ、翠玉?」
「作戦会議って必要?
カイン君とリィーンちゃんが突っ込んで皆殺し、以外の作戦ってあるの?」
その質問にカインは腕を組み、唸る。
「うーむ、確かに最終的にはそうなる」
『ええ……いくらなんでも脳筋すぎじゃないですかね……』
通信デバイス越しに、宗次は呆れる様に口を挟む。
「そうは言ってもな。
ゴリ押しが出来るなら、ゴリ押しした方が速いし、確実だからな。
まあ、それはさておき」
カインは一度言葉を切ると、改めて提案する。
「今からやりたいのは作戦会議というよりも、
今回の依頼に対して、互いのスタンスのすり合わせだな」
『スタンス?』
「そうだ。今回、宗次とは始めて組むしな。
お互いのスタンスを確認しておくことは重要だ。
これが分かってなくて、仲間内で喧嘩なんかしたくないだろう」
『それは確かに』
宗次は納得したというように答える。
「では、まず宗次に確認だ。
今回の依頼は、Sランク能力者の音楽家"ヴィクトリア"の護衛となる。
しかし、実際に俺達が行うのは、脅迫者の"排除"。
ここまではいいな?」
『ああ、依頼の詳細は確認している』
カインの確認に、宗次は同意する。
「"排除"という言い方だが、直接的に言えば"殺す"ということだ。
推定される敵対者はテロ組織"マーダーエーテル"。
まあ、悪人と言っていいだろう。
だが、殺しは殺しだ。これに対して宗次に抵抗はあるか?」
『いや、別に。
つい最近、自分もカルト集団に追い掛け回されて死に掛けたからな。
悪人が何人死のうが"どうでもいい"っていうのが、正直な感想だ』
「なるほど、それは良かった」
淡々とした宗次の返答に、カインはほっと安堵する。
今回の逆探知で分かったが、宗次は"使える"ハッカーだ。
出来ればこれからも力を貸してもらいたい。
『自分からも質問いいか?』
今度はカインに対して、逆に宗次が問いかける。
「おう、何でも聞いてくれ」
『むしろ、カインの方は大丈夫なのか?
簡単に殺すとか言ってるけど、悪人といえども殺人は犯罪だ。
警察に見つかったりしないのか?
さすがに自分は前科者には成りたくないぞ』
「それは問題ない。
宗次は察していると思うが、俺はギルドの汚れ仕事担当している。
"仕事の範囲内"の出来事なら、ギルドの力でどうにでもなる。
もちろん、宗次や翠玉の行動に対して責任は俺が持つから、
仮に何かあった場合は、俺のせいにしていい」
『了解した。それが聞ければ自分は問題ない』
その答えに頷くと、カインは翠玉に同じように問いかける。
「一応聞いておくけど、翠玉は今回の依頼に対して質問はあるか?」
「私はお金がもらえれば何でもいいです」
翠玉の答えはいたってシンプルなものであった。
「そうか、分かった」
『……それでいいのか……』
いつものことのように頷くカインとは違い、宗次は口を挟む。
「宗次君だっけ、君だってお金が欲しいから今回の依頼を請けたんでしょ?」
宗次の発言に、翠玉は口を尖らせ言い返す。
『いや、自分は……』
「ふむ、ちょうどいい。
次のすり合わせだな」
嫌な空気になりかけた場に、カインが割って入る。
「二人に質問だ。
ずばり、我々は何のために今回の仕事を請けるのだろうか?」
「だから、お金でしょ?」
「なるほど、宗次は?」
カインの問いに、宗次は少し考えてから口を開く。
『そうだな……もちろん金は欲しくないと言えば、嘘になる。
だが、敢えて言わせて貰えば、自分が今回の依頼を請けたのは、カインに借りを返すためだ』
「へぇ、宗次君はカイン君にどんな借りがあるのかな?」
翠玉は興味深そうに問いかける。
『自分はカルト集団に目を付けられて、妻共々殺されそうになったところをカインに助けて貰った。
それだけではない。今の職場も紹介してくれたのもカインだ。
まさに命の恩人という訳さ。
だから、自分に出来ることがあるなら、少しでも力になりたい』
「そうなんだ。
もぉ、カイン君ってば男にもモテるのね。
このこの~」
翠玉はニヤニヤ笑いながら、肘でカインをつつく。
「ええい。茶化すな!!
宗次、力を貸してくれるのは嬉しいが、借りに感じる必要はない。
俺にとってはアレはただの仕事。
魔女に依頼されたから、それをこなしただけだ」
『ああ、分かっている。
もちろん、これはただの自己満足だ。
自分の納得のためにやっているんだから、カインは別に気にしなくていい』
「カイン君も面倒くさい性格してるけど、
宗次君も面倒くさいわね。
でも、恩を返すのは大事よ。
私もカイン君に養って貰ってるようなものだし、だから私も力を貸すわ」
「翠玉はそう思ってるなら、まず浪費癖を治そうぜ。
お前の生き方は、見てるこっちが不安になる」
「あ、明日から頑張るし……」
翠玉はカインから目をそらし、誤魔化すように言う。
「いや、今から頑張れよ」
突っ込みを入れるカインに対して、宗次は言い難くそうに翠玉に問いかける。
『……この際だから聞きますけど、浪費癖って何にお金使ったんですか?』
「別に浪費したわけじゃないのよ。
ただ、オークションで大厄災よりも前に作られたウィジャ盤を競り落としたら、お金が無くなっただけで」
『それを浪費というのでは……貯金はないんですか?』
「ないわ」
『おう……』
きっぱりと言い切る翠玉に、宗次は絶句する。
「うん、それが普通の反応だよな。
宗次は間違ってないぜ」
カインは腕を組み、うんうんと頷く。
「とまあ、それぞれが色々な理由でこの依頼を請けるわけだ。
皆、それぞれに事情はあるし、その理由に貴賎はない。
だがな、お二人さん。
ちょっと重要なことが抜けてないか?」
「?」
カインの問いかけに、翠玉は首を傾げるが、宗次ははっと気づく。
『重要……ああ、そうか!
いや、蔑ろにした訳じゃない。
この仕事に失敗すれば、ヴィクトリアさんが死ぬかもしれない。
そういうことだろう?』
「そうだ。
我々は大前提として、依頼人からの依頼を解決することで、その見返りとして報酬を貰っているわけだ。
依頼人の望みを叶えるのが、最優先。
戦う理由はそれぞれ別にしても、ここだけは一致しているはずだ。
俺らは"ヴィクトリア"のために戦う。
そこは忘れちゃいけないことだぜ」
「はーい」
『分かった』
カインの言葉に二人は同意する。
「よし。では、次の話だな。
まあ、話というよりも、知っておいて欲しい知識の共有だな」
『ふむ、自分は、この手の仕事は初めてだからな。
事前に情報を教えてもらえるのは、ありがたい』
その宗次の言葉に頷くと、カインは一度気持ちを切り替えるように深く息をする。
「……では、2人に質問だ。
――二人は具体的にテロリストがどういったことをやっているか、知っているか?」
そのカインの声は今までと打って変わり、まるで地獄の底から発せられたかのように暗いものだった。