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15話「再会」

「冒険者の諸神修司様とクシャーナ・リュール様ですね?」


 代官所クエストの待ち合わせ場所の代官山駅に到着すると、そこには一人のじいさんが待ってた。

 って言うか、恰好からするとなんか執事さんっぽい。


「渋谷区代官所よりお迎えに上がりました。車を用意してございます。どうぞこちらへ」


 執事さん(仮)は特別自己紹介するわけでもなく、俺たちの案内を始めた。

 やっぱりアレかな?

 召使的な人は目立っちゃいけない的な?

 て言うか、なんで代官所から執事さんが来るのか分からない。

 もっとこう、いかにも代官の手先っぽい人が来ると思ってた。


 ともかく俺たちは黒塗りの自動車に乗せられて代官所に向かう。

 さすがにリムジンってわけじゃないけど、高級車なのは間違いない。

 やっぱり金持ちなんだろうか。

 だとしたら悪代官の可能性が高くなる気がする。

 いや、うららはいい人だって言ってたし、決めつけるのもよくない。


「あの、代官さんってどんな人ですか?」


 俺は後部座席から運転席の執事さん(仮)に聞いてみた。


「代々当地を治める伯爵家の若君で、現当主であらせられます。先代様がご病気で早くに引退なされたため、若くしてお家と代官職をお継ぎになられました」


 伯爵家?

 日本なのに伯爵で代官か。

 相変わらずカオスってるね。


「それで今日は俺たちになんの用なんですか?」

「まず一つに、春日野さまからお聞きになられていると思いますが、先日のヒュドラ騒動の感謝を述べられたいと申されております」


 春日野、つまりうららか。

 まぁ、たしかにそんなこと言ってたな。


「それから場合によっては、個人的なお話をされるやもしれません」

「個人的?」

「左様。渋谷区代官としてではなく、まくまでも一個人としてでございます。しかしこれ以上のことはわたくしの口からは申し上げられません。あとは代官様ご本人からお聞きください」


 ほら。

 なんかちょっと怪しくなってきたよ。

 やっぱり役人は面倒説が証明されちゃうんじゃないの、これ?

 警戒心を増し増しに、俺は代官所に護送されるのだった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 代官所に到着した車から降りて、俺はそのレンガ造りの建物の前に立った。


「代官山には代官が住んでいる。そんな噂を聞きつけた諸神探検隊は、ついに代官が潜むという噂の秘境に辿り着いたのだった。ババン!」

「これだけ交通の便がいいと、秘境と言えど毎日探検出来ますね。ところでそんなことを言っていると怒られますから、中に入ったらまじめにしないとだめですよ?」

「大丈夫。分かってるよ。諸神探検隊はここまででいったん解散ね」


 俺がそ言うと、クシャナさんは無表情に微笑んだ。

 そんな俺たちを見て、執事さん(仮)が声をかけてくる。


「それは重畳でございます。ではさっそくこちらにお越しください」


 執事さん(仮)は代官所の正面入り口から中に入って行く。

 ドアの横で銅像みたいにビシッと立ってる門番の兵隊さんに会釈しつつあとを追う。

 中に入ってみると、代官所はなんか歴史を感じさせる洋館って雰囲気だった。

 万華鏡の中身みたいな模様の壁紙に赤い絨毯。

 ドアとか階段とか天井の梁とかの木はニスが効いててピカピカだ。

 照明もシャンデリアってわけじゃないけど、ステンドグラスみたいな細工になってて高そう。

 なんか役所って言うか歴史的建造物って感じがする。


「代官様を呼んでまいりますので、しばらくこちらでお待ちください」


 そう言って執事さん(仮)は一つのドアを開けてくれる。

 

