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16話 殺人鬼3

今回は残酷な描写ありです。

■1日目 午後9時31分 フロンティア西部 湾岸倉庫地区 "シーピース社"倉庫 B1F 通路



 抵抗を止めたもの、最後まで抵抗したもの、その全てに対してカインは平等に弾丸を叩き込み――

その結果、兵隊達はすべて死体と成り果てた。

カインは最後に残った能力者2人に向けて、マシンガンの銃口を向ける。


「……残り2人」


「お前!!よくもやりやがったな!!」


 ライダースーツの男は、怒りを燃やし叫ぶ。その様子から闘志は未だ萎えていないことが分かる。


「あ……ひぅ……」


 一方、ステージ衣装は、顔は青ざめており、膝はがくがくと震えている。

こちらは完全に心が折れていて、とても戦闘が出来る状態ではない。


――だが、この状況からでも逆転できるのが能力者だ。


 能力者にとって、ピンチとはチャンスでもある、とカインは考えている。

なぜなら、能力は使用者の精神に強く影響する。

そのため、心が折れれば能力の威力も弱くなり、最悪、使用不能になることもある。

しかし、だからこそ――この状況を乗り越えることが出来たなら、その人間の能力は飛躍的に強くなる。

それはまるで、ピンチに陥ったヒーローが、新たな力に目覚めて困難に打ち勝つように。


――故に、女の方は未だに脅威だ。


 カインは迷わずステージ衣装の女に向けて引き金を引く。

相手は銃弾に対して、ろくな装備がない。1発でも当たれば致命傷のはずだ。


「む」


 だが、女に向けた弾丸はまるで見えない壁に弾かれるように、あらぬ方向に飛んでいった。

そこには、ライダースーツの男が、女を庇うように立っていた。


「お前、俺の女を狙いやがったな!!」


ライダースーツの男は視線に殺気を込め、憤怒の形相で叫ぶ。


 しかし、カインはそれには構わずに、男の能力を推測する。

女を殺せなかったのは残念だが、男の能力をただで見れたのだ。

この機会を逃す訳にはいかない。


――銃弾を弾いた。何らかの力場フォース、あるいは念力(テレキネシス)か?


 カインは左目の義眼をエーテルセンサーに切り替える。

その視界には、確かに男を中心にエーテルが渦巻いている。


――このエーテルの波長は……電気系の能力者?

なるほど、能力によって自身の周囲に電磁場を形成しているのか。厄介だな。


 電磁場を発生することで、銃弾を弾く。いわゆる電磁バリアだが、それそのものは厄介だが脅威ではない。

問題は敵がそれを可能とするほどの能力者ということだ。


――おそらく敵はAランクの電気使い。その出力は雷に匹敵することもあるという。まともに喰らえば即死だな。


 仮に相手が雷を撃ってきた場合、見てからの回避はまず出来ない。まさに一撃必殺だ。

それを今まで使わなかったのは、味方を巻き込むのを嫌ったためだろう。

だが、不幸なことに彼の味方はカインが虐殺した。今の彼には遠慮をする必要などないのだ。


――もし相手が攻撃してきたら、回避不能の即死攻撃。かと言って、こちらの攻撃は電磁バリアで防がれる……

くそ、だから高ランクの能力者は嫌なんだ。


カインは内心そう愚痴るが、それでもカインは諦めてはいない。


――まあ、電気の能力は、俺の能力とも相性がいい。

俺の能力"エーテル・コンバート"は、電気も使えるからな。

ようは、あれだ。まともに喰らわなければ良いんだろう?


 カインは作戦をまとめると、右手で刀を抜く。

さらに――


「――エーテルコンバート・エレクトロ」


 カインは自身のエーテルを電気に変換すると、刀や装備を含めた全身に電気を流す。

バチバチとカインに帯電した電気が弾けるような音を鳴らすが、その電気の出力は弱い。

せいぜいスタンガンと同じ程度だろう。

それを見たライダースーツの男は侮蔑と怒りとともに叫ぶ。


「は、何だその弱い電気は!!

