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12話「巨獣と野太刀」

「居ます。近いですよ」


 軽トラを降りた俺たちは、クシャナさんの気配察知を頼りに獲物に忍びよってる最中だった。

 場所はさっき居たとこより少し入った山の中。

 周りには木とか竹がまばらに生えてる。

 そんな中を俺たちはひとかたまりになって移動中だ。

 前衛は俺とアルトレイア。

 その後詰めに白夜。

 クシャナさんとミノさんは一番後ろからついて来てる。


「よし。相手を見つけたらこちらから先制しよう。ところで君は武器を持っていないが、何が得意だ?」

「火と風と斬撃属性の魔力波動。走るのも得意だし、俺がサポートに回った方がいい感じ? そっちはその刀が武器だろ?」

「そうだ。私は魔法とかはいっさい出来ない。その代わりこの剣でなんでも斬るぞ」

「ふーん。そんなにいい刀なの、それ?」

「もちろんだ。これは先祖代々受け継がれてきた伝家の宝刀、長曾根虎徹バントラインスペシャルだ」

「へー。なんか凄そうだな」

「なに言ってるだ。虎徹って言ったら天下の名工だべ。さすがAランクともなると持ってる物もレベル違いだべ」


 なんか興奮した感じで横やりを入れてくるミノさん。

 いや、伝家の宝刀って言ってたしランク関係なくね?


「とにかく前衛は私に任せてくれ。クシャーナ。敵はどこだ?」

「すぐそこです。……来ますよ」


 クシャナさんの視線の先、小高くなった斜面の向こうから枝の折れる音が聞こえてくる。

 ペキペキとかパキパキとかそんなんじゃない。

 バキバキメキメキグッシャグシャだ。

 あ、木が倒れた。


「い、いったい何が出てくるんだべ……?」

「さぁ。とりあえず、アルトレイア、準備よろしく?」

「うむ。承知した」


 言ってアルトレイアは背負った野太刀の柄を握る。

 なんたってほとんど身長と同じ長さの刀だ。

 どう見ても普通に引っ張ったって抜けない。

 どうするんだろって思ったら、アルトレイアは柄をそのまま上に向かって放り投げた。

 スポーンって抜けた刀は空中で半回転。

 柄を下にして落ちて来たところをキャッチ。

 満面のドヤ顔で振り向いた。

 

「いやいや、あっちあっち。もう敵出て来てるから」


 アルトレイアがバカやってる間に、斜面の向こうから茶色い巨体が姿を現した。

 そいつはそう、一言で言って猪だった。

 二言で言うと超でっかい猪。

 三言で言うと、超でっかくて強そうな猪?


「む。これはずいぶんと大きく育ったものだ。いったい何を食べればこんなになるのだろうな?」

「って言うか、みんななんででっかく育った理由を食べ物にだけ求めるんだろうな?」

「おめら、そんなことどうでもいっから早くなんとかしてくれろ」


 ミノさんに怒られた。

 しかも猪もなんか怒ってる。

 悲鳴みたいな鳴き声上げて前足で地面引っ掻いてる。

 あれもう突進する寸前じゃね? ってか来た!


「アルトレイア!」

「任せろ!」


 緩い斜面を駆け下りてくる巨体。

 それに対抗して駆け上がるアルトレイア。

 お互いが交差する瞬間、バックハンドに振りかぶった野太刀が横一線に閃く。

 鳴り響いたのは、歯医者が歯を削るみたいな不快な音。

 一瞬だけそんな音をさせて、アルトレイアと大猪は激突。

 そこで足を止めたアルトレイアに対して、大猪は跳ね返されたみたいに進路を横に曲げた。

 そのままどっか行くかと思ったら急停止。

 こっちを振り返って甲高く鳴いた。


「シュウジ。上です!」

「え?」


 クシャナさんに言われた上を見る。

 その瞬間、上から落ちて来た白い何かが俺の頬を掠めた。

 その何かはドスって音を立てて地面に落ちた。

 見るとそれは牙だった。

 白くてなっがい動物の牙が地面に突き刺さってる。


「斬ったには斬ったが、初太刀は防がれたか」


 斜面を滑り降りて戻って来たアルトレイアが言った。

 たしかにアルトレイアは大猪にダメージを与えた。

 口元に生えてた牙が一本無くなってる。

 つまりアルトレイアが斬った大猪の牙は、空中に跳ね上がって俺のところに降ってきたわけだ。

 つか危な過ぎ。

 あとちょっとで俺に刺さってたじゃねーか。

 頬から血が出てる気がするけど、それくらいで済んでマジでよかった。


「にしてもよく斬ったな。さすが宝刀って感じ?」

「うん。私の虎徹は高周波ブレードだからな。たいていの物は簡単に斬れるぞ」

「高周波ブレード? マジで?」


 おい。

 どう言うことだよ。

 見た目普通の野太刀だけど、ぜんぜん普通じゃなかったのかよ。


「実はそうなのだ。ここにあるボタンを押すと――」


 キーン、って。

 アルトレイアが柄に密かに付いてるボタンを押すと、歯医者のドリルの音が鳴った。

 

「簡単操作で誰でも斬鉄剣。どうだ。いい仕事しているだろう?」

「いい仕事って言うか、いいのかよ、それで……」


 つか先祖代々受け継いできたんじゃねーの?

 それがこんなハイテクKATANAとかどう言うことだよ。


「細かいことは気にするな。そんなことでは将来、ん?」


 言葉の途中で鳴りっぱなしだった『キーン』が不意に止まった。

 それはアルトレイアにとっても予定外だったらしい。

 眉毛を寄せて難しい顔をする。

 と、急に納得したような顔になって、


「そうか。充電するのを忘れていたな」


 充電って、そりゃハイテク兵器だから電気も使うだろうけど!


「どうするんだよ、おい。それ動かなきゃ戦えないんじゃないのか?」

「心配するな。こんなこともあろうかと、充電器は持ってきてあるのだ」

「充電ってどれくらい時間がかかるんだ?」

「うん。1時間充電すれば10分くらい戦えるぞ」

「お前もう帰れ!」


 使えねーよ。

 1時間も待ってくれる敵がどこにいるんだよ。


「二人とも、来るわよ!」


 ほら、やっぱり。

 見れば地面を引っ掻いて今にも突進してきそうな大猪。

 仕方ない。

 こうなったらアルトレイアは抜きで倒すだけだ。

 俺は大猪に向かって一歩を踏み込んだ。

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