表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/173

23話「白の集団」

「ふぅ――」


 とどめの一撃を叩き込んだ白ローブが完全に沈黙したのを確認。

 俺は肺の中身を吐き出して構えを下ろした。

 視線の先じゃ白ローブが地面に突っ伏してる。

 よし。

 気絶してるだけで死んではないな。

 まぁ、こんなもんだろ。

 レトリックを使える俺に迂闊に物理接触しちゃだめよ。

 こうなるから。


 相手の鎖をファイヤーのエンチャントで無力化したあと、俺は体勢を崩した白ローブに一気に肉薄した。

 相手が起き上がろうとしたところに、ハイパーバリーで強化したストレート。

 フードに隠された顔面に叩き込んでやった。

 両腕を縦にして防御しようとしてたけど、無駄だったな。

 倍化されたインパクトはあっさりガードを打ち抜いた。

 あれでも、とっさに一番手堅い防御を選んだつもりだったんだろう。

 でもハイパーバリーの効果は最大10倍だからさ。

 なんの対抗策も無しに防御固めてもダメよ。

 まぁ、今回は最大威力では打ってない。

 せっかくだから代官について喋ってもらおうと思ってさ。

 一応死なないように手加減はしたつもり。

 さて、さっそくあいつを起こして楽しいお喋りタイムにしよう。


 俺は白ローブのところまで移動した。

 白ローブは俺のパンチできりもみして地面に墜落した。

 そのせいで、ちょっと捻じれるようなうつ伏せ状態だ。

 で、すぐそばに立って見下ろしてみると、やっぱりこいつの服装は時代掛かってる。

 ローブにしろサンダルみたいな靴にしろ、なんでこんな恰好なんだろうな。

 代官の手下にしては変な恰好じゃね?

 まぁ、そのあたりのことも話を聞けば分かるかもな。

 俺は白ローブの方を掴んで仰向けに転がした。


「げ。なんだこいつ」


 白ローブを表返してみてびっくり。

 何がって顔が。

 いや、顔自体は普通のおっさんだ。

 金髪で鼻筋の通った白人の中年。

 正直どこにでも居そうな顔面偏差値50点。

 よくも悪くも驚くような顔じゃない。

 だけどその目、両方のまぶたを上下で縫い付けてあるから不気味感半端ない。

 まだ日も落ちてないのにホラーとか無しだろ。

 こいつほんとに代官の関係者か?


 俺が戸惑ってると、不意に人の気配を感じた。

 俺は顔を上げたて道の先を見た。


「おいおい。ほんとになんなんだよ、まったく……」


 道の先に立ってた相手の姿に、俺はさらに戸惑うしかなかった。

 そいつの顔は、目深に被ったフードで分からない。

 でも全身をすっぽり包む白いローブってだけで、ただの通りがかりじゃないことが分る。

 増えたよ。白ローブ。

 まさか仲間が出てくるとは。

 いや、そりゃ仲間くらいいるだろうけど、お揃いの恰好ってのはイヤなパターンだ。

 だってそれはつまり、なんかの集団の証ってことだろ?


 それを証明するように背後にも気配が増えた。

 現れたのは案の定、白ローブ。

 俺が飛び越えてきた壁の上に立ってこっちを見下ろしてる。

 そのほかにも建物の上だとか脇道だとかから同じように白ローブが現れた。

 結局最初の1人を含めると全部で6人か。

 俺はものの見事に囲まれた格好になった。

 なんだよ。

 尾行が一人だけとかぜんっぜん予想外れてんじゃん。

 がっつりマークされてたのかよ。

 クエスト初日でこれとかやれやれだ。

 思わずため息も漏れるよ。


「で、あんたらいったいなんなの? 代官所の人間にしてはヴィジュアル悪いよ?」


 俺は全方位を警戒しつつそう言った。

 なんとなく2人目として現れた奴はリーダー格っぽい。

 実際俺に答えたのはそいつだった。


「我らはお主の思う者にあらず。我らは意思を継ぐ者。瞳を閉ざし、真理を直視する者」


 そう宣言して、白ローブたちは一斉に顔を覆ったフードを上げた。

 ……。

 そんなことだろうと思たけどさ、実際目の当たりするとイヤな感じ。

 俺を取り囲んだ全員がまぶたを縫い付けてるとか、どこの邪教集団だよ。


「俺の思うのとは違うって、あんたら代官とは関係ないのか?」

「少なくとも主従ではない。我らが従うのは未だ結実せぬ理想のみ。役人ごときに服従はせぬ」

「そりゃご立派なことで」


 どういうことだ?

 代官の手下じゃないってなら、こいつら本気でなんなんだよ。

 否定するにも微妙な言い回しだし、俺が思ってるより複雑な関係か?


「代官の手下じゃないなら俺をどうしようっての? まさかただのファンってことはないんだろ?」


 だとしても嬉しくないしね。こんなファンクラブ。


「否。ただのフアン(・・・)である。お主は我らを魅了した理想の生まれ変わりにして、一度は潰えた偉業の忘れ形見。ゆえに今一度希望となるべく、我らと同行することを所望する」


 うわ。

 マジかよ。

 出来てたよファンクラブ。

 しかも応援してくれるどころか連れ去ろうとする鬼畜系。

 よりによってこんな連中なんて、お断りだね。


「悪いけどファンとの触れ合いは事務所を通してもらわないとね。個人的なお付き合いは禁止事項なんだよ」

「心配無用。我らが頭目と謁見しその志に触れれば、現世の些末ごとなどには目もくれぬようになる。我らのようにな」

「それって俺も目を縫うってこと? むしろ最悪じゃねーか。俺は行かないからな、絶対」


 なんか話して損した感じ。

 こういう手合いは相手にするだけ無駄ってのが俺の経験則だ。

 出来ればこのまま帰らせて欲しいんだけど……。


「問答無用。お主の意思は我らの行動に何ら支障を与えず。大人しく従うがよい」


 チッ。

 やっぱりそうなるか。

 いいぜ。

 どうせあと5人だ。

 力づくで無理やり帰らせてもらうさ。

 そう思って俺が戦闘態勢を取ろうとした時、不意に路地の建物のドアが一つ、不意に開いた。

 そして中から出て来た見覚えのある男の姿に、俺は完全に虚を突かれて固まった。


「やぁ、こんにちは。剣呑なところ悪いけれど、ここは双方退いてもらえないかな?」


 そいつは、愛理を迎えに行った先でクシャナさんを封印した相手。

 黒曜石の目を持つブラックアイズって奴だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