第四話
「いせかい・・・異世界?そういえば、そういったお話は聞いたことあるけど、お話の中だけのものだと思ってた」
「一応は存在しているよ。ただ・・・」
「ただ?」
「ただ、アースでは異世界の存在は確認されていないからね。存在が分からないんじゃあ、無いのと同じさ」
「でも将侍君は知ってるんだね」
「ああ、そうだ。世界に名前を付けて呼んでいるのもそれぞれの世界を区別するためだな」
「それぞれ?じゃあ、ここの世界と・・・ええっと、なんて言ったっけ?」
「イルガークだ」
「そのイルガークと、あ、アース、だっけ?以外にも世界があるの?」
「ある。だけど、全てを知っているわけではない。実際、いったいどれだけの数の世界が存在しているのかは分からないしな。ほら、次の質問、まだ一つ目じゃ無かったっけか。時間は有限だからな、大切にしないと」
「うん・・・そうだね、じゃあ次の質問」
「ああ」
「何で私、こんな所にいたの?なんで眠ってたの?」
「ふむ。・・・どっちも分からないな。それは自分が、小百合が知っていると思う」
「わたしにも分からないの」
「そうか・・・。いつか分かるさ、きっとな」
「ほんと?」
「ああ、太鼓判を押してやるよ」
「ありがとう!じゃあ、次の質問行くね。将侍君はどんな人?」
「本人に答えさせるか?それは小百合が見て決めてくれ。俺が答えられることじゃあないさ」
「んんー」
「そんなににらんでも無駄だよ、怖くも無いし。何にも出ないさ。・・・自分のことなんて自分が一番分からないんだよ・・・」
「ん?最後、なんて言ったの?」
「いや、なんでもないさ。さて、こっちからも質問いいか?」
「う、うん。お手柔らかに」
「大丈夫だって。お、小百合の考えを聞きたいだけだからさ。これからどうするんだ?」
「えっ?どういう意味?」
「君が君の意思で自由に行動できるようにと思ってね」
「私の意志・・・?」
「そう、俺なんかといられないだろ?」
「そんなこと無いよ?どうしてそんなこと聞くの?」
「・・・やっぱりかかっている、か・・・。いや、俺は・・・いや、気にしないでくれ」
「う、うん・・・?」
「じゃあ、そうだな、訊き方を変えるか・・・これからどうしたい?家に帰りたいか?」
「えっ?お家に、お家に帰れるの!?本当!?」
「ああ、帰れる。まあ、今すぐにって訳じゃあ、ないけどな」
「そうなんだ、帰れるんだ・・・」
ここからが本題だ。この質問でこれからの自分の行動が決まる。全ては彼女の回答に掛かっているのだ。
「なあ、俺はこの世界を旅して回っているんだ。小百合はどうする?」
「どうするって・・・?」
「一人で行くか、俺と来るか」
「行く・・・行く!一緒に、行く!」
「即答だな」
「いたいけな美少女にここから一人で生きて行けって言うの?」
「自分で美少女とか言うなよ・・・それは言わない。最低でもサルハンまでの道案内くらいはしてやるさ」
「ううん、一緒に行く。行きたい。面倒?邪魔だったりしない?」
「おいおい、俺から質問しておいて、着いてくるって言われても放置するって?そんなことはしないよ。ただ、な」
「ただ、なぁに?」
「ああ、いや、小百合が俺と一緒にいるのが嫌かもしれないからな、知りたかっただけさ」
「そんなこと無いよ、将侍君、優しいもん」
「優しいか」
「うん、とぉっても」
・・・これは完全に罹ってしまっている、自分の持つ常時発動型能力の一つ『魅了』に。この能力はなぜか制御不能であり能力のオン、オフができないのだ。つまりは、ずっと発動しているわけである。
オフにしておきたい。
これじゃあ判別ができないじゃないか。まあ、その効果は永続ではないためいずれ効果は消える。一緒に行動していたらそのうち分かるだろう。効果が消えたその時に、彼女は自分を肯定するだろうか。
「じゃあ、一緒に行くか」
「うん!」
「朝になったら村へ向かうか。それまで眠っているといい」
「うん!・・・って眠れないよ!さっきまで眠ってたんだから」
俺は小百合に近づいて額に手を当てる。
「それでも目を瞑るくらいはしたほうがいいだろう。一気に色んなことを話したからな。眠って整理するといい。脳は眠っている間に記憶の整理をするというからな」
「むー、わかった。・・・もっと将侍君とお話したかったのにな・・・」
「それは、また今度、だ」
「えっ!?聞こえてたの?」
彼女の顔は真っ赤になっている。どうやら俺に聞こえないように喋っていたらしい。・・・常人よりも遥かに耳がいいので聞こえてしまっているが。
「おやすみ、ゆっくり眠るといい」
俺はそう言いながら彼女に軽い睡眠の魔法をかける。朝には目を覚ますだろう。
「・・・あ、う、お、おやす・・・み」
「はぁ、どうすっかな」
恐らく彼女が今回の『任務』の鍵なのだろう。・・・確証は無いが。
「まあいい」
俺はしばらくの間、彼女に着いていく。今回は、彼女のやりたいことの手伝い、それが俺の今回の『任務』なのだろう。任務をクリアしない限り、次なる扉は開けない。
「いったいどこまで行けばお前はいるんだ?ヴァン」
俺はそう、暗い夜の空に呟いた。