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25話「語らい、そして魔界のドアを」

 イライラ、イライラ。

 俺は自分でイライラって思っちゃうほどイライラしてた。

 理由は単純、


「どうしたんだい? やっぱり君も食べたかったのなら頼めばよかったのに」


 話があるとかで俺を喫茶店に誘っておきながら、いきなりパフェを食いだしたブラックアイズのせいだった。


「いらねーよ。だいたい男が昼間からそんなもん食ってんじゃねーっての」

「硬派だね、君は。そういうところは好ましく思うけれど、今どきもうすこし柔らかくてもいいかもしれないよ?」


 そう言いつつ、ブラックアイズはなっがいスプーンでパフェをつついて柔らかくしながらチマチマ食べる。

 遅いんだよ。

 だからイライラするんだよ。


「ほっとけ。つーかお前が緊張感無さ過ぎるんだよ。言っとくけど俺たちは敵だからな。そのパフェの入れ物ごとお前をぶん殴ってやることだって出来るんだぞ?」

「それは困るね。そんなことをされたら当然、僕もパフェを守らなくならないといけなくなる。この間合いなら君のパンチと僕の即効魔法、どちらが早く命中するかな?」

「あくまでパフェ命かよ。ふざけやがって」


 俺がイライラしてる理由がもう一つあるとすれば、それは間違いなくこいつの態度だ。

 さっきからこの調子でのらりくらり。

 まさにのれんに腕押しって感じで話しにならない。


「ふふ。そう熱くならないで欲しいな。敵だと思われるのは悲しいからね」


 でもってこれだ。

 こいつ何を勘違いしてるのか、自分じゃ俺たちと敵対してないつもりっぽい。

 そんなわけあるはずないのに、よっぽどのバカかただのお花畑か、どっちだ?


「お前、クシャナさんにあんなことしといて、今さら敵じゃないとか通用するわけないだろ。こっちはいつでもリベンジの用意は出来てるんだ。そんなもん食ってないで早く人の居ないとこ行こうぜ」


 正直なところ、今日はついてると言えばついてる。

 こいつともう1人のあのちびっ子相棒。

 いつか捕まえてギッタンギッタンにしてやろうと思ってた。

 思ってたけど、転移能力者だけに探す手段が無かったからな。

 それがこんなに早く自分から出て来てくれてありがとうコンチクショウさっさと殴らせろ、だ。


「怖い怖い。言ったはずだよ。僕は話しをしに来たんだ。せめてそれが終わるまで待ってくれないかな?」


 話し?

 そう言えばそんなことも言ってたな。

 俺としてはまったくどうでもいいんだけど、死に逝く人間の頼みを無下にするのも気が引ける。

 せめて最後の晩餐(パフェ)を食べ終わるまで付き合ってやるくらいならいいか。


「分かったからさっさと喋れよ。くだらないことだったら、すぐ外行くから」

「本当にせっかちだね、君は。それでレトリックの使い手なのだから、少しハラハラするよ」

「そんなことどうだっていいだろ。どっちにしたって融合しちゃってるんだ。あとは俺が俺の判断で使うだけだろ」

「どうでもよくないのだけれどね、実際。今日、話しに来たのもそのことだよ」

「レトリックの?」


 そう言えば前に出て来た時も、こいつはそんなこと言ってたっけ。


「前にも言った通り、君たちのレトリックに関する研究は重要な意味を持っている。それは取りも直さず、レトリックに何が出来てどう使われるのかが重要と言うことだよ。だからこそ迂闊で安易な運用は避けてもらいたいものだね」

「別に迂闊でも安易でも役に立てばいいんだよ。レトリックってのはあくまでも実用品として作ってあるんだからな」


 まぁ、弄ってるのは愛理だけどな。


「そうそう、君のところの錬金術師さんはレトリックの改良を順調に続けているかい?」

「あ? 誰かさんのおかげでクシャナさんの封印を解くって仕事が増えたからな。最近はあんまりさわってねーよ」


 レトリックって言うのは、俺と融合しててもまだ改良の余地があるし、改造の余裕がある。

 つまりまだ他に機能を追加出来るんだけど、最近は新機能の開発は滞ってる。


「だとすれば開発を早めた方がいい。運命は遠からず君たちを翻弄するだろうからね」

「なんだそりゃ」


 よく分からないけど、こいつやっぱりなんか知ってるんだろうな。

 運命ってのが何を意味してるのかはともかく、とりあえずなんか問題の一つでも起こりそうなんだろう。

 でもって今のままの俺じゃそれを乗り越えられそうに無いとか?

