まずやるべきことは
今回もギリギリになってしまって申しわけありません!
もう少ししたら仕事も落ち着くと思いますのでもう少しお待ちください。
「――そうして百魔の森をさまよっている時に偶然チンリュウ殿に出会いまして、――」
1人はちょっとズレていたが、全員がいいリアクションをしてくれた後にこれまでの話をするために一旦食堂という名のやたら長いテーブルのある部屋に移動し、今は丁度レノスが我が輩に会った時のことについて説明していた。
にしても、私室から食堂に移動するまでにやたらと複雑で長い距離を歩かされる羽目になるとはな。道中に聞いてみたが、公的なスペースから私的なスペースに行くには賊の襲撃などを警戒して簡単には行けないように造られているのだとか、そのため見た目の大きさ以上に移動距離が長いのが困りものだとか。最初に妹さんの部屋に行く時は付いていくだけだから気にならなかったのか。
「猫さんモフモフ♪モフモフ♪」
「……」
そして我が輩は食堂についてレノスの説明が始まった時から、妹さんの膝の上に捕獲されモフられ続けている……
あの、妹さんや、レノスの話をちゃんと聞いているか?彼は君のために命賭けで頑張ったんだからね?
「――という訳で今日屋敷に帰還したという訳です」
お、説明が終わったようだな。
「ううむ、にわかには信じがたいが……」
「我が輩としては、信じる信じないではなく、目の前に事実があるのだから現実を受け入れて行動することの方がよほど意味があると思うが、違うかな?」
「む、いや、確かにそうだな。遅れてしまったが、息子と娘を救ってくれて感謝する、ありがとう」
「私の方からもお礼をさせて下さい。坊ちゃまとリナお嬢様をお救い頂きありがとうございました」
そういうとレノスの父親と老執事は頭下げて礼を言ってきた。
……けど、今我が輩は妹さんの膝の上だから、大の大人が小さな子供に頭下げているように見えてちょっとシュールだ。
「礼は不要だ。それよりも先にやるべきことがあるだろう?」
「やるべきこと?それはいったい……」
急に周囲の空気が緊張し、その所為で横でレノスと老執事が身動ぎもせずに固まっていた。
「それはな……」
「っそれは……?」
「…………自己紹介だ!」
「「「…………」」」
「猫さんモフモフ♪猫さんモフモフ♪」
我が輩を上機嫌に歌いながらモフっている妹さんを除き、他のメンバーは時が止まったかのように動きを止めていた。
彼らはなぜ固まっているのだ?我が輩は何か変なことを言ったとは思わんのだがどうしたのだ……?
「えっと……チンリュウ殿?なぜ今やるべきことが自己紹介なのですか……?」
「ん?レノスよ、何もおかしいことは無いであろう?
さっきまでは他に優先することがあったが、今はそれが一旦落ち着いている。
ならば初対面の者同士が自己紹介をしあうのは当然であろう?それに我が輩はお主の妹さんの名前も父親の名前も知らんのだ、何かを話すにしても話難いでは無いか」
「あ、言われてみれば……」
そう言うとレノスを含む全員が呆気にとられたような顔をしていた。
「とりあえず、やることが自己紹介というのには納得してもらえたかな?」
「あ、はい」
「さてと、この位置だと自己紹介もし難いからな……よっと」
「あう、まだモフり足りないのに……」
我が輩は肉体変化の魔法で尻尾を伸ばして妹さんの膝の上からテーブルの上に移動し、尻尾をとぐろを巻く様にしてその上に乗る様な形で座り直した。
妹さんには結構モフられていたのだが、まだ足りないのか……
「……うむ、急に尻尾が伸びたことなど色々と気になることはあるが、確かに恩人……恩猫か?に対して名乗りもせずにいるというのは失礼であったな。
リナ、先にこちらの方を済ませてからにしなさい」
「はぁい、父様……分かりました。なら後で存分にモフることにするよ!」
「我が輩としては嫌いではないが、ほどほどにてくれるとありがたいのだが……」
「じゃあ、ほどほどに存分にモフるよ!」
「……もうそれで構わないよ」
今のこの子には何を言っても無駄か……本当にほどほどにしてくれよ、頼むぞ?ほどほどにな……?
「んっんん!このままだと脱線が続きそうなのでとにかく自己紹介をしよう。
わしはレーフェス公爵家当主のアルベルト・デルク・レーフェスだ」
「あ、リナはリナ・レーフェスって言います!レノス兄様の妹です!
自己紹介したから猫さんモフっていいですか?」
「紹介がまだだろうが、まだ我慢しないさい」
「はぁい、我慢します」
「リナ……一応私もしておきます、レーフェス公爵家嫡子のレノス・レーフェスです」
「私はこのレーフェス公爵家に仕えております、執事長のモルト・ダッシュと申します。先程は大変なご無礼を申し訳ありませんでした」
一応この場の公爵家側の人間が紹介をし終わったが、最後に自己紹介してきた老執事のモルトさんが頭を下げてきた。
「気にしていないから謝る必要はないぞ。さっきは我が輩を普通の猫だと思っていたのだからな、仕方が無い」
「そう言って頂けるとありがとうございます」
「さて、最期に我が輩の自己紹介か……とは言ってもまずは本来の姿を見てからの方がいいだろう。聞きたいこともあるしな」
我が輩はテーブルの上から食堂の入り口の少し広いスペースに移動した。
「縮尺というかサイズは調節するから、そこのところは気にしないでくれ」
「サイズ?いったい何のことd……」
何かアルベルト殿が言おうとしていたが我が輩は気にせず魔法を発動させ、周りの物を壊したりせぬ様にサイズは調節したがそれ以外は何も変わらない我が輩の本来の姿、つまりゴツイ鉤爪付の7本の尻尾と額に眼を持った猫のような生き物の姿に戻った。
「「「…………」」」
レノス以外の者たちは口を開けてポカンとしていたが、我が輩は気にせずにあの問いを問いかけた。
「我が輩は猫であるか?」