第1話
目の前に白い紙がある。A4サイズの紙。私は机に座らされ、それと向き合っていた。
「何か言い残すことがあったら書きなさい、届けてほしい人がいるなど、可能な限り要望は聞く」
「ないよ、何も」
私は周りを見回した。薄汚れた無機質な部屋。何人かの制服を着た男達が私を無表情で見下ろす。
「ではお願いします」
制服を着た一人の男がそう言うと、どっかの宗教の人間がそれらしい服を着て、それらしい祈りを捧げる。私は無宗教で興味がなかった。
「そろそろ時間だ」
私は後ろ手に手錠をかけられ、目の前のカーテンが開け放たれる。
「進め」
その部屋には天井から縄がたれていて、その縄の先には輪っかが作られていた。その下の床には四角い切れ目がある。私はその四角い切れ目に立たされ、足錠をつけられ、白い布袋を頭から被せられる。首に縄をかけられ、人の気配が消えていく。
足下の床を支えるバネがぎりりと軋む。その音が死神の呼び声のようにも聞こえ。
「やっぱり、まだ生きたいかも」
ふわりと体が浮遊感に包まれる。闇へのフタが開かれたらしい。落ちていく感覚。首の骨が折れたかのような音が頭の中に響き、意識はそれが合図かのように途切れた。
法務省が佳川桜死刑囚の死刑執行を発表。土井法務大臣就任後、三件目となる。佳川桜死刑囚は通称”銃弾”と呼ばれた殺人犯で”銃弾”事件において二名を殺害。それより以前には日本全国を放浪しながら殺人を犯していたとされており、犯罪史上類をみない…………