 もしそうだとしたら、ずいぶん勝手なこと言ってくれてることになる。

 俺はこれでもそこそこ強い自信がある。

 なんたって俺の強さはレトリックの強さだからな。

 愛理のレトリックは今のままでも十分強力だ。

 そのうえで改良が必要って、何が起こるってんだよ。


「もしかしてさっきの連中のことか? あっちも俺に用があったみたいだし、あいつらなんだったんだよ?」

「彼らは真理を直視するために、自ら瞳を閉ざした者たちだよ。ゲオルギウスの錬金術の系譜に名を連ねているという意味では、君たちと同じかな」


 同じ?

 俺たちが?

 あれと?


「よせよ。あんなのと一緒にされても困るだけだっての」

「だろうね。彼らは言ってみれば、ゲオルギウス錬金術の原理主義者みたいなものだからね。それも根っこのところで歪んでいるから困った人たちだよ」


 まぁ、自分で目を縫っちゃうくらいだからな。

 なんの意味があるのか知らないけど、イカしてるどころかイカレてるよ。


「もっとも、今日のことで彼らもしばらくは大人しくしているだろうから、直接はなにもして来ないはずだよ」

「してきたって返り討ちにするから別にいいけどな」

「言っただろう。彼らは困った人たちなんだよ。放っておいてもいずれ無視出来なくなる。今のうちにレトリックの開発を進めておくことをお勧めするよ」


 そしてちょうどそこでブラックアイズはパフェを食べ終えた。

 これでお喋りの時間は終わり。

 今度はこっちの用事を済まさせてもらおう。


「もういいだろ。さっさと外に出ようぜ」

「……。仕方ないね。言いたいことは言ったし、行こうか」


 ブラックアイズは伝票を手に取るとレジへと向かう。

 そのまま俺のコーヒーの分までまとめて会計を済ませた。


「話しに付き合ってくれたからね。ここは僕が奢るよ」


 どこまでものん気な奴。

 敵にコーヒーを奢るって、どこまで緊張感がないんだよ。


「ああ、レシートをもらっておいてくれるかな?」


 店のドアから出かかったところでブラックアイズが思い出したようにそう言った。

 こんな時にいちいち細かい奴だな。

 欲しいならちゃんと自分でもらっとけって。

 とは言え、言い争うのも面倒だ。

 俺はレジまで戻って言われた通りレシートを受け取る。

 それから先に外に出たブラックアイズを追ってドアをくぐった。

 と――、


「それじゃあ僕はこれで失礼するよ。いつかそのうちまた会おう」


 ここはとある地下街の寂れたテナント街だった。

 俺たち以外人が見当たらないここで、ブラックアイズは喫茶店のはす向かいの店のドアを開けてた。

 その中に広がるのは、前にも見た古風な図書館。

 転移能力。

 こいつ逃げる気かよ!


「待て、コラ!」


 追いかけようとした俺の目の前で扉が閉まる。

 それを一瞬の差でもう一度開いて俺は中に飛び込んだ。

 ブラックアイズが転移能力をOFFってなきゃ俺もついて行けるはず。


「あっらぁー、いらっしゃぁーい。そんなに勢いよく飛び込んで来るなんて、アタシに会いたくて仕方なかったのぉん? それじゃぁおねぃさん、サービスしちゃうわよぉん」


 そこに居たのは1人のごっついオカマ。

 見るからに現代社会の闇の住人が、ピンク色の照明の中で体をくねらせてた。


「すんません、間違えました!」


 俺は慌てて戦術的撤退。

 すぐさま入り口に引き返す。


「逃がさないわよぉ。せっかくだから楽しんでいらっしゃぁい?」


 あと一歩。

 あと一歩で外に出られたってところで俺は腕を掴まれた。

 そして熊みたいな力で店内に引きずり込まれそうになる。


「いや、やめてやめて、ごめんなさい!」

「やめないやめない、観念なさぁい。あなたはここで大人の階段を駆け上がるのよぉん」


 どこがだ。

 地獄だよ。

 畜生道だよ。

 よりにもよってこんなドアを転移に使うとか……。


「嵌めやがったな。ブラックアイズ。嵌めやがったなぁ――!」


 俺はそのあと30分くらいの死闘を繰り広げてなんとか貞操の危機を脱した 

 無事に済んだとは言え、この時の恐怖は二度と忘れられないだろう。

 ブラックアイズ、マジで許さん。

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