23話「白の集団」
「ふぅ――」
とどめの一撃を叩き込んだ白ローブが完全に沈黙したのを確認。
俺は肺の中身を吐き出して構えを下ろした。
視線の先じゃ白ローブが地面に突っ伏してる。
よし。
気絶してるだけで死んではないな。
まぁ、こんなもんだろ。
レトリックを使える俺に迂闊に物理接触しちゃだめよ。
こうなるから。
相手の鎖をファイヤーのエンチャントで無力化したあと、俺は体勢を崩した白ローブに一気に肉薄した。
相手が起き上がろうとしたところに、ハイパーバリーで強化したストレート。
フードに隠された顔面に叩き込んでやった。
両腕を縦にして防御しようとしてたけど、無駄だったな。
倍化されたインパクトはあっさりガードを打ち抜いた。
あれでも、とっさに一番手堅い防御を選んだつもりだったんだろう。
でもハイパーバリーの効果は最大10倍だからさ。
なんの対抗策も無しに防御固めてもダメよ。
まぁ、今回は最大威力では打ってない。
せっかくだから代官について喋ってもらおうと思ってさ。
一応死なないように手加減はしたつもり。
さて、さっそくあいつを起こして楽しいお喋りタイムにしよう。
俺は白ローブのところまで移動した。
白ローブは俺のパンチできりもみして地面に墜落した。
そのせいで、ちょっと捻じれるようなうつ伏せ状態だ。
で、すぐそばに立って見下ろしてみると、やっぱりこいつの服装は時代掛かってる。
ローブにしろサンダルみたいな靴にしろ、なんでこんな恰好なんだろうな。
代官の手下にしては変な恰好じゃね?
まぁ、そのあたりのことも話を聞けば分かるかもな。
俺は白ローブの方を掴んで仰向けに転がした。
「げ。なんだこいつ」
白ローブを表返してみてびっくり。
何がって顔が。
いや、顔自体は普通のおっさんだ。
金髪で鼻筋の通った白人の中年。
正直どこにでも居そうな顔面偏差値50点。
よくも悪くも驚くような顔じゃない。
だけどその目、両方のまぶたを上下で縫い付けてあるから不気味感半端ない。
まだ日も落ちてないのにホラーとか無しだろ。
こいつほんとに代官の関係者か?
俺が戸惑ってると、不意に人の気配を感じた。
俺は顔を上げたて道の先を見た。
「おいおい。ほんとになんなんだよ、まったく……」
道の先に立ってた相手の姿に、俺はさらに戸惑うしかなかった。
そいつの顔は、目深に被ったフードで分からない。
でも全身をすっぽり包む白いローブってだけで、ただの通りがかりじゃないことが分る。
増えたよ。白ローブ。
まさか仲間が出てくるとは。
いや、そりゃ仲間くらいいるだろうけど、お揃いの恰好ってのはイヤなパターンだ。
だってそれはつまり、なんかの集団の証ってことだろ?
それを証明するように背後にも気配が増えた。
現れたのは案の定、白ローブ。
俺が飛び越えてきた壁の上に立ってこっちを見下ろしてる。
そのほかにも建物の上だとか脇道だとかから同じように白ローブが現れた。
結局最初の1人を含めると全部で6人か。
俺はものの見事に囲まれた格好になった。
なんだよ。
尾行が一人だけとかぜんっぜん予想外れてんじゃん。
がっつりマークされてたのかよ。
クエスト初日でこれとかやれやれだ。
思わずため息も漏れるよ。
「で、あんたらいったいなんなの? 代官所の人間にしてはヴィジュアル悪いよ?」
俺は全方位を警戒しつつそう言った。
なんとなく2人目として現れた奴はリーダー格っぽい。
実際俺に答えたのはそいつだった。
「我らはお主の思う者にあらず。我らは意思を継ぐ者。瞳を閉ざし、真理を直視する者」
そう宣言して、白ローブたちは一斉に顔を覆ったフードを上げた。
……。
そんなことだろうと思たけどさ、実際目の当たりするとイヤな感じ。
俺を取り囲んだ全員がまぶたを縫い付けてるとか、どこの邪教集団だよ。
「俺の思うのとは違うって、あんたら代官とは関係ないのか?」
「少なくとも主従ではない。我らが従うのは未だ結実せぬ理想のみ。役人ごときに服従はせぬ」
「そりゃご立派なことで」
どういうことだ?
代官の手下じゃないってなら、こいつら本気でなんなんだよ。
否定するにも微妙な言い回しだし、俺が思ってるより複雑な関係か?
「代官の手下じゃないなら俺をどうしようっての? まさかただのファンってことはないんだろ?」
だとしても嬉しくないしね。こんなファンクラブ。
「否。ただのフアンである。お主は我らを魅了した理想の生まれ変わりにして、一度は潰えた偉業の忘れ形見。ゆえに今一度希望となるべく、我らと同行することを所望する」
うわ。
マジかよ。
出来てたよファンクラブ。
しかも応援してくれるどころか連れ去ろうとする鬼畜系。
よりによってこんな連中なんて、お断りだね。
「悪いけどファンとの触れ合いは事務所を通してもらわないとね。個人的なお付き合いは禁止事項なんだよ」
「心配無用。我らが頭目と謁見しその志に触れれば、現世の些末ごとなどには目もくれぬようになる。我らのようにな」
「それって俺も目を縫うってこと? むしろ最悪じゃねーか。俺は行かないからな、絶対」
なんか話して損した感じ。
こういう手合いは相手にするだけ無駄ってのが俺の経験則だ。
出来ればこのまま帰らせて欲しいんだけど……。
「問答無用。お主の意思は我らの行動に何ら支障を与えず。大人しく従うがよい」
チッ。
やっぱりそうなるか。
いいぜ。
どうせあと5人だ。
力づくで無理やり帰らせてもらうさ。
そう思って俺が戦闘態勢を取ろうとした時、不意に路地の建物のドアが一つ、不意に開いた。
そして中から出て来た見覚えのある男の姿に、俺は完全に虚を突かれて固まった。
「やぁ、こんにちは。剣呑なところ悪いけれど、ここは双方退いてもらえないかな?」
そいつは、愛理を迎えに行った先でクシャナさんを封印した相手。
黒曜石の目を持つブラックアイズって奴だった。




