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24話「白対黒」

「お前、なんでこんなところに……」


 唐突に現れたブラックアイズ。

 こいつは相変わらず得体の知れない奴だ。

 前の時もそうだったけど、今回もいきなり現れて勝手なことを言う。

 いったい何が目的なのか分からないけど、とにかく警戒が必要なのは間違いない。


「久しぶりだね、レトリックの君。今度はどうにか間に合ってよかったよ」


 そう言ってまぶたを閉じたまま微笑むブラックアイズ。

 その口ぶりは、まるで待ち合わせの時間にギリギリ間に合った友達みたいな軽さだった。


「間に合ってよかった? お前こいつらが俺のところに来るのを知ってたのか?」

「予想の範疇ではあったよ。出来れば自重して欲しかったのだけれど、やはり現実はままならないと言うことかな?」


 ブラックアイズは閉じた瞳のまま白ローブのリーダー格に視線を送った。


「知れたこと。我らの行動は、すべてそのままならぬ現実に対抗するためのもの。それをよりにもよってお主が邪魔立てするか、ブラックアイズフェノメノン?」

「邪魔立てとは人聞きが悪いね。僕はただ仲裁に来ただけだよ。君たちのやり方はどうしても強引過ぎるから、少しアドバイスが必要かと思ってね」

「要らぬ世話よ。我らには我らの信があり義がある。如何にお主と言えど横やりは無用。早々に引き取られるがよい」


 よく分からないけど、こいつらどうも知り合いらしい。

 しかも白ローブはブラックアイズにちょっと気を使ってる節がある。

 それでいて特別友好関係ってわけでもなさそうな微妙な感じ。


「困ったものだね。その信義と言うのは、結局のところ『彼』からの借り物だろう。そんなことでは自らの運命と対決することなんて出来はしない。君たちはもう一度自分を見つめなおすべきだと思うよ。その縫い付けた目を開いて、ね」

「それこそ要らぬ世話よ。あの方の崇高な志があればこそ、その教えに従い我らは自ら目を閉ざしたのだ。そうしてこそ初めて見えるものもあると一番よく知っているのは、他ならぬお主ではあるまいか?」

「だからこそのアドバイスだよ。何かに着目するということは、他の事柄を無視することだ。君たちは目を閉ざしたことで見えるようになったものを真理だと信じているのだろうけれど、目で見て捉えられるものもまた現実と言う名の真理だよ。そのことを忘れたままでは、君たちはきっと何も成しえない」

「ぬかせッ――」


 突然の決裂だった。

 リーダー格が叫んだのをきっかけに、ブラックアイズ目がけて白ローブが一斉に襲い掛かった。


「やむを得ない、か……」


 呟いて、ブラックアイズは開眼した。

 顕わになった黒曜石の目で素早く敵を捉える。

 たぶん、勝負はその瞬間には決まってたんだろう。

 5人のうち、一番素早く殺到した白ローブに向かって、ブラックアイズは氷弾を放った。

 詠唱はおろか、なんの予備動作も無い完璧な即効魔法。

 完璧なカウンターで入った初撃で1人目を撃破。


 つづく2人目。

 そいつに対してブラックアイズは奇妙な攻撃を放った。

 いや、それを攻撃って呼んでいいのか正直分からない。

 2人目は建物の上から飛び降りて来た。

 その落下軌道の途中に突然魔法陣が出現して、2人目は避けることも出来ずにそれに突っ込んだ。

 その瞬間、まるでそいつだけ時間の流れから取り残されたみたいに動きが止まった。

 動作が、ってだけじゃない。

 落下速度もほとんど止まったみたいに遅くなってる。

 それでも完全に固まったわけじゃなくて、ゆっくりとだけど、魔法陣を通過しながら下に落ちてる。

 驚いた。

 まさかとは思うけど、あれはたぶん時間魔法だ。

 あの魔法陣に触れてる間は、時間の流れが遅くなるとかそういう類いのやつ。

 俺も色んな術士を見て来たけど、こんな実戦的な時間魔法は初めて見る。

 

 2人目が時間魔法に囚われてる間に、ブラックアイズは3人目と対峙した。

 3人目は、俺が1人目にやられたのと同じ鎖を放った。

 一直線に向かって来るそれを、ブラックアイズは小型の魔法陣で受ける。

 鎖は先端から魔法陣に飲み込まれるように消えていった。

 そのままブラックアイズは4人目を振り返り、もう一つ同じサイズの魔法陣を空中に生み出す。

 途端、そこから飛び出した鎖が4人目を襲う。

 唐突な出来事に反応しきれなかった4人目は、鎖の先端についた鋭い鋲を太ももに受けて地に伏せた。

 その光景を目の当たりにした3人目は、すぐさま鎖を消滅させる。

 だが次にどう攻撃していいのか分からずに動きが止まった。

 完全な失策だな。

 一度戦いが始まったら考えてる時間なんて無い。

 行き当たりばったりでもいいからとにかく行動すべきだったんだよ。


 3人目が動きを止めてる間に、ブラックアイズは時間魔法に捕まったままの2人目に罠を仕掛けた。

 まず落下軌道のさらに下に球状結界を張った。

 そしてその内側で無数の氷弾を生み出すと、縦横無尽に回転させる。

 俺のブレイズトルネードの球状かつ氷弾版ってとこだ。

 ブラックアイズは、2人目が時間魔法を抜けたら次はそこに飛び込むようにそれを設置した。

 一瞬、なんでそんな面倒なことするんだよ直接攻撃すりゃいいじゃん、って思ったけど、俺もまだまだだね。

 それを見てた3人目が慌てて妨害行動に出た。

 つまるところ2人目への罠は3人目への誘いを兼ねてたわけだ。

 そうやって飛び出してきた3人目に、ブラックアイズはまたしても氷弾でカウンターを取った。


 そしてまともに残ったのはリーダー格1人。

 って言うか、今まで何してたんだよ、って思ったらきっちり魔法の準備してた。

 ただ残念だけど遅すぎる。

 せっかく準備しても仲間がやられた後じゃ連携も取れない。

 仮に威力が高くても、一発ぶっぱなしただけの攻撃に当たってくれる相手じゃないよ。

 それどころか、ブラックアイズはまた新しい魔法陣を作り出すと、それをリーダー格に向かって射出した。

 すげーな。魔法陣型の射撃魔法。

 人間大のそれが、魔法を溜めてたリーダー格をすり抜けた。

 次の瞬間、リーダー格の魔力が霧散して術式が崩壊、あとちょっとのところで魔法は不発に終わった。

 同時に時間魔法をついにすり抜けた2人目が仕掛けてあった罠に突入。

 氷弾の嵐の餌食になる。

 これでほんとに残りはリーダー格1人。

 手際よすぎだろ、ブラックアイズ。


「さて、決着はついたようだね。これ以上は無意味だから、これで失礼させてもらうよ。これに懲りたら次からはもっと自重して欲しいな。君たちの頭目にそう伝えて欲しい。」


 戦意を喪失したリーダー格にそう言って歩き出したブラックアイズ。

 と、俺の方を振り返った。


「君も行かないかい? そのままそこに居ても仕方ないだろう?」


 チッ。

 たしかにそりゃそうだよ。

 俺は思うところもあって、ブラックアイズの後に続いた。

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