14話「招待状」
ゴブリン狩りのクエストから数日。
俺はまたしても原宿冒険者ギルドに来てた。
まぁ、ギルド自体には毎日来てるし、クエストも何個かクリアしてる。
なんたって冒険者は仕事だからな。
日々働かないと食べていけない。
だから今日もクシャナさんと一緒にやって来たわけだ。
「さぁて、今日はどんなクエストあるかな?」
「出来れば普通のクエストがいいです。昨日の『浮気がばれて怒って出て行った奥さんに一緒に謝りに行くクエスト』は大変でした。結局最後には依頼者の悲しい顔を見ることになりましたし」
「それだったら一昨日の『出待ちしたアイドルに一番近づけるように、他のファンを妨害するクエスト』の方がヤバかったじゃん。まさか他にも同じこと考えてる奴があんなに居るなんて。まだFランクなのに同業者とやり合うことになるとは思わなかったよ」
「依頼者は依頼者でモーニングスターを振り回していましたしね。何があそこまで駆り立てるのか、私にはそこが疑問です」
「うーん。他に夢中になれることが無いんじゃない?」
「夢中になれない、ですか。これだけ色々なものが溢れている世界なのに、変な話ですね」
とそんな話をしつつ空きのクエストボックス確保。
これっていちいち自分で見つけないといけないのはやっぱり面倒だよな。
なんで整理券配ってくれないかな。
「じゃあ今日も俺がクエスト受けてクシャナさんをパーティーに入れるね」
「ええ。どちらがリーダーでも同じですしそれで構いません」
俺はいつも通りギルドカードを読み込ませてからクシャナさんの体を持ち上げた。
身長的にこうしないと画面が見れないから仕方ない。
だから画面を操作するのはクシャナさんの仕事だ。
俺は後ろから抱っこしてるから両腕が使えないからな。
ってことで、クシャナさんが『クエストを探す』をタッチする。
いつもだったら、『討伐系クエスト』と『採取系クエスト』と『その他のクエスト』の3つが出てくる。
ところが今日はもう一つ、『クエストの依頼があります』ってのが増えてた。
「依頼? これって俺たちに依頼ってことかな?」
「修司のギルドカードで出て来たクエストですし、そういうことでしょう。ですがどうして指名されたのか分かりません」
「それは単純にお前らのコト、誰かが気にいったからヨ」
びっくりした!
急に後ろから声がしたと思ったら、受付のカタコトねーちゃんが立ってた。
「脅かすなよ。いきなり後ろから声かけるとか無しだぞ」
「ヤー。困ってる冒険者の世話するのがギルド員の仕事ネ。こまてる人居ないか探してたら丁度お前らの話聞こえたヨ。何カ。こないだ登録したばっかりのペーペーのくせに、もう指名もらたカ?」
ほんと相変わらずカタコトなうえに口も悪いな。
つってもちゃんと仕事してるから文句も言えないわけだけどさ。
「分かんないけど、今見たらクエストの依頼ってのが出てたんだよ。これってつまり、そういうことなんだろ?」
「依頼が来てるならそう言うことネ。何か心当たりないカ?」
指名されるくらいの心当たり、か。
強いて言うならミノさんくらい?
だって他にろくな仕事してないしさ。
「とにかく見てみるヨロシ。たまに詐欺みたいなひっかけあるから、変なのだったら受注するなヨ」
「怖ッ。油断も隙もねーな」
依頼自体が罠とか現代社会は恐ろしいね。
まぁ、あれだ。
悪い奴は色んなとこに罠はってるってことだ。
これからは受注するクエストにもっと気を使っていこう。
「それでは開きますよ」
クシャナさんはそう言ってタッチパネルを操作した。
そして画面に表示されるクエスト内容。
それは俺が思ってたのは全然違った。
「『発注者:渋谷区代官所』? お前何かやったカ?」
「いやいや、やってないやってない。何かやってたら依頼じゃなくてお巡りさん来るだろ」
「んんー。それもそうなのよサ。となるとこれはまっとうなクエストの依頼ネ。変なこともあるものヨ。公募ならともかく、お役所がFランクのペーペーを指名とか普通はしないヨ」
「まぁ、そうだろうな」
そうだろうけど、今回の場合、つまりあれだよね。
「ウララが言っていた代官からの接触、でしょうね」
「だね。電話するって言ってたのに、直接話が来ちゃったみたい」
あのうららって術士っ子、せっかく連絡役を買って出てくれたのにな。
役所ってのはそう言う人と人とのつながりとか平気で無視するよね。
それかあれだ。
代官がよっぽど自分勝手で、「そいつさっさとここに呼んだらんかーい」って叫んでるか、だ。
「心当たりがあるなら問題無いけど、依頼内容伏せてあるからちょっと変な感じヨ」
たしかに『詳細は面談にて』なんて依頼、普通だったら怪しすぎるよな。
でも実際にはお礼を言われに行くだけのはず。
もしかしたら表彰式とかするのかもしれないし、その打ち合わせって感じかも。
「たぶん大丈夫だと思う。一応知り合いの紹介だし、行って来るわ」
「そう言うことなら好きにするヨロシ。でも、もし変な話だったらすぐにギルドに報告するヨ。冒険者は舐められたら終わりネ。たとえ代官が相手でも、ことと次第によっては戦争ヨ」
そう言い残して去って行く受付ねーちゃん。
今日もたぎってんな。
完全に前衛攻撃職気質。
あ、だから受付なのか?
そんなつまらない発見をしつつ、俺とクシャナさんはその依頼を受注した。
でもクエスト開始日時は明日だ。
今日は別の仕事をして過ごそう。




