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我輩は猫であるか?  作者: 龍龍卿
天上の療果
3/14

取引をしようか

お待たせしました。

3話になります。

「ところで肝心の天上の療果についてだが」


「あ、そうでした。それで心当たりはないでしょうか?」


忘れてそうとは思ったが本当に忘れかけていたのか……


「おそらく、それであろう物は確かにこの森にある」


「ほ、本当ですか!?ならばその場所を教えてください!」


「まぁ待て、教えてもいいが、今のその状態で行ったら即死することを保証しよう」


「そ、そんな……私はどうしても天上の療果が……」


そう言うとレノスは絶望したように地面に手をついた。


「ふむ、お主の悪いところはその早合点だな」


「え……それは、どうゆう……」


「我輩は“今のその状態で行った・・・・・・・・・・ら即死する・・・・・”と言ったのだ。

そもそも普通に考えて、そのようなボロ雑巾半歩手前の状態で行こうとするか?」


「あう……ですが、代えの装備もありませんし、ここに来るまでにすでに3日かかっています。戻って準備しなおす時間も……」


そう言うとレノスは顔をうつむけてしまった。


「ふむ……レノスよ、我輩と1つ取引をしないか?」


「取引……ですか?」


「ああそうだ。内容は、お主の妹の病を治すことに協力する代わりに、我輩が人間社会に関わる活動をする際に協力、いや後ろ盾になることだ」


「協力はかまいませんが、後ろ盾とは……?私のような若者にそのような、」


「できないとは言わせんぞ。その装備はかなりの品質だ。

並大抵の装備ではこの森を3日間さまよったなら原型など留められないからな。

そんなものをお主の様な年齢で手にしていること、それにその首から提げているペンダントからかなり強力な守護の魔法の力を感じるうえに、剣の柄頭つかがしらにあるのと同じ紋章……。

さて、これ以上にまだなにか指摘が必要かね?」


そう言うとレノスは眼を見開いて唖然あぜんとしている様子であったが、やがて諦めたような顔になった。


「いいえ、もう十分です。そこまで指摘されて言い逃れできると思うほどバカじゃありません。

お察しの通り。私はリグレス王国のレーフェス公爵嫡子こうしゃくちゃくしレノス・レーフェスと申します」


おお、それなりに力のある家の子供だとは予想していたが、まさか公爵家の嫡子、つまりは次期公爵だったとは……

確か公爵は王族の分家にあたる存在だったはず、いきなり最上級の大物が出てきてしまったな。


「やはりか、さすがに公爵とは思わなかったが……ともかく、どうするかね?

受けるか、受けないか?」


「……受けます。それ以外に妹の病を治すことはおろか、生きて帰ることも難しいでしょうしね。

それにしても意外に食えない方ですね、私が断ることができないとわかってそんな提案をするなんて」


「ふふ、我輩としても人間社会には興味があるが、何の後ろ盾も情報も無く関わろうと思えるほど楽天的ではないのでな。

さて、そうと決まればさっそく……と行きたいところだが、お主の体力を考えるとすぐには無理であるな」


「そんな!妹ためにも一刻も早く……」


「それでお主に何かあったら妹とやらはどう思うかな?」


「ッ!」


「分かりやすいところでは『自分のせいで兄が死んだ』とかかな?お主はそんな十字架を妹に背負わす危険を理解しているかね?」


「そ、それでも無事に帰りさえすれば……」


「それがこれから行こうとする場所から考えると絶望的だから言っているのだよ。気持ちは分かるがこういう時だからこそ冷静に、だ」


「はい、あなたの言う通りです。スミマセンでした……」


ううむ、少々きつく言い過ぎたか?すっかり落ち込んでしまったな……

素直なのは良いことだがメンタルが弱いな。


「そう落ち込むのではない。

それにこれから行こうとするところは日があるうちは危険なところであるからな」


「?普通は日が落ちてからの方が危険なのではないですか?」


「ああ、そうか。ふむ、一度実際に見せたほうが分かりやすいか……

レノスよ、お主速い乗り物は平気かね?」


「え?はい、大丈夫ですが……」


「なに、これから行くところがなぜ日のあるうちは危険かを実際に見せようと思ってな」


そう言うやいなや我輩はレノスを咥えると背中に乗せて猛スピードで走り出した。


「え、いったい何をぉぉぉ!?」


「喋っていると舌を噛むぞ」

「大丈夫か?レノスよ……」


「だ、だいじょ、うぷ、だいじょうぶです……」


「それで大丈夫だと思う者は眼か頭に異常があるな」


さすがに木々を踏み台にした三角跳びなどを含めた三次元軌道はきつかったか……


「それよりもほれ、あれを見てみろ」


「あれですか?」


顔を向けたレノスは呆然と固まってしまった。

そこには絵に描いたように美しい光に照らされた大樹があったからだ。


「すごく綺麗です」


「そしてあの木に生っている実が、天上の療果だ」


「え!それならすぐにでも……」


「はい、そこまで」


「ぐふ!」


我輩は駆け出そうとするレノスを前足で地面に押し付けた。


「な、なにを」


「痛くは無かろう?きちんと加減もしたし我輩の肉球はぷにぷにだからな」


「確かに柔らかくて気持ちいい……じゃなくて!」


「まぁ、これから起きる事を良く見ておけ。

そうすれば止めた理由が嫌というほど分かるだろうからな」


我輩は近くにあったそれなりの大きさの木の枝を大樹に向かって放り投げた。

すると……


カッ!


大樹の葉が光り輝き、無数の光線で枝を一瞬で蜂の巣状態にしてしまい、その枝が地面に落ちると下から木の根が無数に現れて、締め上げて砕き、地面に引きずり込んでいった。


「……」


「あのまま駆けていったら、ああなっていたというわけだ。

さっきの光線は日のある時間にしか出ないことが分かっている。

夜でも根は襲ってくるが、難易度は大きく下がるわけだ。理解できたか?」


「はい、あまりに美しい光景にここが百魔の森であることをわすれていました……」


「夢を壊すようで悪いが、この森の生物は大体似た様なものだ。

では、夜まで戻って休むかね」


「……はい」


レノスはなんとも言えない様な微妙な引きつった顔をしているが、実際にこの森にいる生物ってあんな感じの厄介なものがほとんどだからな……



短編にも書かれている部分までを第1章として順次投稿します。

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