猫?の目的は
すみません、投稿しそこなっていたのに少し前に気がつきました。
楽しみにしていただいていた人たちには申し訳ありませんでした。
「…………」
うむ、レノス以外の全員が口を開けて呆然としているな。
その横でレノスがそこは自分が通った道だというような感じで1人だけうんうんと納得した顔で頷いているな。
「ゆ……ゆ……」
「リナ?」
そうしていると妹さんが立ち上がり、ふらふらと我が輩に近づいてきた。
「?妹さんよ、怖がっている様でもないし、いったいどうしたのだ?」
「ゆ、ゆ……夢の巨大もふもふーー!!」
そう言うと妹さんは我が輩に勢い良く飛びついてきて頬擦りしだした。
「「「「………………」」」」
……いや、妹さんや、その反応でいいのか?
自分で言うのもなんだが、我が輩の見た目はどう見ても化け物だぞ?額の眼はまだしも、尻尾の鉤爪や牙は普通に君を引き裂けるからね?
「……レノスよ、お主の妹は将来確実に大物になるぞ。どうゆう方向性かは抜きでな」
「……私はその言葉に対して素直に喜べばよいのでしょうか?それとも妹の将来について考え嘆けばよいのでしょうか?」
「…………ノーコメントだ」
その、なんというか、妹さんのおかげでさっきまでよりは話しやすそうだが、話の腰を折るどころか粉々に砕き尽くされた空気になったな。どっちが良かったのかは分からんが。
「んんっ!さ、さて、話が全然進みそうに無いのでもう妹さんは放って置いて進めるとして、我が輩の名はチンリュウという、だが結構適当に考えた名前なのでな、言い難いなら黒猫とでも呼んでくれ。さっきも言ったが大きさこそ多少小さくしているとは言え、これが我が輩の本来の姿だ」
「娘が大変失礼を……今の姿があなたの本来の姿だということですが、それを教えた理由をお尋ねしても?
あなたには我々を警戒させるリスクを犯してまで得るリターンがあるように思えませんので」
娘の非礼を詫びる姿はアレだったが流石は公爵といったところか、一瞬で切り換えて逆にこちらを探り出したか。
位の高い貴族となれば腹の探りあいのプロだからな、下手な誤魔化しや嘘はこちらを不利にしかならんな。ならば……
「理由は3つ、特に隠す必要も無いから、自分の種族について知っているかを知りたかったから、それに何より、最初にバカ正直に正体を晒しておけば少しは信用される可能性があがるかと思っただけだ」
偽りも誤魔化しも隠し立ても無しに、下心も含めた本音をバカ正直に自信満々でぶつけるまで!
どうせまともにやっても勝てないのだ。それに今回に至っては勝つ必要も無いのだからな。
公爵は我が輩の言葉に一瞬毒気を抜かれたようになったが、すぐに気を引き締めなおしたのか、真剣な顔になって話を続けた。
「そうですか……はっはっは、まさかここまで正直に話していただけるとは思いませんでしたよ」
当然と言えば当然だが、嘘ではないがまだ信じきれないという顔だな。
「ふむ、公爵よ。
そうやった腹の探りあいはやめないか?
お主はそんなことよりも我が輩に聞きたいこと……いや、確認しなければならないことがあるのであろう?例えば……我が輩の目的は何なのか、とか?」
「っ!?」
やはり図星のようだな。
「目的?目的は私との取引の通りに我が家の後ろ盾を得ることでは?」
状況を飲み込め切れていないレノスがそう聞いてきた。
「本来ならお主の父親であり、指導者でもある公爵が説明するべきであるが、今回は我が輩が説明しよう。
レノスよ、確かにお主と我が輩の取引で我が輩が得るものは、人間社会に関わる行動をする際の公爵家の後ろ盾を得ることだ。だがな、その後に具体的に何を目的としてどのような活動をするのかについて、我が輩は一度も言及していないのだよ」
「あ!?」
公爵の気にしている問題とその危険さに気が付いてレノスの顔が青くなった。
「気が付いたようだな。そう、我が輩が人間と友好的に関わるのなら問題は……無いことは無いがまだがどうにかなる。だが、我が輩が人間と友好的に関わらない場合、極端に言えば人間を滅ぼそうとしている可能性もあるということだ。
多くの配下の命や生活を左右する立場の者にとって、相手の目的が、望んでいることが分からない。特に相手の力が自分よりも大きければ大きいほど状況や一時の感情に流されずに慎重、かつ、冷静に対処しなければならない。
と、こんな感じで説明したが何か不備や漏れは無かったかね?アルベルト・デルク・レーフェス公爵殿?」
「……いや、大丈夫だ、息子への説明と指導感謝する。
それではこの流れで聞くのは少々虚しいが、黒猫殿の目的はいったい何なのかを聞かせて頂けるかな?」
「我が輩の目的は暇つぶしだ」
「……すまないがもう一度言ってもらえないか?」
「我が輩の目的は暇つぶしだと言ったのだ。
正確には観光と食べ歩き、それと面白そうなものがあればそれの研究なども考えているな。つまりは面白そうなところに行って、おいしい物を食べて、興味のあることを体験したり調べたりということだ。
総括として暇つぶしということになる」
「そんなことの為に我が家の後ろ盾を望んだと……?」
公爵は理解できない生き物を見る目で我が輩を見ながらそう言った。
「なにを言うか!あの森の中で魔法の研究や生息している特殊な生き物の観察以外には散歩と昼寝しかすることが無い、他者とまともに会話することも出来ない状況をどうにかできるかも知れないのだぞ!?だからといって何の後ろ盾も無く人のいるところに行っても化け物扱いは必定!そんな時に鴨がネギを背負って鍋に入ってやって来たのだ!!この機会を逃したら暇すぎてボケ老人になってしまうわ!!」
気が付くと我が輩は偽りなき本心からの言葉を公爵にぶつけていた。
「私は鍋に入った鴨とネギですか……」
あ、ゴメン、レノス……