件の妹さん
仕事が忙しくて遅れました!申し訳ありません!
けど、今後も余程のことが無い限り月に1話は更新しますのでどうか温かい眼で見守ってください。
それでは最新話をどうぞ!
町の門に猛スピードで近づいて行くと門の周りにいた一般人らしき人達が気付いて騒がしくなった。
「な、なんだ!?なにかがものすごい勢いで突っ込んでくるぞ!?」
「あれ誰か乗ってないか!?」
流石にここまで騒ぎが大きくなると、騒ぎを聞きつけた衛兵達が何事かと飛び出して来たな。
「あれは馬か?なんなんだ!あのとんでもない速度!?」
「馬だろうがなんだろうが、とにかく町に危険があるなら対処するしかないだろ!」
「ちょ、ちょっと待て!あの馬ってもしかしてクノロンじゃないか!?」
「え、クノロンってレノス様の愛馬のクノロンか!?レノス様に剣を向けようとしてたのオレ!?ヤバイよなオレ、打ち首とかにならないよな!?」
「知るか!俺に聞くな!」
……なんか人生終了の瀬戸際になりかけている奴が1人いたが、とりあえずこちらにキチンと気付いてくれたようだな。
「皆さんと衛兵諸君!騒がせてすまない!だが今は緊急の要件がある為道を開けてくれ!!」
レノスがそう言うと一瞬驚きで固まったが、その後すぐに全員がレノスを通す為に一斉に道を開けた。
……なにか練習でもしていたかのような息の合い方だったな。
「皆ありがとう!」
レノスは開けてもらった道を、速度を乗せたまま屋敷と思われる建物に向かって一直線に疾走した。
「……打ち首になら無そうでよかった」
そしてついでにある衛兵の人生は終了せずに済みそうであった。
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屋敷に到着すると同時に馬から降りると執事服を着た老人が駆け寄ってきた。
「坊ちゃま、よくぞご無事で!1人で百魔の森に向かうなど、なんて無茶をするのですか!旦那様やリナお嬢様がどれほど心配したことか!」
「す、すまない爺。だけど喜んでくれ!何とか天上の療果を手に入れることが出来たんだ!これでリナを救うことが出来るぞ!」
「なんですと!?それは本当でございますか!?で、でしたらこうしてはいられません!早くリナお嬢様の所へ!」
「ああ、急ごう!」
そしてレノスと老執事は屋敷の中に走っていってしまった。
……我輩の存在は無視ですか?それとも単純に急いでいて気付いていないだけ?
とにかく2人を追いかけるか。他の使用人達に気付かれて放り出されないように気を付けながらな。
「リナ!今戻ったよ!」
レノス達の後を付けていくと老執事はレノスの父親を呼んで来るといって途中で分かれ、レノスは屋敷のある一室のドアを勢いよく、というよりも蹴破るような勢いで開けた。
「兄様!おかえりなさ、ゴホッ、ゴホッ、なさい」
「リナ!?無理をしないようにしないでいいよ!」
「ゴホッ、ゴホッ、そんな、兄様におかえりと言うのが無理な、ゴホッ、訳がないよ」
……なるほど、これはレノスが命を賭けてなんとかしようとする訳だ。
レノスの妹の、リナと言ったか?会話をするのも辛いだろうにもかかわらず、周りに気を配れる優しさに加え、見た目は聞いていた通りのアルビノによる銀髪に白い肌、赤い眼をしていたが、それを抜きにしても生来の純粋さと快活さを感じさせる容姿、はっきり言ってかなりの美幼……美少女だった。ただし、今は全身の至る所に不気味な色をした斑点が浮かび、このままなら死に向かって行くだけだというのが確信できる雰囲気をしていた。
だがこの症状はもしや……
「レノス!モルトから天上の療果を持ち帰ったと聞いたが本当か!」
さっきのレノスほどではないがかなり慌てた様子で渋い感じの壮年の男とそれに続いて先程の老執事が部屋に入って来た。
