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22話「追跡者」

尾行(つけ)られてる。

 俺がそれに気づいたのは、ホテルがある新宿駅まで戻って来た時だった。

 初日の張り込みを終えて2人と別れた俺。

 新宿駅の改札を抜けて、さぁ、クシャナさんが待ってるホテルに帰ろうかってまさにそんなところ。

 何かの拍子に一瞬後ろを振り返った俺は、人ごみの中に不審な人影が混ざってるのを察した。

 人が多くて相手の人相はハッキリ分からなかった。

 でもそいつだけ周りから雰囲気が浮いてる。

 怪しすぎ。

 俺はとっさに気付いてないフリをしてまた歩き出す。

 誰だ?

 つーかどこ関係?

 いや、これはあれだな。

 千代田区の代官所。

 タイミング的にそれしかない。

 だってそりゃそうだろ。

 俺たち今日ずっと張り込んでたんだから。

 代官も右腕さんも出てこなかったけど、なるほどバレてたわけか。

 でもマズイな。

 このままホテルに変えるとクシャナさんが居る。

 今のクシャナさんのところに敵を引っ張って行くのはダメだ。

 ちょっと遠回りして尾行を撒くか。


 俺はホテルまでの帰宅ルートからずれて明後日の方向に進む。

 とりあえず細くて入り組んでそうな路地に入る。

 曲がり角でちょこまか折れつつ後ろを覗う。

 ついて来てるついて来てる。

 白いローブを着てフードで顔を隠してる怪しい奴。

 ローブって言っても、白夜が着てたような暑苦しい感じのじゃない。

 生地が薄そうで作りもシンプル。

 かなりセンスの古い法衣だ。

 言ってみれば古代の神学者。

 そりゃこんなの歩いてりゃ怪しいだろ。


 尾行はそいつ一人。

 それを確認した俺は、また一つ曲がり角を曲がった直後に行動を開始した。

 あいつの視線が建物で遮られた瞬間、ダッシュ。

 次の曲がり角まで全力で走る。

 一気に引き離して撒きにかかる。

 後ろからは追ってくる気配。

 さぁ、どこまでついて来られるかな。


 俺は入り組んだ路地のさらに裏路地に入る。

 隙間みたいな狭い道を、陣足で障害物をかわしながら走り抜ける。

 最近ほんとこういうとこに縁がある。

 もういっそ『裏路地のプリンス』でも名乗ろうかな。

 それくらい今の俺は裏路地慣れしてるぜ。


 そんな俺に尾行者もがんばってついて来たけど、鬼ごっこもこれで終わりだ。

 なんたって俺の前方に高い壁が立ちふさがったからだ。

 コンクリート製の立派なやつ。

 つまり行き止まりに突き当たったわけ。

 だけど別に追い詰められたわけじゃない。

 むしろ好都合だ。

 前に白夜と追いかけっこした時、あいつは鉄柵に穴を開けて向こう側にすり抜けた。

 だから俺もそのマネをする。

 もちろん俺にはイベントホライゾンは使えない。

 ってことで穴を開けるんじゃなくて飛び越える。

 その方が尾行を撒くのにもちょうどいいからな。

 俺はさらに加速して大ジャンプ。

 壁を飛び越えて向こう側に着地。

 すぐに後ろを振りかって白ローブが追いかけて来ないか確認する。


「……。撒いたか」


 しばらく様子を見たけど、追っ手は壁を乗り越えてくる様子は無かった。

 こんなもんか。

 クラルヴァインの手下もたいしたことないな。

 俺はさっさと立ち去ろうと思って壁に背を向ける。と、


「うお。いつの間に!?」


 そこには道を塞ぐように立ちふさがる白ローブの姿。

 どうなってんだよ。

 壁の向こうに居るはずだろ。

 それがいつの間にか先回りされた俺は完全な袋の鼠だ。

 一応、もう一回壁を飛び越えて反対側に戻るって手もあるけど、たぶん無意味だろう。


「俺になんか用?」


 白々しく聞いてみる。

 こうなったら真正面からぶつかってみるしかない。


「……」


 俺としては少しでも会話して情報を得たいところだった。

 ただ俺がそのつもりでも、相手に会話するつもりが無いと意味は無い。

 白ローブは黙ったまま右腕を上げて、魔力を解放した。


「チッ。問答無用かよ。すこしは話しくらいさせろよ!」


 白ローブが突き出した右手の掌に小さく魔法陣が浮かぶ。

 そこから生み出された銀色の鎖が俺目がけて一直線に伸びて来た。

 先端には尖ったデカい鋲が付いてて危ない感じ。

 俺がそれを横にかわすと、鎖はそのまま空中を駆け抜けて後ろの壁に鋲を突き立てた。

 残念。

 回避に成功した俺はすぐさま反撃に移る。

 お返しは斬波。

 定番だし、向こうも飛び道具だし、ちょうどいいだろ。

 俺は、攻撃予備動作として右腕を振り上げる。


「――ッ」


 だけど、敵の妨害で俺は斬波を撃てなかった。

 こっちの動きを見計らったように、白ローブが鎖を伸ばした腕を真横に薙いだ。

 その動作で鎖が大きくうねって俺に鞭打つ。

 予想以上に重たい衝撃を俺は体勢を崩されて斬波を中止せざるを得なかった。

 そこにさらに鎖が襲い掛かってきて、俺の体に纏わりつく。

 しかも輪っかになった部分で首まで絞めにきた。


「ぐ……」


 首を絞めにきた、って言うか完全に絞められてる。

 ほんとだったら首と鎖の間に腕を挟んで窒息を免れるとこだ。

 でもごめん。

 普通に反応出来なかった。

 だってあんないきなりギュルッって来るとは思わなかったからさ。

 びっくりした次の瞬間にはがっつり絞められてた。


 そんなわけで、俺は今まさに顔の皮膚にものすごい血圧の上昇を感じてる。

 だけど、もちろんこの程度でやられるほどヤワじゃないさ。

 俺は白ローブとの間でギチギチに張り詰めた鎖を掴む。

 綱引きを予想した相手がさらに引く力を強めた。

 にゃろう。苦しいだろ。

 でも甘い。

 こっちの作戦を見誤ってるっての。


 俺は向こうの引き(・・)に対抗しつつ、レトリックの付加結合機能オクシモロンを発動。

 敵の鎖に俺のファイヤーをエンチャントする。

 途端に真っ赤になる鎖。

 当然それなりの温度だ。


「ガァ――」


 ここにきて白ローブが初めて声を上げた。

 鎖はあいつの掌から生えてるからな。

 熱がもろに伝わって冗談じゃない熱さだろう。

 レトリックと融合してる俺と違って、セルフ焼肉だ。

 だから白ローブはたまらず鎖の接続を解いて自分の掌から分離させた。

 綱引きの最中に慌ててそんなことするから、白ローブは自爆で後ろにひっくり返る。

 接続を解かれた鎖も魔力供給を失って、まるで糸が燃え尽きるように消えた。


 勝機。


 俺は陣足を使って速攻。

 白ローブに一気に襲い掛かった。

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