こんな低級能力者に俺達はいいようにされたって言うのか!!

ふざけるなよ!!お前、楽に死ねると思うなよ!!」


 ライダースーツの男は同じ電気使いであるが故に、カインの能力を正確に把握した。

いや、そうでなくとも男の電気と、カインの電気。どちらが強いかなんて一目瞭然だ。

カインの能力はランクD。効果範囲は狭く、威力も低い。

カインの出力では、直接接触しなければ電気は流せないし、仮に流せたところで、一時的に身体が痺れる程度。

全力でやっても感電死なんて狙えない。


 だからこそ、男は激昂する。

戦いにはランクというものがある。たかがランクDがランクAに挑むということはあってはならない。

弱い能力者とは、強い能力者に黙って道を開けるものなのだ。

まして、ランクDがランクAを倒すなど、そんな異常は認められない。


だが、ライダースーツの男に対して、カインは煽るように言い返す。


「馬鹿め、俺が本当にただの低級能力者だと思ったか?

だから、お前のお友達は死んだんだぜ」


「何だと、お前!!」


「本気でこい!!でないとお前、何も出来ないまま死ぬぞ」


 カインはそう言うと、刀を構える。

身体を半身にして、右手の刀を突き出した独特の構えは、まるでフェンシングを想像させる。


 しかし、だからどうしたというのだ。

雷使いに刀で挑む、普通であればそんな馬鹿げた状況では戦いにすらならない。

100回やって、100回雷使いが勝つ。万に1つも勝ちはない。それが現実だ。


 ……そのはずだったのだ。つい先程までは。

だが、現実にはすでに部下27名が殺されている。


この現実に納得できたわけではない。しかし、それでも全力を出さなければ負けるのだ。


「いいぜ、見せてやる!!

そして、後悔しろ!!これが俺の全力だああああああ!!」


 ライダースーツの男の周りに渦巻いていた全てのエーテルが励起し、高電圧の電気に変わる。

周囲には紫電の光が走り、辺りに放電を撒き散らす。

その本来、おまけの放電ですら、カインの全力の電気を上回っているのに、その中心に居る男はさらにエーテルを注ぎ込み、ボルテージを上げていく。

それはカインの予想通り、まさに雷の如しである。


――よし、煽った甲斐があったな。電磁バリアの分のエーテルも攻撃に回しているし、これだけの威力の電撃を放つ以上、撃った後は必ず隙ができる。


 つまり、敵の全力攻撃をやり過ごし、カウンターを決める。

それが出来るなら、恐らく勝てるだろう。

もちろん、大前提としてまずは目前の電撃を回避出来なければ、カインは死んでしまうのだが。


――戦いとはつまり、そういうものだ。俺が強ければどうにかなるし、弱ければどうにもならない。


 カインは刀を構えたまま、じっと男を見る。

そこに恐怖はない。圧倒的な致死量の電気を前に、ただ勝機を探っている。

カインがそうしている間にも、ライダースーツの男は電気を溜め続け、そしてついに臨界点を突破する。


「おおおお!!死ねぇええええ!!」


――今だ。


 男の叫びと共に、雷が大気をぶち抜いてカインに迫り――その瞬間、カインは右の刀を突き出す。

まるで刀を避雷針に見立てたそれは、狙い通り刀に落ちるが……それがどうしたというのか。

避雷針は人に雷が落ちるのを避けるためにあるのであって、結局人に落ちるのでは意味がない。


しかし……


「ぐっ、あああああああ!!

ああ、くそ!!覚悟していても痛てぇな、畜生!!」


 しかし、カインは生きていた。

左腕と左足は痙攣し、焼き焦げた戦闘スーツから煙が出ているが、それでも生きていた。


「なん……で……ガッ!!」


 ライダースーツの男は驚愕し、その表情のまま彼は一生を終えた。

その額には、カインが左手で投擲した投げナイフが突き刺さっていた。


「ふぅ……右腕は……どうにか動くか」


 カインは焼き焦げた右腕を動かし具合を確かめる。

右腕はアンデッドとしての人並みはずれた回復力で、既に修復が始まっていた。

まだ痺れと痛みはあるが、我慢できないほどではない。


――この程度なら、むしろ上等。ランクDがランクAに右半身のダメージだけで勝てたのなら、十分に元は取れている。


 本来、ランクDとランクAが同じ土俵で戦えば、間違いなくランクAが勝つ。

では、なぜ高電圧の雷撃を受けて無事だったのか?

