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19話「それぞれの理由」

 千代田区の代官を調査しろ。

 そんな依頼を断ったおっさんの反応に、アルトレイアは心底意外そうな顔になった。


「なぜだ、十蔵殿。そなたなら必ず引き受けてくれる思っていたのだぞ?」

「そう言われてもな。俺には他にやらねばならんことがある。それだけのことだ」

「やらねばならんこととはなんなのだ? これは市民の安全にかかわる問題なのだぞ?」

「だとしてもだ。なに、伯の立派な心がけには賛同者も少なからず集まるだろう。この4人のようにな」

「私は十蔵殿も居れて5人に頼むつもりだったのだ……」

「すまないな」


 ダメだな。

 おっさんはもうクエストを受けないって完全に決めちゃってる。

 これ以上アルトレイアが何を言っても無駄だ。


「そういうわけで俺は部外者だ。一足先に失礼させてもらう」


 あーあ。

 マジでおっさん出ていっちゃったよ。

 この展開にはみんな面食らってるな。


「おいおい。十蔵のおっさんどうしちまったんだよ」

「なにか、いつもと違う感じでしたね」


 うーん。

 俺的には原因はこの写真だと思うんだけどな。

 これ見た時のおっさんは明らかに変だったし。


「よ、予定外だが、君たち4人にも期待しているのだ。みんなで協力してディートハルトの悪だくみを突き止めようではないか」


 そうは言ってもおっさんがまとめ役枠だったよね、絶対。

 次に代わりが出来そうなのはクシャナさんだけど、どうだろう。

 ぶっちゃけ今までのクシャナさんは、圧倒的な強さでごり押しすればたいていの問題は解決出来た。

 でも今は自分じゃ戦えないから俺たちに指示するしかない。

 そうなると俺たちって駒としてどうなのよ、って問題が出てくる。

 特に俺と違って付き合いの浅いうららとパンク兄ちゃんは、クシャナさんにとって扱いが難しいはずだ。

 うーん。

 考えれば考えるほど行き先不安なんだけど……。


「何はともあれよろしく頼む」


 そうして俺たちはおっさん抜きでクエストをスタートすることになった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「ふーん。なんだか色々大変そうだねー」


 俺が今日の出来事を喋り終えると、愛理はそんな生返事を返してきた。


 アルトレイアのクエストを正式に受注したあと、今後についてちょっとした話し合いをした。

 つまりお互いの連絡先だとか、どういう感じで千代田区の代官を攻めるかだとか、だ。

 まぁ、ぶっちゃけ今のところはあの写真の男を探すってのが最優先。

 代官のクラルヴァインに直接手を出すのはまだ先で、って感じだ。


 そんなわけで、俺とクシャナさんはその話し合いのあと、愛理のところにやって来た。

 愛理は今、中野区にデカい家を借りてそこを工房にしてる。

 こいつの実家は結構金持ちだったらしくって、お金はそっちから出てるみたい。

 って言うか、愛理はずっと行方不明扱いだったんだけどな。

 その娘が帰って来たってのに、早速一人暮らしさせてるんだからすげー家だよ。

 愛理が言うには父親が非人間らしい。

 聞いた?

 非人間だよ、非人間。

 娘にそこまで言われる父親ってのもアレだよな。


 それはともかく、愛理はこの世界でも自称美少女天才錬金術師としてやっていくつもりらしい。

 元の状態ならともかく、今は世の中こんなだからな。

 それはそれでありだろう。

 で、今日はその錬金術師としての愛理に会いに来たわけ。

 なんでかって言うと、クシャナさんがどうしてもって言うからだ。


「それで、どうでしょう。なにか分かりますか、アイリ?」


 クシャナさんの質問に、愛理はうーんって唸ってから手に持ってたものを机に置いた。

 それは例の魔物から出て来たって言う黒い塊だった。


「たしかに、クシャナちゃんがびっくりして持って来るのも頷けるよ。パッと見た感じそっくりだもんね、これ」

「ええ。本当に驚きました。この世界は色々奇妙ですが、まさかこんなものが転がっているとは……。本物でしょうか?」

「どうだろうね。よく似た別の何かって可能性もあるし、もっと調べてみないとなんとも言えないかな」


 2人は黒い塊を前に何か納得し合ってる。

 俺だけ仲間外れでさみしい感じ。


「なぁ、愛理。それっていったい何に似てるんだっけ。見覚えあるんだけど、思い出せないんだよね、俺」


 俺がそう言うと愛理は露骨に呆れた顔をした。


「うわ。信じらんない。よりによって修司がそういうこと言っちゃうかなー」

「なにがだよ。わけ分かんないこと言ってないで教えてくれよ」

「はぁ。ほんと修司ってどうしようもないんだから」


 そう言って愛理はこれ見よがしにため息をつく。


「これはね、修司と融合してるレトリックの素材、魔結晶エーテルによく似てるんじゃないか」

「あ、思い出した。どおりで見覚えあるはずだよ」


 いや、灯台下暗しってやつかな。

 レトリックは俺と完全に融合しちゃってる。

 だから今はもう元の形とか色とかは無い。

 俺がレトリックだ。

 でも思い出してみれば、とある世界の古代遺跡で見つけた時、レトリックはたしかに黒い塊だった。

 つまり、千代田区の代官が糸を引いてるかもしれない魔物事件、あれにレトリックみたいなものが使われてるのかもしれないってことだ。

 俺はようやくクシャナさんがあのクエストを受けた理由を理解した。

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