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27話「指示」

「初めまして、たまに渋谷区の代官もやっている冒険者のアルトレイアだ。よろしく頼む」


 張り込み調査を始めてから数日。

 呼び出しを受けた俺たちが代官所に到着するなりアルトレイアはそんな風に初対面向きな挨拶をしてきた。


「いや、言っとくけどこの人クシャナさんだから間違えないように。あと代官と冒険者の割合も間違ってるから」


 アルトレイアに出迎えられたのは俺とクシャナさんの2人。

 いくらこのスットコ代官でもまさか俺の顔を忘れたってことはないだろう。

 となれば、見た目が変わったクシャナさんのことが分らずにこんな挨拶になった感じか。

 だってアルトレイアとはクシャナさんがちっちゃくなってから知り合ったわけだし。


「む。クシャーナだったのか。小さいのは仮の姿だと話には聞いていたのだが、こんなに急に大きくなるとは思っていなかったぞ。いったいどんなキノコを食べたのだ?」


 一応は知ってたのか。

 うららが説明しといてくれたのかもな。

 まぁ、キノコ云々はどこからきた話か知らないけど。


「クシャナさんを土管に潜ったり亀を蹴飛ばしたりする配管工と一緒にするなよ。そんなことより急に呼び出してなんだよ?」


 そう。

 俺たちは愛理の工房を出たとこでアルトレイアから電話で呼び出された。

例の千代田区代官クエストの件ってことだったけど、詳しい内容は聞かされてない。


「うん。急に思いついたから急に呼び出したのだ。もちろん事前に思いついていたら事前に呼び出したのだが、その場合、結局急な話しになっていただろうから、最終的には急に呼び出して正解だったのだと思う」


 なに言ってるのか分からねー。

 分からねーけど、とりあえず間違い無いのは一つだけ。

 こいつがとんでもなく行き当たりばったりで生きてるってことだけだ。


「アルトレイア。ひとまず話を聞かせてください」

「了承した。それでは中に入ってくれ」


 通されたのは前回と同じ部屋。

 テーブルがあって、お茶の用意もされてる。

 俺たちはそれぞれ席に座って顔をつき合わせた。

 

「ではさっそく――」


 さっそく茶菓子に伸びたアルトレイアの手を迎撃する。

 こいつほんとに子供な。


「こほん。呼び出したのは他でもない、千代田区代官ディートハルト・クラルヴァインについてのことだ」


 手を引っ込めつつ、アルトレイアは話しを続ける。


「ディートハルトの調査自体はみんがんばってくれていると思う。だが向こうもさすがに簡単には尻尾を掴ませてはくれないみたいだな」


 まぁ、まだクエストを初めて何日めかだ。

 それでもここまでの調査で何も進展がないのは事実なんだよな。


「そこでだ。ディートハルトはいくつか蔵を持っていたのを思い出したのだ。そっちを調べれば何かわかるかもしれない」

「蔵?」

「うん。我がバントライン家同様、クラルヴァインも代々千代田区の代官を任されている。所謂名家と言うやつだから、蔵の一つや二つ持っているのだ」

「それは分かるけどさ、なんで蔵なんか調べる必要があるんだ?」

「忘れたか? ディートハルトは魔物を集めているのだ。それも代官所としてではなく、個人的にだ。だからどこかに魔物を隠しているはずなのだが、クラルヴァイン家の蔵ならちょうど良さそうだと思ったのだ」


 なるほどな。

 もともと持ってる蔵なら何を隠すにもちょうどいいってことだ。

 どうせ他には進展もないんだ。

 ダメ元で調べてみるのはありだろう。


「ところで今日は他の2人はどうしたんだ?」


 今日集まったのはここに居る俺たちだけだ。

 うららとパンク兄ちゃんの姿は無い。


「声はかけたのだ。だが2人とも今日は忙しいらしくて捕まらなかった」

「そっか。そう言う日もあるよな」


 俺たちもだけど、みんなこのクエストだけを専属でやってるわけじゃない。

 それにプライベートの用事だってあるだろうし、いつもヒマってこともないだろう。


「そう言うわけで今日は君たちだけなのだが、無理にすぐ調べに行かなくても、あの2人が居る時でも構わないぞ?」


 今日は話しだけでまた後日ってことか。

 それならそれで別にいいんだけど、逆に言えばわざわざ4人で行く必要があるかどうかだな。

 その辺をどうするか、俺はクシャナさんに視線を送った。


「構いません。私たち2人だけで行ってきます」

「大丈夫か? 私は顔がばれてるから一緒には行けないぞ?」

「ええ。完全ではありませんが、私も動けるようになりました。向こうが何かしてきても修司は私が守ります」


 きっぱりそう言ったクシャナさんに、アルトレイアは特に疑問を持たなかったみたいだ。


「そうか。それは心強いな。ではクラルヴァイン家の蔵の場所を教えよう。相手はかなりの資産持ちだから、持っている蔵の数も多い。だが生きた魔物を隠すとなれば、街中よりは郊外に近い場所や海沿いの方が都合がいいだろう。まずはそっち方から探ってみてくれ」


 なるほど。

 たしかにことがことだけに街中よりはそっちの方が可能性が大きそうだな。

 あとは実際にどこが一番怪しいかだけど、こればっかりは分からない。

 実際に行ってみてしらみつぶしに探してみるしかないだろうな。


 そう言うわけで、俺とクシャナさんは2人で調査に向かうことになった。

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