その理由は、そもそも人間は雷の直撃を受けたからと言って、必ず死ぬわけではないからだ。

人が落雷で命を落とすのは、脳や心臓といった重要な臓器に電気が流れたからであって、それ以外の部位なら大怪我を負うだろうが、死ぬわけではないのだ。


 では、どうすれば死なないですむのか?

高電圧に対する対処の方法は大きく分けて2つある。

1つ、ゴムなどの絶縁体によって電気が流れないようにする方法。

2つ、あえて電気が流れても良い経路を作っておき、そこから電気を逃がす方法。


 カインが今回使ったのは、後者だ。

彼はエーテル・コンバートによって身体の表面に電気の流れを作っておいた。

特に、刀を持つ右腕から右半身、右足から床までのルートはより念入りにエーテルを流しておいたのだ。

その結果、男の雷はカインの狙った通りの経路を流れ、心臓や脳に電気は流れなかった。

無論、それでもダメージは負うのだが……即死でないなら、あとはアンデッドの回復力でどうとでもなる。


――運も良かった。狙い通り受け流したとはいえ、敵の電撃があと数秒長ければ腕が焼き切れていたかもしれないしな。


「まあ、何にしても……残り1人か」


 カインはそう言うと、ずかずかと遠慮なくステージ衣装の女の方へ歩いていく。


「ヒィ!!嫌、来ないでぇええええ!!」


 ステージ衣装の女は腰を抜かし尻餅をつく。

自力で立ち上がろうにも、腕や足はがくがくと震え、力が入らない。

それでも、尻餅をついた体勢のまま、必死に後時さる。


 しかし、それに何の意味もない。


「いや……死にたくない……死にたくないよぉ……」


 瞳に涙を溜め、無様に這いずる女に対して、カインは濁った瞳を向ける。

既に勝負はついた。目の前にいる女は厄介な能力を持っていそうだが、完全に心が折れている。

うまく生け捕りにすれば、情報を得られるかもしれない。

そのリスクとリターンを天秤にかける。


「ふーむ……死にたくない、ね。ああ、いいさ。

お嬢さん、俺が今から3つ質問をする。3つ答えたら命だけは助けてやる」


「わ、わかっ、ング!!」


"分かったわ"と、そう答えようとした女の口をカインは強引に手で塞ぎ、黙らせる。


「……口は開くな。

"はい"なら首を縦に振れ。"いいえ"、あるいは"分からない"なら首を横に振れ。

簡単だろう、分かったな?」


「……」


女は、涙目になりながら必死で首を縦に振る。


「では、1つ目。

君は"声"、あるいは"歌"に関係する能力者か?」


 カインの質問に、女は何度も頷いた。

その必死さに、嘘をついている様子はない。


「なるほどな」


 カインは自分の予想が当たっていたことに頷くと、女の顔面を蹴り抜いた。

グシャリ、という音とともに、カインの足が女の顔を頭蓋ごと粉砕した。


「……こちらを洗脳出来る能力である以上、交渉はできない」


カインはそう言うと、足についた脳漿を彼女の服で拭う。


「悪く思うなよ。お前も人殺しに加担していたんだろう?

俺も、お前も、リィーンも、人殺しの末路は大体こんなもんさ」


 カインはそう言うと、女から目線をそらし、周りを見渡す。

辺り一面は血の海に染まっており、動いているものはカインの他には存在しない。

まさに地獄と言って良い有様であり……だからこそ、カインは自分が生きていることに安堵する。


「……敵勢力の全滅を確認。やれやれ、何とか生き残れたか」


カインはそう言うと、ほっと胸を撫で下ろした。


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