森の入り口の騒ぎ
遅れました。
そのころ百魔の森を目指すとある一団――
「急げ!!なんとしても間に合わせるのだ!!」
「「「はい!マックス隊長」」」
くそ!まさかこんなことになるなんて……!!
レーフェス公爵家に仕えている騎士であるオレ達が焦っているのには理由がある。
事の発端はレーフェス公爵家の長女リナ・レーフェス様が未知の病を患ったことだ。
リナ様は生まれた時から肌や髪の色が異様に白いことからレーフェス公爵家を良く思っていない一部のクズ共……特にウシガエr、じゃないウーガエール伯爵一派の連中が「呪われた子」などと言っているが、それを否定しきるだけの材料を持っていないことを何度悔やんだことか!
そんなリナ様を病から救おうとレーフェス公爵家の嫡子、つまりリナ様の兄上で次期公爵でもあるレノス・レーフェス様がたった1人で天上の療果を手に入れに百魔の森に行くという書置きが見つかったのが5日前のこと、宝物庫から持ち出されていた魔法具の中にあった、着けた馬の速度を数倍にする効果を持つ『駿馬の鞍』の効果を考えるとすでに4日前には百魔の森についているはずだ。
百魔の森といえば強力なモンスターの巣窟でこのリグレス王国どころか近隣諸国でも類を見ない超危険地帯、いくら強力な魔法具を使っていようがその程度のことでどうこう出来るような場所じゃない、それに何より……
「天上の療果なんて伝説に出てくるだけで、あるかどうかも分からないものだっていうのに……」
とにかく、レニス様に万が一のことを起こさないためにも、今は早く百魔の森にたどり着かなければ……!
「隊長!百魔の森が見えてきました!」
「よし!森の手前でレノス様の痕跡を探し、発見し次第それをたどってレノス様の捜索を開始する!ここはあの百魔の森だ、十分に警戒しろ!」
「「「はい!!」」」
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「隊長!レノス様の愛馬クノロンを発見しました!『駿馬の鞍』を着けていますので間違いありません!」
「ならばその付近から森に入ったはずだ!その痕跡をなんとしても見つけ出せ!」
くっ、クノロンがここにいるってことは、やはり百魔の森に入ってしまっているということ、百魔の森に入る前に思いとどまってくれることを少しは期待していたが、こうなったらオレ達も覚悟を決めるしかないな……
「隊長!レノス様のものと思われる足跡を発見しました!まっすぐに森の中に向かっています!」
「よくやった!では、これより百魔の森に入りレノス様を救出する!」
「「「はい!!」」」
「では行「騒がしいけど何かあったのかい?」く、ぞ?」
「「「……」」」
「あれ?マックス?どうしてこんなところに?」
「「「「レ、レノス様――!!??」」」」
「え?何?どうしたの??」
「どうしたもこうしたもありませんよ!?レノス様、あなたを助けに来たんですよ!というか生きてますよね!?足ありますよね!?影ありますよね!?オレが見ている幻覚とかじゃないですよね!?」
「あ、うん、ありがとう。心配かけたね、ちゃんと私は生きているし、足もあるし、影もある。もちろんマックスの見ている幻覚でもないよ」
「けど良かった、百魔の森の浅いところにしか行っていないみたいで、奥にまで行っていたらどうなっていたか……」
本当に良かった、もし森の奥にまで進んでいたらレノス様を見つけることができても、オレ達全員の命を投げ打っていたとしても無事に戻ってくることができなかっただろうからな……
「いや、私は、」
「とにかく、急いで屋敷に戻ってリナ様を救うための別の方策を考えませんと!」
すでにここまでに5日掛かってしまっている。
リナ様の隊長を考えると、屋敷に戻って別の方策が見つかっても間に合ってくれるといいが……
「マックス、それについては大丈夫だよ」
「大丈夫?何か代わりの方策がすでにおありなのですね!?」
「いや、そんなものはないよ」
「え、ですが今大丈夫だと」
「うん、だって天上の療果をすでに手に入れているからね」
そう言うとレノス様が腰の袋からほのかに光る実を取り出した。
「ま、まさかそれは……」
「そうだ!これが天上の療果だ!これで妹を救うことができるぞ!」
天上の療果……!本当に実在していたのか!だが、これでリナ様を救うことができるならば……
「で、でしたらレノス様!我々を気にせず、急いで屋敷にお戻りください!『駿馬の鞍』を着けたクノロンならば1日ほどで屋敷に着くはずです」
「ああ、すぐにでも屋敷に向かう。来たばかりのマックス達には悪いが、後から付いてきてくれ」
「「「「はい!!」」」」「にゃ~」
「「「「ん?」」」」
今何か猫の鳴き声が……
「……あれ?レノス様その足元の黒猫はいったい?」
部下の1人がそう言って初めて気が付いたが、確かにレノス様の足元に真っ黒な猫がいた……って、ここは百魔の森の入り口だぞ!?
「レノス様お下がりください!こんなところに普通の猫がいる訳が無い!危険なモンスターかもしれません!」
そう言うと部下達もようやくそのことに気が付いたのか瞬時に戦闘態勢に入った。
「ちょ、ちょっと待った!全員剣を収めて!この猫は敵ではないよ!」
「どういうこと事ですか?」
「詳しい事情を話している時間は無いが、この猫は敵ではないしこの猫を一緒に屋敷に連れて行かなければならないんだ」
「ますます、どういうことか分かりません」
「とにかく今は話している暇は無い。屋敷に戻ったらキチンと説明するから、今は私を信じてくれ」
「……分かりました。確かに今はリナ様を救うのが先決です。どうかお急ぎください」
「ありがとうマックス……では、出発の準備をしよう」
そう言うとレノス様は馬に乗る準備を始めた。
……本音を言えば不安要素と仕えている家の次期当主を一緒に行かせるのは反対なんだが、その相手にあんなまっすぐに「信じてくれ」なんていわれてはな。
というかその不安要素である黒猫がなんかさっきからオレ達の乗ってきた馬や部下達に近寄っては、前足の肉球を押し付けるような怪しい動作をしているんだが……本当に大丈夫なんだよな?ってオレのところにも来たし、肉球が気持いいのかもしれんが鎧越しだと分からないのが少し残念かな。
「よし、準備ができたから先に出発させてもらうよ。マックス達も無理をしない程度に後から追いついてくれ」
「分かりました。レノス様お気をつけて」
「ああ、わかっている。チンリュウ殿こっちへ……ではいくぞ、はぁ!」
レノス様と黒猫を乗せてクノロンが『駿馬の鞍』の効果も合わせてものすごい速度で駆けていった。
「よし、来て早々だが我々も出発の準備を整え屋敷に戻るぞ!」
「「「はい!」」」
オレ達も帰還の準備を急がないとな。
にしても心配の種が無くなったからか?さっきからやけに体が軽いんだが……
このあとオレ達は予定よりもかなり早く出発でき、道中は馬の調子も良く行きよりも速度が出ていた……なんでだ?
最初から不定期になってスミマセンでした。
つづきも可能な限り早くあげれるようにがんばります。