「父上!はい、確かに天上の療果を持ち帰りました。これからすぐにでもリナに食べさせるところです」
「おお!では早く食べさせよう!早く治るに越した事は無いからな!」
レノス頷くと腰に着けておいた袋から天上の療果を取り出して妹に渡した。
「リナ、これが伝説にある天上の療果だよ。ちょっとつらいかもしれないけど、このまま皮ごとかじって食べるんだ。そうすればリナの病は治るからね」
「ゴホッ、わかったよ兄様。このままかじればいいんだね?ゴホッ、つらいってことは、すごく苦いのかもしれないけど頑張るよ」
「あ~、うん、頑張るんだぞ」
あ、レノスがすごく微妙な顔をしている。
まぁ、苦いのとは逆にものすごく甘すぎてつらいなんていっても仕方が無いし、どの道食べないとならない訳だしな。
「では、ゴホッ、いただきます」
そう言って天上の療果をかじると妹さんの全身が薄紅色に淡く光だした。
「おお、こ、これは……」
「なんと優しい光でございましょう……」
そして徐々に光が収まっていくと妹さんの全身にあった不気味な斑点が跡形も無くなっていた。
「おおお!リナの体にあった斑点が消えた!」
「リナお嬢様……ぐすっ、本当に、本当によろしゅうございました。ぐすっ」
「リナ!リナ……!よかった……」
うむ、感動的なシーンだな。うんうん。
「…………」
そんな感動的なシーンの中心である妹さんは蹲ったまま動かずにいた。
「リナ?どうしたんだいリナ?……!まさかまだどこかくるしいのかい!?」
「!そうなのですかリナお嬢様!?まさか天上の療果でも完治できないなんて……」
天上の療果の味について知らない2人が悪い予想に慌てだした。
「あ、いえ、大丈夫ですよ父上、爺。リナの病は完全に治っている筈です。これは天上の療果のなんというか、欠点とでもいうべきものでして……」
この中では唯一天上の療果の味を知っているレノスが2人を落ち着け始めた。
「欠点?いったいなんなのだそれは?」
「それはですね……」
「あ……るよ」
レノスが説明をしようとしたタイミングで妹さんが小声で何かを言い出した。
「!リナお嬢様どうかなさいましたか?大丈夫でございますか?」
「あ……ぎるよ」
「?リナお嬢様申し訳ございません。もう一度お願いできますか?」
老執事が聞こえなかった声を聞こうと耳を近づけようとした瞬間。
「これ、ものすごく甘過ぎるよ~」
と、なんとも情けない声が部屋に響いた。
「あ~、レノス?」
「これが先程説明しようとしていた欠点です。天上の療果は人には甘過ぎるのですよ、苦痛に感じてしまうほどに……リナが蹲っていたのはそういうことです」
「それはまた、なんとも……」
「ちなみに我輩が知る限りでは他には食べる前に皮が破けると回復効果が無くなる、1つの実につき最初の1口にしか回復効果が発揮されない、腐敗しだすと回復効果がなくなる上に、周辺の魔物を呼び寄せる強烈な腐敗臭を放つ、という欠点があるな」
「なるほど……ちょっとまて?今のはいったい誰の声だ?モルトか?」
「いえ、私ではございませんが……ん?こんなところに黒猫?いったいどこから入り込んだ。リナお嬢様に何かあると大変ですし、外に出しておきましょう」
我輩を捕まえようとする老執事の手を軽くかわして、レノスの肩に素早く登った。
「まったく、失礼な奴だな。分からないのも無理は無いが、我輩のお陰で天上の療果を手に入れられて、レノスも無事に戻ってこれたというのに」
その瞬間、我輩を捕まえようとしていた老執事を含め、レノス以外の人間が止まった。
「ね……ねこが……」
「今の我輩は猫だが、それがどうした?」
「「猫がしゃべったぁぁーー!!??」」
「猫さんかわいい!!」
……妹さんよ、反応するとこはそこかね?