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26話「工房にて」

「そう言うわけで昨日は大変だったんだよ」


 ブラックアイズのせいで大変な目にあった翌日、俺はクシャナさんと一緒に愛理の工房に呼び出されてた。


「まぶたを縫った白いローブの集団にブラックアイズかー。なんだかだんだん怪しいのが集まって来るねー」


 一応念のためにと思って愛理にも何があったか話してみたらこの反応。

 こいつもこいつでマイペースなとこがあるんだよな。

 俺的にはもうちょっとリアクションして欲しい。


「て言うかさ、あいつらゲオルギウスの錬金術使うらしいぞ?」

「まぁ、そういうこともあるだろうねー」

「だろうね、ってお前……」


 机に座った愛理は、さっきから俺の話し半分で何かを弄ってる。

 そのせいか俺の超核心的な指摘もスルー気味だ。


「いまさら何言ってるのさ。ボクやレトリックを狙って来た時点でそんなこと分かってるでしょ。一応正当な系譜は途絶えてるとは言え、ゲオルギウスには弟子もいっぱい居たみたいだしね。その末裔くらい当然残ってるよ。だから問題はゲオルギウスの系譜のどの辺の親戚筋にあたるのかってことなんだけど、そっか、目を縫ってるんだね……」

「なんだよ、それがどうかしたのかよ?」

「んんー、まぁ、ちょっとね。そんなことするなんて、熱心なゲオルギウス信者だなーて思ってさ」


 そう言えばブラックアイズも原理主義者がどうとか言ってたっけ。


「なんで目を縫うとゲオルギウス信者になるんだ? 本人がそうだったっとか、そんなことないよな?」

「ないよ。ゲオルギウスがそんなバカなことするわけないじゃん。まぁ、弟子には『目を瞑れー、目を瞑れー』って言ってたみたいだけどさ」

「目を瞑れ? なんだそりゃ?」

「物事を空間的にじゃなくて、事実構造的に捉えろってことだよ。目で見るとどうしても形とか状態とかが気になるからね」


 ああ。前にも言ってた物理化学的じゃない視点ってやつか。


「もっとも、その言葉を重視し過ぎて、目隠しして生活し始めちゃう弟子の人たちまで出始めちゃったらしいけどね」

「目隠しって、マジでそんなことやってたのか?」

「ゲオルギウスの日記に書いてあったから間違いないよ。『最近、弟子たちの奇行が気になる』って」


 ダメだろ、そいつら。

 残念にもほどがあるだろ。


「でもそう言う人にかぎって熱心に教えを理解しようとしてる人だから、ゲオルギウスも何も言えなかったんだってさ」


 やさしいな、ゲオルギウス先生。

 でもそこは一言、言ってやれよ。

『お前、それはちゃうで』って。


「で、そう言う人たちを『盲目派』って呼んでたらしいけど、修司を襲って来た白い人たちはその系統かもね」

「それだ。俺には分かる。アホっぽさがなんとなく似てるからな」


 いや、冗談は置いといたとしても、割と当たってると思うんだよ。

 あいつら自分で目を縫ったって言ってたからな。

 ブラックアイズも原理主義者って言ってたくらいだから熱心なんだろ。

 ジャンル的には完全に一致してるよ。


「それにしても今さらなんなんだろうね。ゲオルギウスって少なくとも1000年以上前の人なのに、白い人たちは何で今になってそこまで盛り上がってるんだか」

「地元でブームが来てるんじゃねーの? 『今、あえてゲオルギウスを見直す』みたいな」

「なに言ってるのさ。まぁ、ブームならブームでも構わないけど、きっかけがあったと思うんだけどね」

「自分で目を縫うような奴らだぞ。何がきっかけにしても、もともと変な奴らだって」

「そうれはそうかもね、っと。よし、出来た。おまたせ、クシャナちゃん。さっそく始めようか」


 愛理はそこで話しを区切ると、椅子から立ち上がって俺たちに向き直った。


「いきなりなんだよ。始めるって、クシャナさんに何するつもりだ?」


 そもそも今日なんで呼び出されたのかも聞いてないんだよ。

 始めようとか言われてもなんのことだかさっぱりだっての。


「もちろんクシャナちゃんを元に戻す実験だよ。昨日も手伝ってもらってたんだけど、今日はもうちょっと先に進もうと思ってね。ね、クシャナちゃん?」

「ええ。私に掛けられた、これだけ複雑な封印に対抗する手段を見つけてしまうのですから、やっぱり愛理はすごいですね」

「とーぜん。なんたってボクは美少女天才錬金術師だからねー」


 まじかよ。

 もっと時間がかかるかと思ってたけど、案外順調じゃないか?


「すげーな。これでクシャナさんは元に戻るのか?」

「残念だけど、まだ完璧には無理だよ。今日はその前段階かな」


 そっか。まだ前段階か。

 でも進展があるなら、それはそれでいい感じなのは間違いない。


「今回のは、クシャナちゃんに掛けられた多重封印の術式の、表層側から無効化していく方法なんだ。ボクの計算が正しければ、本当の姿にはまだ戻せないけど、スキルや魔力はかなり取り戻せるはずだよ」

「それでもさすがだな。で、その方法はどうやってやるんだ?」

「簡単だよ。これを使うんだ」


 そう言って愛理が取り出したのは変な輪っかだった。


「なんだ、それ?」

「だから封印対策を組み込んだ腕輪型の魔道具だよ。これを身に着けて魔力を流せば封印をある程度まで無力化してくれるはずだよ。クシャナちゃん、さっそく試してみて?」

「分かりました。……。ではいきます」


 クシャナさんは腕はを身に着けて一呼吸置いた。

 それから魔力を解放して魔道具を起動する。

 変化はすぐに現れた。

 人間の9歳児並みだったクシャナさんの体が、見る見る大きくなって前みたいな大人の女になる。

 見た感じは完全に元々の化身の姿だ。


「すげー! クシャナさんだ、すげー!」


 俺は思わず抱きついた。

 クシャナさんも抱き返してきて、俺は久しぶりの柔らかい感触を確かめる。


「超完璧。完全に元のクシャナさんの感触だよ、これ」

「ふふ。これでようやくまたシュウジを抱きしめて寝られますね」

「はいはい。成功したからっていちゃいちゃしないの。確認するけど、クシャナちゃん、まだ化身を解けれないでしょ?」

「はい。力自体はかなり戻っていますが、人間の姿からは変えられないみたいです」

「やっぱり今はそこが限界みたいだね。もうちょっと研究してみないとどうなるか分からないけど、今はそれでがまんしてね」


 とは言え、何も出来なかった9歳状態からしたら大違い。

 こうしてクシャナさんは、一応の復活を果たしたのだったんだぜ。

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