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我輩は猫であるか?  作者: 龍龍卿
天上の療果
2/14

求めるモノの名は

そして、現在の状況に戻る。


「あ……う……」


少年はうめくような声しか出さないが、もしや我輩の質問が聞こえなかったのであろうか?


「聞こえなかったか?ならばもう一度問うが、我輩は猫であるか?」


「…………」


もう一度同じ質問をしてみたが今度は声も出さなくなってしまった、というか呆然としたまま動かなくなってしまった。

と、ここで我輩は少年のおかれた状況について考えが行った。


ボロボロなのでおそらく森の生き物に追われてきたであろう少年

森の奥で巨大な猫のような生き物に遭遇

いきなり謎の問いかけをされる


……うむ、こんな状態になったら思考がフリーズするな、それか走馬灯そうまとうでも見ているところか。

とにかく危害を加える気がないことと意思の疎通が可能であることを伝えるべきだな。


「少年、いきなり質問をして悪かったな。

安心しろ、我輩はお主に危害を加える気はない」


「え、あ、はい」


ふむ、とりあえず多少は落ち着いてきたか。


「さて、まず始めに自己紹介といこうか。

我輩の名は……そうだな、チンリュウとでも呼んでもらおうか。

この森に住んでいる者だ、よろしく頼む」


さすがにこの喋り方と猫?でソウセキは狙いすぎだからな、夏目漱石の名前の元となった漱石枕流そうせきちんりゅうの下半分でいいだろう。


「あ、これはご丁寧に、私の名前はレノス・レーフェスと申します」


「ふむ、ではレノスと呼ばせてもらおうか。

先程の質問であるが、特に深い意味はなく我輩の種族は何なのか知らないかと思い聞いてみたのだ」


「あなたの種族、ですか?」


「うむ、我輩は生まれてこの方、同属とであったことがないのでな。

自分の種族が何なのか、自分は何者なのかが疑問だったのでな。

そんなところにたまたまお主が現れたのでついつい気が急いてしまっていたようだ、すまなかったな」


「い、いえ、確かに今も驚いていますが、謝られるようなことではないです。

それと申し訳ありませんが私はあなたの種族が何なのかは分かりません」


「そうか……まぁ、もしかしたら程度の考えだったからな、それに少なくとも一般に知られている種族ではないことが分かっただけでもありがたいことだ」


「いえ、それと私からも1つお尋ねしたいことあります」


そういってレノスは先程とは変わって強い意志を感じさせる眼で一歩踏み出して来たが、さっきまでパニックになっていたのが無ければ格好良かったのだがなぁ。


「なにかな?我輩の質問にも答えてくれたし、答えられるものならば答えよう」


「ありがとうございます、ではお尋ねします。

天上てんじょう療果りょうかがこの森のどこにあるかご存知でしょうか」


「天上の療果とな……」


「はい……」


「……レノス」


「……はい」


「天上の療果とはなんだ?」


「…………」


そのときいるはずもないのにカラスの鳴き声が聞こえた気がした。


「えーっと、天上の療果ですよ?本当に知りませんか?」


「いや、知っているかもしれんが、その呼び名を知らんのでな。

どのようなものかが分かれば、それが我輩の知っているものかもしれんが」


「あ、なるほど、そう言うことでしたか。

では、ご説明させていただきますと、天上の療果とはこの百魔ひゃくまの森のどこかにある神が与えた果実といわれ、その実を食べれば死を待つのみの重傷者や病人でも翌日には健康体にまで快復すると伝えられています」


「なるほど……」


それほどの効果を持っているかは実験していないので分からないが、それに近い効果を持つ果実には心当たりがあるにはあるのだが……


「答える前にそれを何ゆえ欲するのかを聞いておきたい。

おそらくは誰か知り合いがそれにすがる程危険な状態なのであろうが」


「お察しの通りです……私の妹が未知の病により苦しんでいます。

天上の療果で妹の病を治し、妹を呪われた子などという下らない中傷ちゅうしょうを消し去りたいのです」


「病は分かるが、呪われた子とはいったいどういうことだ?」


「……妹は生まれたときから髪も肌も生気を感じないほど白く、その瞳は赤く輝くようであることから、周りが気味悪がって勝手に影で呪いなどといっているのです」


ううむ、かなり悔しそう吐き捨てておるな。

だが、直接会ってみないと分からんが、それはただの……


「それはただのアルビノではないのか?」


「アルビノ?何か知っているのですか!?教えてください!」


おおう、すごい食いつきだな。


「アルビノとは別名で先天性せんてんせい色素欠乏症しきそけつぼうしょうともいい、まぁ、分かりやすく言ってしまえば体の色を作る能力が低い、あるいは無い体質というだけだ」


「体の色を作る能力が低い?」


「うむ、例えば濃い髪色の両親から髪色が薄い子供が生まれたりするであろう?

ようはそれが極端に強く出ているだけだな」


「でも瞳の色が赤なのはなぜ……?」


「それは単に瞳の色が薄いので、その下の血液の赤色が見えているから赤い瞳に見えるだけであるな。

ご大層に言ってはみたが結論から言ってしまえば、背が高い低いといったものと本質的には同じものだな」


「体質……背の高い低いと同じようなもの……そうか、そうだったのか。

これが本当なら……!」


今まで悩んでいたことの解決の糸口ができて気合が入っているな。

……だが、本題を忘れていそうなのはいただけんぞ?


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