「はーい」


 返事をして中に入る俺。

 と、そこには三人の見知った先客がテーブルに座ってた。


「あ、お兄さん。来てくれたんですね」


 真っ先に声をかけて来たのは他でもない、代官と連絡役になってくれたうららだった。


「いや、なんかクエストの依頼みたいなの来てて、これってつまり、このあいだ言ってた話だよな?」

「たぶん、だと思います。すみません、いきなりで。電話しようと思ったんですけど、代官さんが全部こっちでやるって言って……」

「それは構わないけどさ、そっちの2人も、なんだな」


 うらら以外の先客。

 それはヒュドラ戦の時の2人だった。

 つまり日本刀使いのおっさんと、逆手短剣のパンク兄ちゃんだ。

 ただし場所が場所だけにか、2人とも得物は持ってない。

 だから今はただのおっさんとパンク兄ちゃんだ。


「はん。のん気なもんだな。代官サマサマがお前に会いてぇって言うから、俺たちゃずっとお前のこと探してたってのによ。いったいどこほっつき歩いてやがった?」

「悪い。ちょっと異世界行ってたから東京に居なかったわ。手間かけさせて悪かったな」

「けッ。くだらねーこと言ってんじゃねぇぜ。ジョークにセンスがねぇんだよ」


 いや、完全にほんとなんだけどな。

 もちろん普通の奴にとっては眉唾な話だからパンク兄ちゃんのリアクションで合ってるけど。


「おっさんも久しぶり。元気してた?」

「おっさんじゃなくて宗方十蔵(むなかたじゅうぞう)だ。お前は相変わらず元気そうだな」

「あ、俺は諸神修司ね。改めてよろしく」

「名前ならお嬢ちゃんから聞いてるから自己紹介はいらんさ。もっとも、名乗るべき奴が一人残ってるが、な?」


 おっさんはそう言ってパンク兄ちゃんをじろっと見た。

 そしたらパンク兄ちゃんは舌打ちしつつも名乗ってくれた。


二階堂慧介(にかいどうけいすけ)。冒険者としちゃお前よかだいぶ先輩だから敬えよ」


 あ、これはうららから俺が超新米冒険者だって話を聞いたな。

 別にばれても困らないけど、敬わないよ?


「ふーん。まぁ、よろしく。あ、このお菓子食べてもいいの? はい、クシャナさん」


 俺はクシャナさんにイスを引きつつ、テーブルの上の皿からいくつかGETする。


「お嬢ちゃんから聞いてるが、その子供、みたいに見えるのがこのあいだ一緒に居た……?」

「そうだよ。クシャナさん。って言うかクシャーナさん。今はこんなだけど、ほんとはめちゃ強いからちゃんと敬ってよ?」

「ほんとかよ。いまいち信用できねぇな」


 信用しなくてもいいけど、命大切にね?


「慧介。やめておいた方がいいぞ」


 お。

 さすがにおっさんはベテランだな。

 そういう慎重さは大事だよね。


 俺がそんな風に思ってると、いきなり部屋のドアが勢いよく開いた。

 そして乱入してくるタイトスカートなスーツ姿のエルフ女。

 そいつはヅカヅカ入ってくると、俺の隣の席に座った。


「ふぅ。あぶないあぶない。まだ大丈夫か? まだセーフか? む。こんなところにお菓子が。置いてあるということは食べてもいいということだな」


 そう言いつつも、返事も待たずにもう食べてる。

 なんて行儀の悪やつだよ。

 そんなんじゃ育ちの悪さがバレちゃうぞ。


「って言うか、こんなところでなにしてんだ。アルトレイア?」


 そう。

 その女は、どこからどう見てもこのあいだのクエストで一緒だったアルトレイアだった。


「ん? それはもちろん仕事だぞ」

「おいおい、お菓子食べるのが仕事なのか?」

「はっはっは。そう言われると、返す言葉もないな」

「いや、笑ってないで、ほんとなんなんだよ?」

「うん。じつは修司を呼んだのは私なのだ」

「え?」

「私が渋谷区代官、アルトレイア・バントライン伯爵なのだ」


 アルトレイアは相変わらずの妙にハキハキした声でそう言った。

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